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「ジェラール様、そういうわけですから、私との婚約はどうか解消してくださいませ。本日はこれで失礼させていただきますわ」
ジェラール様が頭を抱えているうちに帰ってしまおうと、ソファから立ち上がった。
しかし、背を向けたところで後ろから腕を掴まれる。
「待て。リリアーヌ。私は納得していない」
「そう言われましても……」
掴まれた腕が痛くて顔を顰めてしまう。
早く帰りたいのに、どうしたら納得してくれるんだろう。
「どうして引き止めるのですか? ジェラール様も婚約解消したほうが都合がいいでしょうに。今まで私の婚約者でいるのが嫌になったことはないのですか?」
「……自分でもわからない。婚約者が君であることが不満だったはずなのに、婚約解消と言われるともやもやする」
「はぁ、それは困りましたね」
私は困惑しながらジェラール様を見る。
いいかげん離してくれないだろうか。
掴まれた腕が痛いのだけれど。
そのとき、ノックの音もなく勢いよく扉が開いた。
「兄上! リリアーヌが来てるって本当?」
部屋に入ってきたのは、アベル殿下だった。
アベル殿下は私たちのいる方に視線を向けると、驚いた顔をする。
それからこちらへ駆け寄ってきて、ジェラール様の手を私から引きはがした。
「ちょっと兄上! 何リリアーヌに迫ってるんだよ!」
「せま……!? 別に迫ってなどいない! 彼女が出て行こうとするから引き止めていただけだ!!」
「それにしてもこんな密室で……。一応はご令嬢のリリアーヌの腕を乱暴に掴んで……。リリアーヌ、大丈夫だった?」
アベル様は、私の肩を揺すり心配そうに尋ねてきた。
「はい。大丈夫です。婚約解消の件について話し合っていただけですから」
「本当に? あ、でも腕に跡がついてる。兄上、そうは見えないかもしれないけれど、リリアーヌだってか弱いご令嬢なんだよ。もっと丁寧に扱わないと」
「アベル様。さっきから『一応は』とか『そうは見えないかも』とか、なんなんですか?」
私は不満を込めて尋ねるが、アベル様は聞いていなかった。
呆れ顔でジェラール様に力加減を考えろだとか、話し合いをする気ならそんな威圧的な態度はよせといったお説教をしている。
一通り文句を言い終えると、アベル様はこちらを振り返って手をさしだしてきた。
「リリアーヌ、兄上が悪かったね。シャリエ家まで送っていくよ」
「よろしいのでしょうか……」
「うん、おいで」
アベル様は私の手を取って引き寄せた。
ジェラール様は先ほどアベル様に叱られたのが効いているのか、今回は引き止めてこない。
しかし、部屋を出る前にジェラール様は一言だけ言った。




