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せっかく私が婚約解消を提案しているのに、それを止めるような真似をしていいのか疑問だ。
このままならジェラール様は、嫌いなリリアーヌと結婚させられてしまうというのに。
疑問に思ったけれど、真面目なジェラール様は、一度決まったことを個人的な感情で覆すのに抵抗があるのだと予想した。
私は彼の抵抗を斥けてあげるつもりで答える。
「ジェラール様、婚約解消の件は全て私のわがままです。国民にも私が無理を通したのだと発表していただいて構いません。だから、ジェラール様に批判がいく心配はありませんわ」
「なぜそういう話になる。私が批判を恐れて婚約解消を拒んでいるとでも思っているのか」
「それ以外何がございますの?」
本気でわからずに尋ねると、ジェラール様は苛立たしげな顔をした。
それから顎の下で手を組んで考え込んだ後で、何かを決意したようにぱっと顔を上げてこちらを見た。
「……君の気持ちはわかった。そこまで頑なになるほど私に不満があったのだな。確かに君には少し冷たくし過ぎたかもしれない。これからは態度を改めよう」
「えっ、いいです」
反射的に言葉が飛び出した。
そんなの全然望んでいない。
私の答えに、ジェラール様は目を丸くしている。
「私に態度を改めさせたかったのではないのか? そのために婚約解消なんて突拍子もないことを言い出して気を引こうとしたんじゃ……」
「違いますってば。本当にただ婚約解消したいだけなんです。はっきり言いますけれど、寝込んでいるときに色々考えていたら、ジェラール様への興味がなくなってしまいましたの。だからもう強引なことをしてまで結婚したいなんて思えないんです」
面倒になってきて、つい本音をぶちまけてしまった。
王子殿下相手にまずかっただろうか。
でも、この頭の固い王子殿下には、はっきり言わないと通じない気がしたのだ。
ジェラール様は言葉を発さず呆けている。
彼は額に手をあてると、ぶつぶつ何か呟きだした。
「リリアーヌが……私に興味がない……? あのリリアーヌが? うんざりするほど王宮に通い詰めてきて、勝手に私が式典で着た衣装の複製を作り、私が関わった令嬢一人一人を牽制して回っていたリリアーヌが……?」
「そ、それらの件は申し訳ございませんでした。もうしませんのでお許しください……」
改めて言葉にされると、なんだか私が悪い気がしてきた。
でもなんにしろ、私とジェラール様の婚約は解消してしまったほうがいいだろう。
私は頭を抱えているジェラール様に言った。




