1-1
「私なんであの人のこと好きだったのかしら……」
数日間寝込んだ後、ようやく体を起こせるようになった私が最初に思ったのはそれだった。
壁には、婚約者のジェラール王子殿下の肖像画の入った額縁がいっぱいに飾ってある。
ベッドサイドにも、ジェラール様から誕生日にもらったプレゼントが、どれも大事にケースに入れられて飾られていた。
ほかにも、本棚にはジェラール様の半生を綴った本、彼が式典で着用した衣装の複製、生誕祝いに作られた記念硬貨。
ジェラール様、ジェラール様、ジェラール様……。
どれだけジェラール様にしか興味ないのだと、冷えた頭で考えるとぞっとする。
「これは……ジェラール様もさぞ、うっとうしかったでしょうね」
ため息交じりに呟いた。
私がジェラール様に冷たく扱われるのも、無理ないことだったのかもしれない。
私の名前はリリアーヌ・シャリエ。
腰まである豊かな金色の髪に、宝石のようにキラキラしたピンクの目が自慢の公爵令嬢だ。
そんな私と、ソヴェレーヌ王国の第一王子ジェラール殿下との婚約が決まったのは、十歳の頃のこと。
当時、ジェラール様の婚約者候補は私を含めて五人程いた。
家柄でいえば公爵家の娘の私が一番身分が高く、最有力候補と言えた。
しかし、当時の婚約者選びは難航した。なぜかといえば、私の頭があまりよろしくなかったからだ。
どんなに優秀な家庭教師に囲まれて勉強しても、ちっとも賢くならない。
王立学園初等部の成績も、下から数えた方が早いくらいだった。
その上、マナーレッスンもサボってばかりだった私は、同い年の貴族令嬢に比べて優雅さに欠けていた。
勉強嫌いで、マナーも学ばず、周りの人に対してはわがままばかり。
私がそんなどうしようもない令嬢だったので、第一王子の婚約者はほかの貴族令嬢から選ぼうという流れになっていたらしい。
あまりにも当然の流れだ。
そんな状態だというのに、私はジェラール様の婚約者になりたがった。
婚約者にはなりたがったけれど、自分を磨こうと努力をすることはしなかった。
私は努力というものが大嫌いで、いくら家庭教師になだめられて懇切丁寧に教えられても、全然やる気が出なかったのだ。
私の興味があることといえば、綺麗なものだけ。
ドレスやアクセサリーを買うのに散財したり、見目の良い侍女や従僕を回りに揃えておだてられたりするのが一番楽しかった。
あまりにも王子殿下の婚約者として適性のない娘だ。
こんな人間が王妃になれば、国が傾いてしまう。