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「ツェンが、ツェンが死んじゃう……」

「大丈夫!安心してほしい。策はあるから。」

そう言ってツェンは、舌をべっと出した。そこには小さな四角い板のようなものが、三枚光っていた。

『えっ、何か口から出てきたんだけど……?』

ツェンはその板の一枚を、ガリッと噛んだ。

真っ二つに割れた瞬間、光がぱっと弾けて、宙に剣が現れた。

『えええええ……』

涙が思わず乾くほどに仰天するネル。

『でも、いま両手塞がってるよね?剣があったところで……。』

剣が地面にゴトンと落ちる。

「あれ、これは違うか。これかな?」

そう言って、ツェンが別の板を噛んで割る。

するとまた、ぱっと光が弾けて、そこから違う剣が現れた。

『ええええええ……』

驚くネル。そしてまた剣が地面に落ちる。

『こんなに剣ばっかりどうするんだ……。』

「あれ、これも違うな。」

そう言って、ツェンは最後の板を歯で割る。

またまた光が弾けて、今度はそこからエクスが現れた。

『ええええええええ…!?』

ネルはぱかんと口を開けて、エクスが地面に降り立つのを見ていた。

「ふーーーーー…」

エクスは長い息を吐いた。そして自身の手足を確認する。

「どうやら上手くいったようですね。 」

「エクス!やっと来た。待ちくたびれたよ。」

「待ちくたびれたはこっちの台詞ですよ。」

『いやいや、一体どういうこと?』


時はさかのぼり、ルルの家で作戦会議をしている3人。

「……その紙って、物だけではなく人も封印できたりしませんか?」

「理論上はできなくはないですが、やったことはないです。封印されているものが〝どういう状態か〟分からないです。物は空気や必要以上の空間が無くても生きていけますが、人間はそういう訳にはいかないです。死体をしまうならともかく、生きてる人間を放り込むには危険すぎるです。」

「できなくはないんでしょう。やってみる価値はあります。」

「最悪死にますよ?」

「大丈夫です。それに、一日なら空気がなくても耐えられます。」

「化け物……」

「なにか言いました?」

笑顔のエクスに、ぶんぶんと首を振るルル。

「じゃあ、それでいこう。」

ツェンは即決した。エクスが大丈夫というなら、大丈夫だと。心から、エクスのことを信頼していた。

「ただ、縛られる可能性があるから、手足を使わなくてもできるのが理想だね。エクスと、エクスの剣と、それからボクの剣の三枚……ルル、お願いできる?」

ルルはこくりと頷く。

「でしたら、歯で砕けるように、紙ではなく薄い板を使うです。」

「いいね。…ネルのところに案内してくれるだろうから、会えたらエクスを呼び寄せよう。」


「どうだった?板の中は」

ツェンは縄を解いてもらいながら、尋ねる。

「どうもこうも、居心地は最悪ですよ。光もないし、空気もない。おまけに身体も動かない。」

「貴重な体験をしたね。」

「まったくです。」

ネルも縄を解いてもらって、ようやく手足が動くようになる。2人を解放し終えたエクスは、牢の扉が開かないかどうかを確認している。

「うーーーん。」

「どう、開きそう?」

ツェンが尋ねると、エクスは頷いて。足で、扉を思いっきり蹴飛ばした。

「こうするのが早いですね。」

音に反応して、バタバタと足音が近づいてくる。

「私がここは引き止めますから、先に行ってください。」

エクスに言われ、ツェンは頷いてネルの手を引いて走り去っていく。

エクスは剣を足音に向けて構える。

『この建物に人の気配は俺たちを除くと2つしかない。そして恐らくこっちが、強い方だ。さっさと片付けてツェンのところに行くか。』

エクスは現れた相手の顔を見て、驚く。

「…マーク?」

「エクス先輩。やはりいらしていたんですね。」


ツェンはネルの手を引いて走る。

もうすぐ出口……というところで、錫杖を背負ったユンが立っていた。

「まあ、何も策なしに来る訳ないわよね。一体どこに剣と騎士を隠していたのやら。」

しゃらん、音を鳴らして、錫杖を構える。

「言っとくけど私、強いわよ。」

緑の瞳が暗闇で、怪しく光る。

『エクスが行けと言ったってことは、ボクが突破できる算段があるってことだ。』

ツェンはネルに、耳打ちする。

「恐らく、エクスが今戦っている人と、この人で全員だ。ネルは走って逃げて。外に出たらルルがいるから、状況を伝えて。そして王宮に、先に戻してもらうんだ。」

「でも……」

「大丈夫。ネルならできる。最後まで一緒にいてあげられなくてごめん。」

『そうじゃない。ツェンを置いていくのが心配なんだ……。でも、わたしがいたところで何ができる??』

ネルは渋々頷くと、迷いを振り切るように走り去っていく。

「いいの?大事な妹を一人にして。」

「妹じゃない。」

「姉?」

「双子じゃない。兄弟でもない。騎士と姫ですよ。」

ツェンは剣を構える。

「この期に及んでそんな嘘つくの?」

「信じてもらわなくてもいいけど、現国王に誤ったことを伝えて、恥をかくのはユン様ですよ。」

ツェンの言葉に、ユンが錫杖を振り上げる。


ガキン、刃と刃がぶつかり合う。

エクスとマークは、斬り合いをしていた。

マークにとって、エクスは騎士学校時代の先輩だった。エクスは、開校以来最高の成績を修め続ける最強の騎士として名が知れていた。学年で一番強かったマークは一度、自分より強い相手と闘ってみたいとエクスに決闘を申し込んだ。結果は……惨敗だった。

「どうしてそんなに強いんですか。」若かりしマークが尋ねると、エクスはこう答えた。

「守るべき人がいるからだ。」

その言葉に痺れたマークは、以来ずっとエクスの背中を追いかけ続けていた。そして〝守るべき人〟ができた今、もう一度エクスと戦ってみたいとも思っていた。もしかしたら勝てるのではないか、と。

しかし。どこから斬り込んでも全く崩れず、どれだけ攻撃をしても決して隙を見せない。マークはエクスに、勝てる気がしなかった。

そして、勝負において勝てるイメージが持てないことは即ち、負けを意味する。

エクスの斬りあげでマークの手から剣が飛んでいく。そしてマークの首に向けて一閃し……

「……殺さないんですか。」

ぴたりと首筋に触れて剣は止まっていた。

「お前、守るべき人は見つかったのか。」

エクスは不意に、マークに問いかけた。

「はい。」

「ならどうして、ここで死ねる。お前が死んだら、誰が彼女を守るんだ。」

「彼女は……とても強い人なんです。僕はずっと、必要とされていない。」

「本当に守りたいなら、彼女の意思に従うだけではいけない。彼女の弱点を知り、支えて導けるようになれ。弱点のない人間などいない。」

エクスは剣を下げた。

「彼女が今しようとしていることが、本当に未来に繋がるか考えろ。……現国王より、俺の主の方がよっぽど、価値があるぞ。」

『こいつを生かしておくことで、ツェンの未来の選択肢の幅が広がる。』

エクスはそう判断して、剣を一度下げ、束でマークの後頭部を強打した。


一方、ツェンは行き止まりまで追い詰められていた。ユンが飛び上がり、逃げ場のないツェンに向かって錫杖の先を突く。

ツェンは身体を低くして、間一髪ユンの足の間をすり抜けて避ける。そのまま後ろから斬り下ろそうとするが、ユンは素早く振り返り、剣を受け止め弾いた。

『強い。力はないが、女性らしいしなやかな動きと素早さで、とても捉えきれない。』

苦戦するツェン。ユンの突きに防御が間に合わず、みぞおちに刺さる。

「かっ……は…!」

背中から壁に強打し、痛みにあばらを、おさえる。ユンが錫杖を構えて、ゆらりゆらり近づいてくる。

「私は、負けない。お兄様のためにも、母国の民のためにも。王女たるために、血の滲む努力をしてきたのよ。」

ユンが錫杖を振り上げた。

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