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 …。


 えええええーー!!??


 はい。ベター! ベッタベタ! でも良いよね! 良かったね! 殿下!


「ちょっと待ちなさいよーー!」


 と、完全に我を見失っている女の声が響いた。


「サテナローズ! 貴方こそ浮気者じゃない! カイロスという婚約者がありながら殿下と密通しているなんて!」


「そ…そうだ! そうだ! とんでもない女だ!」


 あっちゃー。確かに餌を蒔いたとはいえ、そんなにがっついたらお腹壊しちゃうよ!


「…今何と言った? 密通?」


 殿下が立ち上がり、サテナローズを後ろに庇って低い声で呟く。真実の愛ってこういうことだよね。部員達を見たら殿下を拝んでいる。止めなさい! 雰囲気大事!


「この無礼者が。お前達と一緒にするな。私は今まで彼女に指一本触れたことはないし好意を伝えたこともない」


「な…ならどうして…」


「サテナローズは男爵令嬢ですよ? 殿下に覚えて頂けるような身分では…」


 気迫に押されて震えながらカイロスとティアラが答えた。


「一昨年まで私もこの学校に通っていたのだから交流があっても不思議ではないだろう」


「そ…そんな…」


「そんな、の……いえ! そんなの不自然です! 学年も違う彼女と、特別な理由もなく交流なんてできる筈がありません! 殿下だからといって何でも押し通せると思わないで下さい!」


 ティアラ嬢、勝負に出る。フラグ乱立の予感!


「では教えてやる。私と彼女は同じ部活に所属していた。理由はそれで十分だろう」


「部活?」


「そう。リョウケン部」


「…り」


「……リョウケン部?」


 ゆーっくりとこっちを見る二人。うん。そうだよ。殿下もサテナローズもリョウケン部。だからさっき聞いたじゃん。婚約者の所属している部活も知らないなんておかしいなって思ったんだよね。


「今日はそれに関わる発表があって来たんだ。まさかこんな僥倖に恵まれるとは思ってもいなかったけれど」


 そう言って殿下はサテナローズに笑う。彼女の顔は真っ赤になった。それを見て満足げに微笑んでから殿下は俺を見る。預かりました。と、目で返事をした。


「騒がせてすまない」


「いえ。こちらこそ我が校の生徒が申し訳ございません」


 さらりとそんなやりとりを教師として殿下は上座に向かう。そしていつの間にか集まった教師を従えてこう言った。


「諸君。卒業おめでとう。まずは騒がせてしまったことを詫びよう。君たちの門出に幸あらんことを」


 その言葉に生徒達はしずしずと応えた。


「今日は大切な発表がある。王族がこの場に立ち入れば気の置けない仲間との最後の日を邪魔してしまうがどうか許して欲しい」


 心からの祝福の言葉。そして喜ばしいことであろう発表。殿下は謙遜に近い言葉を口にしたけれど、王族からのその贈り物は一生の思い出になる。生徒達は感動すら浮かべながらその言葉を受け取った。


「さっきも言ったが私はリョウケン部に所属していた。まぁ、所属と言っても三年生引退の時期に知ってからただ参加させて貰っていただけの人間だ。正式な部員とは言えないけれど、便宜上部員という言葉を使わせて貰う」


 そして俺達を見て笑ってこう言った。


「リョウケン部。正式には領地経営研究部。領地経営の勉強やアイデアを出し合う部活だ。私はこの活動を活用し、更に生徒が学べるよう協力者も募ってきた。実際の運営を経験させてくれる貴族を募り、または生徒のアイデアを採用して貰える領地を募った。そこで生徒は色々な事を経験し、また貴族側も今までにないアイデアを得た。この活動が評価され、来年度からカリキュラムに加えられることになった。君達は生徒としてその恩恵を受けることはできないが、受け入れる側としてそれを経験するかもしれない。もしもそうなったら、どんなに奇抜なアイデアだったとしても危険や無理のない程度に生徒の希望をできるだけ叶えてあげて欲しい。『何事も、やってみなければ分からない』」


 そう。それが部の精神。


「その素晴らしい功績と各個人の能力が認められ、この年齢では異例だが、今回卒業する部員達には王宮の幹部候補として働いて貰うことが決まった。詳細はまだ公表できないが、会計、管理、研究の分野。それから一人には私の側近候補になって貰う」


 ざわっ。と場が騒いだ。まぁ、さっきのやり取り見てれば誰かは分かるよね。


「学校は学ぶ場所だ。しかしそれに留まらない成長を領研部は体現してくれた。今日はその発表と表彰の為に来たんだ」


 あわわわわ。というよりも下顎が外れてるのかなって思うほどがくがくさせている数人が目に入る。そうだよね。めっちゃ馬鹿にしてたもんね。


「代表して、部長。前へ」


 はい。と頷き前に進む。サテナローズの周りは部員ががっちり包囲。


 その前で賞状を受け取った。握手をしたら殿下が笑う。


「明日から宜しく頼むよ」


 殿下。詳細は発表できないとか言いながら隠す気ないでしょ。と思いながら頷いた。候補と言っても競う誰かがいる訳ではない。研修期間は正式に任命されないだけでやることは同じだ。ただの平民が大抜擢。モブにもそういう人生があったりする。

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