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13

「おはようございます」


 と、声を掛けられて無言で相手を見た。え? という顔をした自分の側近は首を傾げてはてな顔。


「…おはよう」


「どうされました?」


 どうされました? じゃないだろう。と思ったけれども我慢した。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせながら席に着いて大きな深呼吸をする。そして相変わらず不思議そうな顔をしている側近に言った。


「私に何か言うことはない?」


「?」


 その言葉に相手はちょっと眉間に皺を寄せる。そして宙を見て何か考えたようだけれど、結局首を横に振った。


「いえ。特に」


「そう? 本当に? よく考えても出てこない?」


 もっとちゃんと考えて! そう促したら、何よ。しつこいわね。とでも言いたげな顔をしたけれど、気が付いたように頷いた。


「失礼しました。本日の予定はですね」


「違う」


「じゃあ分かりません」


 即答。諦めが早い。もっと粘ってくれよとこれ見よがしに大きなため息をついたら相手はむっと睨み付けてきた。何その顔。困ってるのはこっちなんだぞ!?


「…昨日、妹の卒業パーティーがあったのは知っているよね?」


「知ってます」


 ん? それに俺が何か関係していることある? とばかりに再度寄った眉間の皺を見ながら呟いた。


「その関連で今朝、というか早朝から妹へ申し入れが大量に届いているんだけど」


 そう言ったら眉間の皺は無くなり、ほう、と側近は頷いた。


「良かったじゃないですか。それで何でそんな困り顔なんです? 良くない相手からなんですか?」


「いや、大国の王太子からの申し入れを筆頭にその他も真面目なものばかりだ」


 そう言ったら、ほうほう、と頷く側近。待っていても何も言わないので質問してみた。


「これを聞いても何とも思わないの?」


「…だから、良かったですね」


 あれー。この子、本当にうちの妹の事どう思っているんだろう。全然分からなくて思わず頭を抱えた。


 さて。昨日何があったのか。


 簡潔に述べれば、ずっと思い続けていた大好きな人からの好意を受け取って(多少難ありではあったけれど)王女は幸せ一杯だった。嬉しくて嬉しくて仕方がなくて、終始笑顔で過ごした。そんな彼女に男性陣の注目は集まった。あれ? あれはこの国の王女殿下? 噂と違うな。にこにこしていて何て可愛らしいんだ。話した感じも慎み深くて礼儀正しい。優しさが言葉からも態度からも溢れている。しかも政治や軍事の話にもすんなり答えられる才媛だ。その他の知識も深い。凄い。こんなに素敵な人だったなんて知らなかった。この人ともっと仲を深めたい!! という流れで申し入れが殺到したのである。


 少し裏事情を解説するのなら、相手を見定める必要のない彼女は周りの令嬢の様に値踏みをするような態度を全くとらなかった。守って貰えるという安心感が自分の感情を見せることへの恐怖を無くした。気遣いを十分にできるだけの余裕も持てた。普通の令嬢はあまり触れあう事のない知識にも、領研部のメンバーと一緒にいたことでそんじょそこらの貴族なんかよりも精通してしまっていた。生来の性格は優しくて穏やか。おまけにモブと同じ成分で作られているとはとても信じられないほどの美人。そうなるのは必然だったともいえる。


 その現実を兄は知らない。でも絶対この側近絡みの何かあったと確信していた。妹よりもこっちに聞いた方が良いだろうと単刀直入に言う。


「妹に何か言った?」


「え? …あー…。はい。言いました」


「何て言ったの?」


「卒業パーティーに行かれるのをとても怖がってらしたので、いざとなったら一緒に逃げるから安心して行ってきたら良いですよって」


 ん?


 ぽくぽくぽく。と、三秒くらいの沈黙が訪れた。


「…え? それ、駆け落ちするって事?」


 その言葉に側近は「んー…」と唸っている。何の唸り?


「まぁ、そうなりますね」


 そうなりますねって今気付いたの?


 とりあえず状況は把握した。想い人にこんな事を言われて妹は幸せオーラ全開だったんだろう。それに男が引っかかったのか。


 うーん…。


「それ本気で言ったの?」


「本気ですよ。とはいっても陛下や殿下が守って下さるからそんな事にはならないとも伝えましたが」


 そうじゃなくてー。


「え…っと…。君は妹の事が好きなの?」


「……うーん…」


 と、また唸る側近。そこ迷うところ? そう思って見ていたら、やがてこっちを向いてこんな事を言う。


「王女殿下の事を好きじゃない男っています?」


 うん? それどういう意味? 確かに贔屓目無しに見ても妹は可愛いと思うけど。つまり妹の事は好きって事? で良いんだよね? で? どういう意味で?


「じゃあ…さっき申し入れが沢山来て良かったと言ったのは嘘?」


「いえ?」


 不思議そうな顔で即答する。


「本心で言ってますよ」


 うーーーん。


「妹がどこかに嫁いでも良いって事?」


「王女殿下が幸せなら」


「そうじゃなかったら?」


「そりゃ駄目でしょう」


 何言ってんの? とでも言いたげな顔で側近は言う。うん。そうなんだけどさ。聞きたいのはそういう事じゃなくて。


「じゃあ、そうなったら駆け落ちするって事だよね?」


「王女殿下がそれを望めばですけど」


「君から手を引くことはない?」


「よほど目に余る状態でなければ」


 じゃあ、何? 君は駆け落ちする覚悟はあるし、それくらい妹のことは好きだけど自分から攫うつもりは微塵も無いって事? どういう心境?

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― 新着の感想 ―
[一言] ねー、純粋な優しさは罪だから特に自分のことを好きな女の子にはしちゃダメって法律で決まってんだけどどうなの?
[一言] 感想を書いたあと改めて読み返して、「入り乱れてる」は少し言い過ぎたかもと思いました。王太子→主人公→王太子、ですよね。 もっと何回も変わってるように見えてました。 >不思議そうな顔をして…
[一言] ここまでにもちょくちょくあったんだけど、この回が特にひどいと思うのでここに書きますね。 文章ごとに視点人物が変わりすぎです。 私は読んでいて視点人物の変更になんとなくついて行けましたから…
感想一覧
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