#1
昔々ある所に、おじいさんとおばあさんが…
(ちょっと!これ台本違いますよ?)
んっんん…えー、失礼いたしました。
『激盛っ!!!』
失礼いたしました。激盛と出てしまいました。
えー、あるところに、それはそれは可愛らしい女の子がおりました…
(え?何ですか?苦情は受け付けてませんよ?)
コホン…あるところに、誰もが羨む絶世の美女がおりました。(棒読み)
世界一の美少女が目を覚ますと、なんとそこは見たこともない森の中だったのです。(棒読み)
しかし、その時の彼女は、まだ知らなかったのです。
そこが、異世界だということを。
―「あたし見たんだよ!ミユキが先生と腕組んで歩いてるとこ!」
「えー!それヤバくない?わざわざ修学旅行先で一緒に居るなんて」
(ホント、みんな噂話が好きだなぁ…)
「セクシーナイトの矢部くん、あのグラドルと真剣交際だってー!信じらんなーい!」
(アイドルにだって色恋沙汰くらいあるだろ…アイドルだってトイレに行くし、ファンが恋人だなんて言わされてるだけだってば)
「ホント、つまんないなぁ…」
2泊3日の修学旅行を終えて、北海道から東京に帰る機内は、女子高生の噂話で持ち切りだった。
すっと睡魔が襲ってくる。
(枕が変わると眠れないんだよなぁ…この旅行中…ずっと…寝れな…かった……あ、ヤバい…寝そう…)
……………んっ……もう着いたのかな……。
目を覚ますと、私は森の中に居た。
「あれ…?私、飛行機で寝ちゃったような…」
(記憶が曖昧だな…まだ寝ぼけてるのかな)
辺りは木に囲まれている、『THE 森の中!』という空間だった。
(さっきのが夢で、まだ北海道にいるんだ)
でも、こんな森に来るスケジュールなんてあっただろうか。とにかく現在地を調べようと、ポケットからスマホを取り出すことにした。
「あれ?ない?おかしいな…」バスの中に置いてきてしまったのか、ポケットの中にあるハズのスマホが無くなっていた。
「とりあえず歩いてみよう…かな」
ここに居たって仕方ない、クラスの皆も近くにいるだろう。そう思っていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…なんなのもうっ」
歩けど歩けど、景色は変わらず、クラスメイトの姿は見つからない。
「皆どこに行ったのよ…」
(それにしても暑い…10月の北海道の森の中って、こんなに暑いの?)
地球温暖化を肌で感じた…。
「喉乾いたなぁ」
人に出会うより、水が飲みたかった。といってもスマホもお財布も無い私には、自販機を見つけても買う術は持っていなかった。
ガサガサッ……
「ぃよっしょーい!!!!!!」美少女らしからぬ変な声を出してしまった。
(誰も居なくて良かったー)
ソロりソロり…音がした方に近づいてみる。
小さい…馬?でも背中から羽根が生えてるし…浮いてる?!
(え?え?あれペガサスじゃね?え?私ってば、世紀の大発見しちゃった?何とか賞を貰って、崇拝の対象になっちゃう?!)
玉座に座って、羽根の付いた扇子を扇ぐ自分の姿を想像していると、足元の枝を踏んでしまった。
パキッ!…静かな森に響き渡るパキッ!
途端、ペガサスがこっちに気付いて、隠していた牙を見せて威嚇してきた。
「え?なに?キミ怖いやつ?」後ずさりしていると、凄い勢いでペガサスもどきがすっ飛んできた。
「ちょちょちょちょ!いーーーーーやーーーーー!」
(待って待って待って待って!私食べられちゃうカンジ?)
全力疾走で走ったけれど、ヤバいペガサスもどきは、何処までも着いてくる勢いで飛んできていた。
「私絶対に美味しくないからぁ!ほら!食べるとこも殆どないし!」
走馬灯が頭の中をよぎった。
(パパ…ママ…可愛い一人娘は、お家に帰れないかもしれません…いままで17年間ありがとう…。あと飼い犬のポチもありがとう…キミのウンチを拾った日々は忘れないよ…いつもクサイ落し物をありがとう…ウンチさんも、ありがとう…安らかに…)
「って!走馬灯にウンチ出てくんな!くそっ!」
もうそろそろ足が限界かもしれない…と思っていると、足が縺れて綺麗にビターンと倒れてしまった。
(あぁ…ありがとう…ポチのウンチ…フォーエバーポチウンチ)
ポチとウンチー’Sが、天使になって私を迎えに来てくれている画が浮かんだ。
すると、物凄い勢いで、私の上空をペガサスもどきが通り過ぎて、ヤツは木に正面衝突してしまった。
…気絶してる?
「っしゃあ!」助かった…。
目覚める前に、出来るだけ遠くに行こう。
ふと横に目を向けると、どれくらい走っていたのか、舗装された道のようなものが見えた。
「獣道…かな…?」
とにかく人里に降りれば、誰かに助けを求められるだろう。ペガサス賞は諦めて、生き延びることを考えよう。
しばらく歩いていると、もう日も暮れて少し薄暗くなっていた。
「どこに続いてるんだろう…」
と、目の前に街のような…村のような集落が見えた。
「助かったぁ」
人工物を見つけて、肩の力が抜けて緊張の糸が解けたように感じた。
とりあえず家を訪ねてみようと、明かりの付いている家の扉をノックした。
(いまどきインターホンも無いなんて、北海道では当たり前なのかな?)
ガチャ…扉が開くと、金髪で目が青いお姉さんがコチラを不思議そうに見つめていた。服装はゲームに出てくるような、西洋風の服を着ていた。
「あの〜すみません、私、他の人たちとはぐれてしまったみたいで、もし宜しければ電話をお借りしたいんですけど…」
不思議そうな顔は、首をかしげている。
「あの〜?」
(日本語が通じてないのかな?英語で話してみよう)
「キャンユースピークイングリッシュ?」
反応がない。
「あー、ニーハオ?アニョハセヨ?グーテンモルゲン?ボルシチ?」
(あっれー?通じてないカンジ?)
すると、金髪のお姉さんから聞いたこともない言語が飛んできた。
「$=。@?{+?ЙВЖЖГИ◐※♣○¡♣♠✟♣ТМ}」
「えっ?えっ?ジャストアモーメントプリーズ?」
「∟∵∽⊆⊇✰♪¿θΝγξηκ=°-‰⊥ℵ*&,?!。、@」
(やっべー、何言ってんのかサッパリわかんねー)
「あー、デンワ?もしもーし、貸してプリーズ?」
バタン!閉められてしまった…。
「えーー。」
(てか何語?北海道の訛り…ではなさそうだけど…)
でも、他の家を訪ねても結果は同じで、私はどん底に落とされた気分だった。
なにより「ホッカイドウ」という言葉にも反応していないことは、気がかりでしかなかった。
「はぁ…どうしてこんなことになったんだろう…てかココどこなのよ…」
(お腹空いたなぁ)
集落の真ん中にある、噴水の縁に座って項垂れていると、さっきの金髪のお姉さんが近づいてきた。
「すみません…私あなたの国の言葉は分からないんです…」
(って通じる訳ないか…)
よく見ると、お姉さんの後ろには大男がいて、手にはロープを携えていた。お姉さんは、私を指さして大男に何やら呟いている。
「えっ?」
気付いた時には、もう遅かった。
私は手をグルグルに縛られて、大男に担がれていた。
「ちょっと!離して!お願い!どこに連れてくの!」大男は微動だにせず歩いている。
訳が分からないまま、私は牢屋のような鍵の掛かった鉄格子の空間に放り込まれた。
「いてててっ、ちょっと!何すんのよ!」
抗議したけれど、やっぱり通じてないようだった。
また訳の分からない言語で会話している二人は、何処かに行ってしまった。
「何なのよ、この状況!そもそも、ここ何処なのーーーーー!」
あるところに、それはそれは可愛らしい女の子がおりました。
美少女が目を覚ますと、なんとそこは見たこともない森の中だったのです。
しかし、その時の彼女は、まだ知らなかったのです。
そこが、異世界だということを。