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良くある話〜継母と二人の姉と私

作者: ツナ

大きなお屋敷に、継母と二人の姉。そして私。これで想像できちゃうと思うけど、よくある話よ。


 可も不可もない伯爵だった私のお父さまは、私のお母様がご病気で亡くなった後、寂しさにつけ込んだ継母とあっという間にゴールイン。子爵家の次男坊の後家だった方だから、血筋も悪くないし、子爵家長男は子だくさんで跡取り問題もないし、というわけで姉達二人も伯爵家に一緒にやってきた。

 まあ、これも良くある話よ。


 で、お父さまったら、再婚してたったの2年で流行り病で亡くなってしまわれて。その頃はお義母さまとの仲は悪くなかったんだけど、それでも、実の両親がいなくなってしまう心細さ・・・今思い出しても、泣ける。

 でもまあ、これも良くある話よね。


 伯爵家は跡取りがいないから、いそいで婿を取らなくてはならなかったのだけど、国王陛下の寛大なお計らいにより、爵位に関して、娘たちが20歳になるまで保留にしてくださったの。一番上のお姉さまが14歳、2番目のお姉さまが12歳、私は11歳だったから、ありがたい話よね。平均17歳くらいで結婚する令嬢が多いから、20歳まで、というのはかなり譲歩してくださっていると思うわ。


 一番上のお姉さまが15歳になって社交界デビューしてから、早6年。21歳になったお姉さまはいまだ独身。下のお姉さまも未だお相手おらず。私はというと・・予想できちゃってると思うけど、社交界デビューしていないのよね。

 良い婿を見つけないと!と躍起になったお義母さまが、ダンスパーティ用のドレスや装飾品、化粧品の数々を買い漁るようになって、我が家の家計は見事に破綻した。爵位こそ待っていただいているけれど、現状、伯爵家としてのお仕事が出来ていない我が家には、収入がない。お父さまの遺した遺産を食いつぶしている状態。3年目までは、お父さまのご存命だった時とほぼ同じ生活が出来ていたけれど、それからは使用人を解雇したり、食費を節約したり・・・キビシイ生活よ。ほんとに。

 そんなこんなで、私が社交界デビューする機会はなくなり(ほんとにお金がないのよね)、家事手伝いというか、ほぼ使用人状態になっているのが現在の私の姿よ。

 まあ、これも良くある話でしょ。想像通りよね。


 お金がなくなると、心に余裕がなくなる、というのは本当の話で、それまで普通に家族として接してくれていたお義母さま、お姉さま達は、私が使用人の真似事を始めると、態度が一変。


『明日のパーティに着ていくドレスを用意しておいてちょうだい!あ~、この間と印象が変わるように、胸元のリボンは外して、他のコサージュを縫い付けておいて!』


『夕飯はジャガイモのポタージュにして。え?牛乳がない?そんなのどうにかしなさいよ!』


等々、あれこれこき使われている。ゲンナリするのは、


『お前は夕飯抜きだよ!』


とか


『罰として、玄関ホールの床をピカピカに磨きなさい!』


とか、偉そうに罰則を与えようとすることだ。


 おかげで、私はいつもクタクタ、おなかペコペコ・・・・なんてことはない。そりゃ、そうでしょう。夕飯抜き?目の前で食べなきゃ良いでしょう。だって私が一人で料理して、1人で片付けているのよ。台所で食事すればいいだけの話。なんなら、ほんの少し余ったパンに、余ったバターと砂糖を振りかけて焼いて、こっそりおやつ・・・・。掃除に関しては、いわれなくても毎日全部やってますからね。ボロい作業着を着てはいるけれど、お姉さま達のドレスのリフォームは私が担当しているわけですから、あまり布で気持ちの良い下着を作って着こんだり、ナイショだけど、屋根裏には私専用の素敵なドレスも隠してある。


 厳しい仕打ちを受けている割に、私が瘦せ細らないなーとか、思ったほどボロを着ていないなーなんてことに気が付くような繊細さは彼女たちにはないので、まったく問題なし!まあ、かっこつけで偉そうにしているだけなのよね。

 ほらほら、こんなのも良くある話と思わない?


 さてさて、良くあるついでに、今、私のエプロンのポケットには国王陛下からのお手紙が入っているの。ぴったり3通。


”皇太子の伴侶となる娘を選ぶため、ダンスパーティを開催する”


 そう!例のやつですよ!!

 そして、パーティは今夜ですよ!!


 私は、2番目のお姉さまの仕度をお手伝いし、ポケットからお手紙を一通取り出す。


「お姉さま、招待状です。ハンドバッグに入れておいてくださいね。」


 次に、1番目のお姉さまの仕度をお手伝いし、ポケットからお手紙を一通取り出す。


「お姉さま、招待状です。ハンドバッグに入れておいてくださいね。」


 最後に、付き添いのお義母さまのお仕度をお手伝い。


「お義母さま、準備が整いました。表に馬車も待っております。」


「あら、私の分の招待状は?」


「??」


「ポケットに、もう一通あるでしょう。招待状が。」


「これは・・・私宛のものですので・・・」


「そんなことがあるわけありません!私だって独身ですもの。」


 えっ!お義母さま!!それはナイ・・・

 お義母さまの肩越しに、お姉さま達が固まっているのが見える。


「さあ、よこしなさいな。」


 お義母さまは、私のポケットからサッとお手紙を取り出し、自分のハンドバッグに入れてしまった。


「さあ、娘達、行きますわよ!!」


「え、ちょ・・・それ・・・・」


 いってらっしゃませを言うのも忘れ、私は茫然自失。我に返った時には、もう馬車は出発しており、ガランとした屋敷に、私のため息だけが響いたわ。


 どうりで、お義母さまの準備に余念がなかったわけね・・・今更のように、前日までの継母の張り切った姿が思い出されたわ。確かに美人だけどね、美人だけど、もうアラフォーなんだけどね!!

 でも、夫に2人も先立たれた人なのだと思うと、そのくらいタフな精神でいてくれたほうがありがたい気もしてしまう。

 うん、これも良くある話かもしれない。


 さて、1人になった私がどうするかというと・・・も・ち・ろ・ん!屋根裏に駆け込んでドレスを取り出し、お姉さまの化粧品を使ってバッチリメイク!お義母さま達の靴を新調したときに、こっそり注文しておいた白いヒールの靴を履いて、ほら、出来上がり!! 


 実は・・・お城は歩いて15分ほどしかかからない。公爵さまや侯爵さまは、城下町を通り過ぎ、馬車で15分はかかる大きな敷地のお屋敷にお住まいだけど、伯爵以下はお城と城下町の間に屋敷を構えているの。その方が、有事のときにすぐ駆け付けられるから、とお父さまは剣を磨きながら話してらしたっけ・・・。なので、カボチャの馬車はないけれど、問題はないわ。あ、いや、カボチャって、意識し過ぎよね、おほほ。


 パーティが始まったのか、お城からオーケストラの優雅な調べが聞こえてきたわ。皇太子さまは、どなたとファーストダンスを踊られたのかしら。

 

 ふと前を見ると、向こうの道からドレスを着た令嬢が歩いてくるのが見える。ダンスパーティへ行くのかしら。お城に続く一本道からY字に分かれたその両方の道から、私と似たような令嬢が歩いてくるなんて、ちょっとおもしろい。

 でも、物語では良くある話。


「ごきげんよう。」


「ごきげんよう。お城に行かれるのですか?」


 なんて綺麗な子かしら。私はパチパチと瞬きした。とても瘦せていて、儚げ。でも薄いブルーのドレスがとても良く似合っている。

 私たちは共にお城に向かって進んだわ。


「まあ、では馬車が先に行ってしまったのですね。」


「ええ、私、準備が間に合わなくて。」


「分かります。私も同じですから。」


 父は亡くなり、継母と二人の姉、用意していた馬車には置いて行かれ・・・私たちは似た者同士ね。ほんと、良くある話ってことね。


 そこで、ハタと気が付いたの。


 ”この子・・・シンデレラじゃないかしら・・・”


 だって、そうよね。私も似たような境遇に置かれているけれど、ご飯はしっかり食べているし、こっそりハンドクリームも買って、お肌艶々をキープしているし・・・魔法使いとか出て来てないし。

 皇太子さまのお目に留まるんじゃないかと期待していたけれど、童話のようにはいかないかもしれない。


「お名前をお聞きしてもよろしいかしら?」


 城門はもうすぐ。思い切って尋ねてみたわ。


「ジェシカです。」


 セーフ!!!ジェシカ!!


「でも、家では”サンド”って呼ばれてます。”サンドリヨン”の略なんですって。」


 サンドリヨンって、シンデレラじゃない・・・・


 今まで軽快に歩いてきたのに、急に慣れないヒールが足に響きだす。ああ、これは、無駄足だったかしら。ダンスパーティ行っても、奇跡は起きないかもしれないわ・・・


 そうこうするうちに城門につき、招待状がなくても、すんなりホールに通してくれたわ。やっぱり横にシンデレラがいる効果かしらね。

 皇太子さまは既にお気に入りの令嬢とどこかへ消えおり不在。私とジェシカは並べられたご馳走をほおばりながら身の上話に花を咲かせて。やっぱり、ジェシカも自分がシンデレラじゃないかと期待していたみたい!そうよね!あれは、私たちみたいな境遇の娘には希望の光よね!


 ファンファーレが鳴り響く。


 どこかへ消えていた皇太子が、おめがねにかなった令嬢をエスコートしてホールに入ってくるみたい。一体、どんな令嬢なのかしら。お会いするチャンスすら逃した私は無念の一言に尽きるけど、ぜひ一目見たいものだわ。


 すらっとした細身の、その令嬢を見た私はびっくりしたわよ。


「お・・お義母さま・・!!」




 それからしばらく、私は皇太子妃(つまりお義母さま)付きの侍女として、お城で働いたわ。なぜなら、お義母さまの”皇太子お気に入り究極の若作りメイク”をできるのが私だけだったから。無駄に技術力をあげていた自分が恨めしいわよ・・・


 一番目のお姉さまは、お義母さまの結婚が決まったすぐ後に候爵家の3男と縁組がまとまり、その方とお父さまの爵位を継ぐこととなったわ。

 二番目のお姉さまは、公爵家の長男と婚約して、将来は侯爵夫人になる予定。

 結局、一番美人でやる気満々のお義母さまのせいで、姉二人の結婚がまとまらなくなっていた、というのが真相で、決して、姉たちがモテなかったわけではない、ということみたい。


 そして私。私はお義母さまの侍女をしていたところ、皇太子さまの弟君の目に留まり、近々婚約・・・という運びになりそう。シンデ・・いや、良くある話のようにはいかなかったけど、なんだかうまくいったみたい。お義母さまがお義姉さまに変わるのが変な感じだけど・・・


 幸せのおすそ分けといったらなんだけど、侍女を選ぶことになったら、ジェシカを指名しようと思っているわ。だって、私と彼女似ているもの。きっと裁縫もメイクも上手だわ。なんなら、末の弟君と・・

 

 まあ、それはまたのお話、そしてそれも、良くある話ね。



                                おわり


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― 新着の感想 ―
お義母さま、強いww なんだかんだで、姉妹で一番図太くて適応力があったから家の事をしてただけで、そこまで関係は悪くなかったのでしょうね。 そう考えると、客観的ならともかく主観的にシンデレラしているタ…
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