3つの産声
ルークは一瞬何を言われたのか分からなかった。
アルテナートのことを虐めたわけでもないし悪口を言ったわけでもない、暴力を振るったわけでもない、まず怒鳴られる理由がわからない。更に決闘がなにかもわからない。
だが、父に読み聞かせてもらう英雄たちの冒険の物語には決闘という言葉がよく出てきていた。
人族の英雄ルエル2世も魔族の帝王ベクタ1世も最後は決闘という言葉で戦いが始まっていた。
この時のルークの頭には決闘=かっこいい、そうなっていた。
(この決闘を逃せばいつ次、決闘出来るかわからない!!英雄達と同じことをするんだ、決闘を中途半端な覚悟でしてはいけないと思う。剣を持ったときから父に剣を持ったなら覚悟を持って振れと言われてきた。そして覚悟ならもう出来てる。)
「このルーク!!持てる力すべてを持ってアルテナート、お前を倒す!!」
アルテナート視点
「ルーク、決闘って何か分かってる?」とディオナが心配して聞く。
「ディオナ、止めないでくれ!!これは男と男の気持ちのぶつかり合いなんだ!!」
俺は皮のむけた素足でルークの方へと歩いて行き1メートルほど距離を取って向かい合う。
「決闘はどちらかが背中を地面に着けるまで!!それで良いな?ルーク!!」
「良いだろう!」
俺は構えなんてものも習ったことはない、だからシンプルに剣を振り上げ上段で構える。
反対にルークは構えを父から習ったのか中段に迷いなく剣を構える。
お互いに持っているのは木刀、だがお互いに相手を殺すくらいの気迫で相手を睨む。
(ルーク、いつもここでディオナと喋ってるだけではないってことか。この気迫、俺と同じで覚悟の決まった思いが伝わってくる。、、、、、いくぞ!!)
俺とルークはほぼ同時に剣を振るい始めた。
俺は上から振り下ろすようにルークは下から振り上げるようにお互いの木刀はぶつかりルークの方が振り上げるのが早かったからか一瞬俺が木剣を押し込まれ俺に近い状態で互いの木剣は止まる。お互いに押し合いで譲らず力は拮抗する。
(押し合いならお前に勝ち目はない!!)
俺は鍛えた足腰で地面をグッと踏み込んで流点気をお腹から腕へと流して押し込む。
止まっていた両者の木剣は徐々にルークの方に押し込まれていく。
ルークは押し合いでは勝てないと思ったのか剣の向きを少しずらし俺の木剣の力を流す。俺は上手く流され誰も居ない地面に剣を振り下ろした。
ルークが距離を取ろうと後ろに下がろうとする。
(逃さない!!)
足をさらに踏み込んで全力で振るった木剣をルークに向けて振り上げる。
ルークは木剣を目の前に構えて俺の木剣を受ける。
だが威力が思ったよりあったのか後ろに吹っ飛び片手を地面につく。
俺は地面に片手をついたルークに剣を振るう。
だがルークの方が剣の扱いはうまい。
ルークは持っていた木剣を俺の木剣を持っている手に突き刺す。
俺は手の痛みで木剣を離しそれをルークは奪おうとする。俺は片足で踏ん張ってルークの腕に蹴りを当てる。
ルークも痛かったのか木剣を離し俺はそれを持ってまたルークと向かい合う。互いの木剣は入れ替わり、ルークの木剣は汗で湿っていた。
「アルテナート!!蹴るなんて卑怯よ!!」
「ディオナ!!今良いところなんだ!!」
俺はまた上段に構えルークは中段に構え最初と同じように始まる。
俺が振り下ろした剣とルークの振り上げた剣はぶつかる瞬間にルークが俺の剣を流そうとして剣を斜めにする。俺はそれを読んで剣がぶつかる寸前で剣を止めルークの首めがけて剣を振るう。
ルークは間に合わないと思い手でそれをガードして持っていた木剣は飛んでいく。
(決闘はまだまだこっからだ!!)
ルークは痛みに耐え俺の手に噛み付く。
俺も木剣を離し互いに素手で殴り合う。
俺がルークの顔面を殴ったと思えば俺はお腹を殴られていてお腹を殴ったと思えば顔面を殴られる。俺は踏ん張ってルークの横腹に蹴りを入れる。だが同時に顎にルークの拳が入る。
お互いによろけふらつく。
そして相手に焦点を合わせ顔面めがけて殴る。
俺の拳がルークの拳より速かったからか俺の拳がルークの顔面にルークの拳は俺に届いてはいなかった。
ルークはそのまま後ろに倒れ込み気絶する。
(勝った!!勝ったんだ!!努力して一生懸命やって俺よりも強かったやつに!!これが本当の勝利か。)
傍から見たらガキの喧嘩、技術もないし理由も大したもんじゃない。殴り合いなんてじゃれ合っているようにしか見えないかも知れない。
でも、、、いつも理由を見つけては諦めて理由を見つけては諦めてを繰り返してきた俺にとってこれが初めての勝利だって言っていいんじゃないだろうか。
ここに俺の本当の2度目の産声が上がる。
「うあああああああああああーーーーーー!!!!!!!!」
叫んでいるから喉が痛い。
俺は叫びながら地面に倒れた。
(ん、、、、ま、眩しい、、)
目を開けると、、、、いつしか俺の中で普通になっているこの古びた天井。
体を上げ見回すと案の定、テレビはない、スマホもない、俺は日本に戻ってきてはおらず、あの勝利も本物だったんだと深く実感できる。
「アルちゃん、起きた?」
横を見ると母がお腹を擦りながら俺の方を見て微笑んでいる。
「うん!!」
「どうだったの?」
言われなくても分かる。俺とルークの戦いがどうなったかだ。
「勝ってやった!!」
そう言って俺はVサインを母に見せる。
「すごいわね、アルちゃん。努力して努力して一生懸命やったから勝てたのよ。この勝利は誰に誇っても恥ずかしくないわ。あれだけ努力したんですから。そ・れ・と、今後はむやみに決闘とか暴力とかは振るってはなりません。」
「一応理由を聞いてもいい?」
「まず、むやみに力を振りかざす者はかっこよくありません。力は自分を、時に家族を、時に友を、時に恋人を守るための者であって自分を大きく見せるための物ではありません。だから今回は本当に特別だったのよ。いい?力は常に磨きながらも本当に大切な時に使いなさい。
すぐ貴方よりも力も体も小さいこの子達が生まれます。貴方は今回自分のために剣を振るいました。弱い自分のために。だから今度はこの妹を守るためにも力を研ぎ剣を振るいなさい。良いですね?」
「はい。」
俺は母のこの言葉を心に深く深く刻まれた。
夜のご飯の時にルークに勝ったと父に言うと「良くやった!!」と今までで一番喜んでいた。
何でも父と村守備隊長のガントさんは小さい頃からライバルで村守備隊長の座もかけて争った事もあるらしい。だから前回俺がルークに負けた風なことを言うと機嫌が悪くなったのだ。
俺はまた村守備隊長の座をかけて戦えばいいじゃん。息子達に因縁持たせないでよと言ったら二人が本気で戦え合えば村の人総出で止めなければ止められないそうで今はできないんだとか。
村守備隊長の座をかけて戦った最後の本気の決闘は強いお爺さんがまだ生きてて止めてくれたようだ。
それと最近、森で魔獣が大量に発生しているから森に入るなと言うことと妹達を守れと言われた。魔獣はこの領地の騎士団の人に対処してもらわなければならないぐらいの規模だそうで正直怖い。
俺はその日、久々に母と一緒に寝た。
その二日後、母に初産が来て父が俺が生まれた時にいたお婆さんを呼びに行った。
痛がる母を横目に俺は何も出来ずにアワアワしていると母に「私は二回目なんだから大丈夫よ。」と言われ必死に俺の流点気を母に流すとお世辞なのか本当に効いたのかは分からないが「痛みが収まったわ、ありがとう」と言われ気絶寸前まで使い続けているとお婆さんが家に入ってきて手慣れたように準備していく。
俺も指示に従って邪魔をしないように手伝った。妹が生まれてくるまでの数時間は長いようで短かった。
お婆さんが「はい、踏ん張ってー生き吸ってー踏ん張ってー」と何度も繰り返して言っていた。
正直、妹が出来る実感は薄い。前世でも可愛い妹はいたが俺が物心つく頃にはもう歩いていたし記憶がある頃まで遡れば幼稚園くらいになる。だから妹が生まれる瞬間っていうのは初めてと言ってもいい。
そう考えているとお婆さんが「あとちょっと、頑張ってー」と言って「生まれたわよ、双子の女の子?かな、多分。」随分性別判定については雑だと思ったが助産師さんとしてはやはり一流なのか母に病気などは見つからず無事に生まれた。
双子の女の子は
片方がメシアと名付けられ父と母と兄である俺の髪とも違う金髪だった。この子は生まれてすぐ産声を上げ元気いっぱいという印象だ。
後から母に何でメシアだけ髪の色が違うの?と聞いたら軽い先祖返りだと言っていた。母の言う先祖返りを現代風にいうと父と母の遺伝子をほぼ半分ずつ受けるわけではなくお爺さん、お婆さんなど遠い親戚の遺伝子を強く貰っていて母のお爺さんが金髪だったらしい。
そして先祖返りの子にだけ見られる目の現象があるとも言われた。それがオッドアイで両目の色が違う。だから一部の貴族なんかで収集が流行っており人攫いが絶えないと言われた。
もう一方の女の子はフィリアと名付けられ父と母と俺と同じ髪色の黒髪で目も真っ黒な子だった。この子は産声をなかなか上げず心配になったがなんとか産声を上げ物静かな子だと思った。
それから数日、毎日のように父は妹達の前で変顔をしてはメシアに笑われ、フィリアに泣かれを繰り返していた。
俺は母に毛布を持っていく食事を持っていくとせっせと頑張っていた。
父に「母様のこともっと気にかけてあげて」と言おうとしたら母が「女の子が生まれて舞い上がっているのよ」と言われて我慢した。
生まれたときから性格はあまり変わらないのかメシアはよく笑うしよく泣くから大変だったがフィリアはあまり笑わないしあまり泣かないというのを大丈夫なのか?と思った俺だったが母に「貴方はフィリア以上に笑わないし泣かなかったわよ。」と言われ言われてみればそのとおりだと思った。