弱肉強食
よく見ると男の魔族が寄りかかっている壁と勘違いしたのは父が噂話程度で言っていた魔獣だろうと思う。
体長数二十数メートル超の魔獣が恐らく骨ごと輪切りにされていてあまりの出血量とグロさで原型を留めていない。
俺が男の後ろを気にしていると
「ん?これか?良いだろこれ!!森の主の輪切りだ。」
「輪切りってあんたの持ってるその短剣で斬ったのか?」
俺はそう言って魔族の男が腰に下げて持っている短剣を指差す。
「俺様のことはガルフォンと呼べ。あとこの女はビアング。」
「ちょっと、、女ってひど、、、」
「で、短剣で斬ったのか?だったが、、そうだ。この短剣に魔力を纏わせることによって20センチほどの短剣で数メートルの横幅があるこの魔獣も輪切りにできる。」
そう言って短剣を抜いて魔力という力を入れたのか目の錯覚で一瞬短剣が大剣のような大きな剣に見える。
「なんで、、、」
「魔族は何故魔力を持っているのか。か?」
まるで俺の思考が乗っ取られたかのように質問を先に考えられてしまう。
「人間が魔族についての本を残していないのには二つの理由がある。一つはただ単純に魔族と会った人間の殆どが一瞬で殺されてしまうから情報を残せない。二つは意図的に魔族に関する本を残さないようにしている。まあ、当たり前だよな。お前ら人間は俺様達魔族からしてみれば食い物ではなくただ快楽のために嬲り殺されているだけなんだからな。、、、で何故魔力があるのか?だがエルフのような出来損ないとは違って俺様達は生まれつき魔力がある。その量に増減はあるものの皆、等しく持っている」
「ガルフォン達にとってみれば人間なんてアリみたいにほぼ無害で生活するにも鬱陶しくなくただそこにいるだけの存在ってことか?」
「ああ、無駄にいっぱい居て鬱陶しいけどな。」
そう言って一気に殺気が強くなって首と胴が離れ血が流れるほど出るビジョンが見える。
「おい!お前らが僕達と殺るっていうなら受けて立つぞ!!」
そう言って後ろの草むらからルークが剣を構えながらでてくる。
「威勢がいいな。だけどあんな弱者三人連れて俺様に勝てると思っているのか?俺様の短剣の斬れる範囲は半径20メートルだ。」
「だとしても僕は!!お前らをここで見逃すなんて出来ない!!」
「ルーク!!気づけ!!コイツラが本気になれば瞬き一回もしないうちに胴体とお別れだぞ!!」
「でも!!コイツラは!!」
「ディオナ達を巻き込むのか?」
「、、、、、クソオオオオオオオーーーー!!」
「、で仲間割れは終わったか?お前らを見逃す代わりに一つ聞きたいんだが何故弱者のことを気にかける?それが俺様が生まれて数千年ずっと分からないのだ。弱者などゴミに等しい。生き物は弱肉強食、この鉄則を何故お前ら人間は守らない?」
「見逃すのは!!僕達の方だ!!弱肉強食?そんなのは所詮獣だ!!人間は知性があって人の気持ちを共感できるから弱者にも優しく出来るんだ!!」
「、、、、俺様達を獣と言うか。、、、、、面白い!!この圧倒的強者を前にそれを言うか!なら数年後、数十年後でも良い!!証明してみせろ!!俺様達魔族が獣だとな!!必ずお前に会いに行くぞ。」そう言って笑みを浮かべ
「当たり前だ!」
「ビアング!!」
「は~~い」
「帰るぞ!」
そう言うとガルフォン達は地面に大きなクレーターをあけて森を一瞬で飛び越え数秒で見えなくなるほどに速く遠くへ行く。
息をするのを忘れていて地面に倒れ込む。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、」
ルークの方を見るとルークも俺と同じように地面に大の字になって横になる。
「ルーク、よくあんな化け物みたいなやつにあそこまで言えるな。すごいよ。」
「今は凄くなんてねえよ。でも興奮しないか?」
「なにが?」
「次アイツラの前に立ったとき僕達はアイツラと同じ領域にいるってことだ!!」
(やっぱりすごいよ、お前は。英雄になりたいやつは思うことも凄いな。、、、そうじゃないだろ。俺だってあの領域にいきたい!!)
俺達は呼吸を整えてディオナ達のもとに戻る。
「大丈夫?二人共、すっごい汗だし顔色も真っ青だよ。」
「うん、大丈夫。ちょっとしたアクシデントがあっただけ。」
「ならいいけど、、アルテナート、休んでから行くの?それともこのまま行くの?」
「このまま行くよ、体がつかれているって感じじゃなくて精神的に疲れたって感じだから。」
(本当は体も疲れている。でも今までであった中で圧倒的最強、いや世界でも最高レベルの強さと出会えた。だからこの体の熱が冷める前になにかできる気がするんだ。)
歩いてルシアを背中に抱えながら刀を手に持って流点気を流そうとする。
いつものように体の中心、丹田の部分から徐々に流していき手まで持ってくるがそこから刀の柄に流した瞬間に霧散して全く流れない。
何度流しても流れず霧散して物には流れないのか?と思うものの実際ガルフォンがやっていたのだから出来るはずだと何度も何度もやってみる。
(はあ~~~~。上手く流れないなー、どうすれば良いんだよ。こんな時剣の師匠がいれば教えてもらえるのにな。いや教えてもらってできても自分のものには出来ない。自分で最初からやるのが最強への道だ。どうすればできるかな?なにかないか?剣に上手く力を流す方法が。)
そう考えていると背中で機嫌が悪くなったのかルシアが暴れ出して俺の背中を蹴り飛ばしてくる。
(ごめんな、ルシア。でも背負って一体になってないと危ない時にすぐ反応できないから、、、、一体?そうだ刀と一体になればいいんだ!!)
刀の柄を右手で持ち刃の先を左手で持つ。流点気を丹田から右手に流し一気に刀を通して左手に流そうとすると、、刀にも流点気が流れ体を一周するような形でまるで刀を体の一部のような感覚に陥るほどに上手くきれいに流れる。
この状態だと流点気が体から流れないからか長時間ずっと身体能力を上げた状態でいられる。だが集中力が必要で体の疲労は減るが脳の疲労がすごく増える。
そうして歩いているとやっと森の終わりが見え隣の町のが見えてくる。
「みんな、やっとやっと着いたぞ。」
「やったね」
「やったぞ」
街が見え始め終わりが見えたからか俺達の足は軽やかになりどんどん街が近くなってくる。ディオナは終わりが見え緊張感が薄くなったのか泣き始めルークは謎の歌を歌い始めている。だが俺が2人と違って危機を乗り越え安全になったからといって浮かれられない理由がある。
それは、、、、お金だ。
俺達はまずは生き残るために食料を布の袋に入れて持ち歩いてきた。だからお金は一切なく、街に入ろうにも身分証もない、そんな状況だ。
この世界でのお金は種族によって違いはあるが人間の間では、天金貨、金貨、銀貨、銅貨、青銅貨の5種類である。
天金貨は正直よく値段は分からず国を運営するのに必要らしく小国ぐらいなら天金貨1枚手に入れるだけで1年分の国家運営のお金が手に入るらしい。だから当然街では使えず使えるとしたら王都くらいなものだろう。
金貨は日本で言う1万円。日本と違い札ではなく丸い金貨である。この金貨に含まれる金の量は常に一定に保たれているらしいと父は言っていた。
銀貨は日本で言う千円。普通の買い物では一番一般的で村人や商人などの基本通貨である。
銅貨は100円、青銅貨は10円である。
そして街で宿に泊まるためには一部屋一泊で安くて銅貨三枚に青銅貨二枚。日本からすれば一泊320円だと安いと思われるがこの国では10円の価値が全く違う。
父が猟師で去年一年間に稼いでいたお金は金貨34枚に銀貨8枚銅貨3枚だ。実に34万8千3百円。
猟師としてすこぶる優秀な父でこれだ。
子供が働いてもお金にならないことは目に見えている。
の町は魔獣からの襲撃に備え20メートルほどの大きな塀に囲まれていて中が全く見えない。城門には6人ほどの兵がいて見張り台には3人の兵、この街は安全そうだ。
の街との街には貴族である領主も住んでいて俺達はの街の方の領民での森をぴったり半分に割ったところが領地の境目での街は魔獣に備えこの大きな街を作ったがの町の領主は当時強かった者が多いダイス村の人にあの最前線の土地を与えたのだ。
「アルテナート、城門の兵がこっち睨んでるよ。どうすればいいの?」
「基本辛そうに悲しそうにしておいてくれ、喋らなくていいから。」
「分かったわ。」
城門につくと思った通り槍を持った6人の塀に囲まれ
「貴様ら、様の領地の者だろう。領地同士の移動は基本ご法度とされているのは分かっているのか?貴族や商人、旅人、冒険者は領地同士の移動が認められているが貴様らのような村人は認められていない。余程の特例でもない限りはな。」
そう言って40歳ぐらいの厳つい兵に睨まれる。
すると遠くからやってきて
「シーズ!!子供達をそんな威圧してどうするんだ?それで君達はどうしてこの街に来たのかな?」
よし、演技スタートだ。
「あのね、あのね、お父さんがね、魔獣にね食べられちゃう前にね、、、みんなと一緒にねここに隠れてろって小屋に入れられてね、、、、でもいつまでも小屋に戻ってきてくれないからね、お父さんに前に教えてもらったこの街目指して歩いてきたの、、」
と泣いているふりをしながら見るからにか弱い子供を演出する。
「まさか、ダイス村の子かい?」
「うん。」
「シーズ、この子達の街への入城を認めるよね?」
「ああ、我らが領主様がダイス村の人達を保護すると騎士団を動かそうとしたぐらいだからな。問題ないだろう。」
「あ、あの。騎士団の人はダイス村の人達を助けに行ってくれたんですか?」
「あ~~~~~、それはな行ってないだ。領主様がな騎士団を動かそうとしたんだが様がな我が領地への騎士団の派遣を認めないって言ってな結局助けにはいけなかったんだ。詫びも兼ねて身分証の作り方を教えてやるよ。隊長、あとは頼んます。」
「ああ、分かった。じゃあみんな行こうか。」
城門が開けられ街の中に入ると
「うちの串焼きはいらねえかーーー?」
「いろんな果物もあるよーーー!」
「うちの防具はいらないか?」
「おっちゃん一つくれやー。」
と活気があって冒険者と思われる鎧や剣を持った人達がいっぱい居て獣人だと思われる動物っぽい耳の生えた人達もいる。建物も屋台やお店など種類があるがどれも何十年も建ててから経っているのかボロボロになっている。馬車なんかは一切走っておらず子供や女性もあまり居ない。
村から出たことのない俺達はあまりの驚きに口を開けて突っ立ていた。