バイスの森
肉が焼けディオナと一緒に食べていると泥だらけでホコリまみれになったルークが足をプルプルさせて帰ってくる。
「ルーク、大丈夫?また、むちゃしたんでしょ?」
と言ってディオナはルークに肩を貸す。
「っ当たり前だろ!!目の前にあんな小さな子が居てほって置けるかよ!!」
「、、、もう、仕方ないわね。はい、お肉焼いておいてあげたから」
「おう!ありがとう。、、アルさっきはありがとう。それと作戦失敗してしまってごめんな。図々しいがこれからどうすればいいか考えてくれ、頼む。」
どうやらルークはバイスの森大氾濫以前の元気なルークに戻ったようだ。
「ああ、もちろん。これからの動きだけど、、、、正直俺もルークも体力的に限界だろ?だから俺とルークでなるべく魔獣達をこの建物から遠ざけて夜の間に逃げようと思う。」
「だな!!、それならもう今日の夜でもいけると思う。さっき魔獣に追いかけられてる間に残ってた2頭も個々の建物から遠いところで撒いたからな」
「なら今日脱出だな。」
「そういうことなら私はもう寝るわ。ルーク、おやすみ。」
「おやすみ、ディオナ。」
俺達は夕方になるまで待ちルークと村にいる魔獣の位置、目指すべき街の方向、どう行けば最短で行けるのかを話し合ってメシアを俺が背負ってルークはさっき会った少年を背負って建物を出る。
全員が魔獣に気づかれないようにコソコソと動き始め息を殺しならギアンの街を目指して走り始める。
魔獣に気づかれるかもと思い心配していたが俺達が魔獣に追いかけられ疲れていたのと同じように魔獣も俺たちを追いかけるのに疲れているようでどの魔獣も寝てしまって獲物を探す感覚も落ちてきているようだ。
数分かけ安全に魔獣氾濫が起きたバイスの森の前にある自宅に戻ってくる。ルーク達は気を遣ってくれて少しよっていけよと言ってくれた。
家に入ると暗闇であまりハッキリとは見えないが魔獣によって天井が崩され屋根がなくなって吹き抜けになってしまっていて家の中も荒らされ母と父と一緒に御飯を食べていたテーブルは足が2本折れて立たなくなってしまっていてメシアとフィリアを寝かしつけていた大きな籠は跡形もなく壊れてしまっていた。
(、、、父さん、、は多分死んでしまったと思う。あれだけの数の魔獣に一斉に囲まれたらいかに強い父さんでもきっときっと、、、認めたくないけど、、、、でも父さんの最後のあの覚悟を決めた顔は、、)
俺は拳を握りしめ手に爪が食い込み血が出るほど何も出来なかった自分が悔しく、ここで父の死体を見てしまったらもう動けないかもしれないと思って父のことを探すのはやめて家に残っているかもしれない食料を探していると食料は見つからなかったが俺の持っている刀の鞘が落ちていた。
(貰ったあの日から謎だったんだけど何で刀なんだ?ルークの持っている剣は前世で見たThe異世界の剣って感じで俺の刀は短い日本刀みたいな感じで父からは家では男の子が生まれると一本日本刀を作って一生大切にするらしいけど、、我が家と日本刀って何か関係があるのだろうか?)
時間がないことを思い出し刀を鞘にしまって家から出る。
「アル、もう良いのか?」
「うん、まずは生き残って大きくなったらまた帰ってくるよ。」
「だな!!、、」
俺達はまた街を目指してバイスの森に入っていく。
大氾濫が起きる前に父に教えてもらったバイスの森を通ったギアンの町へ行く方法である目印のついている木に沿って歩いていけばギアンの町につくという言葉を信じて暗闇の中で木の目印を頼りに進んでいく。
木が大氾濫によって折られてしまっていて目印がなくなってしまっているかもと思ったが太い木を中心につけられていたため折られていることはなく順調に進んでいく。森には魔獣の気配が一切せず俺が思った通り大氾濫によってすべての魔獣が森を出て来ていたようだ。
休憩をはさみながら5時間ほど歩き続け夜明けを待ちながらルークと交代交代で仮眠を取る。火焼きによって体の出血部分は止血していたが体はかなりの疲労だったようですぐに深い睡眠に入った。
目が覚めると日が出ていて周囲がはっきりと見えるようになっていた。ディオナを起こし俺はルシアを背負ってルークはさっき名前が分かったのだがエンテ少年を背負ってディオナは俺やルークの持っていた食料などが入った袋を持っている。
日が真上に来るまで歩き続け恐らく10時間ほど歩いてやっと森の3分の2くらいまで歩いてくる。森には普通のイノシシや鳥が全く居らず、きのこや樹の実なども一切なく俺とルシアとルークとディオナの食料も残り5分の1程になってきていてあと1日ほどしか満足に食べさせることが出来なそうだ。
自分の背と同じくらいの草をかき分けて木の目印通りに進んでいるとここにいる誰の声でもない声が遠くから聞こえてくる。
「アルテナート、早く歩きなさいよ。」
俺の後ろに居たディオナがイライラしながら言ってくる。
「ディオナ、静かに。耳を澄ますと声が聞こえないか?」
「え?声?」
俺は耳を澄まして周りの音に意識を向けると10メートルほど先から男と女の声が微かに聞こえてくる。
「こい・の・くまず・・、た・・てつよく・ない・。」
と、男の声はところどころ聞こえず
「それ・り・ん・・た・・村を・そわせ・のよ?・ん・街や村を・ぶすのが・のしいんでしょ?」
女性の高い声だからか少し聞き取りやすい。
(あいつら、さっきからなんの話しをしているんだ?この森にいるってだけでも怪しいのに、、俺たちのように魔獣の大氾濫を抜けて森に入ってきたのか?だけどそれはそう簡単じゃない。、、、、もし、この二人組みが大氾濫の前からこの森にいたんだとしたら大氾濫を起こしたのは、、この二人なのか?父も今回の大氾濫は理由がわからないと言っていた。基本大氾濫の起きる理由は元々生態系が確立し安定していたところに圧倒的に強い生き物が外から出現することによって皆が捕食されてしまう恐怖から逃げようと一斉に森を出てくるのが大氾濫の定番らしいが父が森に入っていたときには森の主のような魔獣が生きていたらしい。)
「アル、その二人組みは誰なんだ?」
ルークが俺の耳に顔を近づけヒソヒソと小さい声で言ってくる。
「ルシアを一回預かっておいてくれ、何の話をしているか聞いてくる。」
「分かった、」
俺は声を頼りに草をかぎ分け2人組から6メートルほど距離をとったところで聞き耳を立てる。
本来であればもうちょっと近づいたほうが聞きやすいのだがあと1メートル2人組に近づいたら確実に真っ二つに斬られ死ぬと本能が警鐘を鳴らしている。
6メートル時点でも体中から汗が吹き出し死のイメージが頭をよぎり体が震え、足がすくみ動けなくなる。
「俺様は強者を求めている。強者との戦闘だけが俺様が生きているという生を実感できるのだ。だから村や町を襲ってまだ小さい餓鬼共に俺様に対する復讐心、怒りを植え付け俺様に挑む挑戦者を増やしている。」
「えーーー、、わっかんないわー。あんたの考え。弱者をプチップチッって潰すのが良いんでしょ?」
「フッ貴様が魔獣操作の異能を持っていなかったらこの場でプチッっと潰していたぞ。」
「こわっ、変わってるわよね。あんた。うちら、魔族からしたら人間なんて無限に増える弱者のアリなのに。」
「人間は弱者のゴミも多いが数がいる分だけ強いやつも生まれやすい。人間の良いところはいっぱい殺してもいっぱい生まれてくるところだ。」
「あと、さっきからあんたに聞きたかったんだけど何で今回はこんな小さい村襲ったの?」
「ん?ダイス村とかいうやつか?」
「そ。」
「確か、、、、100年くらい前に俺様に傷をつけた騎士団長がこの国のダイス村とかいう場所の出身だとか言っていてな、この村なら強いやつがいっぱい居るとか最後に言っていたんでな。」
「え?それはもう30年も過去の話だよー?今はもう強いやつなんて居ないのに、マジウケる~。歳取ると時間にルーズになってマジ無理だわー。」
「む、、、」
(死の恐怖から頭がいつもの5割くらいしか動かなくてもこの二人が何を話しているか分かる。この二人の魔族がの森で魔獣大氾濫が起きるように仕向けたってことだ。)
俺が盗み聞くのに夢中になっていると空からキィイイイイイイーーーー!!と鳴き声を上げながらグリフィンと呼ばれる大きな魔物は片足3本のデカく鋭い爪と鷹に似た大きな翼を羽ばたかせながら大きなくちばしで草むらに隠れている俺を捕食しようと急降下してくる。
急降下の速さは恐らく300キロを超え目にも止まらぬ速さで降りてくる。数度瞬きしただけで真上に居て(あ、喰われる。)と思った瞬間にグリフィンの首と翼が斬られたのか血しぶきを上げながら落ちる。
(え?何が起きたんだ?)
「鳥ごときが俺様の視界に入るなどあってはならないのだ。」
「グリフィンのこと鳥呼ばわりできるのはガルちゃんだけでしょ。、、、それにしてもすごい剣速、、やっぱり惚れちゃう!!」
(300キロで落ちてきたグリフィンを地面間際で頭と翼を2箇所斬ったのか!!??)
「ちなみに俺様が今の鳥、何度斬ったか分かるか?」
「3箇所でしょ?頭と翼と右手の爪一本。」
「不正解だ。俺様の剣先を見てみろよ。」
「嘘!!??剣先にグリフィンの右目があるじゃない!!??あの一瞬で4箇所も致命傷を与えるなんてやっぱり化け物なんだ。、、、、ぞくぞくしちゃう!!」
「ハッハッハッ貴様もまだまだ、だなー、、、、そう思うだろアリ。」
(アリ?、、、まさか俺のことか?さっき女の魔族の方が人間のことをアリって言っていたし、、、)
「え?なに急にアリって?ボケてんの?、、、、あ、歳のせいか。」
「おい、俺様の剣がお前の体を真っ二つにする前に出てこいよ。」
男の凍るような冷たい声が体中を巡る。
体の震えが止まらない。体にある汗の穴からこれでもかと汗が吹き出し、さっきまであと一歩魔族に近づいたら死ぬという死のイメージが今は寒気とともに死のイメージではなく死を感じる。
草むらから出ようにもこの数秒で数十年経ってしまったのように体が思うように動かず体に一生懸命力を入れて草むらから出る。
「うっそ!!まじで人間いるじゃん!!乙女の会話を盗み聞きなんてマジ変態なんですけどー。」
「だから、まだまだだと言うのだ。」
「お、俺になんのようだ!!お前ら魔族は何なんだ!!」
下を向きながら言った俺は舌も回らないし、頭も回らない。
「そう何個も一気に質問するな。1つずつ答えてやるよ。」
それを聞いて頭を上げ魔族を見る。
女の魔族は人間のような見た目で病気かと思うほどに生気を感じない真っ白い肌に女性としては細い部類に入るであろう腕に足、上半身は裸だが下半身には人間から奪ったのか血の付いたズボンを履き、金色に輝く美しいであろう髪。何故あろうかというとまるで人間味を感じない人工物のように感じるからだ。口は大きく耳の方まで裂けていて口裂け女に似ている。口裂け女と大きく違うのは女の両手に口がついていてヘビのような舌とトラのような舌が見える。
男の魔族も人間のような見た目で上半身下半身共に裸でまず目に入るのは肋骨の部分だろう。肋骨の部分が剥き出しになっていてそこには肉が一切ついておらず生々しさを感じる。肌は人間に近い肌色で真っ黒い髪。肉体としては個人的に一番美しいと思う細マッチョという感じで女の魔族と違い生気を感じる、、いや感じるどころか凄まじい生命もエネルギーを感じる。徐々に顔の方を見ていくと真っ黒い目と視線があってまるで吸い込まれるかのような想像をしてしまう。
俺の意識が一瞬飛んで膝を付き必死に意識を保とうと頭を叩いていると
「どうした?俺様を退屈させてくれるなよ。」
と悪魔のような笑みを浮かべた。