英雄
英雄に憧れ始めたのはいつだったのか僕はわからない。
でも毎日夜になって父と母が聞かせてくれる物語はいつだって心躍らせた。
英雄と言っても色々な英雄がいる。世界を救った英雄もいれば、戦争での勝利の英雄、人々を導いた英雄、様々だ。だがどの物語に出てくる英雄はいつも格上の、勝てないだろうと思うような相手と戦っていた。戦っていなくても無理難題に挑戦していた。その度に自身を成長させ、または驚くような奇抜な作戦で敵を倒していた。
でも僕もいつものように剣を振っていればいつか英雄になれる、そう勘違いしていた。
アルに始めて決闘を挑まれ格下だと思っていた相手に負けて僕は英雄のように常に上に向かって自身を強くしていたのか?と思う。アルを格下だと素振りで手を抜き自分より下がいるから、頑張ってない人が居るんだから僕は偉いと勘違いしていた。
その日の夜、父に僕はどんな英雄になりたいのか?と聞かれた。今までただ漠然と英雄と言っていた自分が恥ずかしくなって自分がなりたい英雄はどんなものか考え始めた。
来る日も来る日も毎日、どんな英雄になりたいのか?考え続けた。だが父の問を答える前に魔獣達の氾濫にあって父はきっともう、、、、だが僕がディオナと一緒に逃げているとき後ろで見えた父の後ろ姿を見て自分の中で答えがでた気がした。
3階の建物を降りて集落の端に向け走る。
僕の姿や音、匂いに誘き出され5体の魔獣が後ろを追いかけてきた。どの魔獣も生きるため僕のことを必死になって捕食しようと追いかけてくる。
必死に走って走ってアルの言っていた建物の近くに到着する。
ここら辺の建物は住宅が多くほとんど平屋建てでとにかく建物の数が多い。
僕は唯一の2階建ての家の隣の真っ黒の家に忍び込む。
入った家の中は魔獣達によって荒されていて食卓のテーブルは凹み食器は割れそして近くには人のだと思われる血痕があった。茶色くなっていて数日は経っているだろうがこれだけの量の血は始めて見た。
急に人の死が身近にあると分かって怖くなる。
(ごめんなさい、僕が弱かったから。みんなを守れなかった。)
近くから魔獣の足音が近づいてくる。
「ズルズルズル」と次第に大きくなっていく音に恐怖心が高まる。窓から外を見るとでっかいヘビがいて特徴的な舌を出しながら真っ黒い瞳をキョロキョロさせ僕を飲み込めるんじゃないかというほど太い身体を引きずりながら僕を探している。
(来ないでくれ、来ないでくれ、頼む、、、)
ルークの心は父の死、血の跡、そして身近に迫る死の予感によって恐怖でいっぱいだった。
辺りが暗くなってもルークは家の中でうずくまっていた。
(どうしよう、、アルに言われた作戦をやらなくちゃいけないのに、、どうして、、、僕は、、、父さん、、、アル、、)
ルークはハッとした。
(なんで僕は直ぐに人に頼ろうとしてしまうんだ、、父さんとアルは今居ないのに、、、)
アルが考えた作戦は今の状況のルークには不可能であった。暗くなる前に追ってきた5体の魔獣がどのように位置してどこらへんで休むのか?どう行けば音を立てずに魔獣に近づけるのか、魔獣にちょっかいを出して暗闇でも逃げられるのか?不可能だ。
必死にルークも考える。どうすればここから魔獣を倒せるのか?だが考えても考えてもアルのように策は出てこない。思わず泣きそうになる。
だが泣かなかったのは遠くから鳴き声が聞こえたからだろう。
ルシアちゃんか?と思うがルシアちゃんが居るところから鳴き声が聞こえるには距離が遠すぎる。
耳を澄ますと
「グスッ、、グスッ、、、、グスッ」と小さくだが聞こえてくる。音がするのはこの家の隣の平屋建ての家だ。
(誰なんだ?誰なんだ?泣いてるのは、、、、?泣きたいのは僕なのに、、、)
ルークは恐怖心と同時に苛立ちを覚える。
(何が居るのか確認してみよう、、、)
足音にきおつけてそ~と家を出て隣の家を手で触りながらドアの場所を確認して中に入る。
するとやはり
「グスッ、、、、、グスッ、、、グスッ」と音がする。
周りは真っ暗だが凄く臭い。なんの匂いか何度も吸うと馬の糞の匂いだと気がつく。
ルークは隣の平屋建ての家の馬小屋に入ってしまったのだ。
(、、、ここに何がいるんだ?、、、臭い、、、)
下に敷いてある湿った草の上を歩きながら声の方に近づくと
「、、、誰?、、、、はあ、、はあ、、グスッ、、、」
と目の前から声がする。
目が慣れてきたのか目の前に自分より小さい子が座っているのが見える。
そ~と口元に手を当てて目の前の子が叫ばないようにする。
「どうしたの?君」
「、、、お母さんが、、、か、隠れてろって、、、、」
この子には悪いがお母さんはもう逃げているか、、言いたくはないが死んでしまっているのだろう。
「、、、どうすればいいの?、、、ねえ、、、」
(父さんとアルはいない、、だったらアルだったらどうするかを考えればいやいやそれじゃあ意味ない。どうすれば良いんだ。俺にはアルのような頭はないんだよ、、)
「シャーーーーーーー!!」
すぐ近くからあのヘビの威嚇の音が聞こえる。暗くて見えないから今どこにいるのか全く分からないが僕達を見つけたようではないが声が聞こえて気になってきたんだろう。
緊張と恐怖で体が震え、手も震え、歯も「ギシギシ」と音とを立てて震える。
(早く行け!!気が付かないでくれ!!頼む!!)
そう思ってふと隠れていた子に身体が触れるとこの子は僕以上に震えている。
(なんで気が付かなかったんだろう。剣も持っていないし僕より身体が小さいであろうこの子は僕以上に怖かったはずなのに自分ばっかり気にして、、、そうか、、僕と英雄達の違いは素振りがどうとか格下、格上がどうとか頭がどうとか関係なくただ目の前の人を助けたい、この人のためになにかしたいって思ったから何じゃないのか?僕は、、、僕は、、、この子を、、、守りたい。、、僕には今なんの力もないけど、今は人を頼って、、、それでも守りたい!!)
「大丈夫、何があっても僕がこの剣で君をきっと、、いや絶対に守ってみせる!!」そう言って頭を撫でると震えが止まり外から聞こえていたヘビの威嚇の音は止まっていた。
それからは朝まで互いに話さず夜が明けた。
ここからが問題だ。
(どうやってこの子を僕達のいた3階建の建物まで連れて行くのか?だ。
匂いは2人共に馬小屋で消えているが音は消せないし見られたら追いかけられる。
、、、どうすれば良い?、、、考えてもわからない。だったら僕に出来ることはもう1つしかない。)
明るくなって見えたこの子の体はやはり僕より小さくうずくまっていて金髪の頭の上に手をおいて
「将来英雄になる僕が君を守るんだ!!これ以上に安心なことはない!!」
そう言ってこの子をおぶって小屋を出る。
やはり近くには至るところから魔獣の移動する音が聞こえてくる。
「行こう!!」
僕はそう言って小屋を出て一心不乱に走る。
アルテナート視点。
体の至る所の切り傷から出血していて特に肩と腹部からの出血がかなり多く目の前も靄がかかって歩くのもふらついてしまう。
フラフラフラフラ歩いてルシアとディオナのいる建物に歩いていると前方からルークが必死に走ってくるのが見えると数秒後、後ろからの4体の魔獣がルークを追いかけ建物にぶつかりながら必死に追いかけているのが見える。
出血によって頭が働かずボーと見ているとルークの背に子供を背負っているし徐々に魔獣に距離を詰められているのが見える。
そこでやっと頭が働き出し状況を確認する。
(ルークは作戦が失敗。さらにルークの背に乗ってる子も新しく俺達のチームに追加。今はまずどうやって魔獣を撒いて3階建の建物に俺たちが入るのが気づかれないようにするかを考えないと。)
「アルー!!この魔獣4体!!どう撒けばいいんだ?」
ルークは息を切らしながら必死に俺に叫んでくる。
(全く、作戦失敗しといてよく言うよ。)
と思いながらも
「まずこっちに来て背中の子は俺が預かる!!ルークはそのまま逃げて俺が戦ってた所の瓦礫に隠れてこっそり逃げてきて!!体力持ちそう?」
徐々に距離を詰められ数メートルしか後ろの魔獣との距離がないルークに必死に叫ぶと
「今の僕は!!根性しかないから!!ただ走ることだけ考えるだけだ!!」
そう言って俺が隠れた平屋建ての家に入って俺に背中の子を一瞬で渡して剣を持って俺がさっきまで戦っていた場所を目指して平屋建ての家を出て駆け出していく。
それを数秒遅れで4体の魔獣がよだれを垂らしながら一心不乱に追いかけていく。
俺に渡された子は泥に塗れ恐怖心からか震え、歯からガタガタガタという音が至近距離にいる俺には聞こえる。目は長時間の間、緊張感にさらされたからか寝不足なのか焦点がうまくあっていないように思える。
今すぐにでもこの子を寝させてあげたいし同じ場所に居続けるのも得策ではないと思った俺はこの子を背に乗せてルシアとディオナのいる建物へと走る。
建物につき3階へと行くとギャン泣きしているルシアと満足に眠れていないのか目の下にくまのできたディオナがいた。
「おっそい。もうめちゃくちゃ眠いんだけど、、てかその子誰?」
「ルークが拾ってきた。この子も寝不足みたいで目の焦点が合ってない。」
「もう、面倒くさいなー」
そう言いながらもディオナは俺の背中に乗せた子を抱えて「もうここは安全だからね。魔獣なんて来ないから安心して寝てね。」そう言って優しく微笑みかける。
俺は汚れた服を脱いで母が作ってくれた布の手袋を手にはめてメシアを抱っこしてゆっくりと揺らしてあげる。
「ディオナは一旦休んで、その間に肉焼いておくから。」
「はあ、当たり前でしょ?私がどんだけルシアちゃんのことあやしてると思ってんのよ。ルシアちゃんが可愛いからこんなにやったんだから自分の妹が可愛く生まれたことに感謝しなさいよ。、、、でルークは?」
「あと数分したら帰ってくるよ。、、、多分」
「はあ、あんたってそういうとこあるわよね、家族以外興味ないっていうか、、、、ま、、、分かった。それと傷の出血がひどいみたいだから、これ。」
そう言ってディオナは自分で袋に入れて持ってきていた服の一部を破いて俺に渡してくれる。
「包帯ないんでしょ?比較的清潔だから傷口縛っといて、、、私は休む。」
「ありがとう。」
俺は礼を言って3階にあるベランダみたいなところに出てルークの持っていた火打ち石で建物にあった木に火をつけて刀を火で炙って少し熱くして出血部分に当てて強制的に止血し出血を少なくする。
そこに布を当てて出血を完全に止める。
(ディオナって俺によくキレてくるけど時々優しいしメシアにも面倒見良いよな。、、、、ルークって結構モテるのか?。)
そんなどうでもいいことを考えながらルークを待つ間にイノシシの魔獣の肉を火で焼く。