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D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第2章 カーテン・フォール編

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85[2-19].悪霊退散 パワーズ天使

オトキミの視点で話があと少し続きます。



 祓串(はらえぐし)を握った指に緊張が走る。

 血の匂いが鼻にまとわりつく。鉄の味が喉の奥に貼りついて、息をするたび肺が痛む。


「 ー 鬼が出るか…… 蛇が出るか…… ー 」


 声に出した瞬間、自分の声が自分のものじゃないみたいに遠く聞こえた。

 紙垂(しで)が震える。稲妻みたいに、ジグザグに揺れて、神社の薄暗い空気を裂く。

 窓から差す月明かりの白が、その紙の端で細く跳ねて――次の瞬間、闇へ溶けた。


 祓串は、ただの道具じゃない。

 これは……ターシィが肌身離さず持っていた《不思議な木の杖》を、ギアドの旦那に仕立て直してもらった触媒だ。

 握っただけで、あの手触りが戻る。木の温度。兄の顔。俺の罪。


 各都市悪魔襲来事件の中、俺は一度【神秘術】を唱えた。

 あのときは……、()()を落とした。

 思い出すだけで胸の奥が痛む。

 逃げ場がない現実と同じくらい、痛い。


 体力は枯れかけている。腕も脚も、どこが自分の肉か分からないほど熱い。

 震えはある。けど、恐怖じゃない。消耗と痛みと、今さら逃げられないという、現実。

 まさに「鬼が出るか、蛇が出るか」。


 でも、逃げない。


 祓串を握り直す。

 紙垂が擦れて鳴る。戦いの音の中で、その小さな音だけがやけに大きい。

 ……その音が、俺の自我を留めてくれた。


「バ……バカな……その姿は……召喚獣術師の最高到達点。召喚獣自身になる術……何故、雑魚のお前が!?」


 目の前には、橙に黒が混じった悪。

 橙の悪魔人――人の骨格に、橙の魔力が絡みついた形。

 さっきまでの俺なら、あれを見ただけで心が折れていた。

 けど今は、あちらの方が驚き慌てふためいている。


「……鬼が出て」


 息を吸う。血の匂いの中で、言葉だけが妙に澄んでいく。


「……鬼になれた」


 背中から光芒が差すような感覚。熱いものが噴き上がる。骨の内側から灯るみたいに。

 視界が、刺すみたいに冴えた。

 月の白、畳の裂け、壁の傷――その端で、涙の光だけがやけに綺麗に揺れている。


 ーー自我は、消えなかった。


 橙の悪魔が一歩引いた。

 勝ち確みたいに嗤っていた顔が、揺れる。


「思い出したぞ!! そ……それは……確か召喚術師で有名なワン・ズーの【神秘術】!? バカな! 

 初代からの継承者である三代目ターシィ・ズーは、誰にも継承させず亡くなったと聞いてるぞ……! まさか!?」


 狼狽。

 橙が濃くなったり薄くなったりして、足元が不安定に揺れた。

 俺は笑った。笑うしかない。笑わなきゃ喉が塞がる。

 強がりじゃない。恐怖に飲み込まれないための、俺の、呼吸。


「へぇ。詳しいじゃねえか。あんた、悪魔に支配される前は、召喚術師に詳しい奴だったのかな?」

「ハッ――!?」


 橙の悪魔が、口を噤む。

 その仕草が人間臭くて、逆に気味が悪い。身元が透けるのを恐れるみたいに、喉の奥を隠す。


 俺は視線を逸らさない。誰だろうと、どうでもいい。


「まぁ、誰であろうと関係ねぇ。俺はもう……一人じゃないんだ」


 右手に秘力を込める。

 皮膚の下で骨が膨らむ。肉が意志に合わせて形を変える。

 《鬼の腕》が膨れ上がっていく。

 殴る前から、殴った後の痛みまで想像できるくらい、重い。


 そのとき。

 胸元の【黒曜石】が、ふっと熱を持った。

 眩しい光じゃない。火種みたいな熱。

 暗いのに、心臓の近くに落ちた、小さな火。


 ……思い出す。

 シ・エル最天使長が、俺を呼んだ日のこと。

 あの人に名前を呼ばれただけで、胸が躍った。

 まして、手渡されたのがこの【黒曜石】だった。


『オトキミ君たちには、ク・エルと一緒にマリアちゃんを守って欲しい。

 そして余が指示を出した時、ユーサを守って欲しい。

 その時きっと、一筋縄ではいかない悪魔が来る。

 だから……おまじない程度だけど、これを君にも渡しておくよ』


 ユーサのアニキ、マリアちゃんと同じ【秘宝石】。

 邪を祓う宝石。仲間として渡された証。

 俺はあのとき、過去の自分を一瞬だけ許せた気がした。

 腐っていた俺が、今の俺へ繋がっている……そう思えた。


『過去は変えられない。

 悲しい事もたくさんあったと思う。

 では、このまま朽ち果てるまで腐り続けるのか?

 辛い過去があったからこそ、今の自分がある。と

 誇れるように生きるのが、人の(さが)だ』


 シ・エル最天使長は、神の奇跡を唱えたわけじゃない。


  『ー 心を燃やせ 命を燃やせ ー』


 でも、その『言の葉』は、神の奇跡みたいに効いた。


  『ー ハートに 火をつけろ ー』


 黒曜石がさらに熱い。俺の中の消えかけの火に、息が入る。

 追い風みたいに全身へ広がって、メラメラ燃えていくのが分かる。


「オトキミ様! そのまま行ってください!」


 アユラの声。掠れているのに、真っ直ぐ刺さる。倒れそうな俺を支える。


「い、け、ー!(倒しちゃえ!)」


 ガケマルの声。腹の底を叩くみたいに響いて、俺の背中を押してくれる。


 俺は鬼の腕を、振り抜く。


「ユーサのアニキみたいに、悪魔を人間に戻せなくても……。

 悪魔を祓うぐらいなら、俺にも……できると信じるぜ!!」


 橙の悪魔が目を見開く。抵抗の気配が一瞬遅れる。

 殴打が入る前に、空気が割れた。

 《鬼の腕》に黒曜石の加護が滲む。邪気を払う。

 拳が悪魔の纒う邪気を払いながら、悪魔の本体へ届く。


「こ……こんな雑魚に! 俺様……が――」


 骨の芯まで響く音。肉が潰れる感触。

 橙が黒い血飛沫と一緒に飛んだ。


「AAAAAAAaaaaaa――!!!!」


 壁に衝突。壁が崩れる。木と土と紙が散って、外気が流れ込む。

 冷たい夜気が血の匂いを押し流して――


 そこから。

 朝日が上がり始めた。


 夜明けの色が、神社の境内を薄く染める。

 ほんの一筋の光が畳の上を滑って、俺たちの血まで淡く照らす。

 ――勝った、と世界が言いかけた。


「へへ……やった……」


 笑ったら喉が痛くて咳きそうになった。それでも笑った。

 勝ったっていう実感が、遅れてくる。


 気を抜いた瞬間、鬼の姿が解けた。

 【神秘術】の反動が身体中に襲いかかる。

 意識を落とすな、と自分に言い聞かせて――気づく。


「あ、壁……思いっきり壊した」


 アユラがため息をついた。怪我で息が震えてるのを、隠すみたいに。


「オトキミ様。修繕費用は、オトキミ様の給与から天引きしてもらうようにトムさんに報告しておきますね」

「一蓮、托生、は(拒否! 口笛〜♪)」

「ちょ、お、お前らマジかよ……!

 ……ってそんな場合じゃない! 早くジルさんを、ク・エル天使長のところに……」


 笑いが、空気を少しだけ軽くした。

 勝利の朝みたいに――太陽が、俺たちに光を差す。


 ……はずだった。


 ガタン。


 崩れた壁が、もう一度鳴った。



「……運が悪かったな。オトキミ・ズー」



悪霊退散 パワー。

鬼の……腕? 某地獄先生のオマージュになってしまいましたが、アニメ放送が始まる

ずっと前からプロットにあったんです。(震え声

たまたまです。因みに、鬼の名前は「オキニ、オキラ鬼」にしようとしたけど没にしました。

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