84[2-18].オトキミの過去② ー 木の葉、復讐は正義、約束 ー
「だれか……助けて」
その声に――ユーサが現れた。
まるで、俺を助けに来た。スーパーヒーローみたいに。
「 オトーー!! 大丈ーー!? ーーる!? 」
ユーサは、心配そうな顔で、俺に何かを言った。
「あ……、ぁ……」
だけど、俺は何も聞こえなかった。言えなかった。声が出なかった。
そんな俺を見て、ユーサはもう俺の方を見ていなかった。
「オトキミ。早く、アユラとガケマルのところへ。仲間のところで待ってるんだ」
俺はその言葉を、こう解釈した。
――お前では無理だ。倒せないから、逃げろ。
屈辱だった。でも、間違ってなかった。
助けてくれたお礼も、何も言わないままのクズな自分が嫌だった。
なのに、逃げた。
兄も置き去りにして、倒れたまま。
最後まで優しい言葉をかけてくれた兄を置いて。逃げた。
情けない。恥ずかしい。だけど足が勝手に動いた。
……けど、ユーサはそんなつもりじゃなかった。
ユーサは、命からがら上級悪魔を追い詰めた。
そしてその悪魔が冠位悪魔へ変わった瞬間――戦況はさらに地獄になった。
ユーサはそれでも、諦めなかった。
たくさんの傷を負って。重症になりながらも、悪魔を瀕死になるまで追い込んだ。
冠位悪魔は命の危機を悟り、逃げた。
逃げた先は――俺、アユラ、ガケマルがいる場所だった。
「ドケ!! 雑魚ドモ!!!」
瀕死の状態とはいえ、冠位悪魔。
恐怖で膝が笑った。
息が浅くなった。
終わった、と思った。
そのとき、遠くからユーサの叫びが飛んできた。
「オトキミ!! 君が決着をつけるんだ!! 仲間を信じて!! お兄さんを……、自分を、信じて!!」
アユラが言った。
「オトキミ様。やりましょう。一人じゃないですよ」
ガケマルが言った。
「俺達が、支える(一緒に倒しましょう!!)」
その瞬間、俺はようやく理解した。
――ユーサは諦めたわけじゃない。
――俺に逃げろと言ったわけじゃない。
自分が悪魔を追い詰める。
そして俺たちが先回りし、挟み撃ちにして……、
――「俺たちが、トドメを刺してくれる」と信じていたんだ。
――なのに俺は。
「お前ら……。俺には……何も……」
言いかけたところで、胸の奥が焼けた。
ー 今が、凄く辛いかもしれない。何度も倒れそうになると思う。けど、大事なのは倒れない事じゃない、すぐに起き上がる事だよ。 ー
シ・エル最天使長の言葉が蘇った。
ー 君の大事なものはどこにある? その手には何がある? ー
俺は自分の手を見た。
握っていたのは――ターシィの《不思議な木の杖》だった。
そして見た。
アユラ。ガケマル。
遠くで、信じている眼差しを向けるユーサ。
心の奥に――ターシィがいた。
まだ、消えていない。まだ、残っている。
俺は、心と命を燃やした。
そして、ターシィが常に持っていた、初代ワン・ズーから授かった《不思議な木の杖》。
それを媒体に――俺は冠位悪魔へ向けた。
「 ー 鬼が出るか…… 蛇が出るか…… ー 」
ターシィは息を引き取る前に、俺へ【神秘術】を継承していた。
「 ≪ 【神秘術】 ≫ 」
俺の背中から、光芒が差すようなオーラを感じた。
「 ≪ 【死霊審判者の口寄せ】 ≫ 」
俺は、鬼になった。
召喚獣の最上級。
召喚術師が、召喚獣自身になり戦う。
最高の召喚術師である、証拠。
鬼になった俺は、無我夢中で悪魔へ《鬼の腕》を向けた。
まるで邪気を払うかのように、悪魔は灰になった。
「コ、、コンナ、奴二、、、」
冠位悪魔が苦しそうに嘆く。
俺は涙と血と怒りの中で、笑った。
「そういえば、言っていたな。復讐は正義……なんだろ?」
ニヤリと笑って、完全勝利した。
そして……気づけば意識を失っていた俺は。
「オトキミ様。やっと目覚めましたか? 鬼になったオトキミ様を、ユーサさんが優しく眠らせたんですよ」
「ま、る、で(子供を、あやすような感じだった)」
気づけば、俺はユーサの腕の中で眠っていた。
「良かった。生きてて。本当に……良かった」
俺が目を覚ますだけで、涙を流すなんて……。
どこまでも優しい人なんだと知った。
……だが、これで終わりじゃなかった。
その後。
俺は教会から、悪魔人になった疑いと、ターシィ殺害に関与した容疑で逮捕されそうになった。
しかし、助けてくれたのは、ユーサとシ・エル最天使長だった。
ユーサは言った。
「ターシィさんから、依頼があった時から聞いていたんだ。『弟をお願いします』って。
それに、僕が……記憶を無くした時に、助けてくれたのは君だよ。だから、今度は僕の番だ」
この人は、まだ、こんな俺を助けようとするのか?
まるでターシィ。兄と、この人は一緒なんだ。
そう思った俺は、この事をきっかけに、ユーサを《アニキ》と呼ぶようになった。
シ・エル最天使長は、教会に根回しをした。
俺の【神秘術】が継承されたことを隠すように。隠蔽してくれた。
「まだ、力と実力が釣り合っていないが、早い段階できっとモノにできる」
【神秘術】を狙う連中が、悪魔だけではなく人間にもいる――そういう情報があったからだと、後から知った。
「君にもう一度、改めて聞くよ。君の大事なものはどこにある? その手には何がある?」
俺は、アユラとガケマル、ユーサのアニキを見た。
そのあと、ターシィの顔が浮かんだ。
「命が……あります。皆が救ってくれた、この命と」
兄が残してくれた命。兄の意志。
そして――
「今にも消えそうな、でも、今も燃えている炎」
木の葉が、俺の手元に流れて飛んできて、手の中の杖が熱を持った気がした。
二人で手を取り合うように。
あの時の俺が憧れた、少し違う未来の世界線。
俺の中で、まだ終わっていないものが、確かに燃えていた。
いつの日か、笑い合う……『約束』を胸に。
この話には、僕の今、推している人への応援もたくさん入っています。
そして、シンクロニシティは沢山生まれる。偶然が、恐ろしいほどに重なってます。
僕なりの、基になった作品を、多くの人への布教するような物語になればな、とも思っています。




