81[2-15].オレンジ色の悪魔人(デビルマン)
長いので分割しました。
「……いい気になるなよ。雑魚召喚術師が」
橙の悪魔が嗤う。召喚した黒い獣の影が、神社の床を覆った。
毛並みは闇そのもの。目は獣のものではない。
悪魔特有の、歪で、数の合わない形。それが幾つも瞬いていた。
その瞬間、オトキミは歯を見せて笑った。
「雑魚かどうかは、これからわかるよ」
軽口で空気を裂きながら、指先を小さく鳴らす。
ギアドから受け取った、新しい秘術道具に触れていた。
片隅に座り込んだケイが、息を飲む。
腕の中には、血に沈んだジルの身体。声にならない声が、喉の奥で震えていた。
最初は出血が止まらなかったが、少しずつ血の流れは止まり始め、顔色も良くなってきている。
ディアの薬の効果が、胴体が切れても出血を抑える。と聞いていたのが本当だったと驚く。
しかし、ジルが絶体絶命の事態であることは変わりない。
オトキミは一瞬だけ、そちらへ視線をやる。
守るべきものがあるとき、逃げ道は消える。前を見るしかない。
「アユラ。ガケマル。準備はいいか?」
「オトキミ様。ギアドさんの新しい秘術道具と……自分たちを信じます」
「ま、か、せ、て(鍛錬は、何度もした)」
アユラは息を整え、弓を握り直した。
ガケマルは短く頷く。
ギアドが作った新しい秘術道具。
それは二段構えだった。
一つは、オトキミの召喚数を増やす仕掛け。代償は大きい。秘力の消費が激しく、枯渇を起こせば立っていられない。
もう一つは、アユラとガケマルの武器へ、召喚獣の牙や爪の性質を潜ませる仕掛けだった。
悪魔には、普通の刃も殴打も通らない。
だから今までは、オトキミの召喚獣が攻撃した箇所を狙うしかなかった。
その歯がゆさを改良するために、オトキミたちは考えギアドに相談し、武器に召喚獣の秘力を【エンチャント】できる形にした。
ただし欠点もある。
一度、召喚獣を現界させ、武器にストックする手間が要る。
さらに召喚現界時間が短くなる分、ストックの頻度が増える。
オトキミの負担は、確実に重くなる。
「な!? なんだコイツらの連携は!? 秘術の通らない武器が……何故……GHu!!」
橙の悪魔は動揺した。
黒い獣の腹へ、橙の悪魔の体へ、刃と牙が入る。
秘術の無い武器は効かない。
そう思い込んでいた。
その傲慢が、油断を生み。油断が、傷になる。
黒い獣が咆哮し、闇が逆流するように揺らいで消える。
「UGOッ!!?」
影が歪む。黒い獣が、崩れた。
闇の毛皮が霧のように散り、足元へ落ちる前に掻き消えていく。
オトキミは息を吸い、咳き込みかけて、喉の奥で集中を飲み込んだ。
魔力の消耗で、本体である人型の橙の悪魔の動きが鈍い。
「よし……本体だ。今なら落とせる!」
畳を蹴る。
召喚獣たちが前へ出る。アユラも、ガケマルも同時に動き、三人の噛み合いが増していく。
悪魔へ猛攻。連打。連携。
長年積み重ねた失敗と工夫が、ようやく形になった。
ーーその瞬間だった。
ブルブル……。
アユラの魔力探知の秘術道具が震えた。
「!? オトキミ様! 離れてください!!」
アユラの声と同時に、オトキミが動きを止める。
「――!? 痛っ!!」
橙の光線がオトキミの利き腕に、かすかに触れた。
服の上から血が滲む。
悪魔との境界を線引きするように遮った光線。焚き火の火の粉みたいに、視界の端で橙が跳ねた。
次の瞬間。別の部屋から、橙の影が二つ増える。
そして、聞こえたのは笑い声だった。
「フンッ! 何やってんだ? こんな光線も避けられねぇ。そんな雑魚にやられるほど俺様の部下は雑魚なのか?」
声の主は、三体の中で一番偉そうに立っていた。
人間の体格に、橙が絡みつく。
だがその橙は、ただの魔力じゃない。何かを、借りている気配。
オトキミの背筋が、ぞわりと冷えた。
この感じは、知っている。
悪魔に取り憑かれた人間。
ーー悪魔人。
部下らしき悪魔が膝をつく。
「……申し訳ございません。◯◯様」
もう一体が慌てたように笑って取り繕う。
「まぁまぁ、コイツは俺より弱いんで見逃してあげてくださいよ。◯◯様。でも、標的のジルとかいうジジイがくたばってるんで、それはコイツの手柄みたいなんで許してやってください」
「名前」の部分だけが耳に届かない。音が抜け、空白になる。
黙秘の術。呼称を奪う魔力が、そこにあった。
しかも喋り方が人間と大差ない。
高位の証。
ケイが小さく震え、唇を噛む。
オトキミは笑って見せた。笑うしかない。
笑わなければ手が止まると、自分が一番知っている。
「増えたなぁ……。まぁ、こっちは三人。あっちも三人。お見合い(戦い)にはちょうどいいか」
「オトキミ様。悪魔とのお見合い(セッティング)なんて、レベルが高すぎます」
「帰り、たい(こんな合コン、嫌だ)」
場違いな言葉で緊張を整える。
だが喉が鳴り、握る武器に汗が滑る。
橙の悪魔人が三つ。絶望の形が、こちらへ歩いてくる。
「おい。状況を説明しろ」
頭の悪魔は、オトキミたちを眼中に無いように顎を上げ、ジルを殺した悪魔へ嗤いかけた。
「……ということで……、ここにユーサ・フォレストはいないみたいです。◯◯様」
「……本当にいないのか?」
上へ報告する声。
返ってきたのは、短く、冷たい確認。
頭の悪魔は考え込むように呟く。
横で部下が首を傾げる。
「? どういうことです?」
「わざわざ貴重な隠蔽の秘術道具を使って、その娘だけを隠すのか?」
視線が室内を巡る。ケイとジルの位置。
そして。
「その娘が聞き分けのない子供ならまだしも、思春期くらいの娘だ。せっかく隠してたのに飛び出してくるバカとは思えん」
消えたはずの何かを嗅ぎ当てる犬の目。
「逆に、誰かが中にいるから、あえて出てきた小賢しさも感じる」
ケイの肩が跳ねた。わかりやすい動揺。
その一瞬で、オトキミたちは理解する。
――ケイちゃんが出てきた理由。
――ディアさんと、ユーサのアニキを守るために。
――あえて、わざと。
三人は目線を交わす。
「……フン。当たりのようだな。その娘を捕らえろ。尋問するぞ」
「「ハッ!!」」
二体がケイへ踏み出す。月光が橙に飲まれる。
オトキミが間に割って入った。
「おいおい。無視は良くないな。まだ俺たちがいるぜ」
アユラが半歩横へ。ガケマルが前へ。
三人がケイの前に壁を作る。
頭の悪魔が鼻で笑う。
「虫ケラは眼中に無い。シカトされても仕方ねぇんだよ。雑魚がイキリ立つな。
……おい、俺様が手を出す事か? もう一度チャンスをやる。殺せ」
「「ハッ!!」」
二体が襲いかかる。
だが三対二。しかも悪魔側は、先ほど戦い、消耗した直後。
こちらはギアドの道具で流れを作ったばかり。
オトキミは笑いながら、視線だけを鋭くした。
「まず、さっきのヤツから!」
狙いを揃える。
召喚獣が裂き、アユラの矢が動線を潰し、ガケマルの棒が秘力を纏い叩き割る。
「UGOッ!!?」
最初の一体が倒れた。橙と黒が土に沈むように消える。
残りの一体が歯噛みする。
「……クソ!! さっき、〇〇様の攻撃を受けておいて、何故動ける!?」
オトキミは肩をすくめる。
「さぁ? 虫ケラだから、わからねぇや」
悟られないように、ディアから受け取っていた傷薬をさっきの隙に塗り終えていた。
腕の痛みは残る。だが動ける。前に出られる。
「!? GUHUッ!!? この雑魚召喚術師なんかに!!??」
「おいおいおい!! どうしたどうした!!」
怒りで動きが単調になっていることに、悪魔は気づかない。
速いだけの刃は読みやすい。読みやすい刃は連携の餌。
最後の一体も倒れた。
「人の不幸を望むような悪魔に、負けるかよ!!」
橙が途切れ、境内の空気が一瞬だけ軽くなる。
「……はぁ、雑魚共が。しかたねぇなぁ」
頭の悪魔が、ようやく前へ出た。
足取りが違う。
近づいただけで喉が乾く圧に、三人は身構えた。
デビルマン 僕の好きな某バンド名の由来になった作品に関わる、あの有名な漫画
Arcに関わる作品は、色々とリスペクトを込めて登場してきます。




