7.【召命①】『君の奥さんと子供、どちらも死なせてはならない』
【召命】とは
神に選ばれた者が、救いを与えられると同時に、行わなければならない使命の事だ。
そして、神である、わたし。
ジャンヌ・D・アークに選ばれた君。
ユーサ・フォレストは、神が今から言う七つの条件。使命を受けてもらう。
それでは、一つ目から説明する。
○一
『君の奥さんと子供、どちらも死なせてはならない』
もし、死なせたら、君も即死亡になる。
んーーまぁ、つまり『全力で家族を守れ』って事だな。
……ん？
どうした？
「なんで妻と娘が条件に？」かだって？
君の奥さんと子供が、死んだら困るからだ。
生きてもらわないと、神も困るのだ。
「余計に意味がわからない」だって？
ん〜〜。
詳しい経緯と説明は省くが。
君の奥さん。
ディア・フォレストなんだけど……。
この世界に、理想郷を創造する予定だった創造神。
『アーク・A・ディア』
の生まれ変わりなんだ。
ディア・フォレストの魂には、その創造神の魂が宿っている。
神は、その魂を見つけて守護しないといけないのだが、神自身は下界に降りる事ができない。
だから死なれたら、魂がどこに行くのか、何年後になるのか、わからなくなり、困るんだ。
だから、全力で守れ。
ん？ どうした？
真顔のまま、固まって。
まぁ無理もないか。
君の奥さん、この世界の『創造神』の生まれ変わりなんだ。
って言われて。
はい、わかりました。
なんて、唐突にスケールのデカい話を、寧ろすんなりと受け入れる方がおかしい。
唐突な、女神転生だな。
因みに何故。
死ぬかもしれない過程で話を進めているのか？ という話だよね。
『悪魔の神や王達。つまり魔神や魔王達が、君の奥さんの魂であるアーク・A・ディアの魂を探している』
からだよ。
下手に見つかって、魂だけでも奪われたら、君の奥さんは死んだも当然だと思え。
いや、寧ろ、死んだ方がマシだと思える無残な事をされるかもしれん。
……もしかしたら、君の奥さんの魂を巡って、人間と悪魔の戦争が始まるかもしれない。
そして……特に君の娘。
マリア・フォレストなんだが……。
奥さん以上に厄介な事になる可能性がある。
問題なのが君の娘にも
アーク・A・ディアの魂が少しだけ備わっているんだ。
創造神の生まれ変わりである、君の奥さんから産まれた子供であり。
人間の姿をした悪魔である、君の子供でもある。
神でもあり、悪魔でもあり、人間でもある、特別すぎる混血種だ。
つまり
君の娘は
神にもなれるし
悪魔にもなれるし
人間にもなれるという
とんでもない生命体なのだ。
通常の生命体よりも『無限の可能性がある』なんて知られたら
敵は、悪魔だけではなくなる。
特に面倒なのは、人間にその事を知られたら、どんな目にあうかイメージできるかい？
人間は未知の存在に恐怖する。
自分達とは違う異端者には、差別や拒絶する弱い心を持っている。
神であるわたしが言うのもなんだが……。
特に『教会』は、神という特別な存在を信じて、悪魔という異端に厳しい集団だ。
目をつけられたら……最後まで言わなくても、なんとなく分かるな？
別に脅している訳ではない。
この世界全部が、君の敵になるかもしれない……と忠告しているだけだ。
君の奥さんと娘を、危険に晒さないためにも知る必要が君にはある。
悪魔達に奪われたら
君の奥さんと娘を悪魔の妃にして、悪魔の理想郷の神、王を誕生させられるかもしれないし。
教会側に奪われたら
即刻処刑。もしくは、生きたまま何かの実験材料にされるかもしれない。
ん？
ちょ、どうした？ ユーサ？
女の子みたいに可愛い顔をしている君が、急に『般若以上の怖い顔』になるのはホラーだ。
神である私が、下界の人間に恐怖を感じるとは思わなかった。
頼むから、そんな殺意を剥き出しにするな。
本当に何をするかは知らんが、あくまで可能性の話だ。
悪魔だけに？ なんちって？
……。すまん。
冗談というのは、相手が面白いと思った時に成立するものだ。
神様ジョークに君がついていけなかったのは謝ろう。
今のは神が悪かった。
……できれば、ユーサ。
その怒りを、悪魔達に向けているのか、神に向けているのかわからない。
今にも全てを破壊するかもしれない鬼神みたいな顔を止めてくれ。
話にくい。
……ったく。君は家族のことになると誰であろうと見境がなくなるのだな。
そういうところは、変わってないんだな。
……ん？
「何の事ですか？」だって？
今のは聞かなかったことにしてくれ。
ん！ んん！！（わざとらしい咳払い）
まぁ、とりあえずだ。
奥さんと子供が、死んだ。
と見なしたら、ユーサ。
生き返るという、神との契約も解除されて、君も死ぬことになる。……ということを肝に銘じておけ。
これが一つめの【召命】
『君の奥さんと子供、どちらも死なせてはならない』
まぁ、結婚の時にも神様の前で約束しただろうが。
改めてもう一度。
神の前で誓え。
病める時も、健やかなる時も……ってやつの延長だ。
「死んでも守る」……と。
一度死んでいる君に言わせるのはなんだか酷な気がするが。
ん？
「こんな厳しそうな条件が続くんですか？」だって？
何を言っているんだ、君は？
多分、まだまだ、序の口だぞ？
あとこんなに厳しい条件なのは、前世の君が原因じゃないか？
君さぁ。
前世で、奥さんに何か大事な約束をしたんじゃないか？
前世で、奥さんに苦労かけさせたから。
今世では、君が苦労をする番だ。
よく聞くだろう？
前世で徳を積むと、来世で良いことが起きて。
悪い事をして業を重ねると、地獄に落ちるか苦労をするってね。
これを私達、神の言葉で言うと『巡り巡って物事は集束する』って言うんだが。
ツケは、必ずやってくるのだ。
死んでチャラにするほど、許されない。終わりじゃない。となると。
ここまで来ると、愛ではなく呪い。だね。
まったく。
君は、前世で奥さんにどんな酷い事をしたんだい？
……まぁ、そう落ち込むな。
……あと。
君、約束したんだろう？
奥さんと、この【月虹】に。
「生まれ変わっても、幸せにする」って。
喜べ少年。いや、青年か。
ユーサ・フォレスト。
いや、この場合は、森永 典安かな？
君の願いが叶うかは、君次第だよ？
