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D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第2章 カーテン・フォール編

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68[2-2].天使教皇の間《エル・オーバー》 ── “L・oveR” ①

登場人物はできるだけ、少なめにした方が良い事は理解しているのですが、今回から濃厚な話になるので、先に最天使長を全員登場させました。



“七都市を超越した、神の座への門”。


ここは、地上のいかなる場所にも属さない。

七都市それぞれの『最天使長の間』からのみ繋がる、

神と天使の狭間にある異次元の聖域。


一般の天使は立ち入ることすら許されず、

人間に至っては存在の痕跡すら残せない。

ここは――エル教会における、最も神聖で、最も恐るべき場所。


入場を許されるのは、七都市を統べる者――

**最天使長エル・アーク・エンジェル**のみ。


彼らはそれぞれの都市の最天使長の間で祈りを捧げ、

最天使長の【秘宝石】を媒介に、特別な神の奇跡を唱え、ここへと転移する。


無限の白と金が溶け合う無重力の空間。

天井も地も存在せず、七つの光輪が浮かぶ。


七つの光輪には、それぞれ巨大な柱が立ち、

その上に――まるで神の化身のような七都市の最天使長たちが並び立つ。

彼らの存在は“天使”という語を超え、まさしく“聖の権化”であった。


時間の流れは地上と釣り合わず、議論の密度は極端に高い。

発言はすべて天使教皇の【神の箱舟エル・アーク】に刻まれ、

天使教皇の許可なく消去も改竄もできない。


神への信仰力が純粋でなければ、空間に存在できず“霧散”する。

ゆえに、悪魔化の兆候がある者はここに入るだけで苦痛を伴う、と言われる。


“L・oveR”の名は

**「失敗を乗り越える/神の上に立つもの」**

を示す。

だが実際は「神に最も近い場所」という意味を持つ

最も神に近い存在の天使教皇にのみ管理を許された

――神が天使を試すために創った鏡界。


ここで行われる、【最天使長会議】に集う者は、

“神の理想”と“人の現実”の狭間で召命を果たさねばならない。

彼らはそれぞれが“神の理想”を体現する象徴。

人の罪に対して、天は“七つの……()()”を以て均衡を取る。


その名と位は、天上界の柱として知られる――


第一柱 《純潔》:ガブリ・エル

 欲に染まらぬ月の光を纏い、哀を愛に変える純粋な天のシスター。

 色欲の対極に立ち、穢れなき誓いを護る。


第二柱 《慈悲》:ウリ・エル

 竜翼の如く負の感情を包み込み、赦しを与える竜の賢者。

 嫉妬の対極に立ち、魂のすべてを受け入れる。


第三柱 《節制》:ザドキ・エル

 正義を量り、秩序を律する裁きの秤。

 暴食の対極に立ち、あらゆる過剰を戒める。


第四柱 《謙虚》:バラキ・エル

 光よりも静寂を選び、神の祝福と白い薔薇を胸に飾る少年。

 傲慢の対極に立ち、慎重の中に真を視る。


第五柱 《勤勉》:カマ・エル

 怠惰を拒み、無限の計画を演算し、機械の心で労働を讃える機構の監視者。

 規律の下に奇跡を計算する者。


第六柱 《分別》:ラファ・エル

 知の迷宮に身を投じ、欲を越えた学びを求める研究者。

 強欲の対極に立ち、学問の中に神の意志を探す。


第七柱 《寛容》:シ・エル

 怒りを赦し、時を見守る天の微笑。

 憤怒の対極に立ち、世界の流れを受け入れる。


この七柱が、均等に世界を支え

頂点に立つ天使教皇の“五体+二翼”となる。

彼らが立つ七つの光輪が、ゆっくりと回転を始めるとき

――天使教皇の言葉が下ると伝えられている。


そして、彼らの中央には一つの“王座”がある。

だが、その玉座に座すはずの存在

――天使教皇の姿は、『誰の目にも映らない』。


“王座”の周りにある光輪には、既に、七つの席柱のうち五つが埋まっていた。

五人の最天使長が、光と影の均衡の中で静かに立つ。


その時、遅れて――第七の光柱に、一人の最天使長が降り立つ。

そして、かつて“最天使長”と呼ばれた者の姿も、光の中に浮かんだ。


白光が弾け、二人の姿が浮かび上がる。

途端に空気が動いた。視線が集まる。


「おや、余達が最後とは珍しいね。」


軽やかな声が響く。

シ・エルは、いつもの調子で笑っていた。

場の張りつめた空気など気にもしない。


「最後とは言え、遅れてきたわけじゃないよ。

 まだ天使教皇様が指定した時間にはなっていないよね?

 皆、少し肩に力が入りすぎじゃないかな? 笑顔で同志を迎えて欲しい」


風など存在しないはずのこの空間で、

彼の天使軍服コートが、流れを変えるように靡いた。


それに対し、第四柱――

白薔薇を胸元に飾った金白混じりのドレッド髪の少年天使、

バラキ・エルが白薔薇を触りながら、

少し呆れたように言葉を選びながら呟く。


「そうだね……いつもはザドキ・エルが一番に来て、

 その、長めの訓戒が続いていた――はずだよね。

 ……今日は、遅れて来たから静かだったよ」


柔らかな声音だが、そこには慎重な探りが混じっていた。

その一言で、場の視線がザドキ・エルに突き刺さる。


彼女はうつむき、何も言い返さない。

かつては神の代弁者のように強く、誰よりも恐れられた女最天使長が――

今は、ひとりの天使として震えていた。


第二柱が淡く光る。

青白い肌を持つ半竜人の男天使、ウリ・エルが竜模様のバンダナを垂らし、腕を組み静かに言葉を紡ぐ。


「竜は聞いた。ザドキ・エルが最天使長の座を剥奪され、追放されたと。

 何故ここにいる? 何故、この領域に入れた?」


ザドキ・エルは、震えながらも小さく息を吐いた。


「……私にもわかりません。

 ただ、まだ私の【秘宝石】が反応できただけ。

 そして……何も言い訳できません。

 ……ただ、贖いと報告を果たしたくて。」


震える声でありながらも、“元”最天使長の器、誇りが彼女を凛と立たせていた。


「まぁまぁ。長く一緒に悪魔と戦ってきた戦友じゃない。

 あと、二人共、女性の扱いが下手だと見えるけどぉ、

 そんな事じゃモテないぞ〜。ねぇ、ザドキ・エル?

 妾は、無事帰って来れて嬉しく思うぞよぉ。

 ……というか、ザドキ・エル。その格好は何ぃ? まるで純粋無垢な少女みたいじゃない。」


第一柱――

夜の女王のような装いを纏うガブリ・エルが、

女性同士の絆を示すように間に入り、ザドキ・エルを庇った。


「CA -CAー。情緒的判断は非効率である」


しかし、第五柱。

ウェーブのかかった髪型をした機械天使、カマ・エルが無機質な声で発言する。


「今後の事を考えて、ザドキ・エルを解析すべきだろう。解剖、解体、データ化――

 これにより悪魔契約者の修復法が確立する可能性がある。

 ……ただし、その場合は、“殺処分”が最も効率的かもしれない」


電子の光を纏いながら、冷たい声が空間を震わせた。

カマ・エルの言葉に対して体を乗り出す者が現れる。


第六柱。

白衣の袖を払い、研究者天使ラファ・エルがギラリとオタク眼鏡を光らせる。


「いやいやいやいやいや! カマ・エル殿、それはいけませぬぞ!!

 殺すなんて、もったいない!! 拙者に是非、研究させてくだされ!!」


その異様な熱量に場の空気が一瞬ざわめく。

シ・エルが片手を上げ、空気を整える。


「余が保証する。ザドキ・エルは大丈夫だよ。

 悪魔から天使へ戻れたんだ。神の奇跡を超えたんだ。

 この件の経緯も含めて、後ほど説明する。」


それでも緊張の空気は崩れない。

だがシ・エルは笑みを絶やさなかった。


「久々に集まったんだ。枢機卿と天使教皇様が来る前に、少し雑談でもしないかい?」


軽く息を吐き、笑いを含ませながらも目は鋭い。


「余の部下たち――セブンス・ヘブン――が、今回の悪魔襲撃で各都市の防衛と救済にあたったと思う。

 報告が苦手な部下達なので、代わりに詳しい状況を教えてもらっても良いかな?」


一瞬だけ緊張が走る。


そこから始まる“雑談”の名を借りた報告会。

――シ・エルが主導権を握る、静かな駆け引きの幕開けだった。


場を見渡すシ・エル。

その提案に、沈黙を破ったのは――ガブリ・エルだった。



◆ガブリ・エル(コガシマ都市代表)


「あぁ、そうねぇ。コガシマは、市民も信徒もほぼ無傷だったわぁ。

 妾は本当に運が良いというか……ラ・エルちゃんの運が良かったのかしら。

 悪魔が出た場所に、ちょうど彼女がいたから被害は最小限。

 ありがとう、シ・エル。」


「いや、それはラ・エルと君の純粋な力の結果だよ」

「ふふ、そう言ってもらえるなら嬉しいわぁ。じゃあ次は、あなた達の番ねぇ?」


ガブリ・エルの言葉に、柔らかな笑みと、()がこぼれる。


そこで、沈黙は時間の無駄だと思ったのか、場が少し動く。

カマ・エルが機械音を出しながら、計算と報告を始める。



◆カマ・エル(モトマク都市代表)


「CA -CAー……報告。アン・エルの活躍により悪魔壊滅。

 市民被害ゼロ。副次被害:機械損傷・データ焼失・建築物崩壊。

 効率的戦闘処理完了。ただし修理費用高騰。謝罪と補填を要求する」


機械のような正確さで数字が列挙され、ホログラム光輪で請求データをシ・エルに見せる。

シ・エルは軽く笑い、指を鳴らした。


「あはは、申し訳ないカマ・エル。部下の失態は上司の責任だからね。費用は余が払うよ」


 その場でホログラム光輪が一瞬だけ明滅し、支払いが即座に完了した。

 カマ・エルの機械瞳が淡く輝き、「処理完了」とだけ呟く。

 彼の中で「交渉完了」と判断されたのか、以降、彼は沈黙した。



◆ラファ・エル(オカフク都市代表)


 ボサボサな長髪を一つ結びにしてある研究者天使ラファ・エルが、待ってましたとばかりに前に出る。

 白衣の袖で手を拭きながら、ギラリとオタク眼鏡が光った。


「おおっ、太っ腹ですなシ・エル氏! では拙者からも――!」


白衣を翻しながら電子キーボードを叩く。


「イフ・エル氏のおかげで悪魔細胞の貴重なサンプルを採取できましたぞ!

 ただ……彼の仲間の放火で街がさらにスラム化しましたな!

 これはもはや“文化的破壊”ですな!! 研究費――ではなくて……修繕費を請求いたしますぞ!!」


お辞儀をしたままシ・エルの方へ手を伸ばし、光の帳票を器用に投げるラファ・エル。

シ・エルは苦笑しながら光の帳票を受け取り、さっとサインを入れる。


「……これ、関係ない項目も混ざってないかい?

 まぁいいか。いつも薬を作ってもらってるし、感謝を込めて少し多めに振り込んでおくよ」


「あり〜やーっすッ!! シ・エル氏!!」


 ラファ・エルは跳ねるように感謝の言葉を叫び、白衣のポケットから出した電卓を弾く。

 周囲の最天使長たちは、一様に「また始まった」と顔をしかめた。



◆ウリ・エル(キサナガ都市)

「水の都市、キサナガは……貴様の部下、ル・エルだな。」

静かな声に、深みが混じる。


「彼女の“雨の奇跡”は確かに多くを救った。

 だが独断で指揮を乱した。市民を想うゆえに、だろうが――危うい。

 シ・エル、次は彼女の傍に、支える者を置いてやれ。

 慈悲は、時に刃にもなる。鞘を用意してやれ」


「助言ありがとう、ウリ・エル。検討しておくよ。

 ル・エルは……言葉を話さないから孤立しやすいけど、命を最優先してくれた。

 彼女なりの“対話”も理解してくれると助かる」


ウリ・エルはわずかに目を伏せた。

「竜は責めぬ。……あの雨は、悪魔にとって慈悲深い」



◆バラキ・エル(タイオー都市)

白薔薇を胸に飾る金白ドレッド髪の少年天使が、慎重に言葉を選ぶ。


「……小生の都市タイオーでも、ダ・エルが太陽の加護を強制的に発動してしまってね。

 一部の施設が焼けたけれど……結果的に悪魔は倒せた。

 だから責めるつもりはないけど……もう少し慎重に動けたらなぁ、と思ってる。

 後始末も、ちゃんと最後まで見届けてほしいかな。」


「忠告ありがとう、バラキ・エル。ダ・エルには余から伝えておくよ。」


「本当に……お願いできる? 似たことが何度か起きていて、現場が困ってる。

 シ・エルは、怒りの感情が無くても、“叱る”ことはできるよね……?」


シ・エルは微笑を浮かべたまま答える。

「心配してくれてありがとう。

 ただ、余の基本方針は、“否定しない”こと――そして、“感謝する”ことだ。

 バラキ・エル、君の“意見”にもね。」


バラキ・エルは少し笑って白薔薇を指でなぞった。

「……そうだね。人の方針を変えようとするのは、傲慢だから。

 これは、ただの“意見”として残しておくし、……彼の今後に期待しておくよ」


そう言いながら、彼は静かに祈るように、聖なる祝福を運んだ。



シ・エルが全員の報告を聴き終えて、やがて、沈黙が落ちる。

シ・エルは軽く手を叩いた。


「うん。つまり結論だが――皆、()()()()()()()()()()ということだね?」


一瞬で空気が張りつめた。


「ははは、最高に良い性格をしておるのぉ」

「……貴様は、こうなる事を予見していたのか?」

「なぬ!? 支払いを多めにしてくれたのは、この事も!? 謀ったな! シ・エル氏!! もっと貰っておけば良かった…ブツブツ」

「CA -CAー……シ・エル――時を司る天使、と記録通り、未来を見通して行動していたのか?」

「なるほどね……だから、部下を各都市に配属させているのか。慎重なのは良い事だけどさぁ……」


全ての視線がシ・エルに集まる。

シ・エルは肩をすくめ、微笑を浮かべた。


「褒めてくれてありがとう。

 でもね、余は未来が見えるんじゃない――余の勘だよ。」


シ・エルは、横目にザドキ・エルを見た。


「シ・エル……君ってヤツは……」


全員が、ザドキ・エルからシ・エルに注意が向くようになった。

ザドキ・エルは、呆れと敬服の混ざった笑みで返した。


その瞬間。

空間がわずかに震えた。


 ――ゴゴゴゴゴ……。


七つの光輪の回転が、一瞬、ゆっくり動いた。


――鏡界の鐘が、底から鳴った。


「――静粛に」


重々しい声が響く。

無重力空間の奥から、一人の存在が姿を現す。


それは――深い紺のローブを纏った“カエル人間”。


天使の紋章を刺繍した衣を揺らしながら、静かに天使の翼を羽ばたかせる。

湿った水晶のような瞳が光り、声は深く、光輪を震わせた。


その“カエル人間”は、玉座の前で立ち止まり、恭しく手を掲げる。


「我こそ、天使教皇様の御意志を代行される枢機卿――ヒキガ・エル。」


ヒキガ・エルは両掌を合わせ、天へ向けた。

澄み切った声が、玉座の空間全体に響き渡る。


「――天使教皇様、御臨在。」


その瞬間、世界が止まり、全員が立ち上がった。


空の玉座に“透明な何か”が降りる。

ヒキガ・エルは最後に名を告げた。


「天使教皇様――クイーン・エル様。」


荘厳な名が響いた瞬間、七柱の天使は一斉に跪いた。


誰も、その姿を『見たことがない』。


――けれど、“透明な何か”は確かに、光の王座へと降り立った。



長い時間をかけて、プロットの再構成をずっと繰り返していました。このまま5章ぐらいまで書き続けます。


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