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D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第1章 リ・バース編

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61.良い女の条件 ~“信じ、待ち、許す”……若しくは『言わない、聞かない、覗かない』~


 ギアドの台所、最上階のVIPルームを出たディアとマリアは、通路を歩きながら奥の一室へと案内されていた。


 「こちらでお電話をお繋ぎしております」


 エヂヒカの言葉に、ディアは静かに頷いた。

 室内には、どこか懐かしい黒電話が一台置かれていた。

 ディアが受話器を取ると、すぐに、耳元に聞き覚えのあるハイテンションな声が響いた。


 「ディア!無事だったんかYO!?アンタのこと、ナザのババアから聞いたから、すぐ電話したんYO!!」

 「ブンちゃん……ありがとう。心配してくれたのね」

 「当たり前っしょ!妹なんだからYO!」


 久しぶりに聞く、陽気なギャル口調。胸の奥が、少しずつほどけていくのをディアは感じていた。


 「ありがとう、ブンちゃん……。私もずっと心配だった。あの時、シ・エル最天使長の神の奇跡でキサナガへ行った後、どうなったのか気になって……」

 「まぁ、いろいろあったけどYO! ちゃんと無事だったYO!」


 しばらく互いの安否を確かめるように、柔らかな会話が続いた。

 だが、ディアには、ひとつ気がかりがあった。


 ——あの時……シ・エル最天使長の映像を映す神の奇跡。あの映像の天使……


 キサナガの都市を守った存在。

 天使長ル・エル。


 その姿、呪文を唱える声が、どこかブンに似ていた。

 何より持っている武器、水鉄砲。そして『人魚』の印。ブンが持っている武器と同じだった。


 だが、ブンのようなギャル口調とは正反対。言葉ひとつ発さない無言の天使。


 「ねぇ、ブンちゃん……その……ル・エル天使長って、知ってる?」

 「知ってるYO! なんで?」


 あっさりと返ってきた答えに、ディアの心臓が跳ねた。


 「あ! ……ちょっと聞いてYO、ディア!」


 ブンは怒り心頭の様子で、まくし立てた。


 「ウチのギルドの連中がね、『あっちの金髪天使様は一瞬で都市を守ったのに、こっちの金髪は遅刻して何も成果なし』って、ため息つきやがったのYO!  ウチだって、百キロ以上離れたザキヤミから帰ってきたのにYO! そもそも、あのシ・エルの転移術が、都市から遠い場所に出されたんだYO! それは遅刻にもなるYO! ぷんぷんっ!」

 「そ、そう……なんだ……」


 ディアは曖昧に笑った。だが、心の中では別の感情が渦巻いていた。


  ——やっぱり、私の勘違い……だったのかな……。


 ル・エルはキサナガで“雨を凶器に変える神の奇跡”を使い、襲来した悪魔を一瞬で葬った天使。

 映像越しでも、あの沈黙と威圧感は鮮明だった。

 ル・エルの呪文を唱えた声が、ブンのそれに酷似していた記憶がディアの頭で駆け回る。

 けれど、今こうして電話越しに聞こえる彼女の陽気な声が、どうしても重ならず、言葉を失う。


 「え? 何? どしたん?」

 「……あの呪文を唱えた声、ブンちゃんにそっくりだったから……。まさか、って思っただけ。ううん、気にしないで。私の勘違いだったみたい」

 「え? なになに、誰が誰に似てたって?」

 「ううん、本当に気にしないで。ブンちゃんが無事でよかった。それだけ」

 「ふふーん! 愛する妹にそう言ってもらえるなら、もう満足YO! あーあ、ナザのババアも、ギルドの連中もディアみたいに優しくしてくれたらなー!」


 ディアはくすりと笑った。  

 そのとき、隣にいたマリアがディアの袖を引いた。


 「ママー、マリアもおねえちゃんと、おはなししたい!」

 「はいはい、じゃあちょっとだけだよ」


 受話器をマリアに渡すと、マリアはブンに向かって元気に話し始めた。


 「マリアね、このふつかかん、すっごくがんばったの!」


 その姿を見つめながら、ディアは静かに思った。


 ——やっぱり、私の勘違いだったんだ。 たとえ、ブンちゃんが天使様だったとしても、何かを隠すなんて、するはずがない。


 「ママー! おねえちゃんが、またママとおはなししたいって!」


 受話器を戻されたディアは、それを耳に当てた。


 「ねぇ、ディア。ユーサが……生き返って本当によかったね」

 「……うん。ありがとう、ブンちゃん」


 ユーサの名前が出て、先ほどまでの事を思い出すディア。

 ブンの声に癒される一方で、ディアの心には、ずっと引っかかっているものがあった。


 ——今のままで、本当にいいのだろうか。


 「……ブンちゃん」


 何気なく口を開きかけたその瞬間、どこか心の奥に溶けきらない違和感が残っていた。

 そんな微かな感情も——隠しきれなかったのだろう。

 ふと、ブンの声が真面目な色を帯びる。


 「ん? というか、ディア……なんかあったNO? 悩んでたり……してない?」


 不意打ちのような言葉だった。けれど、それは確かに、まっすぐ心の奥に届いた。


 「……あ、うん。……よくわかったね、ブンちゃん」


 思わず言葉を漏らしてしまったディアに、電話の向こうから誇らしげな声が響いた。


 「当たり前っしょ! あんたの声聞いたら、一発YO! お姉ちゃんだからNE!」


 変わらない口調。だけど、そこに確かにあったのは、誰よりも妹を思う“本気”の気持ち。

 ディアは小さく微笑み、ぽつりと本音をこぼした。


 「……ありがとう。……実はね……どうしても、考えちゃうの。大事な人が何かを抱えていると……聞きたくなる、知りたくなる。でも、それって……迷惑なんじゃないかなって。……信じてないみたいに思われるかも、って……」


 言いながら、自分の言葉があまりに子どもっぽいもののように思えて、ディアは目を伏せた。

 相手のためを思うことが、時に重荷になってしまうこともあるのではないか。

 そう思い込んでいた自分を、少し恥ずかしく感じる。


 けれど次の瞬間、ブンの声が明るく弾ける。


 「そんな時はね、ディア! “最強”にイケてる良い女のお姉ちゃんが! “良い女の条件”を教えちゃうYO!!」

 「……良い女の条件?」


 ディアは思わず吹き出しそうになりながらも、受話器に耳を傾けた。


 「そうYO! それはね……“信じ、待ち、許す”!!」


 その言葉は、まるで呪文のように、ディアの胸に染み込んでくる。

 真面目に言っているはずなのに、どこかリズミカルで、でも不思議と心に染みてくる言葉たち。

 ディアは胸の中で静かに繰り返した。


 ——信じて、待って、許す。


 その三つの言葉に、今まで絡まっていた想いが少しずつほどけていくのを感じる。

 しかし。


 「……でも、それができるか自信がないよ」

 「そんな時はNE、ディア。難しかったら、こうすればいいYO」


  ブンは続けた。


 「『言わない、聞かない、覗かない』!」

 「……『言わない、聞かない、覗かない』……」


 ひとつずつ、ブンの声を追うように心の中で繰り返す。

 すると、不思議なほど、重たかった霧が少しずつ晴れていく。

 ディアは思わず微笑んでいた。


 「それができれば、ディアはきっと、も〜っと良い女になれるYO!」

 「……ありがとう、ブンちゃん。……あの……ちなみに、それって、ブンちゃんはできてるの?」


 冗談まじりに問いかけたその瞬間。

 一瞬の沈黙のあと、電話の向こうからひときわ大きくなったブンの返事が返ってきた。


 「愚問だNE、ディア! もしできてたら、ウチは今ごろ恋人の1ダースくらいはいたYO! あれ? 言っててナミダが出てきたWA……」


 笑いながら泣き真似をするブンの声に、ディアは思わず吹き出した。

 それは、あまりにもブンらしくて、あまりにも優しい声だった。


 電話越しにふたりの笑い声が重なる。

 その響きが、遠く離れた場所でも、確かに“姉妹”であることを感じさせてくれた。


 「……本当にありがとう、ブンちゃん」


 受話器越しでも、二人の笑顔が確かに通じ合っていた。


「それじゃあ、ディア。ウチも、キサナガの復興が落ち着いたら、愛する妹の顔を見に行くからYO。またね!」


 いつも通りの陽気な声が電話越しに響き、ブンとの通話は切れた。


「……ありがとう、ブンちゃん。あなたがいてくれて、よかった」


 静かに受話器を置いたディアは、マリアの手を握った。


 「ママ! パパのところにもどろ!」


 その声に、ディアは頷く。

 けれど、胸の奥で、ふと疑問が浮かんだ。




 ——そういえば、生き返ったこと……まだ、話してなかったのに。どうして知っていたのだろう?ナザさんに聞いたのかな?

 



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