表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「……え?」月虹が叶える召命【Arc魔転生】D_ Luna / Another world Reincarnation Calling …en ciel〜  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第1章 リ・バース編
6/67

6.デイ神社、遺族控室にて


 夫の葬式(そうしき)が終わり、数時間が経過した。


 今は、夫のお墓から離れた場所。

 葬儀(そうぎ)を行なってくれた神社。

 デイ教と呼ばれる神社の遺族控え室に移動してきた。


 「それでは、皆様お揃いのようなので、一旦お食事を持ってまいります。フォレスト家の皆様、(しば)しお待ちくださいませ」

 「ありがとうジルちゃん。悪いはね、何から何まで」

 「いえいえ、トムさんのご家族の為なら……何なりとお申し付けください」


 トムさんが、ジルと呼んでいる神社の神主様(かんぬしさま)である青い(ひげ)が目立つ中年男性と部屋の扉近くで話をしている。


 「トムさん……失礼を承知でお聞きいたしますが……何故、エル教会ではなくこちらに?」

 「うーん……。ちょっと……ね。あそこは今、信用してないのよワタシ。詳しくは後日話すわ」

 「……承知いたしました。では(のち)ほど」


 小声で何かを話している二人。

 色々とあり過ぎて、言葉は聞こえても、脳が内容の理解に追いつかない。


 気付けば、扉の音がしないように丁寧に締め終え、その場から離れたジルさん。

 トムさんが、私の方を向いた。


 「ディアちゃん大丈夫? 後はワタシ達がやっておくから、休んでちょうだいな。マリアちゃん預かるわよ?」

 「トムさん……ありがとうございます。マリアは泣き疲れて寝ちゃいましたから、大丈夫です。このまま……抱っこしています」


 今は、疲れても、娘のそばにいたい。


 何故かはわからないけど。

 娘まで遠くに行ってしまうのではないか。

 娘も、私が遠くに行ってしまうのではないか。

 謎の不安を感じている。

 私自身、少しでもその不安を(まぎ)らわしたいのか、娘と離れたくないのか、抱きしめる力をあまり緩めていない。


 「あら、そう? ならせめて足が疲れるでしょうから、この椅子に座りなさいな。無理しちゃダメ。昨日から眠れていないでしょう?」

 「はい……ありがとうございます」


 トムさんは、椅子を私の後ろに持ってきて用意してくれた。

 疲れているのは事実で。

 取り(つくろ)空元気(からげんき)も見抜かれている。

 お言葉に甘えて、椅子に腰掛けた。


 「遠慮しないで良いのよ、ディアちゃん。ユーサの親として、私にとってあなたも家族であり、マリアちゃんは孫みたいなものなんだから」


 トムさんが、私と私の腕の中で寝ているマリアの顔を見て優しく微笑んだ。


 優しく振る舞うが、きっと……トムさんも眠れていない筈……。

 メイクで誤魔化(ごまか)しているが、目の下のくまがあまり上手く隠せていない。

 トムさんも辛いのに……気遣ってくれるその優しさが嬉しくて、涙が出そうになる。


 トムさん。本名はトム・マイピー。

 身長が百九十センチ以上はありスリムな体型のドワーフ族の希少種。

 身長が低く、酒樽(さかだる)のような体型が多いドワーフ族の中でも珍しく、モデルのような体型でカラフルなタキシードを着こなす亜人。

 ダンディな顔立ちでオネエ言葉を発するが不快感はなく、(むしろ)ろ美しいと思える(たたず)まいをする中年の男性。

 夫の所属するギルド『オトムティース』の(おさ)である。


 怒っている所を見た事がない、いつも優雅で美麗(びれい)という言葉が似合う。

 夫にとっての育ての父親であり。

 自然に家族として甘えたくなる母親の母性を合わせ持った人。


 

 「トムだけじゃないよ。ディア。こういう時こそババアを頼りにしな。孤児院を出てもアンタは娘で、マリアは孫みたいなもんなんだから」

 「あら、ナザちゃんごめんなさい。セリフ奪っちゃったわね。フフフ」


 ナザさん。本名はナザ・リー。

 ほうれい線が見える、しわがかかった褐色エルフ。

 ピンク色の長い髪を一つ結びにした、自分の事をババアと呼ぶが人間でいう四、五十代ぐらいの見た目。

 豊満な体の上に白衣を着ていて、煙の出ない煙管(きせる)を常に(くわ)えている。

 私の働いているナザ病院の院長で、子供の頃記憶を無くした私を拾ってくれたリー孤児院の『ザキヤミ』支部の院長。


 「ナザさんも……ありがとう。わざわざ来てくれて」

 「やだねぇ、この娘ったら。他人みたいに。遠慮してんじゃないよ」

 「んんん。ナザさんは病院長の前に……私にとっては本当に大切な親だと思っているよ。いつもありがとう」

 「当たり前……じゃないのよ……。この娘ったら」


 私の言葉に、ナザさんが顔を見せないように反対方向を向き、煙の出ない煙管(きせる)を吹かす。


 「もう……十年以上になるのねぇ。アンタが八歳の頃からアタシの孤児院で面倒見てから……。卒院した子は皆、アタシの子供さね。たとえ大きくなっても子供は可愛いもんなんだから、辛い時はなんでも良いな」

 「え? マジぃ? んじゃウチもババアに甘えるWA! ねぇババア、キサガナまでの帰り賃くれる?」


 大きなバナナが()本生えているような金髪ツインテールをしたギャルメイクの半人魚ハーフマーメイドがナザさんの前に現れた。


 「ババアだけじゃないYOー! お姉ちゃんがいるのも忘れちゃダメだYOー?」

 「黙りな、ブン。アンタに言ってないわ。ったく……なんでアンタは、ディアみたいに素直に育ってくれなかったのかねぇ、このバカメイド。やはり男がいないからかねぇ」

 「おうおうババアぁ! 男と付き合ったら人生変わるのKA!? 結婚が人生の全てじゃないんだYO!!」


 ブンちゃん。本名はブン・リー。

 メイド服の上に白衣を着ている陽気な女性。

 隣の水の都市『キサナガ』にある、水中ギルド『人魚の涙(ブルーティアーズ)』の凄腕の水秘術師(ウォーター・アーカー)であり。

 私が孤児院にいた時期に、本当の姉のように面倒を見てくれた、どんな時も私の味方をしてくれた家族。


 「ブンちゃんも、ありがとう。忙しいのに……遠くから来てくれて」

 「何言ってんのYO! お姉ちゃんも頼りにしてYO♪ 任せなYO♪ ディアに何かあったら、どんな時でも、どんな場所にいても駆けつけるWA♪」


 私を明るく元気づけようとしてくれる優しさに、涙が出そうになる。


 「帰り(ちん)は、ババアに任せるし」


 ブンちゃんの言葉に、ナザさんが(けわ)しい顔になる。


 「ブン……アンタ、この前貸した十万(じゅうまん)エイは? それどころか(いち)エイも返さないままとはどういう了見だい」

 「何言ってんのYOババア? ババアがボケないように、可愛い娘に支援する為に、まだまだ現役で働いてもらう為に、配慮をしているこの娘の優しさが……わからないもんかNE?」

 「わかるかっ!! 何言ってんのよ! ……はこっちのセリフだわ! このバカ娘が! まったく!!」


 ナザさんが怒りながら、ブンちゃんのほっぺをつねり、アーだ、コーだ怒鳴る。

 ギャー! と何度も叫ぶブンちゃん。


 さっきまで暗い空気が部屋を満たしていた筈が、私の家族は少しずつ空気を明るくしてくれていた。


 幼い時にずっと見ていた二人のやり取り。

 普段通りの家族の雰囲気が、雨で冷えきった私の体に少しずつ熱を運んできた。


 「……本当に」


 少しずつ、自分の肩の力が緩むのがわかった。

 少しずつ、自分の視界がぼやけていくのがわかった。


 「皆が……いてくれて……良かった」


 声に出した途端、我慢していた涙が溢れていた。


 「ディア……」

 「好きなだけ泣きなYO。我慢してたんでしょ。涙はね、流しちゃいけないものじゃないんだYO。誰かを想って流す涙は、沢山流して良いんだからNE♪」


 泣いている子供を(さと)すように。

 ナザさんとブンちゃんが言い争いを止めて、私の方に視線を向けて微笑んだ。


 「ディアちゃん……ユーサの代わりにはなれないけれど、ワタシ達は貴女とマリアちゃんの支えになりたいわ。困ったらなんでも言ってね。血が通ってなくても……ワタシ達は、家族なんだから」


 トムさんが視線を合わせるように地面に膝をついて、泣いている私にハンカチを渡してくれた。


 「トムちん。良いこというじゃないのYO♪ そう! 例えるなら、血ではなく、魂で繋がった家族! ……ってエモくNE?」

 「そうさねぇ。同じ血が流れているのは、ディアとマリアの二人……。だけど、血に負けないモノでアタシ達は繋がっている家族さ。だからこそ、ユーサが繋げてくれた絆を大事にしなくちゃね」


 子供の頃、記憶を無くして、本当の家族の事すらわからない、独りになっていた私。

 それでも、本当の家族のように育ててくれて、今も見守ってくれる人達がいる。


 こんなに幸せな事はない。

 夫を亡くして、不安な気持ちが晴れないままだけど、いつまでも下を向いていられない。


 「皆……本当にありがとう。夫の分まで、マリアの母親として、私……頑張る」



 涙をしながら、今日始めて笑った自分に気づいた。



 そんな中。



 トン。トン。



 部屋の扉をノックする音が聞こえた。




 「あら? ジルちゃんがお食事を持ってきたのかもしれないわ。今日一日中、食事が喉を通さなかったでしょう? 少しでも元気を取り戻すには食事が一番よ!」

 「大丈夫? 一人で食べれる? 食べさせてあげようKA? ババア」

 「なんでアタシなのよ! ディアかマリアに聞くもんでしょうよ!」


 二人の漫才(まんざい)めいたじゃれ愛に、涙が少しだけ止まり笑ってしまった。


 「フフフ。二人共仲が良くて、面白いわね。皆食べなくちゃダメ。美容にも、心の疲れにも、先ずは食事が必要なんだから」



 トン。トン。



 再び扉をノックする音が鳴った



 「はーい。もう、ジルちゃんったら、せっかちさんねぇ。今開け……」


 トムさんがそう言いながら扉を開けた瞬間、動かなくなった。




 「……? トム? どうしたい?」


 ナザさんがトムさんの様子がおかしい事に、いち早く気がついた。






 「やぁ、トム。そして、フォレスト家の皆様、夜分遅く申し訳ない。少しお時間をいただけるかな?」





 扉の向こう側から声がした瞬間。

 温かい雰囲気だった部屋の空気が、一瞬で凍りつくように変わったのを感じた。


 気づいたらナザさんとブンちゃんが、私とマリアを守るように前に出ていた。




 「シ・エル……っ!!」




 そして、この場にいる誰が声を出したのかわからないほど、怒っているのが伝わる、怖い声が聞こえた。

 それが、トムさんだと気づくのに少しだけ時間がかかった。


 トムさんが呼んだシ・エル。

 無宗教の私でも知っている。

 有名な、エル教会の『最高』の天使と呼ばれている。

 最天使長エル・アーク・エンジェル様の名前だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ