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D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第1章 リ・バース編

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51.罪悪に満ちた慟哭(ギルティ・クライ)終結

ーーフランス語を、英語にすると……気づく人はyasu愛の高い人。


 何も見えない暗闇。 その中心に、ユーサは落とされた。

 色も、形も、匂いも、すべてが消えた世界。

 それはまるで、神ですら足を踏み入れられぬ——“無”の深淵。


 足元の感覚もなく、どこまでも続く深い深淵。

 まるで世界そのものが失われたかのような虚無。

 空気は重く、薄く、酸素すらろくに存在しない。喉が焼けるように痛み、肺が締め付けられる。

 常人であれば数分で発狂しかねない場所——濃縮された【明けない魔夜中ブラック・アウト】の核。


 そんな中、突如としてユーサの右腕が脈打ち始める。

 黒い魔力のオーラが、彼の右腕から濃密に吹き出した。

 ——右腕が、暴れる。

 『意志』を持って、暴れだしていた。


 「フハハ! あのジルとかいうジジイに封じられた時は最悪だったけど……ここは最高だ!! 力が沸くぞ!!」


 禍々しい黒のオーラが、右腕を包み込む。

 それは、『生きている』としか言いようのない気配を放っていた。


 「やっとだ……やっとこの時が来たぞ! 力が、戻ってくる……!!」


 その声は、右腕から直接ユーサの脳内に響いていた。


 「君は……!?」

 「わかってるくせに。ボクは君の中に潜む“悪魔”さ」


 黒いオーラが自我を持ったように形を変え、ユーサの右腕を動かそうとする。


 右腕が勝手に動き始め、爆ぜる魔力の火花が闇に踊る。

 ユーサは必死だった。

 反射的に左手でそれを押さえようとするが——オーラの奔流は止まらない。


 「この……鎮まれッ!!」

 「アッハッハッハッハ!! 何だいその台詞は!? まるで()()()()で流行った『中二病』そのものだね!」


 笑う声。愉悦の音。 その言葉が、ユーサの記憶の奥にある“何か”を確かに刺激していた。

 前世の記憶を知っていることを、わざと皮肉混じりに突きつけてくる。


 ーーそこへ、二つの影が現れる。

 サキュ・B・アーク。

 そして——ボロボロに崩れかけた悪魔ザドキエル。


 「ウフフ。完璧な展開だわ! ユーサ・フォレストが()()に飲まれれば、もう誰も止められない!」


 勝ち誇った声とともに、サキュが現れた。 

 血を啜るように笑い、狂気を帯びた瞳で言い放つ。

 そしてその傍らには、まるで今にも死を願うような表情の、ザドキ・エルがいた。


 「その右腕の悪魔に支配されれば、貴方の意識は崩壊する! そして残るのは【()()()()を持つ破壊者】!」

 「やめろ……!」

 「さあ、“抑える”なんてやめなさいな。全部吐き出して、解き放ちなさい。怒りを、憎しみを、貴方の本当の力を! 悪魔に身を委ねなさい。理性なんて捨てて本能のままに……解放してあげる!」


 サキュの魔力を帯びた言霊が、ユーサの精神を削る。

 圧迫感、眩暈、そして意識の裂け目。


 《黒魔法 ◎ 悪魔の理性解除マーダー・ライセンス


 悪魔の本能を暴走させるサキュの魔法。

 サキュの指先から黒い閃光のような線がユーサへと放たれる、その魔力に呼応するようにユーサの右腕の悪魔は歓喜する。


 「この力……最高の魔力だ! この深淵はまさにボクの領域! この場所にいるボクは、無敵だ!!」


 ユーサの右腕の魔力が収束し、人差し指に圧縮されていく。

 黒魔法:昇天という魔弾——《ブラック・ピストル》。触れたものを根本から消滅させる破壊の極致。


 「やめろ……やめてくれ……」

 「あら。我慢しないでユーサ・フォレスト。撃ちたいでしょ? なら、最高の的があるわ」


 サキュは今にも崩れそうなザドキ・エルを『的』として差し出した。

 その時——


* Je mourrai crucifiée *

——私は十字にかけられ、死を迎える

* Payer le prix de mes mensonges *

——偽りの代償を、この命で支払おう

* Je crierai jusqu’à perdre la raison *

——叫びながら狂気に堕ちていく

* Je sacrifierai toute ma douleur *

——痛みのすべてを、捧げるの……


 どこからともなく、天使の歌声が響く。

それはザドキエルの心の奥底にある『救いを求める祈り』のようだった。


 「もう……いいの。ありがとう。だから……」


* Cul-de-sac… *

——ここが終焉の地

* Le jour du jugement est arrivé pour moi *

——私にとっての審判の日が訪れた

* Tue-moi avec ta violence enragée *

——怒りの暴力で、私を貫いて

* Je ne peux rien faire, rien d'autre *

——私にできることなど、何もない

* Je hurle, personne ne reposera en paix *

——叫び続けても、安らかにはなれない


 「私を……殺して……!!!」


* Je suis morte… *

——私は……もう、死んでいる

* Vas-y, il n’y a aucune pitié *

——構わない、慈悲など要らない

* Frappe-moi de ton épée dans le silence *

——沈黙の中で、その裁きの剣を振り下ろして


 ザドキ・エルの足元に涙が落ちる。それは黒い血ではなかった。

 薄く、透明な、かつての『少女』の涙だった。


 その歌声が、ユーサの奥に残された『正気』に、届こうとしていた。

 ユーサは、その声に苦しむ。

 彼女を撃てば、この苦しみが終わる。


 (ーーーでも、それで良いのか?)


 「ウフ。そういえば、言っていたわね。ユーサ・フォレスト。本当に、安らかに、楽に、死なせなくて良いの? この子が可哀想よ? ウフフ」

 「早く……私を……楽に……して……」


* Je partirai et mourrai seule *

——私は孤独に死を迎える

* En pleurant, je reconnais mon destin *

——泣きながら、これが私の運命だと知るの


 ザドキ・エルの声、歌声は、かつてのユーサ。前世の典安を思い出させた。

 孤独に、後悔のまま、全てを失って死んだ男。

 彼女は、自分の姿だった。救いを求めていた、かつての——典安の。


 「……違う!! 君は……こんな形で裁かれちゃ、ダメだ!!」


 震える声が、闇を裂いた。

 その声に——


 「ハァ? 何を言ってんだ、ユーサ! 撃てよ! 快楽と破滅の絶頂が、君を待ってるぞ!!」


 右腕の悪魔が笑う。


 「そうよ! 我慢なんてしなくていいの。寸止めは良くないわ! 撃って! 全部出して!! 殺しなさい!!」


 サキュが囁く。妖艶に、甘く、悪魔らしく。


 暴走する魔力、囁く悪魔、哄笑する邪気。

 荒れ狂う黒の魔力。空間そのものを歪ませる圧力。


 「う……あぁ……もう、ダメなのか……」


 ユーサが、悪魔の囁きに耐えるも、我慢の限界が訪れる。

 破壊の象徴たる黒魔法ブラック・ピストルが、今にも発射されそうになる……。


 その直前——


 「……あなた。一人で抱え込まないで」


 優しい声が、闇の中で微かに響いた。

 ——ディアだった。

 彼女はユーサの傍らに立っていた。右手に手を重ね、静かに、確かに、力を伝える。


 「ディア……?」

 「私は、ここにいるよ(神秘術:ラブ・イズ・ヒア)」


 知らぬうちに、心を穏やかにする神秘術が彼女の中から溢れていた。右手の暴走を抑えるように、ぬくもりが包み込む。


 「あなたを、一人にさせない。……一緒に背負うから」


 ディアの手が重なり、右手の悪魔の力を、少しずつ押し返す。

 愛する者の心を穏やかにし、負の連鎖を断ち切る、祈りのような神秘。


 右手に広がっていた黒の奔流が、徐々に落ち着きを取り戻す。

 まるで荒れる海に光が差し込んだかのように。


 「チィ! ……なんだこの温もりは……ッ。邪魔だ……!」

 その状況に、右手の悪魔が呻いた。そこへ……。

 

 「マリアも!! パパはひとりじゃないよ!!」


 小さな叫びと共に、マリアが現れた。

 震えるその手で、父と母の手に重ねる。

 マリアの小さな手が、ユーサの震える腕を包み込む。


 「良いところで、いつもいつも……邪魔するんじゃないわよ!! このクソ家族が!!」


 サキュが叫ぶ。最大級の魔力の波動が、マリアとディアに放たれる。


 「()()じゃないもん! マリアはマリアだもん! ()悪な悪()は……」


 マリアがもう片方の手をサキュに向ける。


 「()()()でしょ!! パパをいじめないでぇーー!!」


 神秘術——《神鉄の処女ダイヤモンド・バージン

 マリアの神秘術が発動し、透き通る神の結界がサキュの魔力を弾き返す。


 「それは……創造神の……!?」


 驚愕の声を漏らすサキュ。その目に、マリアの中に宿る『何か』が見えた。


 瞬間——。


 マリアのバリアが更なる威力を上げて天へと貫いた。

 マリアの小さな手が掲げられ、空間に淡く光が生まれた。


 《神鉄の処女ダイヤモンド・バージン》——それは、ただの神秘術ではなかった。


 幼い祈りが、まるで世界そのものを浄化するように、空間の闇に亀裂を走らせた。

 ザキヤミを包む《ブラック・アウト》の帳が、マリアの放ったその純白の神秘に触れた。

 その瞬間、まるで夜空に月を穿つように、一部が音もなく欠け落ちた。

 黒の支配を拒むかのように、白が深淵を穿つ。


 発光。


 静かな、だが凄絶な光が放たれた。

 それはただの防御ではない。

 光そのものが『意志』を持って闇に立ち向かったようだった。


 その光を浴びたユーサの右腕——黒いオーラを纏い、暴走を始めていた『悪魔の意思』が、一瞬、動きを止めた。


 「……なっ!? こ、これは……」


 右腕が怯むように痙攣し、まとっていた瘴気が震えた。

 理性とは無関係のはずの悪魔が、『光』に一瞬だけ屈した。


 黒が押され、赤が脈打ち、光が空を裂く。

 ブラック・アウトの闇に亀裂を走らせたマリアの光。

 深淵そのものを裂くようなその輝きは、まるで神の手が差し伸べられたかのようだった。


 このとき、ザキヤミの空に

 《ダイヤモンド・バージン》——創造神に近いほどの純粋な奇跡の力。


 その光は、黒き帳の外にいたザキヤミの人々の胸に、確かな『感覚』を残した。

 けれど——


 「フン……光が何だっていうんだ……」


 震える声を吐き出しながらも、『右腕の悪魔』はなおもユーサを煽り続けた。


 「撃て……撃てよ! 『裁き』は途中だ! 躊躇うな! 躊躇う理由は無いはずだ!!」


 まるで、自身が負けを悟ったからこそ、最後の一押しを急ぐように。


 「……フフフ。そうね。まさかの事で驚いたけど、もう遅い!! この状況に変わりはないわ!」

 「そうだ、ユーサ! さぁ、いまだ! 撃て! その魔弾丸は、痛みも苦しみも起きない!」


 悪魔達が叫ぶ。「「安らかに 楽に 死なせてやれ!!」」


 しかし。。


 「……うぅ……私も、貴方みたいに、家族と、幸せに、なりたかった……」


 ザドキ・エルが、か細い声で呟く。その言葉は、ユーサの心を鋭く貫いた。

 かつて、自分もそうだった。

 誰にも助けを求められず、誰にも救われず、孤独に、ただ壊れていった男——典安。


 そして、今。

 目の前にいるザドキ・エルは、その姿をなぞっていた。


 マリアの神秘術により、先程までの強制的な悪魔の魔力酔いは嘘のように消えていたユーサ。

 ブラック・ピストルの引き金を引くのは、ユーサ自身に託された。


 「何をしてる! ()()()()()()()()()()()()!! その出来損ないを殺せ!!!」


 焦る右腕の叫び声が上がったその瞬間——。

 ——ピキッ!

 ユーサの中で、怒りのエネルギーが『別のモノ』に変わった。


 「……そうだね。悪魔の言うことは聞かないよ……」


 その言葉に、右腕の悪魔が嬉しそうに笑う。


 「……右腕の悪魔(き み)の言うことをね!!」

 「……よし、そうだ。さあ撃て——って、え?」


 その瞬間。

 右腕の悪魔が硬直した。

 ピキィッ……!!


 赤き雷光が、ユーサの左手に集まる。

 空気が震え、神の領域に踏み込むような異様な気配が奔る。


 「 《 ー 僕を生かせるのも 殺せるのも 自分次第 ー 》 」


 ユーサの左手に神秘の結晶が集まる。

 《神秘術:人間の現界を超える領域レッド・ゾーン


 左腕のオーラと右手の黒い魔力が、交差する。

 赤と黒の二重螺旋がユーサの体を貫き、中央で重なる一点へと集束。

 神でも悪魔でもない、人間の選択の結晶。


 一瞬、時間が止まったかのような沈黙が、空間全体を包み込んだ。

  そしてその沈黙を破ったのは、誰の祈りでもない——『選択』の声だった。


「 《 ー 弱い自分を 撃ち抜くように ー 》 」


 呪文と祈りが、重なる。ユーサが放った【昇天という魔弾丸ブラック・ピストル】。


 ——誰も聞いたことがないような『異次元の発砲音』が生まれた。


 魔弾が放たれた瞬間。

 《ブラック・アウト》内部の魔力流が逆流し、周囲の音そのものが歪む。

 鼓膜では捉えきれない『破壊音』が脳髄を揺さぶり、音を認識できない。


 ……いや『音を聞くという概念』が一瞬、世界から消えた。

 次の瞬間、遅れて響く轟音は、雷鳴ではない。宇宙が裂けるほどの破壊音。


 その力の根源は、()()ではなく()()


 遅れて響く破壊音と共に、サキュの身体が、その赤黒の螺旋に呑まれた。


 「GGGGGG AAAAAAAAUUUUUUUUGAAAAAAーーーーーーッ!!?」


 断末魔の叫び。

 快楽でも暴力でもない、悔いと痛みに染まった魔力が、彼女を貫いた。


 同時に、ザドキ・エルの身体にも弾丸が届く。


 しかし——破壊されたのは、“()()()()()”だけだった。


 魔力の残骸が崩れ落ち、暗闇の向こうに——小さく、かすかな光輪と笑顔が浮かんでいた。

 それは、天使の証。

 黒い羽は砕け、罪の残滓が風に舞った。


 そして——世界に、静寂が戻った。


 **Dead for your sin. Dead by BAD BLOOD.**

 ——罪のために死し、

 ——邪悪な血によって滅びる。


 贖罪と救済の狭間に放たれた一撃が、全てを終わらせた。


やっとです。

主人公の代名詞にしたい、物語を左右する【選択の武器】を出しました。

元ネタは、僕の好きな曲が二つ混ざっています。

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