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D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第1章 リ・バース編

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42.異世界でのやり直しの決意


 ——壊れた器。戻らない家族。過去の自分の無力さ。


 瓦礫の隙間から、わずかに差し込む冷たい光。

 けれど、それは月明かりではなかった。

 全てを飲み込む、漆黒の闇が支配する世界。

 音が消えていた。

 風も、声も、温度さえも失われた世界。

 そこにただ一つ、壊れた器の残骸が横たわる。


 砕けた陶器。

 拾い上げようとして切った指先の痛みが、何度も胸を抉った。


 ——戻らない。何度手を伸ばしても、何をどう繋ぎ直しても、元には戻らない。


 そして、あの言葉。


 「お前なんか、生まなきゃよかった」


 記憶の奥底で、何度も繰り返される呪いの言葉。


 まるで、誰かの人生を覗き込んでいるようだった。

 他人のはずなのに——それは、どうしようもなく自分だった。


 「……どうして、こんなことになったんだ」


 耳元で響く問い。低く、重く、胸の奥を貫く刃のように。


 ——典安。

 その名を思い出した瞬間、胸が軋んだ。


 家族を守ろうとして、壊した男。

 必死だった。ただ、それだけだった。

 なのに、守るべきものは何もかも壊れ、失われた。


 胸が、苦しい。

 喉の奥が焼け付くようで、息さえできなかった。


(……何も、壊したくなんかなかった)


 その時——遠くで声がした。

 耳の奥を打つ、小さな、小さな声。


 「……パパ。……パパ」


 ——違う。これは、あの記憶の中にはない声だ。

 温かくて、生きていて、今、確かに呼んでいる声。


 やがて、ほんの少しだけ、まぶたが開いた。

 視界に飛び込んできたのは、どこまでも暗い、黒い空。

 遠くで誰かが呼んでいる声がした。


 「……あなた……あなた……!」

 「……パパ……パパ……!!!」


 ——ああ、僕は……目を覚ましたんだ。


 悪夢のような過去から、異世界へ。

 生まれ変わったはずのこの世界で。

 何のために生きているのか。

 何を背負い、何を取り戻したかったのか。


 すべてが、あの「壊れた器」の光景と共に胸の奥に焼きついた。


 ——僕は、もう……あんな後悔はしない。


 そう呟いた瞬間、ユーサの目に力が宿った。


 ——ここからが、本当の「やり直し」だ。


 「……あなた、起きて。お願い、目を開けて」


 ディアの声が反響する。

 ユーサが目を開けると、そこは血と硝煙の漂う瓦礫の中。

 緊急避難先として申し分ない場所だった。

 倒れたユーサに、ディアが必死に自作回復薬を片手に持っていた。


 「ディア……マリア……」


 震える手で、二人の顔に触れる。


 ——生きている。守ってくれていた。


 震える手が、目の前の二人の顔に触れる。

 温かい——確かに、彼女たちは生きている。


 「パパ……マリアね、パパとママを、まもるって、きめたの」

 マリアは、泣き出しそうな顔で言った。


 「バリアさん、こわかったけど……がんばったの」

 その言葉が胸の奥に刺さる。

 マリアの手元には、ユーサが誕生日に作った十字架のペンダントが握られていた。

 悪魔に壊されて、ボロボロになったまま、それでも大事に手に持っていた。


 ——小さな体で、どれほどの恐怖に耐えてくれたのか。


 「ありがとう……二人とも。今度は、僕が守る番だね」


 そう言いながら、また一人で抱え込もうとするユーサ。

 ディアはそれを見抜いていた。


 「あなた……、全部あなた一人で抱えないで」

 ユーサは少しだけ微笑む。


 「状況を、教えてほしい。今、どうなってる?」


 ディアの手は、まだ震えながらもユーサの傷口を塞ぐ為に、手製の回復薬を片手に治療しながら答えた。


 「あなた、ギアドさんがね……あなたを……託していったの」

 ディアの震えた声と、その言葉に、ユーサはハッとした。


 「ギアドが……?」

 ディアは、必死でうなずいた。


 「……ギアドさん……私に言ったの。あなたを絶対治してって。自分は時間を稼ぐからって。……それで、あの人は、あの怪物を……遠くへ、誘き出したの」

 震えながら、ディアは泣きそうな声で言った。


 「ギアドさん……ボロボロなの。すごい血で……でも、ずっと……立ってる。……あなたが来るって、信じてるの」


 ユーサは、ギアドの姿を探した。


 遠く、裁判所の中心付近。

 黒くうごめく悪魔の巨体の前で、小さな人影が一つだけ、踏みとどまっていた。


 ——ギアド、生きている。


 その瞬間、心の奥に熱いものが込み上げた。

 ユーサは歯を食いしばった。


 ——自分一人じゃない。みんなが、ここに繋いでくれた命が、確かにあった。


 だが、視線を向けた先の光景は——地獄そのものだった。


 裁判所の瓦礫。

 血の匂いと硝煙が漂う。

 吹き飛ばされた信徒たちの亡骸が、あちこちに転がっている。


 「……こんな、ことに……」


 小さな子供たちが泣き叫んでいた。

 母を失った幼子が、庇うように守って倒れた父の腕の中で。

 血の海の中で手を伸ばしている。


 「おかあさん……おかあさんっ……」

 声が、響いた。

 ナザ・リー達の治療チームが応急処置を行っていた。

 血まみれになった家族に泣き叫ぶ子供の声。

 まるで戦争の跡地のようだった。

 突然の不幸で引き離された家族。


 そして、まだ地獄は続いていた。


 悪魔による攻撃で生じている騒音が落雷のように鳴り響く。

 悪魔ザドキエルの声が響く。


 「罪人は——絶望を前に、もがき苦しめ!!!」


 黒魔法と神の奇跡が混ざり合い、悪魔と対峙する教会の信徒やギルド戦闘員が無慈悲に攻撃の骸と化していく。


 その瞬間だった。

 ユーサの中で魔力が、知らぬ間に膨れ上がっていた。

 黒いオーラが、右腕から立ち昇る。

 ただの魔力じゃない。

 ユーサのもう一人の人格。その悪魔の気配さえ混じった、それは確かな「力」だった。


「行こう、ディア。マリア。今度は——僕が守る」


 立ち上がったユーサの目には、もう迷いはなかった。

 闇の中で、確かに宿った決意。

 ディアとマリアの温もりを感じながらユーサは、地獄の戦場へと歩みを進めた。


 ——壊させるものか。絶対に


 その胸の奥で、静かに、確かに。

 あの時の「典安」とは違う、自分の答えが生まれようとしていた。


 ——今度こそ、友達を、仲間を、愛した家族を、守るんだ。


誕生日に、やり直しの決意を。投稿の決意をします。

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