表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第1章 リ・バース編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/71

31.間違った正義【cord Name:ジャスティス】


 「__あ」

 

 ジルと名乗る男が放つ【神秘術】。

 オレンジ色の大きな光線に、飲み込まれた。


 「僕は……死ぬのか?」


 数秒の間。

 何も見えない真っ白な視界に包まれて、あの時。

 もう一人の自分と会話ができた部屋の事を思い出した。



  ー やってくれたな  ユーサ ー



 そして、その本人。

 白い視界の中で、()()()()()()が話しかけてきた。


 「……何を?」


 (はた)から見れば、独り言を呟いているかのように聞こえるのだろうか。

 黒い文字に話かけてみた。


  

 ー (あと)で ()() するなよ ー



 「後悔? 何を言って……っ!?」



 そう呟いていると、体が消滅していくような感覚に襲われた。


 「パパッ!!」

 「大丈夫よ、マリア。パパは、大丈夫だから。信じましょう」


 見えない所で、怯えたマリアと震えたディアの声が聞こえた気がする。


 イヤだ。消えたくない。

 こんな形で……終わりたくない!!



 ー 嫌味(いやみ)かい? 何を言っているんだ 君は? ー 



 黒い文字が、再び僕に話しかけた。



 ー 消えるのは ()()だよ ー



 「__え?」

 

 その文字を最後に、体中に違和感が発生した。

 まるで、効能のある温泉に(つか)かった時のような、体中の毒素が消えていくような感覚。


 そして、光線の光が消えていく瞬間に、体中の見えない重りが消えていくような気がした。


 「パパ……? パパだっ!! わぁーい!!!」

 「良かった……あなた」

 

 マリアとディアの声が聞こえた瞬間、視界が鮮明になった。


 「……あれ? 体が、、消えていない?」 

  

 体は消滅していなかった。

 両手を見て、体を触り実体がある事を確認する。


 「助かったのは……良いけど……、もしかして……」


 もう一人の……ボク? って奴が消えたのか?

 

 「消えた……のなら」

 

 自分で口にして、急に寒気がした。

 神様(ジャンヌ)の言葉を思い出した。

 

 ー 君じゃなくて、君のその身体の元の主は。

   【神秘術:❘永遠の星座エターナル・サイン】を唱える事が可能だった。

   一人目(ひとりめ)なんだ ー


 そして、もう一人のボクが伝えていた……。


 ー (あと)で ()() するなよ ー


 自分がとんでもないミスをしたかのような不安。

 どうも釈然(しゃくぜん)としない謎の違和感が、僕を押しつぶそうとしていた。


 「……と。このような結果でした。皆さんこれでおわかりいただけたでしょう? ユーサ・フォレストは、悪魔ではないという証明がされた事を」


 ジルという男の声で我に返った。

 彼は両手を広げて、市民に向けて大袈裟(おおげさ)にアピールしていた。


 パチ! パチ!


 そして、少しずつ拍手の音が大きくなっていった。


 「良かったーーー!!!」

 「フォレストさん!! 私は信じてましたよ!!」

 「私じゃないだろ!! 俺達だろ!!!」


 市民から大きな歓声と拍手が聞こえた。

 まるで、奇跡の一大(いちだい)ショーが終わった時の観客の拍手喝采(はくしゅかっさい)を味わっているような。

 拍手の雨が、自分に向けられた気がした。

 悪い気がしない、と思えるほどに気持ち良い拍手の圧が僕を包んだ。


 「ユーサっさん! やりましたね!! ボスに任せて正解だったでしょう?」

 「ギアド。こうなる事を知っていたのか?」

 「こんなの、俺達にとっては……(ワイ)(アイ)(エム)ですよ」

 「なにそれ?」

 「(やす) い (もん) (だい) 。ですよ」

 「フッ! なんだよそれ……僕がよく言ってる言葉だね。ありがとう」

 「いやぁ~。言ってみたかったんすよ~。我らの主(ウィーッシュ)!!」


 ギアドが肩に腕を回して、(ささや)いて笑わせにきた。

 先ほどまで不安になっていた僕に気付いて、励ましてくれたのか。

 何で悩んでいたのか忘れてしまう程、彼の優しさに心が軽くなり、救われた気分だった。



 ドンッ!!!!!!!!!! ガタンッ!!!!!!!!!!



 しかし、裁判長席の机が破壊された大きな音により、空気が変わった。

 

 「……茶番だ!! 何だこの茶番は!!」


 天使とは思えない形相で僕とジルさんを睨みつけるザドキ・エル。


 「見ていただいた通りですよ。ザドキ・エル最天使長? 彼は悪魔ではありません」

 「認めんぞ!! 異教徒共!!!」


 耳が痛くなるような金切り声で叫ぶザドキ・エル。


 「彼は、悪魔ではなく、別の魔族なのです。人間の姿をした特殊な悪魔……いえ、()()という種族です」

 「な!? ()()……!?」


 ジル……さん。という人が、怒るザドキ・エルに説明をしていた。


 え?

 ()……()……?


 なにそれ?


 知らないのは僕だけなのか? と思い周囲を見渡した。

 しかし、誰もが「なんだそれは?」という顔でジルさんを見ていた。

 

 「はい。悪の魔力に支配された悪魔ではありません。人間が持つ秘力を強く持つ魔族、秘魔(ひま)。またの名を……秘魔(アークま)


 周囲が騒めいていた。

 そこにいる誰しもから「聞いた事が無い」という声が、あちこちで聞こえた。


 「そして、【秘術(アーク)】を使う為には秘力(ひりょく)が必要。【魔法(マジック)】を使う為には魔力(まりょく)が必要。つまり彼は両方を()(そな)えた、人間の姿をした特殊な魔族。秘魔(アークま)なのです」


 ジルさんの言葉に市民が全員、(とりこ)にされたかのように興味深く聞いていた。

 

 「奥さんであるディアさんが、悪魔に間違われる亜人。と回答されていたのを聞いて、秘魔の存在を知らずに、そこまでたどり着くとは……流石は博識(はくしき)(そろ)う、リー病院の薬師さんだと思いました」

 「え……?」

 「お見事です。旦那さんを助けるために必死に答えていた貴女(あなた)は素晴らしいパートナーだと私は思いました」

 「すごーい! ママーー! さすがー!!」


 ディアは急に話を振られて、キョトンとしながら照れくさそうにしていた。

 

 ダンッ!!!


 「ふ、、ふざけるなぁあああああーーーー!!!! 勝手に神の名前だけではなく! 種族まで捏造(ねつぞう)する異教徒ペテン師がああああああーーー!!!!!!!!!!」


 裁判長席。

 最天使長が座る席で、再び大きな怒鳴り声が聞こえた。


 「捏造(ねつぞう)とは、とんでもない。長年研究を得て確認された知識でございますよ。最天使長様?」

 「やかましいぃぃ!!!!! 神聖なる異端審問を汚す愚か者がぁぁああああーーー!!!!!」


 バチンッ!!!! ドグシャッ!!!!!


 ザドキ・エルがどこからか、巨大な鞭を取り出し、鞭を高速で振った。

 目に見えない速度の鞭の先が、コンクリートの地面を叩き割り、ジルさんを襲った。

 肉が弾けるような生々しい音を立てて、ジルさんの体が潰れた。


 「ジルさんッ!!?」

 「ボスッ!!!?」


 ギアドと一緒にジルさんを守ろうとしたが、間に合わなかった。

 市民達の悲鳴が大量に聞こえた。

 ジルさんの怪我の状態を確認した。


 「これは……酷い……けど……生きてる!」

 

 口、鼻、目。

 あらゆる血が噴き出るであろう箇所から大量の血が流れていた。

 体の骨は、生きているのが奇跡に近いほど複雑骨折していたが、(かす)かに息が聞こえた。

 ただ、早く治療しなくてはマズイ。

 

 「ユーサ・フォレスト!! 貴様は悪魔だ!! この事件はお前がやったんだろう!!! そう言って楽になれ!!! 例え悪魔でなくても! 貴様は悪人(あくにん)だ!!! それで、【証明終了(Q.E.D.)】だ!!」


 バチンッ!!


 鞭が空気を叩く音が聞こえた。

 肌に触れる風圧を感じ、ギリギリのところで()けようとしたが……。


 「__っ!? なんだ!? ()()()()()()っ!?」


 体に違和感を感じた。


 まるで、自分の体が、自分のものではない、かのような感覚。

 先ほど、体中にあった重りが無くなった事とは違い。

 体が思い通りに動かせないでいた。


 「ユーサっさん!! 危ない!!! ___ぐふあっ!!!!」


 ギアドが僕を横から(はじ)き飛ばした。

 そのまま、巨大な鞭の餌食(えじき)になり、ギアドは吹き飛んだ。

 

 「ギアドッ!!!」


 身代わりになったギアドは、吹き飛んだまま動かなかった。

 

 「異教徒共が。手間取らせやがって。罪人を(かば)った罰だ!!」

 「コイツッ!! __っぐ!!」

 「ほう。どうしたユーサ・フォレスト? そんなところで、何をしている? 罪を認め裁かれる事に納得がいったか?」


 ブンッ!!!


 「__ガハッ!!!?」

 「あなた!!!」


 巨大な鞭が、僕の頭を叩きつけた。


 ブンッ!! ブンッ!!!


 何度も重い鞭の高速で空気を切る音がした。

 音と共に、自分の顔と体が地面に衝突して、骨と地面が割れる音がした。


 「__グハッ!! __ガハアッ!!!」


 なんだ?

 なんなんだ?

 体が、()()()()()()()()()!?

 

 「ほう。しぶとい奴め……やはりそうか! 貴様は悪魔で、先程の光線の【神秘術】で、魔力がかき消されたのではないか!!?」



 ー ボクが悪魔だったから 君の強さの大半が ボクのお陰なのさ ー



 ザドキ・エルの言葉で、もう一人の()()が言っていた言葉を思い出した。


 

 ー ()で ()() するなよ ー



 後悔……というのは、こういう事か!?

 

 思い通りに動けないのは……僕の力は秘力ではなく、魔力が(メイン)だったのか!?

 

 「あなた!!!!」

 「やだーー!! やめてーーーー!!! パパをいじめないでぇぇーーー!!!」

 「酷い!! いくらなんでもやりすぎだろ!!」

 「そうだそうだ!! 教会は横暴だ!!」


 ディアとマリア、そして、市民達の抗議の声が聞こえた。


 「ほう。弱者だらけの民どもが!! 貴様らが平和に生きているのも、我の力のお陰だぞ!! 我の意見に逆らう者は!! 鞭打ちの刑に処す!! 全員ひっ捕らえろ!!!」

 「いえ……ザドキ・エル最天使長様……それは……」

 「なんだ貴様!!! 貴様も異教徒に加担する悪魔だったのか!!!!」


 ザドキ・エルが、意見した信徒に向けて鞭を振った。


 グシャッ!!


 「「「ヒィイーーーーー!!!!」」」


 一瞬で、意見した信徒は肉塊(ミンチ)と化して、残る信徒達の恐怖を(あお)った。


 「何をしている貴様ら!!! 我の言う事が聞けないのか!!!」

 「「「「……!!? ___ハッ!!! ザドキ・エル最天使長様!!」」」」


 天使の中でも最高位にあるという絶対的な権力と暴力。

 真実など、どうでも良い。

 相手を一方的に、強制的に叩き潰そうとする悪魔以上の威圧感。



 「止めろ……止めろよ!! 何が正義だ!!!!」

 「何? 貴様が正義を語るか!! 悪魔めが!!!!」

 「……こんなのは、間違った正義だ!!!」



 武装した信徒達が市民を襲う音。

 市民の悲鳴。

 逃げだす大量の足音。


 「正義さ!! 我の名はザドキ・エル!! 正義の名の(もと)に我の任務を達成する最天使長!!!」


 ザドキ・エルの叫び声。

 耳に入ってくる沢山の音をただ、聞く事しかできず。


 「ユーサ・フォレスト!! 貴様が死ねば、我の正義は完遂(かんすい)する!! 死ねい!!!」


 ザドキ・エルが振った巨大な鞭が、僕の脳天を砕こうとする風圧を感じた。







 「 ≪ 争いよ 止まれ ≫ 」





 そこへ。



 「 ≪ 【神の奇跡(エル・ラーク)】 ≫」



 ー カラーン ー



 「 ≪ 【争いの日を壊す鐘の音デイ・ブレイクス・ベル】 ≫ 」


 聞いたことがある鐘の音が聞こえた。


 市民達の動く音が消えた。


 視線を外にやると。


 その場にいる人、全員が停止ボタンを押された映画の登場人物のように、動きを止められていた。



 ー カラーン ー



 二回目の鈴の音で、鞭が空中で止まり、ザドキ・エルの動きも止まった。


 そして、自分の体に異変が起きた事に気付いた。


 これは……。



 「ザドキ・エル。聞き捨てならない言葉聞こえたな。貴様らが平和に生きているのも、()の力のお陰? 違う違う」



 聞き覚えのある声。


 僕を殺した天使達の統領。張本人。


 「()使()である余達のお陰だろう?」


 青と黒のコーンロウをした長髪。

 土星型の鐘。

 青と黒が混じった片翼の翼。


 「き、、さ、、ま、、シ・エル……!!!?」


 ザドキ・エルが、口だけをゆっくり動かして時を止めたヤツの名前を呼んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ