21.【安楽死を運ぶ者《ユーサ・ネイジャー》】
冠位悪魔が、声を失った瞬間。
ユーサの神秘術【狂気的な凶器の扉】による攻撃は止まった。
「……………………………HAッ!!? やっと、、外に……出れ……グァア゛ア゛!!!!」
冠位悪魔は先程まで自分がいた場所、ユーサの目の前。
ザキヤミに戻ってきた。
しかし、戻ってきた瞬間に、今までの痛みを思い出し。
体中に無数の傷と怪我、出血をしながら絶命した冠位悪魔が『黒い灰』と化した。
「アラアラ。お見事。本当、安楽死ってどこからきているのかしら? なんとも悍ましい秘術ですこと。ワタクシが力の上限を上げたのに無意味だったわ」
他人事のように、拍手をしながらユーサに賛辞を送るサキュ。
「でも、【秘宝石』がなければ、またすぐに再生して貴方を襲う事になりますわよ? どうするのかしら?」
「……SO……その……通りだ。ユーサ・フォレスト」
灰から再生する速度が、先ほどよりも早く冠位悪魔の顔が再生する。
上半身は、あと数秒で再生を終えそうな状態であった。
それが自信につながったのか、悪魔が誇らしげに勝ち誇る。
「先ほどの術。、、貴様は【神秘術】と言ったな? 秘術よりも強力な術である反面、消費する秘力、体力、精神力は桁外れな為、何度も唱える事はできない筈」
二度殺されたにも関わらず、冠位悪魔はユーサを嘲笑いながら続ける。
「確かに悍ましい術だ、何度もは喰らいたくない。しかし、貴様は何度も【神秘術】を呪文を詠唱できるのか?」
上半身が再生され、ユーサの身長を超えるほどの大きさになり、ユーサを見下ろす冠位悪魔。
「貴様が呪文を詠唱できなくなり、ガス欠した時が我の勝ちだ!! AAAッHAッHAッHAッHAッHAッHAーーー!!!!!!!」
体が完全に再生し終わる前に、勝ち誇る冠位悪魔。
「そうか。分かった。良い事を聞いた。何度も喰らいたくないなら。永遠に唱え続ければ良い」
「AAAッHAッHAッHAッーーー!! …………は?」
「【神秘術】は、何度も唱えられない。って誰が言ったんだ?」
何も動じないユーサ。
両手の指をパチ! パチ! パチ! パチン!! と鳴らし始め。
ユーサの両掌に、先ほどと同じ禍々しい黒色のオーラが現れた。
「A、、A、、キ、、貴様、、本当に、、人間か?」
「人間の……一児の父親だよ」
「k、こ……子供の前で……教育上良くないだろ?」
「何を言っているんだお前は? 子供は寝る時間で……」
ユーサは、一瞬マリアに視線を向けて、冠位悪魔に視線を戻した。
「夜は、大人の時間だろ?」
黒色のオーラが衰退するどころか、威力が増している状況。
……と肌で感じた冠位悪魔が言葉を失いかける。
「僕の【神秘術】は、一つだけではないからね。そのおかげで何度でも唱えられる」
「じょ、、冗談を言うな! 人間で【神秘術】を一つ以上持っている者など……ありえんッ!! やはり貴様……」
「そうらしいね。普通の人間には、複数の【神秘術】は耐えられないそうだね」
ユーサの全身から赤色のオーラが現れた。
「さっきも言ったが、僕は人間だ。ちょっと普通の人間と違うだけでね」
その赤色のオーラは、冠位悪魔が想像する人間の力を遥かに凌駕する量だった。
赤と黒のオーラが重なり合い、先ほど以上の拷問が始まる。
冠位悪魔には、ユーサがまるで魔王に見えた。
「ま、、待ってくれ!! A、、A、、あった!!! 」
冠位悪魔は再生しきれていない足で地面を這いつくばり、慌てて何かを探し始めた。
その手には、先ほどユーサに倒された召喚悪魔の灰が握られていた。
ユーサが持つ黒曜石の収穫範囲を外れた分の灰が、冠位悪魔の近くにある地面に落ちていた。
それを、冠位悪魔は自分の顔に塗りたくり。
「《 ー 〇 呪文 ●魔法 ◎ 真実をねじ曲げる灰化粧 ー 》」
呪文を唱え、悪魔の顔が人間のような顔に変化した。
その顔を見てユーサの表情が変わる。
ユーサにとって、見覚えのある顔。
「この顔を見ろ!」
「……。」
「貴様も! やはり! 我々と同じ……」
それはまるで、鏡を見ているかのような感覚がユーサを襲い。
そして、ユーサは思い出した。
「それ以上、喋るな」
「ヒッ!! グヘッ!!!?」
「何となく察していたが、やはりお前か。お前だったのか」
冠位悪魔の言葉を、遮るユーサ。
そして、冠位悪魔の下半身を足だけで払いのけ、巨体の冠位悪魔を転がし。
その後、冠位悪魔の後頭部を思い切り踏みつけた。
「僕の顔で、マリアに「産まれてきちゃダメな子供」と言ったのは」
「GGGUUUAAAAーーー!!!!!」
ギチギチギチギチギチ……!!!!
地面と冠位悪魔の頭が割れそうになる、大きな音がした。
ユーサは、冠位悪魔が逃げられないよう、コンクリートの地面にヒビが入るほど足に力を入れた。
「神様から、僕の黒曜石では吸収できない悪魔がいて何度も再生する。と聞いた時に、思ったんだ」
ユーサは少しだけ足元をずらし、冠位悪魔にしか見えない角度で、自分の顔を見せた。
「悪魔がどれだけ死ぬ体験に耐えられるのか? どれだけ攻撃すれば人間に危害を加えた事を後悔するのか? ってね」
人間とは思えない程、怒りに満ち溢れた悪鬼の表情。
悪魔が恐れるほどの憤怒の圧力。
「僕の家族に、仲間に、そしてこの都市に住む方達に手を出したんだ……」
「A、、A、、、」
「安 ら か に 楽 に 」
バチ! バチ!! バチッ!!!!!!!
黒色のオーラから怒りが伝わってくるほどに、黒い火花と稲妻が、先ほどよりも強く鳴り響く。
「死 ね る と 思 う な よ 」
ユーサの二度目の【神秘術】が解き放たれる、その時。ユーサの指が悪魔の肌に触れた瞬間。
ー 「悪魔になるなんて、聞いてない」 -
「__!?」
ユーサの脳内で、知らない誰かの記憶が流れた。教会の信徒が、喋っていた。
ー 「自分を 忘れたくない 天使に なりたかった」 ー
目の前の悪魔が、そう泣いていた。
ユーサは、神秘術の発動を躊躇した。
「……そんな悪魔に、巨大な力を使う必要はありませんよ。ユーサ・フォレスト」
刹那。
「__!? 斬撃!?」
ユーサは咄嗟に呪文の発動を中断し、冠位悪魔から離れた。
ザシュ!! ザシュ!! ザシュッ!!!
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
突然。
複数の風の刃が、ユーサと冠位悪魔を襲った。
ユーサは肌に感じた風の圧力により、危機感知能力を刺激されたのか、難を逃れた。
「A……s……死……死神……」
しかし、冠位悪魔は見るも無惨な姿に変わり、切られて残った顔で『大鎌』を持つ人影を見た。
「……いえ、死神ではありません。天使です」
ザシュ!! ……シュー。
大鎌の刃が悪魔の顔を食べるかのように、完全に息の根を止めた。
「……エル教会の破壊神の側近部隊。金星の加護を持つ、第三星天の天使。ク・エルです」
不気味なハエの刻印がされている巨大な『大鎌』を持つ、緑色の着物を着た女性。
自らを天使と名乗る女性が、事の顛末を終わらせるかのように現れた。
25/3/17 大事なシーンを追加。




