20. 神秘術【狂気的な凶器の扉《ルナティック・ゲート》】
「灰の色が【黒】……普通のとは違う……コイツが標的の黒冠位悪魔なのか? そしてコレが【死の灰】? ……吸収できるかな?」
悪魔を倒した後、灰になるが文字通りの灰色ではなく『黒い灰』が、氷山の周りに現れた。
ユーサは、倒した敵の『黒い灰』と、自分の指に嵌めている黒曜石を見比べて、腕を前に伸ばした。
シュー……。
黒曜石の周りに風が渦を巻きながら、現れた。
先程まで激しい戦闘が行われた場所。
召喚された下級悪魔達の灰が、砂塵のように暗闇の魔力と化し、大気に広がっていた。
そして、散りばめられた砂塵のような灰が、掃除機で吸い取られていくように、ユーサの黒曜石に集まろうとしている。
しかし、目の前にある『黒い灰』は吸収することができなかった。
「神様が言ってた通り……やっぱり、駄目か」
ー 天使が持っている、【秘宝石】ではないと、【死の灰】は吸収する事はできない。 ー
自分を生き返らせた神様。ジャンヌの言葉を思い出すユーサ。
「やっぱり、天使の【秘宝石】ではないと……あっ」
ー 一。天使長を仲間にする。
二。天使長から借りる。
三。天使長を殺してでも奪い取る。 ー
ジャンヌの言葉が脳内で流れ、まるで神のお告げを聞いたかのように閃いたユーサ。
「借りる……。確か……シ・エルがマリアに黒曜石を渡した……とか言っていたな。ペンダントは何処だ?」
愛娘の誕生日に渡した自作のペンダント。
悪魔に壊された。
……と、娘に聞かされていたユーサは、辺りを見回すが、目的の物は見つからなかった。
「あ、ダウジングを使うか」
< パチ! パチ! パチ! パチン!! >
ユーサは右指を全て鳴らし、L字型のダウジングロッドを右手の平に召喚した。
「 ー マリアのペンダントと、それについていた黒曜石は何処にある? ー 」
右手に持ったダウジングロッドに話しかけるユーサ。
ダウジングロッドは、まるで生きているかのように反応を示す。
「時間内に見つけないと……。と思ったけど直ぐ見つかったな」
ダウジングロッドが、壊されたペンダントと黒曜石のある箇所を示した。
「あった……っと。しかし、酷く壊されたな……」
回収したペンダントを見てポケットに入れながら、今は灰と化した悪魔の方をユーサは睨んだ。
「この黒曜石で……【死の灰】が回収できれば、今後は困る事が無くなるけど……果たして……」
ユーサは、マリアがシ・エルからもらった黒曜石を『黒い灰』に向けた。
しかし……。何も反応はなく、『黒い灰』はピクリとも動かない。
「遠いのかな? もっと近くで……」
『黒い灰』に触れられるほどの距離まで近づいたユーサ。
「アラアラ。天使じゃない者が【秘宝石】を持っても効果はありません事よ」
「__っ!? 誰だ?」
上空から、女性の声が降りてきた。
ユーサだけではなく、その場にいた全員が声のする方向を向く。
「アラアラ。こんばんは。ユーサ・フォレスト。見事な戦い振りでしたわよ。主様から【黒】称号をいただいたにも関わらず、やはり無能な雑魚では話になりませんでしたわね」
先程戦った悪魔よりも数倍強力な魔力の気配。
自分に話しかける上空にいる女性に、ユーサは警戒し戦闘体制に入る。
「何故、僕の名前を?」
「アラアラ。【安楽死を運ぶ者】として、悪魔界でもあなたの名前は有名ですわよ? 天敵である天使以外で名前が載っている者は少ないですし。わかりやすいですわ」
悪魔界。
悪魔の世界でも、自分の名前。
ギルドでの通り名。
【安楽死を運ぶ者】が轟いている事に驚くユーサ。
「とても安楽死を運んでいるような戦いではない、物騒な戦い方でしたけど……ウフフ」
「……自己紹介したつもりもないけど?」
「アラアラ。わかりますわよ? 貴方の見た目で」
「__!?」
「自己紹介……は、こちらがまだでしたわね。ワタクシは、サキュ・B・アーク。以後お見知りおきを」
ユーサに話しかける女性。
上空に浮かぶ、自分の手の平で握りつぶせそうな大きさの小さな小悪魔。
そばかすと、長い黒髪をおさげにした童顔。
その幼さに反して、男性の鼻の下が伸びそうな艶かしい性的な服装。
性的な魅力に溢れる成人女性のような小悪魔が、ユーサに話しかける。
「B・アーク……? まさか……」
「アラアラ。もしかしてワタクシの主様をご存知? あなたが倒したそこの雑魚悪魔の主。最悪魔邪神王様の……側近? いえ、正妻? と言えば良いかしら? ウフフ……、どうされましたか、その顔は? 興味ありますこと?」
「大有りだよ。僕の家族を、仲間を、住んでいる都市の方達を傷つけたんだ」
「確かに、そうですわね。ウフフ……。アラアラ。噂に聞く怖い顔ですわね。ユーサ・フォレスト」
何が楽しいのか、ウフフ……。と言いながら妖艶な表情で、サキュは話を続ける。
「まぁ、そこで朽ち果ててる悪魔みたいに、他の悪魔達も結局他の都市で天使長達に殺されてお終いでしたわ」
「全国でも同じように人を襲ったのか? 何故だ?」
「目的がありますの。二つほど」
「二つ?」
サキュは二本の指を立て、ユーサに説明する。
「一つは、悪魔達のテスト。各都市で暴れ回っているのは、六百六十六体中の新しい五百番台の子達なの」
「新しい? 五百番台?」
「そうですわ。天使長達との戦争でね、主様の部下が半分ぐらい減っちゃったの。まぁ、天使達も結構減ったみたいだけど」
「そんな戦いが……あったのか」
ユーサは、教会の天使達が影で悪魔達と人知れず戦っていた事を、初めて耳にした。
「だから新しい子達を揃えて、テストしてみたのよ」
「テスト? 何のために?」
「ウフフ……決まってるじゃない」
サキュは、イヤラしい目つきでユーサを見下しながら話を続けた。
「戦宣布告よ。天使達がいくら頑張って悪魔を減らしても、こちらにはいくらでも替えを増やせる手段がある事。そして、結界石で守られていても、あなた達が守っている人間達を、いつでも殺す事が可能、って事をね。ウフフ……」
「させやしないさ。天使だけが、悪魔を倒せるわけじゃない」
ユーサは、怒りとは違う感情を込めてサキュに睨みを効かせた。
「アラアラ。ご立派。流石は要注意人物の一人ですわ」
「(要注意人物?)それはどうも……。もう一つの目的は?」
「探し物……いえ、探している人物がいますの」
「探している……人?」
ユーサは、その時、嫌な予感がしたのか冷や汗を流した。
自分を生き返らせたジャンヌからの言葉。【召命。一】を思い出し、声が小さくなった。
「そう……創造神;アーク・A・ディアの生まれ変わりが、現在、中央都市の何処かにいる。という情報があったからですわ。何かご存知?」
「__っ!!?」
「全国共通紙幣の名前になっている『エイ』。これは、慈愛の神として無宗教の人間でも神の恩恵を受けられる、という意味も込めてつけられたそうですけど……。有名な神様ですわよね?」
サキュは、何かを知っている素振りでユーサに質問した。
何も、知らないふりを続けようと平常心を保とうとしていたユーサだが。
「創造神……?」
「アラアラ。ご存知ですの? ユーサ・フォレストの奥さん?」
「__!?」
先ほどの死闘で。
冠位悪魔から、自分が創造神の生まれ変わり。
……と聞いていたディアが呟いた。
すかさず、ディアの方を向くサキュに、心を揺さぶられるユーサ。
その時。
「サキュ……様……。創造神の生まれ変わりの居場所が……わかりました」
『黒い灰』が再生を始め、上半身のみが再生した冠位悪魔。
そして、その場にいる全員が上空を見ていた事により。
冠位悪魔が、ユーサから離れている事に、誰も気づかなかった。
「アラアラ。あなた、やっと再生しましたの? 力を分けてもらっておいて遅すぎましてよ?」
「申し訳……ございません」
再生された上半身で頭を下げる冠位悪魔。
「で? 居場所、とは? 何処にいるのかしら?」
「__!? マズいッ!!」
サキュの問いに、冠位悪魔が口を開こうとした瞬間。
ユーサは、再び冠位悪魔に接近した。
……しかし。
「アラアラ。話してる最中ですわよ。お静かになさい」
「__!!」
ピカーン!!!!
サキュの指先から強烈な魔力の圧縮した光線が、ユーサの足元に放たれた。
ユーサは、間一髪。触れるか触れないかギリギリのところで止まった。
「……見えなかった」
ユーサが小さく呟いた。
直感で止まり。止まらなければ、先ほどの魔力の光線で大怪我をしていたであろう自分を想像した。
「さぁ、目標の創造神の生まれ変わりは、何処にいるのかしら?」
「そ、、それは、、」
ユーサが冷や汗を流す。
しかし、冠位悪魔から出された答えは。
「サキュ様。ご報告をする前に、一度だけチャンスをいただけますでしょうか?」
「チャンス? アラアラ何を言っているのかしらこの雑魚悪魔は? ワタクシに交渉する立場にあるとでも? 死にたいの?」
「いえ。我が口を出そうとすると、あのユーサという男が邪魔をします」
完全に体が再生を終わり、元の姿に戻った冠位悪魔。
サキュに跪き、頭を下げながらユーサを睨んでいた。
「詳しくご報告をする為に……一度、あの男を処分させてください」
「アラアラ。先ほど無傷でやられたあなたが、どうやって処分するのかしら?」
「サキュ様のお力を、何卒、我にお与えください」
冠位悪魔が、サキュに跪くではなく。
土下座をしてお願いをする。
その行動とは裏腹に、冠位悪魔は、こう考えてた。
__ふざけるな! 創造神の生まれ変わりを妃にして、新の魔王になるのは、我だ!!! 今は少しでも力を……そうすれば……。
そんな悪巧みを考えていた冠位悪魔の心情を理解したのか、していないのか。
冠位悪魔の言葉で、何かに気付き閃いた仕草をするサキュ。
「アラアラ。何だか楽しい事になりそうですわね。わかりました。許しましょう」
サキュはそう言いながら、冠位悪魔に手を伸ばした。
「《 ー 〇 呪文 ●黒魔法 ー 》」
サキュが呪文を唱え、闇が現れる。
「《 ー ◎ 悪魔の理性解除 ー 》
闇が霧のように変化した。
そして、霧に包まれながら、冠位悪魔が姿を変えた。
「GGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーー!!!!!! ユーサ・フォレストーーー!!!!!」
闇の衣を纏い、禍々しさが増した悪魔が、獰猛な獣の如く突進するように。
ユーサに襲いかかった。
「!? ユーサのアニキ! 先ほどの……倍以上の魔力を感じます……!」
「アユラ。……なるほど。分かった。ありがとう教えてくれて。でも大丈夫。こんなの」
魔力感知能力のあるアユラの言葉に反応しながら。
まるで悪魔の突進を両腕で受け止めるかのように、両腕を広げてユーサは答えた。
「僕にとっては、安い問題だ」
「ナナアアアアアアーーーーーめええええるなあああーーーーー!!!!! ユーサ・フォレストおおおおおおお〜ーーー!!!!」
「連れて行ってあげるよ」
パチ! パチ! パチ! パチン!!
パチ! パチ! パチ! パチン!!
「 ー この僕以外には誰にもできない所へ。 ー 」
ユーサが、左手と右手を同時に鳴らしながら呪文を唱えた。
「 ≪ 【神秘術】 ≫ 」
ユーサの指先から黒色のオーラが両手に現れ、両手にある二つのオーラを、一つにした。
「 ≪ 【狂気的な凶器の扉】 ≫ 」
そして、ユーサの両手のオーラから、【黒い月の扉】が現れた。
「GGGAAAAAAAーーー!!!!!! AAAッ!?」
突進した冠位悪魔が、【黒い月の扉】を突き破り中に入っていった。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
そこには、数多の黒曜石の武器が入った空間だった。
そして、その空間では。
武器達がまるで意識を持った動物のように動き回り続けて、冠位悪魔に襲いかかった。
グサッ! ズシャ! ブシャ! グシャ!
「AAA!!? アアア!! AAAアアアーーー!!! GAAAAAーーー!!!」
数として、数十、数百、数千。
見た事もない珍しい武器が、一つずつ冠位悪魔の体を貫き、血が出た瞬間に消えていく。
「GAA!? 何故だ!? 何故、我は! 死なぬ!!?」
凶器が体を貫く。
出血する。
本来なら、数本で絶命してもおかしくない攻撃。
何故か生きている事に疑問を抱く悪魔。
「AGAA!! もう…AAA!! 止め……! GAAA!!?!?」
何を言っても、黒曜石の武器は止まる事はなかった。
普通の人間であれば正気を保てない、廃人と化すであろう空間。
ただ、ひたすら死ぬ事ができず。
数多の凶器で地獄の拷問を受けている状況。
冠位悪魔は、この空間に狂気を感じた。
「…………………………。」
悪魔が声を失うほどの、恐ろしく長い拷問。
冠位悪魔は、悲鳴を出す事すらできなくなっていた……。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
(・∀・){1話の文字数が多くなりましたので、分割します。今回、二話連続予約投稿です。次は10時に投稿予定。




