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「……え?」月虹が叶える召命【Arc魔転生】D_ Luna / Another world Reincarnation Calling …en ciel〜  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第1章 リ・バース編
2/67

2.破壊神側近部隊・七天使『セブンス・ヘブン』

 【黒い月】が夜空に浮かび

 【月虹】がその月明りにより生まれた。


 その【月虹】は、屋根の代わりになるかのように、天井が無い破壊された古ぼけた教会の上で、七色の円弧(アーク)を描いていた。


 「……っぅ! あ……ぅ……」


 教会内の中央には、虹色に輝く七芒星(しちぼうせい)の魔法陣。

 魔法陣の中心点には祭壇があり、生贄(いけにえ)にされた女性……に見える若い男性が一人。

 血まみれで、傷だらけでの姿で、苦しそうに(うずくま)り倒れていた。


 そして、魔法陣の七芒星の各頂点に一名ずつ。

 七名の男女が中心で苦しむ男を見下ろしている。


 (あか)(だいだい)()(みどり)(あお)(あい)(むらさき)……と各自が一色で統一された服装をした男女。

 虹色の集団。

 各自がパーソナルカラーで色分けされた服装と同じ色の『片翼』が背中に生えている。


 その姿は、まるで……『天使』

 しかし、片方の翼を奪われ地に堕とされた『堕天使』のような不気味さが漂っていた。


 「ユーサ・フォレスト。君は()達の破壊神(はかいしん)デスト・L・アークシオン様の封印を解く為の条件である生贄(いけにえ)……人間の姿をした特殊な悪魔(・・・・・)だったのだよ」


 七名の内『藍色の片翼』を背中に生やした男の声が教会内に響き渡る。


「君の悪魔の体に秘められた力のおかげで、封印を解く為の『黒曜石(こくようせき)(かぎ)』が手に入った。お別れの前にいくつか言いたいことがある。ありがとう、ユーサ……君の事は忘れない」

 

 七名の輪を崩すように、『藍色の男』は嬉しそうに祭壇の上で、もがき苦しむユーサ・フォレストと呼ばれた男に話しかけながら近寄っていった。


 「君の存在は、神の側近部隊(セブンス・ヘブン)の天使。

  第一星天使:ラ・エル

  第二星天使:ル・エル

  第三星天使:ク・エル

  第四星天使:ダ・エル

  第五星天使:アン・エル

  第六星天使:イフ・エル

  そして()、ラーク・E・シエル……いや

  第七星天使:シ・エルが覚えておくよ。……さて」

 

 ユーサを見下ろしながら言葉を発する『藍色の男天使 シ・エル』


 藍色と黒色のコーンロウで編み込まれた長髪。

 藍色と黒色の二色に分かれた目元を隠す仮面。

 仮面越しでも分かる中性的な整った顔立ち。

 アイリスの花が刺繍(ししゅう)された藍と黒の色でコーディネイトされた軍服コートを羽織る。

 胸元には藍色のサファイアのペンダント。


 彼の右手には『黒曜石(こくようせき)(かぎ)』が握られ、左手には『土星のような輪っかがついた大きな鈴』が握られていた。


 「 ー お別れの 時を 奏でよう ー 」



  - カラーン -



 シ・エルは左手に持っていた土星型の鈴を鳴らした。


 「__っ!!?」


 鈴の音が鳴った瞬間、ユーサは声が出せなくなり、体はまるで『時を止められた』かのように動けなくなっていた。


 「この土星型の鈴(サタン)(おと)を聞くのはコレで二回目(・・・)だね。この『黒曜石の鍵』を作るために君の中に秘められた力を使って消耗した後だから、動くどころか、もう口を動かす事すらできなくなったんじゃないか?」


 シ・エルは片翼をまるで手のように自由になびかせながら話を続ける。


 「ユーサ。いや森永 典安(もりなが のりやす)。君の前世では、主人公が死んで【異世界】に【転生】した後……楽して、無敵の力と幸せを手に入れる、夢物語が流行っていたそうだね」

 「__っ!?」


 藍色の片翼の先が、うつ伏せになっているユーサの(あご)をすくい上げた。

 無理矢理、顔を上げさせられユーサとシ・エルの目線がぶつかる。


 「でも……君はそんな幸せ溢れる夢物語の主人公にはなれないよ。天使である余が断言しよう。だって君は幸せになれるほど……」


 シ・エルは、ニヤけながらゆっくりと質問した。




 「 (ぜん) () で (なに) か 


  『(とく)』を () ん だ の か い ? 」




 シ・エルの言葉を聞き、ユーサが思い出すのは森永 典安(もりなが のりやす)だった頃の記憶。


 (……『 (とく)』……なんて)


 「むしろその逆で、前世で悪い(おこな)いをした者は帳尻合(ちょうじりあ)わせで来世では不幸になる。地獄に行く。と聞くが……何か心当たりがあるのではないかね? 森永 典安(もりなが のりやす)?」

 「__っ!?」


 思い当たる節があるのか絶望したユーサの顔を見て嬉しそうに「アッハッハッハ!!」と高笑いを始めながらシ・エルの口は饒舌(じょうぜつ)になる。


 「前世で冴えない人生を歩んだ君が!! 家庭に居場所がないほど嫌われていた父親の君が!! 仕事も上手くいかず上司に見放され、部下には見下されてばかりだった君が!! 一人寂しく死を迎えた君が!! 成功体験ばかりする夢物語の主人公のように!! 幸せになれると信じていたのかい!? アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


 藍色の天使が、天使とは思えない下品な大声を上げながら笑い、続ける。


 「君の【異世界転生】は、前世の悲しみや後悔が報われる幸せな物語ではない!! 余達の破壊神様(はかいしんさま)の封印を解く、この『黒曜石の鍵』を作る為に必要な『生贄』として生まれ変わった物語であり、君にとってココは、天から地に落とされる地獄だったのさ!!」

 「__っ!?」

 「今まで気づかずに過ごしていたようだが、ユーサ・フォレストが 人間の姿をした悪魔(・・・・・・・・・)である事が何よりの証拠さ!! 全く……どんな罪を犯せばそんな可哀想な来世を送れるんだい? アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


 シ・エルの言葉にユーサの顔が苦しくゆがむ。


 「……コホン! まぁ、長い付き合いのよしみで、君が『人間の姿をした悪魔』だった事は言わないでおくよ。そして、君の遺体は、普通の人間としてご家族の元に届けておくから安心してくれ。君の大事な、大事なご家族にだ。最後に……そうだなぁ……何か言い残す事はあるかい?」


 すまない。言い過ぎた。

 ……と言いたげに急に正気に戻ったのか、咳払いをしながら気を取り直し、今度は優しく話しかけるシ・エル。


 「あぁ……そっか……悪い。何か喋りたくても、余の力のせい(・・・・・)で喋れなかったね! 君は死に際の一言も言えないまま死ぬみたいだ!! アッハッハッハ!!!! 残念だったね!! 『家族と最後にした会話』は何だったんだい!?」


 嫌味と共に再びシ・エルの高笑いが教会内に鳴り響いた。


 『家族と最後にした会話』


 その言葉に対してユーサは

 ディアという名の妻と

 マリアという一人娘の

 三人で幸せに過ごした数時間前の事を思い出した。


 数時間前、ユーサは娘のマリアが四歳になった誕生日のお祝いをしていた。

 誕生日会を終えたその日の深夜。

 家族が寝静まった中、ユーサは仕事の依頼と称してシ・エルに呼び出され、今に至る。


 その為。

 『家族と最後にした会話』は、娘の誕生日会が終わり、就寝前にした会話だった。


 〜 「パパ! もっといっしょにあそぼうね !」 〜


 朦朧(もうろう)とした意識の中で、娘の声がユーサの脳内で再生される。


 〜 「マリア。パパは明日もお仕事だからもう寝ましょう?」 〜


 今度は、娘に優しく諭す妻の声が脳内で再生される。


 〜 「そうなの? う〜ん……わかった! じゃあ……あした(・・・)!! あした(・・・)のよるね! パパ! やくそくだよ!!」 ~


 明日(・・)

 という当たり前にやってくる日常。

 絶対に訪れると思っている無垢な笑顔。

 心が洗われる優しい一家団欒(いっかだんらん)の声が、ユーサの脳内から離れなかった。



 ユーサの前世。森永 典安だった時の後悔。


 - (家族と向き合おう) -


 と決意した時に【死んでしまった】自分。


 そして、ユーサ・フォレストとして転生した後。

 前世の妻、(あい)に似た女性と出会い、恋に落ち、結婚した。


 産まれてきた一人娘のマリア。

 前世の娘、真理まりと似たような名前を、妻が名付けた偶然。


 『運命』


 自分が【別の世界】に【転生】したのは、『運命』だと思った。

 今度こそ『幸せな家庭を築く事』を夢見て、できる限りの努力をした日々。


 ……しかし、ユーサの命は終わろうとしていた。

 

  〜 「パパぁ……だいすきぃ……」 ~


  〜 「ウフフ。良かったわね、あなた。いつも忙しい中、マリアの為にありがとう。私も大好きよ。おやすみなさい」 〜


 ユーサが思い出した家族との最後の記憶は、娘の寝落ちした時の愛らしい寝言と、妻の愛が込められた言葉だった。


 「……ぅ。……ぁ」


 小さなうめき声があがる。

 気がつけばユーサの頬は濡れていた。

 身体は、時が止まったかのように動かせない筈なのに、涙は頬を伝い流れていた。


 家族にもう会えなくなる寂しさ、からなのか。

 娘との約束を破ってしまう申し訳なさ、からなのか。

 やっと手に入れた幸せを理不尽に(うば)われる悔しさ、からなのか。

 

 理由は一つではない。

 沢山の想いが込められた、涙だった。


 傷だらけで、大量に出血した体が少しずつ寒く感じる。

 悲しみに打ちひしがれ、身体だけではなく精神も傷ついた事により観念したのか、ユーサは死期を悟った。



 その姿を見て

 先程まで嬉しそうに高笑いをしていたシ・エルは、ユーサの(あご)から藍色の片翼を離して呟いた。


 「悲しみ(・・・)により……怒り(・・)()けたか……つまらん。そんなものかね君の心は? 命は? なぁ……ユーサ・フォレスト」


 シ・エルは先程まで歓喜の声を出していたが、突然遊んでいたオモチャが壊れてしてしまい(きょう)()めた子供のような顔に変わり、その場を離れた。


 「ク・エル。介錯(かいしゃく)を頼むよ。楽にしてあげなさい」

 「……はい。シ・エル様」


 シ・エルと入れ替わるように、緑色の女天使が、ユーサに近づいた。


 膨らみをもったミドルボブの緑色の髪型。

 目元を隠した緑色の仮面マスク。

 首元には、緑色のエメラルドの宝石がついたチョーカー。

 赤色の彼岸花(ひがんばな)刺繍(ししゅう)された緑色の着物の上に、緑色の軍服コートを羽織り。

 背中に『緑色の片翼』が生えた女性。


 緑が目立つ女天使。第三星天使:ク・エル。


 ク・エルは、手に持っていた竿状の長い棒きれで、ユーサを祭壇から地面に叩き落した。


 ガタンッ!!


 聞いただけでも痛くなるような音をたてながら、ユーサは受け身も取れないまま地面に叩きつけられ転げ落ちた。


 転んで仰向けになったユーサの視界に、天井の無い教会にあるモノ(・・・・)が目に入った。




 それは__綺麗な【黒い月】と【虹】だった。




 ー (【月】と……【虹】……) ー 


 ユーサは頭の中で、二つの単語を思い浮かべ、その二つを結びつけ、ある事を思い出した(・・・・・・・・・)



 【月虹】__自分の願いを(・・・・・・)……叶えてくれた虹(・・・・・・・)



 「ディ……ア……、マリ……ア……、しあ……わせ……、に……」



 時を止められたかのように動けなくなっていた身体。

 唇に意識を集中させ、ユーサは必死に唇と喉を動かしていた。


 しかし、何かを言葉にしようとするが、上手く口を動かせずにいた。


 __こんな(つたな)い言葉では【月虹】も願いを叶えてくれないのではないか……?


 そう不安になりながら。

 それでも、ユーサは最後の力を振り絞り【家族の幸せを願う呪文(・・・・・・・・・・)】を完成させようとしていた。


 

 「……貴方(あなた)の最後の願いは、自分の事よりも、家族の事(・・・・)なんですね……」

 


 月明りにより無機質な金属が一閃の光りを帯びて輝いた。

 緑色の天使が大鎌(デスサイズ)持って現れた。


 ユーサの呪文を遮るかのように

 大鎌の鋭い刃が、ユーサの空と願いを切り裂いた。

 

 __この人達……天使(・・)じゃなくて、死神(・・)だったのか。


 目の前の大鎌の刃のせいで【月】と【虹】が見えなくなり。

 ユーサは観念したかのように、そう頭で呟いた。


 しかし……。


 「……こういう時は『死にたくない』とか自分の事を考えたり。……死に際まで追い込んだ『私達を許さない』とか目の前の相手の事を考えるのが、……普通なのではないですか?」


 ユーサは、緑色の天使が、何故このような質問をするのか。

 何故、震えた声で、そんな悲しそうな顔(・・・・・・)でこちらに話しかけているのか。

 理解できずにいた。


 緑色の女天使、ク・エルの顔が見えるのはユーサだけであった。


 「どうしたんだい、ク・エル? 手が止まっているよ? まさか……」

 「……いえ、何でもありません、シ・エル様。……さよなら、ユーサ・フォレスト……」


 緑色の天使の震えた声が、何かを決心したかのような声に変わった。


 大鎌の刃が、ユーサに襲い掛かる。

 首を切り落とされたのか、心臓を貫かれたのか分からず、ユーサの目の前が一瞬で真っ暗になった。


 意識が一瞬で闇に転じる。

 眠りに落ちるのではなく、二度と目覚めることはできない暗闇。

 ユーサは、この瞬間を知っていた。

 森永 典安の時、第一の人生の時、一度味わった事がある恐怖。


  ― 死 ―  


 「ユーサ・フォレスト。いや、森永 典安(もりなが のりやす)

  君の幸せな異世界転生は、ココで終わりだ。

  さぁ 安 ら か に 眠 り た ま え」


 暗闇の中

 遠いところでシ・エルの笑い声が耳に入った後……。

 ユーサは、死を迎えた。


(・∀・){プロットはあるのですが、投稿に時間がかかりすぎる。。。


何度か書き直しています。

一回で書き終えるプロは凄いと思いました。23/2/18

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