表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第2章 カーテン・フォール編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/111

107[2-41].沢山の嘘の中に、一つの真実がある《ライズ・アンド・トゥルース》

苦手な戦闘パートが続きます。



 日曜の月。

 太陽に近い性質を持つと囁かれる、橙の光。

 その月明かりが、裏路地の奥まで染み込むように差していた。


 橙の光の下で、ヘディの瞳が赤から橙へと変わる。

 陽炎のような熱が立ち、銀髪さえ()だったかのように、橙の色に染まっていく。


「仲が良いままで、お前を殺して。……【神秘術】を、奪うべきだった」


 声にはまだ、あの優しい義兄の調子がわずかに残っていた。

 だが、その芯はもう別物だった。


 (オレンジ)悪魔人(デビルマン)が、そこに立っていた。


 ユーサの喉が、ひくりと震える。


 前世。

 ()()()()()()

 自分が原因で通じ合えず、最後まで理解されなかった日々。


 だからこそ異世界で、ディアの兄であるヘディと仲良くなれたことは、ユーサにとって――()()だった。


 やり直せる気がした。

 あの記憶(トラウマ)を、この世界で上書きできると信じた。


 幸せだった。

 気兼ねのない空気も、義弟(おとうと)という呼び方も。


 ――全部、()だった。


 ヘディは続ける。


「ユーサ。奪えないなら……無理やり、そうなるように……してやる」


 指先が、ゆっくりとユーサを指した。


「お前にその力は必要ない。オレがその力を上手に使ってやる。力の無駄遣いだ」


 さらに一段、言葉が刺さる。


「ユーサ。お前に家族は守れない。

 この世界でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 その声音。

 その指先。


 ユーサの中で、過去が重なった。


 ー 「お前には、()()()()()()()()()()()()!!」 ー


 前世の()()の声。

 最後に会った日の冷たい視線。

 突きつけられた指先。


 倒れたまま動けず、誰も手を伸ばしてくれなかった、孤独の底。


 ヘディの瞳は、もう隠す必要もないほどに橙へ揺れ、陽炎が歪む。

 ユーサの目には、それが義兄の幻覚のように映った。


「あ……あ……」


 言葉が出ない。

 身体が固まり、足が動かない。


「!? ユーサさん! どうしたんですか!? しっかりしてください!」


 普段は冷静なエヂヒカが、珍しく声を荒げた。

 だがユーサの目は焦点を結ばない。空を掴むように、視線だけが彷徨っている。


「……だめだ。幻術の類か……」


 エヂヒカは即座に判断し、前へ出た。


「俺達でユーサさんを守るぞ!」

「ペイペイ!! はいよ! 俺らがそこらへんの料理人と思わない方がいいぜ! オレンジの悪魔人よ!!」


 エヂヒカは楽器の形をしたトレイの盾を構え、

 ペイシンはギターみたいな形のフライパンを両手で持って構えた。


 守りながら戦う。

 最初から狙いは、勝つことではない。


 ――ユーサが戻るまで、時間を稼ぐこと。


 ヘディは二人を見もせず、熱を引き連れて歩み寄る。

 まるで太陽そのものが、細い路地に降りてきたような圧だった。


「退け、雑魚ども。火傷や失明では済まんぞ」


 その言葉だけで、二人は理解する。

 自分達では敵わないかもしれない。


 だが、だからこそ退けない。


「ペッ!! こちとら、いつも火を扱って料理してんだよ! 火傷が怖くて料理が作れるかよ!!

 真夏にアウトドアキッチンもしてんだ! そんな太陽の加護程度でやられるかよ!! なぁ? エヂ様!」

「……そうだね。まぁ、こんな燃えてるお客さんを相手にした事はないけど……、

 ウチの店のVIPに、怪我をさせるようなお客は……()()()()()、出禁でも済まされないね」


 軽口で、恐怖を押し込める。


 先に仕掛けたのはペイシンだった。

 地を蹴り、ハンマーのようにフライパンを振り下ろす。


「捕らえた……なっ!?」


 紙一重。

 ヘディはその一撃を、影が滑るような速さでかわした。


 避けた先へ、エヂヒカがトレイを投げる。

 円を描いた銀の軌道が、逃げ道を塞ぐ。


 だが――当たらない。


「!?」

「消えた!?」


「……意外だな。ザキヤミの料理人は、手練れもいるのか。情報にはなかった」

「料理人だからって、包丁しか握れねぇと思ったかよ! オラァ!!」


 声の場所で即座に反応して、二人の連携が続く。

 しかし、攻撃の当たる直前に姿が消え、また別の場所に現れる。


 ヘディは戦いながら二人を測る。


「情報にはなかった連中……というよりも、戦闘を表立ってしていない感じか?」


 力量と癖を読み、情報と照らし合わせる素振りを見せた。


「だが……相手が悪かったな」


 その瞬間、ヘディの身体から橙の光が弾けた。


 閃光。


 路地が白く塗りつぶされる。


「うっ!?」

「っ――!」


 ユーサとエヂヒカの動きが止まる。

 反射で目を閉じた、その一瞬。


 その“止まり”こそが致命傷だった。


「ユーサさん、逃げ――」

「人の心配をしている場合か、色男」


 ヘディの拳が、無防備なエヂヒカの腹へ突き刺さる。

 身体がくの字に折れ、そのまま壁際へ吹き飛んだ。


「ぐっ……!」

「器用なヤツだな。そんなトレイを盾にするとは」


 エヂヒカは歯を食いしばりながら、トレイを支えに立とうとする。


「しかも、熱伝導じゃなく魔力伝導を高めて、魔力を流し、衝撃を逃がす細工か」

「……その通りだよ。ギアド製だ。術の衝撃は逃がせる」


 月光に、トレイの表面とギアドのロゴが一瞬だけ光る。


「そうか。やはりギアド・スターアストの商品は情報通りだな。……だが」


 ヘディが一歩踏み込む。


「防いだのは()()()だ。()()まではできないみたいだな」

「……っ、な……!?」


 次の瞬間、エヂヒカの全身を灼けるような熱が駆け巡った。

 外傷はない。衝撃も受け流したはずだった。

 それなのに、身体の内側だけが煮えたぎるように熱い。


「ぐ……ぁ……」

「その姿では説得力が落ちるな、色男。欠陥品として返品してもらったらどうだ?」


 エヂヒカは信じられない顔で膝をつき、耐え切れず、そのまま地面へ倒れ込んだ。


「まずは一人……ん?」


 そこで、ヘディの視線が動く。


「――あの筋肉男はどこだ?」


「ここにいるぜー!!!」


 横合いから、ペイシンが飛び込んだ。

 サングラス越しに視線を絞り、気配を殺し、奇襲のタイミングを見計らっていた。


 だが、当たらない。


 武器が触れた瞬間、そこにヘディが“いなかった”かのように消える。

 残っているのは、陽炎みたいな橙の輪郭だけだ。


「ちっ! これも当たらねぇのかよ!!」


 ペイシンがサングラスのずれを指先で直す。

 その仕草を見て、ヘディがわずかに目を細めた。

 サングラスにある細工に気付いた。


「なるほど。夜中にサングラスをする格好つけの脳筋ではなかったか。だが――」


 ヘディは胸元に触れた。


 ー 「……」 ー


 呟きのような“詠唱”。

 胸元を押さえ、何かを確かめるように指を滑らせた。


 次の瞬間、橙のオーラが膨れ上がる。

 ヘディの輪郭が、二重、三重に裂けた。


「うおっ!? えええ!!? ほ、本体どれだよ!!」

「何を言っている。この馬鹿は。種明かしする訳ないだろ」


 橙の光が跳ね上がる。


 再び、閃光。


 今度は一つではない。

 二重、三重に増幅した光が、路地を埋め尽くす。


「ぐあ!! 嘘だろっ!? ギアドさんの作ったサングラスしてるっつうのにぃ!!」

「サングラスで全ての光を遮断できる訳ないだろう。魔力だけではなく、加護がこもった光だぞ」


 ペイシンは視界を奪われ、目の奥が焼けるように痛む。

 よろけた隙に、無防備な身体。

 視界を奪われた一瞬を、ヘディは逃さない。


「うぐっあああ!!!」


 重い一撃が、ペイシンの身体を吹き飛ばした。

 サングラスがずれ、石畳の上を転がる。


 悪魔の力と、月の加護が備わった光。

 ギアドの武器も道具も、まともに意味をなさないまま――ペイシンとエヂヒカは敗れた。


「まぁ、それなりに強かったぞ。オレには到底敵わないだろうが」


 そして路地に残ったのは、俯いたままのユーサだった。


 目元を隠し、動かない。

 戦意を失ったようにしか見えない。


「……ユーサ、さん!!」

「あ……危ない、っすよ!! 逃げて……ください!!」


 二人が必死に声を張る。

 だが、返事はない。


 ヘディが笑いながら歩み寄る。

 手を伸ばせば届く距離まで来て、囁いた。


「ユーサ。何も恐れることはない。お前に戦う意志がないなら、オレが代わりに戦ってやる。

 だから……オレに、お前の力をよこせ」


 ヘディが、ゆっくり手を伸ばす。


 ユーサも、ゆっくりと手を上げた。


 まるで洗脳されているかのように、ユーサの膝が折れた。

 跪く。

 ひれ伏す。

 誓いを立てる騎士のように、従う形だけが整っていく。


「……っ!」


 エヂヒカが歯を食いしばる。


「ユーサさん!! 目を……!」

「無駄だ。オレの瞳を見た者は抵抗できない」


 ヘディの指が、ユーサの手に触れる。


 淡い光が、接触した場所からにじんだ。


 ヘディの口元が歪む。

 勝ちを確信したような笑みだった。


「はは、最初からこうすれば良かったな」



 ――次の瞬間。



「!? な――」


 ヘディの動きが止まった。


 ユーサの指が、ヘディの手首へ深く食い込んでいた。

 握り潰すように。

 逃がさないように。

 離れないように。


「これだけ近づけば……掴めば……離れないよね」


 ユーサの体から、赤の秘力と黒の魔力が交差し始める。

 空いた手へ、黒い圧が集まっていく。


「!? 幻惑が切れた!? いや、自力で解いたのか!? 馬鹿な……!!」


 ヘディが瞬間的に逃げようとする。

 だが掴まれた手が、離れない。


 そして――ユーサの脳内で、シ・エルの言葉が反響した。


 ー 「神秘術や神の奇跡は、殺して奪うことはできない」 ー


 ー 「だから、もしユーサの【神秘術】が欲しい場合は

    ユーサに継承させてもらえるほどに《()()()()()()()()》ことが必須条件になる」 ー


 ー 「奪えないから、近づく。

    奪えないから、懐に入る。

     奪えないから、家族や仲間みたいな顔をする。

      そういう奴が、一番怖いよ」 ー


 まるで、こうなることが分かっていたみたいに。


 その言葉が、ユーサの【怒り】を煽った。


 自分は大丈夫だと思っていた。

 救われたと思った。

 やり直せると思った。


 しかし、その幸せだった時間が、胸の奥で音を立てて崩れていく。


 そして何より――。


 その嘘を、“嬉しい”と感じてしまった自分自身が、許せない。


 ユーサから強烈な圧が噴き上がる。

 暴風のように、路地の空気が歪んだ。


「くっ……! 離せ!!」


 ヘディの声が、初めて焦りを滲ませる。

 全身から太陽の熱が迸り、掴まれた腕を灼いていく。


 だが、その痛みすら引き金になった。


 逃げない。

 離さない。

 まるで罰を受け入れるみたいに、ユーサは握る力を強める。


「静まりやがれ!! さっさとその力をよこせ!!!」


 その叫びで、ユーサの【憤怒】に火が付いた。


 ()()()()()()()()()()()()!!


 指を鳴らす音が、路地に跳ねる。


 空いた手に、黒曜石のメリケンサックが召喚された。


 ユーサは、低く言った。


「……そんなに欲しいのかよ……この力が……」


 歯を食いしばる。


「だったら……」


 声は震えていた。

 怒りだけじゃない。

 笑いと泣きが、喉の奥でぐちゃぐちゃに混ざっていた。


「くれてやるよ……!」


 拳が走る。


「――っ!?」


 一撃。


 たった一撃で、路地の空気が割れた。


「ぐっふああぁっ!!!」


 内臓ごと潰れたかのような鈍い破裂音が、石壁に反響する。

 橙の月光の下で、戦況がひっくり返った。


 ヘディは魔力の流れを変え、身体をゆらめかせながら腕を引き抜く。

 距離が開く。

 熱が引く。


「ユーサ……貴様……」

「ヘディさん」


 ユーサの声が、すとんと落ちた。

 怒りと悲しみが、奇妙な静けさの中で混ざっている。


「嬉しかった……幸せだった……『今度こそ』、やり直せると思った……」


 空気は、もう戻らない。


 ヘディの喉がわずかに鳴る。


「嘘だったんですね……全部……僕の過去も……前世も……調べて……楽しんでたんですね」


「……あぁ、そうだよ」


「僕が求めたものを、ずっと欲しかった“真実”を……そんなふうに踏みにじってたなら……」


 ユーサが一歩、踏み出す。


 もう、義兄でも義弟でもない。


「安らかに……楽に……」


 黒曜石の拳が、ぎしりと鳴る。


「死ねると……思うなよ!!!!」


 橙の月が、二人を照らしていた。


 ユーサの顔を見たヘディが、初めて“恐怖”を飲み込んだ。




 怒りも悲しみも吹っ切れた顔に、“涙”が堕ちる。


 それはまるで、ユーサが信じたかった“真実”そのものが、“嘘”としてこの夜に消えていくみたいだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ