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D/L Arc 魔転生 ―召命を越える月虹― D_ / Luna Another world Reincarnation Calling …en Ciel  作者: 桜月 椛(サラ もみじ)
第2章 カーテン・フォール編

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101[2-35].ツェッペリン『降り立つ箱船』 ヘディの情報




「……ピッ! 五十エイ! ……ピッ! これも、五十エイ!」


 マリアがお買い物レジのおもちゃで一人遊びをしている声が響く。

 エイは、この異世界での通貨。(いち)エイが、ユーサの前世でいう日本円の(いち)円。


「……全部五十円で買い物できるのは、夢があって良いなぁ」


 現実逃避のように、ほんの少しだけ。

 ユーサはマリアの声を聞きながら身支度をし、夢の五十円均(いつ)の世界に微笑ましく浸っていた。


 ユーサ達は一度帰宅し、ギルドの詰所にいた。

 引っ越しの準備。荷の仕分け。必要な道具の確認。手続きの段取り。


 やることは山ほどある。なのに、頭のどこかがずっと落ち着かなかった。

 ジルの死亡。フォールス・エルの存在。ザドキ・エルの助け舟。

 そして、シ・エルからの依頼。


 全部、今日の出来事なのに遠い。


 その「遠さ」を噛み砕く暇もなく、運命は、ユーサの命をタイオーの地へ運ぶ。


。。。。。。。。


 ザドキ・エルがキルカに誓いを立て、ジルの葬儀が終わった後のこと。

 デイ神社の応接室。

 ユーサ一家と、シ・エル。ザドキ・エル。キルカ。ケイ。トム。ナザが揃っていた。


「……? みんな、なにをはなしてるの?」


 マリアが首を傾げる。

 けれど、子どもに返すべき空気ではない。


「マリアちゃん、お姉ちゃんと遊んでようか。パパ達は大事な話をしてるみたいだから」


 ケイが察して、マリアの遊び相手になり、話の流れを止めないようにしてくれた。

 皆が揃って話をする中、空気だけが先に結論へ向かっていた。


「ユーサ。すまないが、君には余の()()()使()として、タイオーに行って仕事をしてもらいたい」

「……え? なんで?」


 シ・エルは、いつもの軽さで言う。

 その軽さが、余計にユーサの腹を立たせていた。


「余の部下で、タイオーを担当しているダ・エルの代わりに、本来はク・エルが手伝いに向かう予定だったんだけど……ザキヤミの復興が長引いてね。延期にしてもらっていたら、今度はタイオーが天使不足になってきたのさ。……だけど、ク・エルが捕まった」

「……だからなんで? 僕がエル教会の仕事を?」


 シ・エルは笑ったまま答える。


「君が、余の監視下で働く“()()()使()”になったからだよ。天使教皇様の許可も既に取ってある」


 勝手に決まって、勝手に進んで、ユーサの額に熱が集まった。


「……だから、なんで勝手に話を進めてるんだよ! お前の部下になったつもりはないぞ!」

「ごめんね、ユーサ」


 間に入ったのはトムだった。

 悪いことをした顔で、けれど引かない目をしている。


「ユーサ。あなたが寝ている間に、シ・エルと相談してたのよ」

「……え?」


 トムは続けた。


「ギルドの仕事は私達に任せてちょうだい。タイオーにも、オトムティース経由の運搬と護衛のギルドがあるから。困ったら、そっちで連絡して欲しい」


 知らぬ間に、トムまで丸め込まれていることに、ユーサは言葉を失いかけた。


「……仕方ないさね」


 ナザが煙管を鳴らし、薬草の匂いを吐く。

 空気が少しだけ鎮まった。ナザの声は少し荒いのに、耳だけは静かに通る。


「あんたはともかく、ディアとマリアについてはどうすることもできないさね」

「……どういう事です?」

「あんたら一家を狙ってるのは、悪魔だけじゃないってことだよ。今日のことでよくわかったでしょ?」


 ユーサの背筋が冷えた。

 フォールスが踏み込んできた光景が、脳の奥で噛み合う。

 ディアの肩が僅かに震えた。


「あなた……私、聞いたの」


 ディアは自分の胸元へ手を置く。

 吐き出すのが怖い言葉を、抱えたまま息をするみたいに。


「私が……創造神の生まれ変わりで。

 マリアが……創造神の生まれ変わりしか使えない神秘術を唱える事ができる……」


 ユーサの鼓動が早くなる。


「つまり、マリアにも……その片鱗があるって……」


 ユーサは【召命】の事を思い浮かべた。

 ディアは涙を浮かべたまま、神に縋るように言った。


「……なんとなく、悪魔たちの会話で意味が分かったの。まさか……私のせいで、あなたも、マリアも……巻き込んでしまって……」

「ディアのせいじゃないよ。ディアは、何も悪くない」


 ユーサはそう言いながらも、ディアの震えが止まらないのが分かった。


「でも……さっきのタイオーの天使と研究員が、皆、私とマリアをずっと見ていたの。何かを企むように……ずっとヒソヒソと……怖い話を……」


 ディアの耳の良さが裏目に出る。

 ユーサはディアの震える手に、自分の手を重ねた。


「大丈夫だよ。約束したよね」

「あなた……」

「生まれ変わっても、君を見つけた。どんなことがあっても、幸せにする。絶対守ってみせる」


 人前など関係なく、二人だけの空気が生まれかけた、その時。


「ええ! マリアも、ママをまもるよ!!」


 マリアが勢いよく二人の手に、自分の手を重ねた。


「バリアさん、でてきてー!! ビカーン!!」


 口で効果音をつける。

 見えないのに、家族の輪だけが確かに硬くなる。


 ナザが短く笑って、すぐ真顔に戻った。


「……でもユーサ。あんたが四六時中ずっと守るのは不可能だろ」

「……はい」

「さっきみたいに、他の教会の天使達が問答無用で来たらどうするんだい?」


 言葉が刺さる。

 マリアの“見えないバリア”に、小さな亀裂が入る感覚があった。


「だから、今後はシ・エルの援助と、ザドキ・エル最天使長と、デイ神社の関係者にも……あなた達家族を守ってもらえないか相談してたのよ」


 トムが言う。

 その一言で、ユーサは気づいた。

 悪魔ザドキ・エル戦の後、トムとナザとジルが、シ・エルに呼び出されていた件。

 あれは、この“()()()”を作るためだったのだと。


 シ・エルが淡々と言葉を落とす。


「ユーサ。君無しで話を進めたのは悪かった。だが、悪魔だけじゃない。教会内に潜むスパイの悪魔も、君達一家を狙っている。教会内の関係者ですら、ディアさん達を狙うかもしれない」

「……あぁ」

「そこで、君に“()()()使()”の立場を与え、余の管轄に置く。余のサポートを得て守る。君にもし手を出せば……それは()()()()()()()()()()()()()。こちらも大義名分を立てることができる。それが一番効率的だと思ったのさ」


 ユーサにとってシ・エルへの嫌悪感、不信感はある。

 けれど、今夜の出来事が、それを否定できない。

 現実的な対策であり、家族を守る盾を作る策でもあった。


「因みに天使教皇様にも許可はいただいているし、家族同伴で良い。余の部下達も少しはサポートする」

「……あの、映像で見た天使達か」


 シ・エルの映像共有で見た、シ・エルの部下達。

 戦う相手ではなく、仲間であるならば頼もしいのは一目瞭然だった。


「ただし、守ってもらう以上、君には働いて返してもらう。……という体裁だ」


 体裁。

 ユーサは余計に腹が立っていた。

 自分を殺した人物の言う事を聞かないといけないという不快感。

 しかし、受け入れるしかない現実との差に、言葉では説明できない感情が胸に残る。


 そして、シ・エルはさらっと、とんでもないことを言った。


「因みに、ディアさんとマリアちゃんが悪魔も欲しがっている禁術【世界平等の死(オール・デッド)】の条件――“創造神の魂が必要”という教会の常識があるんだが。……それは()になったから、安心して欲しい」


 室内の空気が止まった。

 誰もが同じ目をした。

 ユーサは無視できない。【召命】にも関わる。

 ディアとマリアを守らなければならない。それに直結する回避方法。


「……常識だった内容が、どうやって“嘘”になったんだよ」

「だって、それを書いたのは、()だからね」


 平然と言うシ・エル。

 胸糞が悪いと分かっていても、救われるユーサ。

 その矛盾が、ユーサの喉に引っかかったまま残る。


「私も驚いた。天使教皇様が、怒り心頭の圧を放っているところも初めて感じた」


 ザドキ・エルが呆れたような、感心するような表情でフォローする。


「あはは。皆、びっくりしてたよ。だから当分、禁術目当てでディアさんとマリアちゃんは狙われないと思っていい」

「……あ、そう」

「だから、まぁ、感謝して欲しいかなぁ。……ついでに、余のお願いも聞いてくれると助かるなぁ」


 シ・エルがわざとらしく上目遣いで見つめて来る。

 ユーサは拳を握った。


 助けられている。分かっている。分かっているからこそ、腹が立つ。


「ユーサ・フォレスト。私からもお願いする。私がついていながら、今回のジル卿の事で、何もできず……すまなかった」


 そこへ、ザドキ・エルが一歩前に出た。


「ザキヤミの事、ク・エルと、君の仲間――オトキミ・ズー、アユラ・ドラゴアロー、ガケマルについては、私に任せて欲しい」


 申し訳なさそうな顔で彼女は続ける。


「シ・エルと君に何があったかは知らないが……こういう奴だが頼りになる。寧ろ、逆に考えて、君がコイツを使ってやっている、ぐらいの感覚で良いと私は思うよ」

「あれ? ザドキ・エル。結構今、さらっと酷いことを色々と言ってないかい?」


 茶化すシ・エルをよそに、今日のザドキ・エルの言葉と行動が嘘ではないことを、場の全員が理解していた。


「あ、いえ……お願いします。……僕も、貴女なら大丈夫だと、信じてますから」


 ユーサが笑って返すと、ザドキ・エルは小さく目を伏せた。


「それと……謝罪が遅くなった。君を裁判にかけた時、君と夫人と娘さんに無礼な事を言った。……謝罪する」


 そして、ザドキ・エルはユーサ一家の前で跪いた。


「……っ」


 ユーサとディアが息を呑む。

 ザドキ・エルの頭が下がる光景は、悪魔裁判を知っている者にとって“異常”に感じた。

 だが、不快感はなかった。


「そんな……あれは悪魔の仕業なんですから、顔をあげてください。私は気にしてませんから」

「マリアもーー! かおをあげて。てんしさま!!」


 ディアとマリアがそう言うなら、ユーサが言う必要はない。

 ユーサは笑って、ザドキ・エルに頷いた。


「……ありがとうございます。ディア……様、そして、娘であるマリア様」

「様……は、ちょっと恥ずかしいです」

「何を言いますか。貴女達親子は創造神の生まれ変わりであり、神の依代。神の天使として、敬うのは当然です」


 ザドキ・エルは顔をあげ、微笑んだ。


「そして……話を戻すが、ユーサ・フォレスト。……フォールス・エル達には気をつけろ」


 ザドキ・エルは目を細めた。


「バラキ・エルに人手不足で応援を依頼したら……あんな勝手な行動をする連中が来た。私の奇跡でザキヤミ内では問題ない。だが、タイオーでは届かない。注意してくれ」


 ユーサの顔が引き締まる。

 家族同伴で動くことの重さが、ここで現実になる。


 キルカが続けた。


「タイオーのデイ神社でも、困り事がありましたら寄ってください。皆さんを歓迎してくれると思います。救世主様も、貴方達を見守ってくださるでしょう」


 ユーサは頷き、救世主像を見上げた。

 ジャンヌに繋がる何か。

 遠い土地にも“繋がり”がある――その事実が、胸を支えた。


 こうして、フォレスト家のタイオー行きが決まった。


。。。。。。


「書類関係とかは、こっちでやっておくから、病院に行ってきなさいな」


 運搬と護衛ギルドの配属変更。引越し準備。手続き。日中は大慌てだった。

 トムの言葉に甘え、ユーサ達一家はナザ病院へ向かった。

 ユーサは仲間の容態も気になり見なければ、行けない。


「あ。(ユーサのアニキ! こんにちは! 筋トレ……じゃなくてリハビリ中です!!)」

「こんにちは、ガケマル。……君も肉体的には重症なんだから、リハビリはほどほどにね」


 オトキミとアユラは秘力枯渇寸前の反動で重傷。

 身体は生きているのに、魂の呼吸が浅いみたいに見えた。

 ガケマルはリハビリをしながら、二人の護衛を続けていた。


「ユーサのアニキ……すみません。オトキミ様は、……まだ目が覚めないみたいで」

「いいんだよ。アユラも無理しないで、ゆっくり休んで」


 ユーサはベッドの横で笑った。


「ザドキ・エル最天使長が仲間になってくれたみたいだし。ここは、彼女の奇跡がついてるらしい。完治するまでは悪魔も寄って来ないって言ってた」


 ザドキ・エルの名前が出ていることに驚きながらも、二人は安心し、肩の力を落とした。


「ちょっとタイオーに行ってくるから、ゆっくり休んで治療してて。休んでた分、今度は僕が皆の分も働くよ」

「ユーサのアニキ……。ありがとうございます……お気をつけて。オトキミ様は僕達が見てますから」

「任、せ、て!(行ってらっしゃい!!)」


 ユーサが部屋を出ようとした瞬間。


「……ユーサの……アニ……キ」

「オトキミ様!?」

 オトキミが目覚めた。

 しかし、目が虚なままだった。

 それでも、手を精一杯伸ばす。


「……行って、らっしゃい」

「うん……。行ってきます」


 今できる精一杯の笑顔で見送るオトキミに、ユーサは嬉しそうに返事をして部屋を出た。


 仲間に別れを告げ、ユーサはナザに呼ばれて自分の最終検査を受けた。

 結果は健康状態も良好。秘力も魔力も問題なし。

 ディアは救急道具の見直しと、薬と補充品の整理に追われていた。


「あなた。結構時間がかかるかも。薬とかの補充もしたいから、待ってて」

「んー……あ、じゃあ僕も秘術道具を補充しに行ってくる」

「その方が助かるかも。マリアはこちらで見ておくから、行って来て良いわよ」


 ディアが動いている間に、ユーサも動く。

 間に合わせるために。

 ユーサはギアドの店に向かった。


。。。。。


「じゃあ、ユーサっさん。出発に間に合わなかった分は、ガルーダ便で届けますね」

「うん。ギアドありがとう。お願いね」

「我らの(ウィーッシュ)!! 任せてください!」


 ギアドの秘術道具店で特注の依頼を入れ、必要な道具を取り揃えて外へ出た時だった。


「あ……そういえば」


 街角に見えた看板。

 『ツェッペリン』

 ディアの兄、へディがいる店。


 ー 「困ったら、各都市にある夜だけ営業してる『ツェッペリン(降り立つ箱船)』って店のザキヤミ支部に来な。今はそこで情報屋の仕事をしてる。俺も召命に関わる情報を調べてみるよ」 ー


 以前、そう言われたのを思い出す。


 ー 「ディアには内緒で来てくれるか?」 ー


 近いうちに、タイオーへ行く。簡単に戻れない。

 ユーサは看板を見上げて――足を止め、そして動いた。


 ツェッペリンの中は、音楽のライブステージを備えた飲食店だった。

 客の笑い声と、楽器の残響。

 街の沈みを、無理やり明るく塗りつぶすような空気。


 ユーサは受付へ近づき、小声で尋ねた。


「あの……ここに、へディさんって人、いますか?」

「ヘディに? ……あんた、名前は?」

「えっと……ユーサ・フォレストです」


 受付の男が一瞬固まり、すぐに奥へ確認を取りに行った。

 戻ってきた男は、何も聞かずにユーサを応接室へ案内した。


。。。。。


 へディの個室。


「お。ユーサ。よく来てくれたね。まぁ、そこにかけて待っててくれ」


 へディは軽い調子で笑って見せた。

 だが目は、軽くない。


()()()ーぞ」

「あ、ありがとうございます」


 机にお茶が置かれる。

 ユーサが口をつけようとした、その時。


「ユーサ。……相談されていた情報で、まず言わないといけないことがある」


 へディは視線を落とし、言った。


「星の勇者なんだけど……」


 ユーサの喉が鳴る。

 召命:五。

 選ばれた勇者。永遠の星座。自分の体以外の四人。


「星の勇者は……()()()()()()()

「……っ!?」


 ユーサはお茶でむせた。


「ごほっ!! ……ごっほ、……え? 亡くなってる……?」


 信じられない、という顔のまま固まるユーサに、へディは申し訳なさそうに言った。


「あぁ……しかも……今から()()()()に」


 ユーサの目が泳ぐ。

 息が止まる。


 【召命】 ()

 『星の力、【神秘術:永遠(エターナル)の星座(・サイン)】を持つ、選ばれた五人の()()()()()()()()()()()


 ーー「【召命】が……叶えられない」


 その絶望が、喉の奥からせり上がってきた。

 その言葉が喉を締め上げ、咳の逃げ場すら奪った。

 お茶のせいではない。詰まったのは――未来だった。


見ている方がいらっしゃいましたら、リアクションボタンを、何卒よろしくお願い申し上げます。

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