第4話 レベルアップ
脱衣所の鏡の前で服を脱いでいく。
その最中、スマウォも外そうと手をかける。
が――
「あ、あれ? 外れない……」
左手首につけていたスマウォがなかなか外れてくれない。
「ん、なんだっ……? あれ? くっ、マ、マジで外れないぞこれっ!」
どういうわけかスマウォは手首にしっかりと張り付いてしまっているかのようにびくともしない。
「おいおい、嘘だろっ……!」
さすがに焦り出す俺。
壊れてもいいから、思いきり力を込めてみる。
しかしそれでもスマウォは手首をがっちりとホールドして離さない。
「んぎぎ……このヤロ……!」
その後、マイナスドライバーを使って破壊を試みるもスマウォは傷一つつかず、脱衣所の鏡の前で全裸でスマウォと格闘すること五分――俺は肩で息をしながらただ立ち尽くしていた。
「なんなんだよこれ……呪われてんのか」
何気なくそう口にした時だった。
ピッとスマウォが音を発したと思うと、画面上に《クエスト》の文字が表れた。
続けて、
『クエスト発動! 一時間以内に蚊を殺せ』
機械音声が脱衣所内にこだまする。
「は? なんだ……クエスト? 一時間以内に蚊を殺せって、どういうことだよ……」
何がなんだかさっぱりわからない。
わかるのは、欲を出してどうやらハズレくじを引いたらしいってことくらい。
「はぁ~……まさか一生このままじゃないよなぁ……」
手首にしがみついて離れないスマウォをみつめながら、俺は今日一番の大きなため息を吐いた。
☆ ☆ ☆
体が冷え切っていたこともあり、俺はスマウォをつけたまま風呂に入ることにした。
不幸中の幸いだったのはスマウォが完全防水だったこと。
そのおかげでスマウォは壊れることはなく、俺はただのゴミを身につけ続けるという最悪の事態だけは避けることが出来た。
とはいえスマウォが外せないことに変わりはなく、俺は風呂から出て自室に戻ってもなおスマウォとにらめっこをしていた。
とそんな時、一匹の蚊が俺の頬に止まった。
条件反射でもって俺はその蚊を叩き潰す。
すると直後、
『クエスト成功! 霧矢秀作のレベルが1上がった』
と機械音声。
そこで俺は『一時間以内に蚊を殺せ』という《クエスト》があったことを思い出した。
どうやって俺がたった今蚊を殺したことをスマウォが察知したのかはわからないが、とにかく俺はクエストをクリアしたことでレベルが1上がったらしい。
はっ、全然嬉しくない。
「そんなことはどうでもいいから、さっさと外れてくれよ……んぎぎぎっ……くそっ」
もう一度試してみるがやはりスマウォは外れない。
「見てろよ……明日、朝起きたら絶対粉々にしてやるからな」
誰にともなく宣言すると、歩き疲れた体を休めるために俺は早々に眠りにつくのだった。
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