第2話 拾得
――放課後。
部活に入っていない俺は茶道部の篠崎さんの分の週番の仕事も引き受けてやることにした。
最初こそ遠慮していた篠崎さんだったが、部長でもある篠崎さんを頼って一年生部員が教室までやってきたため、篠崎さんは「ごめんね霧矢くん。ありがとうね」と申し訳なさそうにしながらも去っていった。
教室には俺一人。
週番日誌にペンを走らせる音だけが響く。
そして数分後、
「よし、終わった」
今日一日の週番の仕事がすべて片付いた俺は日誌を返しに職員室へと赴いた。
担任の先生がいなかったので、先生の机に日誌を置いた俺はその足で玄関へ。
下駄箱で靴に履き替え校庭に出ると、辺りは夕日で赤く染まっていた。
サッカー部と野球部の部活風景を視界の端にとらえつつ校門を通り過ぎる。
高校のすぐ前のバス停にはタイミングよくバスがやってきたところだった。
これ幸いとばかりにバスに駆け込むと、俺は最後部の座席に腰を下ろし「ふぅ」と一息つく。
自分ではわからないが疲れていたのだろうか、バスの発車と同時に俺は深い眠りへと落ちていった。
☆ ☆ ☆
「……お客さん。お客さん、起きてくださいよ。お客さんっ」
耳元で中年男性の声が聞こえる。
さらに肩を優しく揺すられる。
「……ん、ぅん」
俺はそれによって覚醒した。
「大丈夫ですか? お客さん」
「あ……あ、す、すみませんっ。寝ちゃってたみたいですっ……」
「もう車庫に入れますんで降りてくれますか?」
「あ、はいっ、すみません……」
迷惑そうな顔をしたバスの運転手さんに頭を下げて俺は急ぎバスを降りる。
すると直後、バスは大きな車庫へと入っていった。
車庫のシャッターが閉じられる。
夜のとばりの中、辺りを見回し、
「う~ん、まいったな……」
ここがバス会社の敷地内であることを察する俺。
いつの間にかバスの中で熟睡していた俺は、どうやら終着地点を通り越しバス会社にまでやってきてしまっていたようだ。
「もっと早く起こしてくれてもいいのに……」
などと愚痴っても仕方がない。
俺はバス会社をあとにして、暗がりの夜道を歩き帰路につくのだった。
その道中のこと、俺は道端に何かきらりと光る物が落ちていることに気付く。
無視してもよかったのだが、妙に気になり俺はそれに近寄っていった。
するとそこには、
「ん? これってUウォッチじゃないか……?」
Uウォッチらしき物があった。
Uウォッチとはアメリカ限定で売られている最新版のスマートウォッチのことで、日本ではまだ発売日未定のファンからしたら喉から手が出るほど欲しい激レア品だ。
そんな物が日本の片田舎の砂利道に落ちているとは思えないが……。
俺は地面に落ちていたそれを拾い上げじっと目を凝らす。
「本物か、これ……?」
実物を見たことがないので真贋を確かめようがない。
だがおそらく捨ててあった物だ。せっかくだし――
「もらっておくか」
俺はそれを左腕の手首につけてみた。
「おお、なかなかカッコイイな」
パネルにタッチすると明かりがついた。
表示された時刻は午後九時五十分。
「ヤベっ、もうこんな時間かっ」
警察官にみつかったら補導されてしまうかもしれない。
俺はスマウォを操作するのは後回しにして、ひとまず家路へと駆け出すのだった。
どなたか存じませんが、ブクマと☆5評価ありがとうございます!
とてもやる気が出ます(≧▽≦)