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第1話 霧矢秀作

「秀作ー! いつまで寝てるの、早く起きなさいっ!」

階下から母さんの怒鳴り声が届いてくる。


俺は制服に着替えながら、

「もう起きてるってば、今行くよ!」

母さんをこれ以上刺激しないよう急いで自室を出た。


早足で階段を下りてリビングのドアを開けると、しかめっ面の母さんが大口を開けパンを頬張っている。


「秀作、あんた今日から週番って言ってたでしょっ。早く学校に行かなきゃいけないんじゃないのっ?」

「大丈夫だって。週番は俺以外にももう一人女子がいるから」

「だったら余計に遅れたらその子に悪いじゃないっ。朝ご飯なんていいから、あんたもうさっさと学校行きなさいっ」


朝から機嫌の悪い母さんに半ば強引に追い立てられ、俺は空腹のまま家をあとにするのだった。



☆ ☆ ☆



俺の名前は霧矢秀作。

地方の公立高校に通う高校二年生の十七歳だ。


父さんは俺が物心つく前に他界し、今は母さんと二人で暮らしている。

母さんはそれなりに翻訳家として成功しているらしく、そのおかげでうちの経済状況はまずまずといったところだ。


母さんとしては俺を良い大学に行かせたいという思いがあるようで、暇さえあれば勉強しろとうるさいのだが、俺はその期待には応えられそうにない。

というのも俺には将来なりたい職業があるからだ。

そしてその職に就くには大学に通ったという経歴はほぼほぼ意味のないものなのだ。

ただそれを口にするのはいささか恥ずかしいので、もうしばらくは母さんにも黙っているつもりなのだが。



☆ ☆ ☆



自宅近くのバス停からバスに乗り、高校へと向かう。

バスの中には俺と同じ高校の制服を着た女子が一人いた。

名前こそ知らないが時々見かける顔だ。

雰囲気からしておそらく一年生だろう。


すると俺の視線に気づいたのか、その女子が振り向く。

そして俺と目が合うとぺこっと会釈をしてみせた。

俺もそれに倣い会釈をしてから前に向き直る。


バスに揺られること十五分、バスは高校前に停車し、下車した俺は校舎へと歩を進める。


二年生専用玄関で靴から上履きに履き替え教室に向かう途中、

「おはよう、霧矢くん」

後ろから凛とした声が投げかけられた。


振り返り声の主を確認すると、

「あ、篠崎さん」

そこにいたのは篠崎さんだった。


篠崎ミク。俺と同じクラスの女子で席は俺の隣。

誰もなりたがらなかったクラス委員に自ら名乗り出るほどの優等生。

この篠崎さんこそが俺以外のもう一人の週番なのだった。


「霧矢くん、いつもより早いね」

「そりゃあ、今日から週番だからね。篠崎さんに迷惑かけるわけにはいかないし」

「うふふ、ありがとっ」

俺のことを好きなんじゃないかと誤解させるほどの満面の笑みを見せると、篠崎さんは俺の横にぴったりと並んで歩き出す。


「あ、そうそう。霧矢くん、数学の宿題やってきた?」

「あー、まあ一応」

「すごーい。えらいえらい」

手をぱちぱちと叩き俺を見上げる篠崎さん。

これは別に俺を馬鹿にしているわけではなく、俺がいつも宿題を忘れているから素直に褒めてくれているのだ。


「といっても、合ってるかどうかはわからないけど」

「昨日の宿題難しかったもんね。でもやったってことが重要なんだよ」

「うん、まあそうだね」

などと談笑しながら二年二組の教室に入る。


「じゃあわたし週番日誌取ってくるから、霧矢くんは黒板きれいにしておいてくれる?」

「ああ、わかったよ」


通学かばんを机の上に置くと教室を出ていく篠崎さん。

俺はそれを見送ってから黒板へと足を向けた。


黒板消しを手にしたところで、

「おっす、霧矢」

と野太い声が背中にぶつかる。


「おお、おはよう輪島」

振り返らずともわかる。

輪島洋一。幼稚園からの俺の幼なじみだ。


「なんだ霧矢、お前今日週番か?」

「ああ、そうだよ。どうせだから手伝ってくれ」

「仕方ねぇな」

輪島は面倒くさそうにしながらも、そばにあった雑巾を手に取って黒板の一番上を拭き始めた。


「悪いな輪島」

「いいってことよ。霧矢はチビだから届かないもんな」

冗談めかして言う輪島。


「お前がでかすぎるだけだ」

力士並みに大柄な輪島と比べればたしかに背は低いが、俺だって百七十センチはある。

決してチビではない。



二人で黒板を掃除しているとチャイムが鳴った。

と同時に担任の先生がやってきた。


さて、今日も退屈な一日が始まる。

これからよろしくお願いします!(^^)!

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