深夜のホテル探索
修学旅行でテンションが上がり、はしゃいでいた私たちは、ホテルの中を探検しようと深夜、部屋を抜け出してホテルを散策し始めた。
「なんか、寒くね?」
季節は秋。もう冬も近いので、ただ冷えてきているだけだろうと思っていたが。
「お、おい」
友人の一人が、声を上げて指をさした先には、廊下の奥、突き当りに立っている人。
「やばい、逃げろ!」
ばれたら怒られるので、すぐに逃げ出す。私は出遅れてしまい、友人たちを追いかけて逃げる。角を曲がり、3つ目の扉が私たちの部屋だ。あと少し。そう思い、友人に続いて角を曲がると。
「あ、あれ?」
誰もいない。というか、見慣れない景色だ。さっきまで洋風なインテリアや間接照明があったのに、この道はまるで古びた和風な旅館のようだ。壁にはカビが生え、ひび割れ、色あせている。ところどころにある障子も穴が開いており、まるで廃墟に迷い込んでしまったかのようだ。
「お、おい!?」
誰かいないかと声を出すが、返事はない。引き返そうと振り向くと。
「う……」
先ほどの人影が、廊下の奥に立っていた。男なのか女なのか全くわからないので、当然あれが誰なのかも検討がつかない。だが、近づかないほうがいいように思え、逃げ出そうとするが、後ろには廃墟のような道。こちらを行くのも憚られる。どうしようかと迷っていると、やがて廊下の奥の電気が一つ、消える。だが、人影は闇の中に消えず、ライト一つ分、こちらに近づいていた。
「……や、やばいよな」
こちらのほうがまだましだと、廃墟のほうへ行こうとするが。
「な!?」
そこに道はなく、壁しかなかった。さっきまで確かにこの先があったのに。そうこうしているうちにライトがまた一つ消え、影が一つ近づく。
「く、来るな……!」
右も左も壁で、逃げ場はない。また一つライトが消え、さらにまた消える。影はすでに数メートル先にまで近づいており、その姿も見えてくる。影は、スーツ姿のおそらく男性の後ろ姿だ。こちらに背を向けたまま、ライトが消えると同時に、近づいてきている。あと2つ……なんとかしないとまずい気がする。でも、逃げることもどうすることもできず……ライトが、消える。あと一つ。
「う、うああああああ!!」
自暴自棄になり、男の隣を走り抜けようと駆け出す。だが、隣を抜ける瞬間に腕をつかまれ。
「疲れた……」
男が私の顔を覗き込んでくる。顔面はどろどろと溶けており、泥人形のようなその顔は私をじっと見据え……
「一緒に死のう」
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その学校の修学旅行は、その年を最後に行われなくなった。それは、生徒の中に行方不明者が出たからだ。ホテルの中で深夜、友人と出歩いていた際にはぐれ、友人たちはいなくなった生徒に気づいてすぐに教師に知らせて捜索をしたが……現在も、見つかっていない。このホテルは過去に廃業した旅館を建て替えて作られており、そこの従業員も、突然行方不明になる事件があったそうだ。それと男性に関連性があるのかは、誰もわからない。
完