2-1. The Disturbing School Life The Trinity Venus
新章開始です!!
ようやくエメリーたちの学生生活が始まります。
……長かった。
私が郡立エレシア中等学校に入学してはや3日。
テストを終えた私は1-6の教室で机に身を投げ出してうつ伏せになっていました。
今日は現状把握のための学力テストの日。
テストといってもあくまで現状の学力の確認が目的らしいので基本的に入学試験の問題の方が難しかったくらいだ。実際大抵の問題は答えられえたのでひどい結果にはならないでしょう。
問題を作った担任教師の秘密として最後の難問の答えという【秘密】をうっかり見てしまったこと、つまりはカンニングです。
「(どど、どうしましょう……。大問題ですよこれは……。)」
不可抗力とはいえカンニング同然の行為に走ってしまったことに結構思い罪悪感をぬぐえません。
こんな罪悪感に陥った原因は私の特殊な眼にあります。
私の目には【剔抉の眼】という見た人間の秘密を暴くという特殊な能力を持っているのです。
子供のころはイタズラやつまみ食いの犯人探しくらいにしか使い道のなかった眼ですが、入学のためにこの街に来た辺りから風向きが変わってきました。
まず町に来て早々スリを捕まえた時に知り合ったジョードさんにこの眼が相当特殊なものだということを知ったのが始まり。
次に学園で出会った3人の割と重大な秘密を知ったことで私の学園生活に暗雲が立ち込めてきました。
これだけでも大変ですが、何の偶然かこの3人と同じルームメイトになって知ったことで学生生活、いや人生そのものが破綻寸前です。
「【剔抉の眼】……どうにかしないと。」
とはいっても私はこの眼についてよくわかっていません。
なので神の眼について調べていくしかないかもしれない。
国内でも有数の蔵書量を誇るという街の図書館で調べてみようと考えていると。
そこまで考えていると唐突に横から声がかかってきた。
「お疲れエメリー。テストどうだった?最後の問題なんて滅茶苦茶むずかしかったよね?」
「……そうだね。」
「あれ?エメリー大丈夫?顔色悪いよ?自信ないの?」
「うん、大丈夫だから心配しないではゆら。」
隣の席の初めての友人久壽軒はゆらが心配して声をかけてきた。
燃えているような赤い髪を三つ編みにして黒縁の眼鏡をかけ、額に瘤のような角が生えた少女。
名前と角から分かる通り、彼女は寮母のお志津さんと同じ聖藜種である。
同世代の友人がいなかったため人見知りの激しい私でしたが彼女とは入学式に席が隣だったことで色々話すようになった。
ちなみにはゆらは王都の出身ですが私のような寮生活ではなく街中のアパートで一人暮らしているそうです。
「そういえばエメリーって寮暮らしなんだよね?どうなの?寮生活って?」
「…………。」
「ちょ、ちょっと、どうしたの?顔色がますますひどく……なんかくたびれた案山子みたいな顔してるわよ。」
くたびれた案山子。農家の娘でもよくわからない例えですが、私が相当に変な顔をしているということだけは分かりました。
無論その自覚も理由も心当たりがあります。
「……何々?もしかして同じ部屋の人達とうまくいってないとか?」
「うーん。まあね。」
そこで溜息をひとつつくと私はこう続けた。
「……あそこは魔境よ。」
「そこまで!!」
私の表現に驚きを隠せないはゆらだったが決してそれは誇張表現ではない。
何しろ同室の面々は全員曰く付きで個性的かつ強烈。ただの農家の娘である私にははるかに重荷です。
「ねえ?興味本位で聞くんだけどその魔境の住人っていったい誰なの?」
「シャーラ・ヴェルヌさん。」
「シャーラさんね!!すごい!!」
「え?知ってるの?」
確かにこの学校の中で特にクセのある……というかクセしかないと言ってもいい人だが……入学3日で別クラスの人にまで知られているのは正直予想外だった。
「だって入学試験で堂々のトップだったらしいわよ。新入生代表の式辞もしたし。生徒会にも入るってもっぱらの噂よ!!一部の人はフロイラインって呼ばれているらしいわよ。」
まあ、御令嬢というか皇女様なのでそのあだ名はあながち間違ってはいない。
「あと噂では大貴族の出身って噂もあるけど……平民中心のこの学校でさすがにないわよねえ。」
「うん。そうそう。そんなわけないよねえ。」
本当はエメリアの隣国であるローセス帝国の皇太女ですけどそんなこと言うわけにはいきません。
彼女の話だとバラしたりすれば社会的に抹殺されるとのことですから。
……彼女の場合、秘密が露見したのは私の眼が原因ではなくほぼ自爆のようなものですのでなっとくはできませんが。
「ねえねえ。ほかには?誰がいるの?」
「あとは……。ノヴェナ・ノクスさん。」
「1-8の黒姫様も!!」
「黒姫様!?黒姫様ってオルレイン様?」
どうしてそんなあだ名が………とそこまで考えてすぐに納得した。
「そう。あの落ち着いた雰囲気とか黒い髪とか伝説のオルレイン様に似ているからそう呼ばれるようになったらしいわ。」
公国の歴史の中でも最も美しいと評されている黒姫オルレイン様。あのお方とノヴェナ様は長く黒い髪でいつも黒いドレスを着ていたという共通点があったからだろう。さらに常に冷静で物静かだったという点もノヴェナさんと同じだ。なのでノヴェナさんをそう呼んでも正直おかしくはない。
「それにただ者じゃないあのミステリアスな雰囲気。男子達のファンも少なくないわ。」
そう。本当にただ者ではない。何しろあの秘密結社【導く者達】のメンバーなのだから。
私もあっという間に首元にナイフを突きつけて関わるなと脅されてしまったのですから。
……思い出すだけで背筋が凍えてきました。
「そうか、だからシャーラさんノヴェナさんと仲が悪いんだ……。」
そしてシャーラさんがノヴェナさんを目の敵にしている理由が分かってしまいました。
本物の姫である(一応)自分を差し置いてお姫様扱いされいることが許せないのでしょう。
どう考えてもシャーラさんの八つ当たりなので、ノヴェナさんにとっていい迷惑でしょう。
「それでそれで。あとは?」
「トルテ・メリュジーヌちゃん。」
「えええっ!!トルテたんまで!!」
「トルテ【たん】!?」
【たん】ってなんですかその呼び方?
というかはゆらのテンションが突然上がったんだけど!
明らかに先の二人とは反応が違いますね。
「うん。だって小柄な体で甘え上手だし、天真爛漫で何より可愛い!まさに妹って感じじゃない?そのせいでトルテたんは女子から凄い人気なんだから!!」
それに関しては否定できません。私も最初はそういう目で見ていましたから。
彼女が伝説の生物【竜】だということを知るまでは、ですが。
「あまりの愛らしさに入学式の夕方には有志によるファンクラブが結成されたわ。」
「ファンクラブ!?」
「ちなみにかく言う私もファンクラブNo.3なの。エメリーもどう?」
「遠慮しておく。」
「成程。勝者の余裕、ってヤツ?」
「違います。」
ちなみにトルテちゃんは私にほかの2人と違って敵対的な行動をとっているわけではありません。
が、朝早くに絶叫したり、町を歩けば迷子になるなど、とにかく自由奔放な性格をしているため私達は色々と振り回されてやつれきっています。私のメンタルは限界です。
「すごい!!あの【三鼎女神】全員と同室なんてとんでもない強運じゃない!」
「トリニティ・ビーナス!?」
「そうよ。それぞれ優雅・端麗・可憐がずば抜けた3人の美少女。並び立つその三人を誰が呼んだか【三鼎女神】!!」
「……。」
【三鼎女神】って……。名付けた人って絶対色々とこじらせてますね。
「それにしてもあの3人と一緒の部屋なんて(特にトルテたん)スンゴイうらやましい!!楽園じゃない!!替われるものなら替わってほしいなあ。」
なんて呑気なことをのたまうはゆら。
私だって替われるものなら替わって欲しいです。
現状私は。
社会的に殺そうとする大国のお姫様に
物理的に殺そうとする秘密結社の構成員に
精神的に殺そうとしてくる伝説の竜。
あの3人は私にとってトリニティではなく災厄です。
このままだと卒業までに死んでしまうかもしれません。
なのでもう一度言いましょう!
ここは魔境だと!!