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1-3 A Fateful Encounter The Dragonet of Bohemian

エメリア大公国

大公クリシュナが治める島国。

大公家以外の貴族は廃止され、民主国家となっている。

隣接するローセス帝国との関係は現在のところ(元)皇太女を預ける程度には良好である。




「ふー。やっと終わった……。」


 1時間後。

 命の危機から無事に逃れた私は何とか立ち直り、手続きを終わらせ制服を受け取り学生寮へとやってきた。


「大丈夫?ものすごく顔が真っ青よ?」


 事務員さんに心配されたあたりよほど広い顔色だったのだろう。最も本当のことは言えなかったが。

 ちなみにシャーラさんは先に寮に戻ってしまったらしい。

 もっとも、色々と気まずいので一緒に帰りたくはなかったが。


「はあ、本当ならもっと色々見て回りたかったけど……。」


 結局中庭以外のところには行けなかった。

 実際首にナイフを当てられて脅された直後だったので回る気など起きなかったからだ。

 それに校内を見て回るのは入学後にもいつでもできるので特に問題はない。

 それよりも問題は命の危機は完全に去ってはいないのだが、


「関わったら殺すっていうことは逆に言えば関わらなければ大丈夫だよね?うん。見たら逃げよう。」


 とポジティブ(?)に考えていた。というよりそう考えなければメンタルが持たなかったからだ。


 そんなことを考えながら歩くと5分もしないうちに目的地の建物の前に着く。

 確認のために門の横にかけられた表札を読んだ。


「【タンタリア】。間違いないここだ。」


 赤い屋根に白い壁のの3階建ての建物。

 この建物こそ私がお世話になる女学生寮だ。


 エレシア中等学校の受験資格はグランファリ郡に在住しているならば誰でもOKのため私のように遠方からくる生徒も決して珍しくない。郡の中でも辺境に住んでいる私も鉄道で片道6時間かかるので寮生活をするのは必然ともいえる。聞いた話だと全校生徒の3割ほどがどこかの学生寮で暮らしているらしい。

 その中でもこのタンタリアは寮生の人数は一番多いという話だ。


「さっきの学校程じゃないけど……ここもやっぱりおおきいなあ。」


 大きさについては学校の校舎の半分もないが私の村にあったどの建物よりも大きい。

 思った以上に立派な建物を見て今までの陰鬱な気持ちなどほぼ吹き飛んでしまう。


 その威容を前に一瞬だけ硬直したが意を決してドアの右側にあるに呼び鈴を鳴らすと、数秒も経たずに扉が開いて若い茶髪の女性が顔を出した。 


「ほいな。お客さんかな?」

「ええっと私今日からこの寮でお世話になるエメリー・エマーソンですけど。」

「ああ、カーマインさんから聞いとるよ。今日入ってくる子やね。ウチは金居原志津。この寮【タンタリア】の寮母をやっとる。」


 そう答える金居原さんは赤い髪青い目をしたがっしりとした体格の女性で、第一印象は気のいいお母さんといったところだ。

 しかし、私はまず一番気になった額のそれ(・・)をが目に入った。


「あ、あの……金居原さんって【リアーカ】ですか?」

「ああ。やっぱり分かる?角があるから当たり前か。」


 【聖藜種(リアーカ)】。

 私達【正禮種(リガリア)】と外見上は基本的に見分けがつかない。

 ただ一つだけ決定的に違うところがある。

 それは額から角が生えているだけだ。

 事実金居原さんの頭には親指ほどの長さの角が生えていた。

 その角のために一昔前には迫害された歴史があったらしい。


「やっぱり……、リアーカが寮母しとるんが気に食わんかな?」

「いえ、そんな事はありません。すいません失礼なことをして。」

「ええって、珍しいモンに目が行くのはしゃーないからな。」


 そう笑って答える金居原さん。

 あまりじろじろと見るのも申し訳ないので話題をそらすことにした。


「それよりここで何か手続きはありますか?」

「いやいや、こっちでする手続きはない。」

「まあ、エメリーちゃん。とりあえず中に入りや。」

「はい。ありがとうございます。」


 そうして私は扉をくぐり玄関を通り管理人室に案内された。

 そこで私は寮の規則の説明と鍵の受け渡しが行われた。


「これは部屋の鍵ね。君は……205号室やね。なくしたりしたら処罰対象になるから気を付けや。」

「あ、はい気を付けます。ありがとうございます!」


 そういって金居原さんから真鍮製の鍵をもらう。鍵には205と書かれていた木製のキーホルダーがつけられていた。


「では改めて……。ようこそ!学生寮【タンタリア】へ!これから3年間よろしく!」


 この街にについて着いてから寮につくまでほんの数時間。その間に濃厚なイベントが目白押しだったが、これでようやく一息つける。と安心した。

 が、残念ながらそううまく話は進まない。波乱の時間はまだまだ続く。




「さて早速部屋に案内するけんやけど。今から夕食の準備があるから手が離せへんのよ。」

「大丈夫です。1人大丈夫だと思いますけど。」

「うーん、初めて来た子に対してそういう訳にはいかへんよ。」


 その時管理人室に1人の女の子が入ってきた。


「お志津ちゃん。何かおやつある?」

「あ!トルテちゃん。丁度ええところに。」

「ん?なになに?」


 女子の平均よりも低い私に比べても肩くらいほどの背丈しかない8歳くらいの少女。

 緑色のショートの髪を真っ赤な眼をした天真爛漫な少女。いや幼女。


「え?この子は?金居原さんの子供ですか?」


 そういうと金居原さんはプッと噴き出した。


「ちゃうちゃう。この子は君と同じ寮生。」

「ねえねえ、この子誰?新しい子?」

「そうや、この子205号室やから。」

「そうなの!アタシも205号室なんだ!!」

「え?ということは私と同い年なんですか?」


 私は思わず声に出るくらいびっくりしてしまった


「まあな。ウチも最初びっくりからな。何の冗談やってな。」

「はーい!アタシはトルテ・メリュジーヌ!!ピッカピカの1年生!よろしくね!」

「私はエメリー・エマーソン。よろしくねトルテちゃん。」


 そうして私は握手を交わした。


「それじゃあ。今日は夕食は6時新入生の入寮式があるから遅れんようにな。トルテちゃん。エメリーちゃんを案内したってや。アレをあげるから。」

「ガッテンだ!」


 こうして入寮手続きを終えた私はトルテちゃんと一緒に廊下を歩く。


「ところで……トルテちゃん?さっきもらったアレって何?」

「え?ドロップ?」

「ドロップ?飴の?」

「うん!大好きなんだ?」


 そう言ってみせる笑顔は無垢な幼児そのもの。

 本当に私と同じ12歳なのだろうか?と疑問に思ってしまう。


「ねえねえ。それより今夜は新入生の歓迎パーティだよ。お志津さん腕によりをかけるって言ってたよ!楽しみだね!」

「う、うんそうね。楽しみだね。」


 私は思った。この子はいい子だ。無垢で陽気で快活でいるだけで癒される。

 権力を使って脅しにかかってきたり、ナイフを首筋に当てて脅してきたりとか物騒なことをしてくるわけでない。

 そんな子と一緒の部屋になってよかった。

 なんて、最初は思っていました。


「あ、あれ?」


 一応言っておくが、トルテちゃんはいい子だ。そこに間違いは一切ない。

 何が問題なのかというと……これまでのの展開をを考えればお判りいただけるだろう。

 無論私の【剔抉の眼】が、例外なくトルテちゃん頭上にはの秘密が表示されていた。

 といっても他の人のようにはっきりとは見えない、というより辛うじて読める程度に薄かったため最初はまったく気づかなかったのだが。


「(一体どんな秘密が……いやいや。)」


 秘密を見るのは良くないとは思っている。事実今日はすでに2回秘密を見てしまって後悔している。

 しかし、人間目に入ってしまえば意識しなくなるのは難しい。


「(でも……トルテちゃんの秘密なら……大丈夫かな?)」


 それにあの2人の重大な秘密をすでに見てしまっている。秘密を持っていなさそうなトルテちゃんの秘密なんて大したことはないだろう。

 なので目を凝らしてかすれてしまっている文字を読み取った。

 そこにはたった一つの単語が書かれていた。



・竜



「…………………………。」

「ん?あれ?突然止まっちゃってどうしたのエメリーちゃん?」


 その単語がどういう意味なのか分からなかった。いや正確には分かりたくなかった。


「(竜……って、あの、竜?)」


 竜、もしくはドラゴン。

 山よりも大きい躰を持ちながら。軽やかに空を舞い。手足の爪は全てを切り裂き、口からは灼熱を吐き生える牙は鋼鉄をも嚙み砕く。進化論と法則から外れた謎の生物

 その圧倒的な力を持つためにはるか南のサーフィス大陸のには竜を信奉する【龍奉宗】という宗教があるくらいだ。この辺りでも竜に対しては1柱、2柱と数える人も決して少なくはない。


 もちろんドラゴンなんてものは架空の存在であることはすでに証明されている。


「はず……なんですけど。」


 そんな架空の存在が目の前の少女だという。

 あれほどおかしかったあの二人が今ではまともに見えるくらいだ。


「どうしたの?エミリーちゃん?」


 名前を間違えられているが、思考が空白になっているためか指摘する余裕がない。


「ね、ねえトルテちゃん……。」

「なあに?エミリーちゃん」

「えっと……その……トルテちゃんって竜……なの?」


 正直、そう指摘されてもはぐらかされるとおもっていた。

 しかし、トルテちゃんは何も気にした感じもなく、


「うん。そうだよ。ほら。」


 あっさりと認めた上に、その直後に臀部からは尻尾を背中から翼をそして、頭からは角が生えた。


「………。」


 目の前で起こった変化を前に口が開かなくなる。

 目の前の少女からは直接目で見れないくらいの神々しさを感じ取った。

 なるほどドラゴンを神聖なものとして受け取った昔の人々の感性は間違ってていないのかもしれない。

 トルテちゃんの秘密が薄く見えたのも、もしかしたらその神々しさに原因があるのかもしれない。


「どう?かっこいい?」

「とととトルテちゃん引っ込めて引っ込めて!!バレたら大変だよ!!」


 私の指摘を受けてはっとしたトルテちゃんは瞬く間に尻尾と翼、角を戻す。


「あ、ごめん。そういえばこれ秘密だった。みんなには秘密ねハハハハ。」

「は、あははは………。」


 お父さんお母さん。

 私まだ入学していないのにもう辞めたくなってます。




第1章はもう少しだけ続きます!

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