1-0. A Fateful Encounter The ordinary Girl ?
久々の作品です。
更新は不定期です。
そんなに長くはならない…つもりです。
列車から降り立つと、そこは今まで知らなかった世界が広がっていた。
【セクト=オーレン】。
エメリア大公国西部のグランファリ郡最大の街。
西側を海に、東側が湖に挟まれた風光明媚な街。
何よりこの街にはこの国でも最高峰の学校【郡立エレシア中等学校】が建てられていることで公国内のみならず外国でも有名になっている。
その街に今日。私は降りたったのだ。
私の名前はエメリー・エマーソン。
今回私は先程述べたエレシア中等学校への入学のためにこの街に降り立ったのだ。
無論、ただの一介の農夫の娘である私が試験に合格するのは並大抵ではなかった。
先生からもらった問題集を必死になって解きまくって睡眠時間が3時間なんて日も……。
……これ以上書くと止まらなくなりそうなので試験の苦労話はここまでにさせてもらいます。
「さて、とりあえずお腹すいたから軽く食べて…あれ?」
ある男性の頭上に写った文字を見て私は大きく叫んでいた。
「あ、その人スリです!!捕まえてください」
その言葉を聞くや否やさっそう逃げていく一人の男。その手には革製の財布が握られていた。
「おい!それは私の財布だ!!」
そう叫んだのはスリのそばにいたベージュの外套を着た中年の男性。
その財布はその男性の者だったらしい。
「何っ!」
「捕まえろ!!」
その言葉を聞いた周囲の人達は一斉に男に捕まえようとした。
続いてそのスリから浮かんだ文字を見て再び大きく叫んでいた。
「気を付けてください!そ、その人ナイフを持っています!」
「何っ!!」
「くそっ!!」
すると男はナイフを懐から取り出す。それと共にところどころから悲鳴が漏れる。
しかし、財布をすられた男性だけはそんなものは関係ないといわんばかりに飛びかかる。
その瞬間。男はナイフを突き出した瞬間、男性の方はブーツでナイフを蹴り上げる。
「あっ…。」
飛んでいったナイフを見た男はその顔に絶望を浮かべ、
「ぐああああっ!!!!」
一瞬あとには蹴りによる衝撃で顔を歪ませた。
「ありがとう!君が声をかけてくれなかったら私はまだすられたことに気付いていなかっただろう!!」
「いえ、そんな……私がしたのはそれくらいで。」
その後、無事に騎士団にスリを引き渡したスリを捕まえた男性、ジョードさんからお礼に喫茶店でごちそうされることになった。
「それにしても君はエレシアの新入生だったのか。」
「は、はい。今日から学生寮に入寮できるので」
「学生寮……遠方の子か。何処の出身なんだい」
「あ、はい。【デュー=ブラスカス】っていう小さな村で。鉄道で5時間くらいですけど。」
「5時間!!それはだいぶ遠いな……。」
実際【デュー=ブラスカス】は100人にも満たない小さな農村で距離的にもほかの村とも交流が少ない。子供も4人しかいなくて私と同世代の子供は誰もいなかったので勉強ばかりしていた。
正直寂しかったが、そのおかげで今回中等学校に入学することができるようになったのだから世の中は分からない。
「ところで、気にしていることがあってね。どうして彼がスリだと?しかもナイフを持っているなんてわかったんだい?まあ、そのおかげで対処できていたんだが。」
「それは私が他人の秘密が見えからです。」
「秘密が見える?」
「はい。本人が明かしたくない強い秘密。それが頭の上に見えるようになっているんです。」
ちなみに先程のスリの場合は頭の上に
・現在盗品を右手に持っている。
・ナイフを隠し持っている。追い込まれると使うつもり。
という言葉が順番に表れていたからだ。
「例えば私の秘密は?」
「ええっと……。」
瞳を大きく見開く。
おじさんの頭上には真紅の文字が浮かぶ。
「えーっと、すられそうになった財布を今度は右足のブーツに入れていることとかですか?」
「……ほうすごいな。大正解だ。」
感心したように呟くジョードさん。
故郷ではおやつのつまみ食いやら甕を割った犯人探しによく活用したものだ。
驚いた顔でこちらを見ていることに気づく。
「す、すいません。変ですかね私……。」
「驚いた。まさかの【神の眼】か。」
「はい?かみのめ?」
「ああ。……見えないはずのもの、感じられないはずのものが見えたり感じたりする特別な能力。だから神の眼と呼ばれている人智を超えた力をそう呼ぶんだ。」
「君の場合は他者の秘密だね。さしずめ【剔抉の眼】といったところだな。」
「てっけつ?ですか?」
「他人の秘密を暴き立てるという意味だ。言い得て妙だろう?」
成程。確かにそうです。
「でも本当に私がその……神の眼?を持っているんですか?」
「ああ。君が秘密を見るとき瞳が光っていた。神の眼の特徴だ。それに、」
「それに?」
「普通の人間にはそんなものは見えない。かなり珍しいものたな。」
「そ、そうだったんですか。」
その指摘を受けて私は驚いてしまった。何しろこの眼は物心ついた時にはもう見えていたので他の人にも見えているだろうと思っていたのですから。
「一応忠告だが……あんまりこの【神の眼】のことはまわりに言いふらさないように。」
「え?あ、はいありがとうございます。」
この時のジョードさんの忠告の本当の意味を理解するのは今から2時間後、学校を訪れた後のことである。