0. The Day of the Beginning
郡立エレシア中等学校学生寮【タンタリア】205号室。
「おっきろーーーーーー!!!!」
入学式の朝は雄叫びで始まる。
「みんなー!!朝だぞー!!!!」
「うーん。トルテちゃん」
「な、なんですのもう朝ですの……。」
「ZZZ……。」
鈴のような可愛い声(ただし大音量)に私と隣で寝ていた金髪の美少女シャーラさんは思わず目を覚ます。
ちなみに黒髪の少女、ノヴェナさんはこの大声にもかかわらずぐっすりと熟睡している。
「トルテ。時間を考えなさい……。」
「だってだってだって!今日は待ちに待った入学式なんだよ!これで寝てられるわけないよ!!」
楽しいことをある日の朝は思いっきり早起きして騒ぐのを見ると実家の近所に住んでいる小さい子を思い出して少しほほえましく思ってしまった。
「そうだ!!窓を開けて思いっきり大声で起こしてあげよう。」
これ以上騒がれるとほかの部屋の生徒たちに迷惑だ。
なのでここは2人で抑え込むことにした。のだが……。
「やめてやめてトルテちゃ、イタタタタ!!」
「トルテ!本当におやめなさぐえっ!!」
「もー邪魔しないで!!」
でも、私とシャーラさんの2人がかりでもびくともしない。
というよりこっちが押されてしまっている。
「ぐぐぐ……。と、トルテちゃん。お願いだから本当にやめて……。」
「な、何ですのこの子……。一体この小さな体のどこにこんな力が……。痛っ!手を噛むのをやめなさい!!」
「ZZZ……。」
「ノヴェナ!!貴女も起きなさい!!」
数分後。私とシャーラさんはボロボロになりながらもなんとかトルテちゃんを止めることができた。
「あ、ありえませんわ……。こんなお子様に武芸を一通り嗜んだ私がここまでいいようにされるなんて……。」
「うう……。もう散々です……。」
「ごめんごめん。ついつい目が覚めちゃって。」
しかし、私達は夜明け前の段階ですでに満身創痍。
一方のトルテちゃんは2人がかりで抑えたはずなのにケロッとしている。
当然でしょう。彼女は今でこそ人の姿ですが正体は伝説の竜種。
実際、彼女の頭上には微かではあるが【竜】の文字が浮かび上がっている。
当然これは【秘密】。竜種が人の世に出てくれば世界は大パニックになるのは目に見えているからだ。
「いいです事?次こんなことしたら【セジョン】って呼びますわよ!!」
「さ、さすがに可哀そうですよ……。」
【セジョン】とは、古い民話に出てくる雄鶏の名前だ。
夜明けとともに叫ぶ彼女にはピッタリの名前ですが……、女の子に対してひどいあだ名ではないでしょうか? ……竜に性別があるのかは分かりませんが。
「女の子に雄鶏の名前なんてセンス悪すぎ。」
「うるさいですわノヴェナ。その口をとっとと閉じなさい!」
「そんなこともできないくせに命令なんて……バカじゃないの?」
「何ですって!!!」
シャーラさんとのノヴェナさんの2人は朝からケンカするのがいつも通りの風景となっている
とはいっても一方的に突っかかってい来るシャーラさんをノヴェナさんが軽くあしらっているが。
あの二人は何かあったんだろうか?
とはいえ同室の2人に険悪な雰囲気でいられるのは居心地が悪い。
「え、えっと……それにしてもノヴェナさんはずっと寝ていましたよね。すごいですよね。」
「……別に。何でもないわ。」
「………。」
ちなみにそのノヴェナさんには明らかに避けられている。
原因は分からないが、おそらく彼女の頭上に浮かぶ【導く者達】の文字で間違いないでしょう。
彼女の正体が世界的に有名な秘密結社の一員という【秘密】を知ってしまったことがバレてはいないと思いますが、昨日の様子を見るとかなり警戒していると思います。
「大体トルテ!早く起こしすぎですわ!太陽が一番高くなってから起こしなさい!!」
「いや、それは寝すぎですよ!」
昼まで寝るなんてどういう生活をしていたのでしょうか?
その答えはシャーラさんの頭上にある【帝国の次期皇帝】というはっきりとした文字が総てを物語っています。彼女は事情があって【秘密】にしているのですが、私にバレて(半分ばらしたようなものですが)現在私は比喩なしで命を握られています。
「シャーラ。貴方いったいどんな生活をしていたの?」
「うるさいですわノヴェナ。その口をとっとと閉じなさい!」
「そんなこともできないくせに命令なんて……バカじゃないの?」
「何ですって!!!」
シャーラさんとのノヴェナさんの2人は朝からケンカするのがいつも通りの風景となっている
とはいっても一方的に突っかかってい来るシャーラさんをノヴェナさんが軽くあしらっているが。
あの二人は何かあったんだろうか?
とはいえ、同室の2人が険悪な雰囲気でいられるのは居心地が悪い。
「あ、あの………喧嘩はやめて……。」
「そうや。喧嘩はあかん。」
私の生死をさらに遮ったのがタンタリアの寮母さん、金居原志津さんだった。
「せやけど。4人共。まだお日様が登り切っておらんのに騒ぐのはあかんな。」
「ちょ、ちょっと金居原!騒いだのはトルテであって私たちだって被害者ですのよ!」
「連帯責任。あと、目上の人にはさん付けくらいしいやシャーラさん。」
その無言の圧に私達は何も言い返せなかった。(ノヴェナさんとトルテちゃんはよくわからないが。)
そして私達はバツとして朝食を抜きになってしまったのここだけの話です。
あ、最後に自己紹介をさせてもらいます。
私の名前はエメリー・エマーソン。
エメリア大公国の名門校と名高い郡立エレシア中等学校の新入生だ。
とは言っても、私は超大国の皇女様や秘密結社のメンバー、そして伝説の竜種という特殊な存在ではない。どこにでもいるただの農家の娘だ。
そんな私が3人の秘密を知ってしまった理由といえば、
他人の秘密が見えるという特殊な【神の眼】を持っていることを除けばという但し書きがつきますが。