0.0話 描かれ始めた物語
初めまして!悩める仔羊と申します。初投稿ゆえ、誤字脱字があったり話がぐだったりすることになると思いますが、指摘していただければ補足であったり編集していきたいと考えています!どうぞ『COLOR』と悩める仔羊をよろしくお願いします。
『色層の世界 PALETTE』では10歳の誕生日に行われる成人の儀で魔銃と契約を結ぶ。
魔銃の力は【始祖の契約】と呼ばれる人と魔銃が最初に結んだとされる契約から200年経った現在も魔銃には司る色と人間と共通して持つ力があり、色が血筋と能力に関わること以外解明されてはいない。
謎が多くデメリットが潜んでいる可能性を考慮しても、得られる力が大きいため人々は魔銃と契約を結ぶ。
「と、ここまでがこの世界の常識であり今日をもって成人する俺が知っている魔銃についての知識だが……」
俺はエレク・ファーブ、商人である父マーク・ファーブと母エレナ・ファーブの家に長男として生まれた。父は黄の系統の魔銃に好まれる家系であり、母は白と青系統の魔銃に好まれる家系に生まれているため俺はどちらかの色または混色系統の魔銃と契約を結ぶことになるのだと推測される。
問題はこの色によって今後の生き方が変わるということだ。父の魔筋(受け継がれる魔銃の性質)である黄を受け継いだ場合は確実に父の商会を継ぐことになる。黄系統の魔銃と契約を結び得られる能力、特性は商売に向いたものが多いとされており、商売以外への応用は難しいとされることが多い。
母の魔筋を受け継いだ場合は割と自由な生き方ができる。
母は【ダブル】と呼ばれる2色持ちだ。通常違う色の魔筋を持つ両親からの子供は混色の魔筋を持つことが多い。だが、時に2色が混ざることなく独立し、2つの能力を持った魔銃と契約を結ぶ子供が生まれる事がある。母は青と白のダブルの魔筋だった。
母の魔筋を継いだ場合、青の魔筋に向いてる仕事は割とある。水関連の仕事が多いが料理人や医療の場でも活躍の場はある。
白を濃く継げた場合は夢とリスクが多い【魔解士】と呼ばれる職でも好待遇で迎えられることが多い。
魔解士と白の能力については長所しか調べたことがないが1ヶ月後から入学する【王立 メッシュ学園】にて学ぶことができる。
だから、俺が父の魔筋を継げず母の魔筋か混色だった場合、2人いる弟のうちどちらかが黄を受け継げば俺は確実に自由の身となるわけだ…
成人の儀を行う祭壇へ行くための支度をしながら頭の中で人生設計図を描く。習慣となりつつある将来の想像はファーブ商会の跡取り息子という立場からの重圧に潰されぬようにしている現実逃避だ。
はぁ……この歳でストレスを溜めているのは世界が広くとも二桁ほどではないだろうか……。
「坊ちゃん、支度はお済みになられましたでしょうか。私どもに任せていただければ、主とお話しされている間に馬車へ積んでおきますが。」
ノックされた扉から聞こえてきたのは家に仕えている執事見習いのノエルの声だ。歳は俺よりいくつか上で緑系統の魔銃と契約している。
「支度は済んだ。いつも言っているが私は自分の物の管理は自分でしたいんだ。皆を疑っているわけじゃないんだが、自分の物を任せることでミスを他人のせいにするような人間になりたくないんだ。それで、用件は?」
「ご立派な心構え感服いたしました。ですが、主が馬車にてお待ちです。お急ぎくださいませ。」
考え事をしながら支度をしていたため時間の確認を忘れていた出発時間の10分前とはいえ、商売は時間が命取りとなることもある。つまり、急がないと父に叱られる…
「ありがとうノエル、急いで向かおう。」
支度を終えた鞄をノエルに渡し急いで馬車へと向かう。なんせ、父を怒らせると5分間自分のミスを的確に指摘され言い訳の余地なく叱られる。父は怒鳴るなんて非効率なことはしない方だが、成人の儀前から沈んだ気持ちでいたくはない。
出発の5分前馬車に乗り込む、父に怒っているそぶりはないため間に合ったようだ。俺が乗り込みしばらくすると馬車が動き出す。揺れる車内の窓から外の景色が変わり始める。
「エレク、成人おめでとう。思い返せばあっという間に大きくなって母さん嬉しいわ」
目を潤わせながら話しかけてきたのは母さん、身内贔屓なしにしても俺を含め4人の子を産んだとは思えないほどに綺麗な方だ。
「エレク、成人おめでとう。もし、お前が黄の力を継がなかったとしても俺はお前を跡取りとするつもりでいる。一ヶ月後入学予定の学園でもよく学び、友を作り、心身ともに成長してきなさい。」
堅物そうながらも30代後半とは思えない男、これが俺の敬愛している父さんだ。祖父が倒れ商会の会長となる前は、学園を卒業後【魔解士】として活動していたらしい。余り多くは語ってくれないが今でも仕事の傍ら体を鍛えている姿は男をも魅了する。ちなみにノエルの父であり、今は父の秘書をしているナバルは一時期、父を本気で愛していたそうだ。
「ありがとうございます。父上、母上。ファーブ家に生まれた以上、誇りと責任を持って生を全ういたします」
母さんとはまだ一ヶ月ほど過ごす予定ではあるが、父は忙しく学園へ入学するまでの間に言葉を交わすことはできないかもしれないため、今改めて自分の思いを伝える。
俺の言葉に満足そうな顔を見せた父を見て思わず笑みが溢れてしまう。
「何かおかしなことがあるか」
「いえ、ですが父上、そろそろよろしいかと」
俺の言葉をきっかけに父の表情が父としてのものに変わる。父は公私混同を嫌い、父が息子に向ける親としての顔と商会の会長が跡取りに向ける顔を切り替える。
「それもそうか……。しかし、お前も大きくなったな。背はまだ、俺に届かないとはいえ背中が大きくなった気がするぞ」
「父さんと比べるとまだまだ背も小さければ力も弱い。学園で成長して比べられても差を感じないようになってくるよ」
「簡単に抜かされてやるつもりはないがな」
豪快に笑う父に、微笑む母。こうした家族として過ごす時間では俺も口調を崩す。大きな商会の長としては珍しい家族ではあるが、これがファーブ商会が代々途絶えることなく続く秘訣であると俺は考えている。
◇◆◇◆◇
祭壇は洞窟の奥にある。いつ頃からあり、誰が建てたのか不明な祭壇はこの世界の各地に存在する。祭壇によって魔銃の系統は変わらないということが現在常識とされている。では行こうか。
「それではここからは1人で行ってまいります。」
祭壇のある洞窟に入ることができるのは成人の儀式を行う子供1人のみ。その他の者が侵入を試みると不可視の結界が侵入を拒む。
また、契約する子供が洞窟内にいる場合、その子供が出てくるまで他の子供が入ることはできない。
「道は真っ直ぐ伸びていて、壁には素材不明の灯…やはり契約の洞窟とダンジョンは近しいものだと考えて間違いないな」
ダンジョンはこの契約の洞窟を大きくしたようなもので、素材不明の道具や、武具などが見つかる場所だ。【魔解士】の職務の一つはそのダンジョンを攻略し潰すこと。潰さなければ中から野良と思われる魔銃が出て来てしまい、戦闘の経験がない一般人が襲われる危険性がある。
数分歩き続けると両開きの扉が設置されていた。
「ここか…」
扉を開けると階段があり、登った先に何かは分からない像が立っている。
「教わった通りの儀式を始めるか…」
儀式の方法はどこの祭壇でも同じ。像の前に立ち詠唱を始める。
「我誓う、力は人のため、世界の理に従いて、振るうものとす。対価として払うは我が一生。悠久の時を生きる其方らと苦楽を共にし、死を別れとすることを印ここに契約を結ぶ」
詠唱の途中で目の前に契約書のような物が浮かび上がる。書かれた文字は読めない、これが魔銃との契約において危険視される理由の1つだ。指先を添えると少し力が抜ける。これは体内の魔力という魔銃と人間が共通して持つ力が魔銃へと渡るためだと言われていて、ここで出てくる魔力のことは人間と魔銃が共通して持つという性質の他に魔銃の力を使用する際に必要となり人によって保有量が変化することかま解明されている。
〈余が求めるは心、其方は何を望む〉
さぁ、俺の可能性可能性、姿を見せてもらおうか。
「我が望むは、我に眠りし力。流れる血に刻まれし力を今ここに顕現せよ」
詠唱が終わった途端周り光に呑まれる。不思議と温かく感じる光は目の前を白く染めているにもかかわらず眩しいわけではない。光は徐々に収まり、光の収束地にぼんやりと何かが型作られていく。
〈お前の中身が気に入った。今は不安定だが、俺と組めば成し遂げることも可能だろう。クックック〉
右目が金、左目が銀のオッドアイ。形は徐々に4足の生き物となり、例えるなら狼だろうか。神々しいオーラを纏った生き物になった。
「これが俺の魔銃なのか?生き物にしか見えないが…」
〈そりゃそうだろう。俺らは永遠を生きる獣だぞ?〉
「喋るのか⁉︎ お前は一体、魔銃とは人に力を与える武具ではないのか?」
〈武具なぁ…俺らの中でも力の弱い奴だったり、逆に契約を結んだ人間が弱ければ力を引き出すのに最低限の状態である1つの形に固まることはあるが、それが武具なんじゃねぇのかぁ?〉
なるほど、魔銃も元は意思のある生き物なのか…では、魔銃の形はこの狼のような形が基本なのだろうか。そして、この状態の魔銃ということはコイツの力は大きいということなのだろうか。系統が分からない…白と黄のダブルといった所だろうか…
〈おい、口に出して話せよ。人間と契約を交わした実感が湧かねぇだろうが。何のための口だ?あ"ぁ"?〉
「おっと、それは悪い。けど、お前なら俺の心も読めるんじゃないか?お前だって直接声を発してるようには見えない」
〈はぁ…口の回るやつだ。さすがは黄に好かれる筋だな。面倒くさい…〉
「力ある魔銃に褒められるとは光栄だな。で、お前の能力は何なんだ」
小馬鹿にした態度に少し苛立ちを覚えながらも声は荒げず冷静に対話するエレクだったが皮肉を交えて話してしまう。滲み出てしまった未熟さに、魔銃は少し口の端を上げた。
〈そう、怒るな。俺の能力か……言葉では伝えづらいうえに、今のお前では扱うことのできないものだ。俺の能力であることを考えれば当然だがなぁ。なに、俺が契約に応じるんだから、お前には素質がある。お前が成長すればゆっくりと教えてやる〉
「つまり今は答える気がないと…とりあえずはそれで許そう。お前が言う成長の間に疑問が生じれば答えてくれるのか?」
〈ペナルティが無ければ答えてやる。あと、ペナルティについても聞くんじゃねぇぞ、それ自体がペナルティに引っかかるからなぁ〉
「分かった、これをもって契約終了だな。私はエレク・ファーブという。お前のことはなんと呼べばいい?」
〈素の口調で良いぞ、俺はレイだ。お前の過去や内面は召喚された時に知った。もう一度言っておくがお前には素質がある。砕けて話すことを許してやる。それお前の敬語で他人のように接してくる態度はいけ好かねぇ、次やったらお前の魔力を吸い尽くすからそのつもりでいろ”ぉ〉
「そこまで言うなら分かったよ。レイ宜しくな」
フワフワな毛並みを撫でてみようと伸ばした手がレイの頭に触れたときレイの体は徐々に霧のようになり俺の体に吸い込まれていった。こうして俺の成人の儀は謎を多く残し終了したのである。
◆◇◆◇◆
どれくらい経っていたのだろう。洞窟を出た俺を出迎えたのは血相を変えたノエルだった。
「坊ちゃん、ご無事ですか?」
「俺は大丈夫だけど、かなり時間がかかってたみたいだね」
空を見上げると星がいっぱいに広がっていた。洞窟に入ったのが昼前だということを考えるとかなりの時間が経っていたことが分かる。
「お怪我はないようですね。主と奥様が心配なさっています。すぐに帰りましょう」
俺は頷くとノエルの後を追う。身長差があるためノエルはゆっくりと進む。それでもいつもより少し遅いペースなのは彼の気遣いなのだろう。
馬車の前で2人の影が見えた。俺をこの世に産んでくれた2人だ。
「父さん、母さん。ただいま戻りました。」
母はほっとしたのか崩れ落ちかけたが父が支えた。
「エレク、良かった。本当に無事で良かった。」
泣かせてしまったことに罪悪感を覚えつつ父の方を向く。
「エレク、無事で何よりだ。話したいことも多くあるが、母さんもこの調子だし、じきに暗くなる。一先ず屋敷に戻り食事でもしながら話そうか」
いつもより優しさが多く含まれた声に少し安堵する。
疲れていたのだろう、俺は馬車に乗り込むと気を失うように眠りについた。
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ではまた次回お会いしましょう。