第九話 商談
テントの中は想像していたよりも広かった。
左右には沢山の雑貨が積まれている。
もっと武器とかポーションとかあるのかと思っていたがそういったものは見当たらない。
良く分からない絵とかテントの壁から魔獣の首から上が突き刺さってたりするかと思ったが、
それもない。ちょっと意外だった。
奥に目を向けるとその商人がいた。
銀髪銀目の青年だ。
顔立ちは整っており、長い手足に冷ややかな視線。
眼鏡をかけており、この世界では初めて見た。
更に言えばこの世界で見た事のない黒のスーツを着ている。
というかさっき名前を聞いた時点でそうなんじゃないかとは思っていたが。
「いらっしゃい」
こいつ間違いなく俺と同じ異世界人だ。
あの占い師の女の子といい意外とこっちに来てる異世界人って多いのか?
「これは珍しいお客さんだ。初めまして。
私はここの主、西条と申します。以後お見知りおきを」
西条はにこりと笑う。
老若男女問わず好かれそうな感じだ。
「どうぞ、そちらの椅子に座ってください」
促され俺とエリュシカは座った。
「初めまして、俺はミツキ、こっちはエリュシカです」
「ミツキさんですか。見たところ旅人に見えますが、私に何か用でも?」
「伝説のアイテムを探しています」
「伝説の……アイテム」
続けて……と手のひらを向けてくる。
「この世界ににはなんでも願いを叶えてくれる伝説のアイテムがあるって聞きました。
それについて何か知らないかと思いまして」
「そうですか」
西条は背もたれに身体を預けながら腕組みする。
「いくら払いますか?」
「え?」
「私が扱う商品は少々の雑貨とマジックアイテム、そして情報です。
しかし、勘違いする人が多いのですが情報は高い。
形がなくてもそれは商品です。情報は武器ですからね。
どんな情報かはまだ明かせません。それにあなたはどれくらい払いますか?
面倒な交渉は嫌いです、ですから一度だけ値段交渉に応じましょう」
西条はにこりと笑う。
「いかがですか?」
「……ちなみにさわりだけ教えてくれたりは?」
「お帰りになりますか?」
「くっ……!」
困ったな。
高い金を払ってしょぼい情報なら嫌だが。
しかし、安い金を言って重要な情報が聞けないのは困る。
これは俺らの本気度まで試しているのか?
西条を見ると和やかな笑みを浮かべている。
その作り物のような笑いにイラっとするのは俺の心が狭いからだろうか。
「うーん……ん?」
どうこたえようか悩んでいるとエリュシカが俺の袖をくいくいと引っ張ってきた。
持っているのは街からここまで来るまでに魔獣を狩った時に手に入れた石の袋だ。
これを使えってか? でもこれじゃきっと足りない……いや、待てよ。
俺は石の入った袋を机の上に置いた。
袋は開けずに音だけ鳴らす。
「これで足りるか?」
そっちが情報が分からないまま俺らに決断を迫るなら。
こっちも袋の中身がいくら入っているか見せないで決断を迫ってやる。
一休さんがやりそうなトンチである。
西条は数度瞬きをして、すぐに気づいたのだろう。
ちょっと怒るかと思ったのだが、
「くっくっく」
西条は笑い出した。
「いきなり怒る者、見栄を張るもの、こちらから一つも譲歩を引き出さずに大金を出す者。
様々いましたがなるほど、面白い方ですね」
西条は袋の中身を見ずに頷いた。
「費用はこれで結構、とはいっても大金をもらう程の情報ではないんですけどね」
『女神レイゼンの秘宝』
「これがその伝説のアイテムの名前です。
私も過去旅をしている途中で聞いただけですけどね、
それが実在するのかは分かりませんが名前があるなら本当なのかもしれません。
大した情報じゃないでしょう?」
西条はにこやかな笑みを浮かべた。
確かに大金を払う程ではなかったが、名前だけでも分かったなら十分だ。
「ところでこの袋にはいくら入っているんですか?」
「見てみろよ」
魔獣を倒して手に入れた石が入っているが、法外な金額ではない。
むしろ重要な情報だとしたら確実に足りないレベルだ。
「あなたは詐欺師の才能がありそうですね」
「嬉しくねえよ」
「詐欺師も立派な才能だと思いますけどね」
「お前詐欺に遭うかもしれないぞ」
「今さっき遭いましたよ、
とはいえ、商人は詐欺の方法を知れば知るほど優秀になれると思ってます」
「前向きだね」
「誉め言葉と取っておきましょう。
ところで隣の方は話さないんですか?」
西条はエリュシカの方を向くがエリュシカは何も言わずに俯く。
「あんまり見ない方が良い」
「へえ、見せたくない理由でも?
見たところそのフードの裏側には封印が施されてますね。
恐らく破魔のフードではないかと」
「知ってんのか?」
「一応風の噂でそんな物があると聞いています。
という事は封印しなければいけない身体という事でしょうか。
……と、詮索はいけないですね。費用が発生してしまいます。
それに本当に私が気になっているのは……」
西条は俺の方を見る。
「ま、いいです。これから私はユーグォの街に行くつもりです。
貴方方はどちらに行かれますか?」
「俺らはユーグォから来たからな、会うのはこれで最後になるかもな」
「それは残念です。
何か困ったことがありましたら私にお申し付けください。
対価次第ですが安くしますよ。……同郷のよしみでね」
「…………っ!」
こいつ気づいてやがった。
という事は何か知ってる?
「おまえ……」
「おや? なんでしょうか」
途端に外が騒がしくなる。
「話は後にしましょうか」
西条が立ち上がり外へ、俺もそれに続いた。