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第八話 街道の商人

 ユーグォの街から離れて数日が経つ。

 森に入れば魔獣に襲われ、草原に出てもたまに魔獣に襲われる。

 この世界では魔獣はちょっと歩けばいるよねレベルでいる。

 だからだろう、街で暮らす方がはるかに楽だと思う。

 しかしながら、この隣を歩いているエリュシカは七歳から十年間。

 ずっと街に属せず一人で外で生きてきたのだから大したものである。

 もっとも、彼女がそこらの魔獣よりはるかに強いことは言うまでも無いのだが。



 魔獣の肉を焼き、その上にユーグォで買ってきた香辛料をかけて食べていた時。

 エリュシカが目を細めながら俺をじっと見てきた。

 数日前の一件があってからエリュシカとの距離はこれまで以上に近い。

 表情も口数もそんなに変わっていない。

 だが何かといえば俺に身体を寄せてくるのだ。



 俺は気づいていない鈍感主人公を気取りながら思う。

 これは俺にもモテ期が来たんじゃないかと。

 人生で三度来るというあれが、遂にセカンドキッス解禁の時が来たか。

 それとももっと先? いや困ったな。

 ちょっと異世界最高過ぎない?

 これならいつまでもいたいっていうか……いや、待てよ。

 ラブコメオンリーも良いけど、どうせなら何か目標位決めたいよな。

 世界を救うとか、魔王を倒すとか……は俺じゃ無理か。

 ならば。

 俺は隣に寄り添うエリュシカを見る。



「なあエリュシカ、そういえばお前って探し物あるって言ってたよな。

 なんでも願いが叶う伝説のアイテムだっけ。

 もし手に入れたら内を願うつもりなんだ?」



 俺が問いかけるとエリュシカはちらっと俺を見る。

 そしてぽつりと言う。



「力を失っても良いから……マグナスの呪いを解呪したい」



 切実な願いだ。

 やはりエリュシカは呪いと引き換えに力を持ってしまった事を後悔しているのだ。

 それならまあ、俺が望むのは一つだろう。

 魔王討伐とか世界平和とか良いわ。



「よし、俺決めたよ」

「…………?」

「俺、エリュシカの為に伝説のアイテムを見つけてやるよ。

 お前は俺を何度も助けてくれたからな。今度は俺が助ける番だ。

 うん、どうせ他にやることもないし。良いだろ?」

「それは……嬉しいけど、でも」

「良いんだよ、俺がしたいからするんだ。

 その代わり俺が死にそうになったらまた助けてくれ」

「…………」



 エリュシカは静かに頷いた。

 さて、ようやくこの世界でやることが決まったな。

 んじゃま、まずは自分の能力値でも確認し得て現状把握と行きますか!

 ていうか俺ドラゴンと戦ったんだし、少しは能力値も上がってんじゃね?

 早速能力値を開くとエリュシカが俺に身体を預けながら覗き込んでくる。

 うはっ、エリュシカたん超良い匂いする!

 しかし、俺はそれをおくびにも出さずにエリュシカを見る。



「ん、興味あるのか? 良いよ、一緒に見ようぜ」



 余裕ぶった口調で誘いながら、俺はエリュシカと一緒に能力値を確認した。



 ネーム

 高山光紀

 クラスD

 筋力73、耐久値91、敏捷性60、魔力23、運9

 スキル

 麻痺耐性1、火打石1、交渉1、メンタルブレイク耐性-3



「……大して変わってなくね?」



 ドラゴンと戦って死にかけたっていうのに何この能力値の上がらなさ。

 思った以上に変わってなくてさっき格好つけたのが恥ずかしいんだけど。



「ちょっと上がった」

「ちょっとすぎんだろ。いつになったら俺もクラスAになるんだよ」

「そのうち……」

「本当に? おい、こっち向けよ」



 エリュシカは目を逸らしたまま俺の方を向かない。

 完全に口だけで、こういう時位上手に嘘をついて欲しいものである。



 それから更に数日森を歩いていると急に開けた道に出た。

 沢山のテントが見える。



「なんだあれ?」

「行商人」

「へえ……」



 エリュシカに聞くとここは街道であり、テントは行商人たちの物らしい。

 見通しも良く、水辺も近くにあり、馬車が並んでいる。

 付近にも魔獣はいないようだ。



「ちょっと行ってみないか?

 ほら、こういうところで意外と情報入るかもしれないだろう。

 伝説のアイテムの情報とか。

 大丈夫、俺が話をするからさ……どう?」



 エリュシカは少し迷ってから頷いた。

 早速フードを被る。



 彼らは街道に沿って露店を出しているようだ。

 ざっと数えるだけでも二桁は店を出している。

 とりあえず一番近くの店から寄ることにした。



「いらっしゃい、存分に見て行ってくれよな」

「こんなところで店を出しているのか?」

「そうさ、ここは街道、水辺も近い。

 こういうところで店を出さない手はないさ。

 旅人だって結構いるぜ」



 店主が指さす方向を見ると確かに買い物をしている旅人は結構いるようだ。



「ここは都市と都市の間の休憩地だからな。客も案外くるんだ。

 それにこんなに商人がいればものによっては街より質が良かったりもする」

「へえ、質が良い物ねえ……おっさんは何を取り扱ってんの?」

「ふふ……これだ」



 店主がどや顔で見せてきたものは水だ。

 ちゃぽちゃぽと揺れるそれはガラスに似た容器に入った色付き水。



「なにそれ、爆発でもすんの?」

「え、見て分からないのか。

 ポーションだよ」

「ポーション? ポーションってあれだろ、体力が回復したりする」

「なんだよ知ってるじゃないか。そのあれだよ。

 飲んで良し、かけて良し、口から肌から効く優れものよ」

「へえ、でもユーグォでそんなの見たかな……」

「あそこはポーションの販売を教会が管理してるからなあ……。

 普通の店じゃ売れないんだ。だから俺ら商人がここで店を開いている理由だな。

 街だと許可がないと売れないものも結構あるんだよ」

「ふーん」

「どうだい? 買うか?」



 欲しい気はするけど。金出すのは俺じゃないからな。

 隣を見るとエリュシカがお金を出している。

 これで買えるだけ買えってか。



「じゃあこれでありったけくれ」

「おお、太っ腹だね。良いぜ、売ってやるさ。

 まとめ買いしてくれるなら色も付けよう。

 ……ところで」



 店主はフードを被っているエリュシカを見る。

 顔を近づけて小声で話しかけてくる。



「よく見えないが隣は女か?」

「あ、うんそうだけど」



 ついついと手招きしてくる。



「なんだよ」

「媚薬はいるか?」

「……媚薬だと?」



 エリュシカをちらっと見て聞こえていない事を確認する。



「それで媚薬ってなんだよ」

「その名の通りさ、最近出まわってきたんだけどな。

 これを女に飲ませるともう豹変するらしい。

 どっちが狼か分からない位よ。男が飲んでも良いけどな」

「すげえじゃん。

 おいくら?」

「こいつは値が張るな。……このくらい」



 店主が示してきたのはポーションの五倍の金額だ。



「おいおい、ちょっと高すぎるんじゃねーの?

 もっと安くできないのか?」

「そうか? なら残念だが諦めな。

 一度のチャンスに金をかけられねえ男には無縁の物さ」

「…………」



 その後、俺はエリュシカに特別なポーションという名目で一つだけ買ってもらった。

 店主はニマニマと悪そうな顔をする。

 俺も悪い顔をしてそれを懐に入れた。



「で、ついでに聞くけどさ、伝説のアイテムについて知らない?」

「伝説のアイテム? どんなのよ」

「んーと……何でも願いを叶えてくれるみたいな?」

「そんなもん本当にあったら俺が欲しいよ。情報なんて売らねえよ」

「そりゃそうだよなあ……」



 冷静に考えてみればそうだな。

 空振りか、後ろ手に手を振り去ろうとしたところで、店主が待てと呼び止めてくる。



「兄ちゃんたちは色々買ってくれたから特別に教えてやるよ」

「あん?」

「ここには沢山の商人がいるんだけど一人それを知ってるかもって奴がいる。

 最近俺らの行商旅に加わった奴で物知りな奴だ。

 ちょっと変わっているけどな。行って見ろ」

「ふーん、分かった。それでそいつの名前は?」



 露店の奥へ奥へと向かっていくと、一際大きなテントが現れた。

 正面の入り口には二つの剣が重なって十字を作っている。

 文様だろうか、他のテントにはない珍しい意匠が掲げられていた。

 更にテントの周りには人だかりが出来ている。



「無理だ……そんなの出来るわけがない……」

「こんなに金を出してもまだ貪る気か。金……金……」



 ある者はぶつぶつと呟きながら頭を抱え。

 ある者は金ぴかの服を着ているのに必死に金を数えている。



「てめえになんて二度と頼むか、糞野郎!」



 見ているとテントの中から激怒して出てきた者までいる。



「大丈夫かここ」



 エリュシカがそっと俺の腕を掴む。

 正直行きたくないけど、紹介されたしな。

 気乗りはしないが俺とエリュシカはゆっくりとテントの中に入っていった。

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