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第六話 ドラゴンを圧倒する者



「ブレスが来るぞ! 盾早く!」

「よっしゃ! 俺が防ぐ、後方魔法を急げ」

「今やってる! 前衛何とかもたせろ」

「硬すぎるな、俺の力じゃどうにも……」



 門を出ると自警団の人らが大声を上げながら戦っていた。

 ドラゴンだ。

 赤い瞳に大きな翼、三本指の足に硬質そうな皮膚。鋭い牙と爪。

 口からは小さな炎が飛び出している。

 その姿は優に十メートルはあるだろう。



「ミツキ!」

「エリュシカ」



 珍しく大きな声を上げてフードを目深に被ったエリュシカが近づいて来る。



「生きてた」

「俺を何だと思ってんだよ」

「ドラゴン」

「ドラゴンだな、それが?」



 最初に口を指さし、そして次に腹を指さす。

 なるほど、俺が食べられたんじゃないかと。

 そう思ったわけだな。



「あほか、食われるにしても早すぎるだろ。

 何であいつらより先に飛び込んで食われてんだよ、

 俺馬鹿じゃねえか」



 いうとエリュシカは俺の服の袖を掴む。

 何だろう。本当に心配していたみたいなのが伝わって来て恥ずかしい。



「それで、あいつrは勝てそうなのか?」



 エリュシカは首を横に振る。

 負けそうなのか……。

 様子を見る。

 確かに剣で攻撃役のダメージは入っているように見えない。皮膚に弾かれてるからな。

 更に魔法も大して効いているように見えない。

 ましてや盾役なんてただ守ってるだけだし。



「あれは剣が悪いのか?」

「力」

「ふーん、まああの皮膚硬そうだもんな。それで?」

「…………?」

「エリュシカは助けるのか?」

「…………」



 即答だと思ったが意外にもエリュシカは助けに行かないようだ。

 いや、迷っているというのが正しいか。

 あのドラゴンそんなに強いのか?



「てことはエリュシカでも勝てないって事か?」

「違う、勝てる」

「え、勝てるのか?」



 聞くと当たり前のように頷いた。

 流石、能力値高いもんな。

 それなら余計疑問だ。どうして助けに行かないのか。

 勝てるのに行かない、何故?



「このままじゃ街まで被害が出るって言ってたぞ」

「…………」



 しかし、エリュシカは一向に動かない。

 無表情のまま、苦戦している彼らを見ているだけだ。

 その姿に俺はちょっとだけ苛立ちを感じた。

 助けられるのに助けない。

 昔を思い出したのだ。

 痴漢として捕まった時、違うと必死に弁明しているのに両親たちは動いてくれなかった。

 俺を信じて抗議の一つでもしてくれたら何か変わったかもしれないのに。



「ぐああああああっ!」



 一際高い悲鳴が聞こえた。

 遂に度重なるブレスに耐え切れず、盾役の数人が倒れたのだ。

 このままじゃ総崩れだ。

 俺は一瞬エリュシカを見た。

 そして……



「くそ……!」



 俺は駆け出した。

 ドラゴンが力を溜める。

 追撃のブレスを放とうとしている所に飛び込んだ。

 見上げるが顔には届かない。どこを狙えば。

 落ち着いて大きな相手と戦う際のセオリーを思い出す。

 足元……そうだ、足元を狙えばいい。

 足を切ろうとしたらカン……とあっけなく皮膚に弾かれた。

 だから……



「こんのおお!」



 俺は足の皮膚と爪の境目を狙って剣を突き刺した。

 小さな継ぎ目だったが手ごたえはあった。

 ドラゴンは小さな悲鳴を上げて顔を上げた。

 直後。

 地面に向かうはずだったブレスはそのまま中空めがけて飛んでいく。

 助けられた。



「見たか、おらぁああ!」



 俺でも出来る。

 そう思った直後、俺はドラゴンと目が合った。

 大きな赤い瞳が俺をまっすぐに見据えている。

 すぐに大きな翼の一撃が俺に飛んできた。

 剣で受け止めようと足に力を入れて踏ん張るが。



「あぁ!?」



 俺は一瞬すら耐えることも出来ずに思いっきり飛ばされた。

 二度、三度と地面を跳ねる。

 一撃。

 たった一撃で鎧はへこみ、剣はそのまま弾かれ、

 身体はバラバラになりそうな程の痛みを覚える。

 死ななかったのが奇跡かもしれない。

 立ち上がろうとして、足に力が入らず転ぶ。

 ぶるぶると震えるばかりで起き上がれない。

 しかし、ドラゴンは俺の方へ一歩二歩と歩いてくる。



 足が頭上に来る。

 翼の一撃でこんなに衝撃を受けるのだ。

 この巨体に踏みつけられたら。

 圧死。

 頭の中を最悪の想像が走る。

 俺が頭を抱え小さくなった瞬間。



 衝撃は来なかった。



「大丈夫か兄ちゃん」



 髭面のおっさんが話しかけてきた。

 それどころか盾を持った男たち数人が俺を後ろに庇っていたのだ。

 踏みつけは斜めに立てた盾のおかげで横の地面にずれていた。



「さっきは助かったぜ」

「兄ちゃんも大して強くなさそうなのにやるじゃないか」

「俺たちと同じく弱そうなのに勇気あるな」



 おっさんたちは冷や汗をかきながら軽口を叩く。

 何だ、良い人たちじゃないか。

 助けて良かった。



「くうう……」



 ようやく震えが止まり、力が入り始めた足でゆっくりと起き上がる。

 近くに転がっていた剣は折れていない。まだいける。



「さあ、ここからだ。やってやるぜ」

「新手だ!」



 一際大きな声が聞こえた。

 一頭だけでもきついのに更にもう一頭ドラゴンが歩いてくる。

 後ろに回り込んでいた数人がもう一頭のブレスで飛ばされる。

 囲んでいたはずがあっという間に包囲は瓦解してしまった。

 絶対的な力の差。

 絶望的なまでの戦力差。

 盾を構えていたはずのおっさん達は二度目のブレスで地面に横たわる。



「それは無理だろ……」



 俺はぺたんと地面に座り込んだ。

 やってやるという威勢はどこへ行ったのか。

 右手には作ってもらった剣がある。

 二頭のドラゴンを目の前に自分は最弱なステータスと一本の剣を持つだけ。

 勝てるわけがない。



 鬼を倒したと言われる一寸法師が爪楊枝を持っても恐竜には勝てない。

 腹の中に入って倒す……なんてのは童話の話だ。

 いざあの腹の中に入ってしまえば刃も通じずただ消化されるのを待つだけ。

 無常にもドラゴンが再び近づいて来る。

 盾もない俺はただの餌。



 勘違いしていた。

 少しだけゲームの中のようだったから俺は楽観的に考えていた。

 きっとこの世界にコンティニューはない。

 あるのは死だけ。

 噛み砕かれるか、潰されるか、飲まれて消化されるか。

 死の形が違うだけ。

 死……死……。

 それが現実のものとなった時、突然全身に震えが走った。

 奥歯はカチカチとなり、怯えが濁流となって全身に走る。

 周囲からは諦観の息が漏れる。

 俺の目の前にドラゴンが来た。

 静かに目を閉じた。



 それは長い一瞬だった。

 誰かが前に立った気がして目を覚ます。

 エリュシカだ。

 この戦いで何度死ぬと思っただろう。

 最後の最後に最強の助けが来た。



 俺の体に文様が書かれたフードが落ちる。

 圧倒的だった。

 エリュシカの身体がぶれたと思った瞬間。

 まず一頭ドラゴンの片翼が俺の目の前に落ちてきた。



「……は?」



 エリュシカは右に左にステップを踏みながら、閃光のような動きで切り刻んでいく。

 エリュシカは自分より遥かに大きなドラゴンの身体を次々と削っていき。

 ドラゴンは体中から紫の血を流しながら地に伏してしまう。

 もう一頭のドラゴンがブレスを吐こうと力を入れているが、エリュシカは止まらない。

 ぶんぶん……と剣に付着した返り血を払い、そのまま突貫する。

 一陣の風の如く距離を詰めたエリュシカはドラゴンの懐に潜り込んだかと思うと、

 下からドラゴンの顎をかちあげる。

 吐き出そうとしたブレスは行き場をなくし閉められたドラゴンの口の中で爆発する。



 煌々と煙が出る中、エリュシカは更にドラゴンの片足を断ち切る。

 バランスを崩し倒れこむドラゴン。

 更にもう片方の足も斬り、ドラゴンは甲高い悲鳴を上げる。

 地面に伏したドラゴンの眉間にとどめとばかりに剣を突き刺す。

 最後まで殺気だっていたドラゴンの赤い瞳から静かに光が消えた。

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