第五話 占い師とドラゴン来襲
エリュシカと離れた俺は、静かな路地を歩いていた。
来る途中繁華街で適当に店主に話しかけた。
理由はもちろん、店員を募集していないかって事だ。
いくら武具を買ってもらえたり、お小遣いを貰えるにしても
流石に自分は何もしないというのは悪い気がする。
だからバイトが無いかと思ってのだが。
「手伝い? んん、悪いがうちには弟子がいるからなあ。
それにうちじゃない他の店もそんなもんだから無理だろう」
あっさり断られた。
店主が言うには基本的に店には昔の丁稚みたいな、
住み込みで働く弟子みたいのがいるらしい。
少しの駄賃と飯を食わせてやる代わりに仕事の事から雑用までを任せ、
一人前の後継者にするんだとか。
そりゃバイトなんて要らないよなぁ……。
「おいおいおい、こんなんじゃいつまでたってもエリュシカに金返せねえよ。
無理だと分かってるけど俺も頑張って弱そうな魔獣でも狩るか?」
「そこにお立ちの御仁」
あん?
声のした方を見ると、白いフードを被った少女が椅子に座っていた。
浅めのフード越しに見てる限りでは可愛い少女だ。
思わず足を止めた。
少女の目の前にあるのは机と水晶玉。
「おや? 占いを知っているので? この世界にはなかった言葉と聞いていますが」
少女は驚いたような顔を浮かべる。
なぬ、この世界にはそんな言葉無いのか?
机には文字が書かれていて、確かにそこには未来を知る呪術……と書かれている。
ミスった、いやしらばっくれよう。
「いや、知らねえ。俺は何も知らねえ。呪術だろ?」
「でもあなた今占いって」
「聞き間違いだ。帰るぞ」
「待ってください!」
こほん……と少女はわざとらしく咳き込む。
「まあ、良いでしょう。この街で見たことが無いですが旅人か何かで?」
「あー……まあそうかな」
「そうですか。旅人さんは未来を知る呪術には興味ありませんか?」
「未来を知る?」
興味があるな。
この世界の人間は未来を知ることも出来るのか。
……本当かよ? 怪しくね?
「それは良いけど、俺金ないよ」
「大丈夫です。この呪術は安いです」
「いくらだ」
「今なら500ルークで未来が知れますよ。
この未来を知ってから腰痛が治った方や
いつも苦戦していた魔獣を簡単に狩れるようになった等
様々な良いことが起こっていると巷で話題です」
「おいおい、途端に胡散臭くなったぞ」
俺は自分の手持ちの金を数える。
一応エリュシカからもらったお小遣い3000ルークがあるけど。
試しにやってみるか。
「ほらよ、これでいいんだろ」
「まいど、では早速……」
少女は500ルークを受け取ると両手に力を込め始める。
水晶玉を真剣な眼差しで覗き込み。
「出ました」
「おお、結果は?」
「これからあなたは二つの選択肢を選ばされます。
その選択肢によってはあなたは死にます」
「え、死ぬの? 俺が? どうして?」
「すぐに死ぬというよりはその後しばらくして死ぬ……が正しいみたいです」
「へぇ……」
ちょっと感心した。
占い師って当たり障りのないことを言うと思っていた。
誰にでも当てはまりそうな事を言って驚かせたり、
そして不安にさせたりして信じ込ませたりっていう……偏見だったのか。
「それで、その選択肢の時に俺は何をすればいいんだ?」
「……分かりません」
「は? 待てよ、それじゃ占ってもらった意味ねえじゃん。
未来を知れてないよ、死ぬってのも嘘か?」
「嘘じゃないですよ! ただ、私も分からないんです。
どうしてでしょう、あなたの未来は非常に見えづらいんです
こんな事って……あなた本当にこの世界に人ですよね?
なんとなくですけどあなたに親近感を覚えるのですけど」
「…………」
この世界の人間じゃないと言っていいのかと悩んだ。
が、相手はさっき会ったばかりだ。
やめておこう。
「さあ、知らないけど。それで500ルークも払ってそれだけ?」
「そうですねえ……あ、そうです!
あなたの身近に少女がいますね?」
「ん、あー……いるなあ。それが?」
「彼女を守ってあげてください」
「え、守るって俺が?」
エリュシカを俺が守る?
むしろ俺が守られる方だと思うけど……。
「彼女は恐れています」
「恐れている? 何に?」
「ふとした時に折れてしまいそうなほどに彼女は傷つきます。
そんな時、あなたが守ってあげてください。
あなたは彼女の最後の救いです」
「意味が分からん」
あれから俺は占い師から離れた。
現在は別れ際エリュシカに言われた合流地点を目指して歩いている。
合流地点は街の出口だ。
あの占い師は、暫くこの街にいるから困ったことがあったらどうぞ。
ーーと言っていた。
どこまで信用できるかは分からないが覚えておくことにする。
期待値は低いけどな。
占い師のいう事を信じすぎるのもどうかと思うしな。
なんて考えながら歩いていると、周囲の人が妙にざわついているような気がする。
それは俺が街の出口に向かう程顕著になった。
というか人が追われるように逃げてきているのだ。
俺は汗をかきながら膝に手を当て休んでいる男に声をかけた。
「へいブラザー、どうしたってんだ?」
「はぁ……はぁ……ブラって……お前知らないのか?」
「何をだよ」
「魔獣だ、ドラゴンが攻めてきたんだ!」
ドラゴン!
ゲームにおいてはボスじゃないのにボス級に強いあいつである。
そんな恐ろしい魔獣がこの街に攻めてきている。
不謹慎ながら心が躍った。
というかこの街が城塞都市とか言われてるのはもしかして頻繁に魔獣が襲ってくるからか?
あれ? でもドラゴンだろ?
「普段から魔獣は来てるけどまさかドラゴン種なんて……」
「えっと……ドラゴンだよな? 壁関係なくないか? だってあいつら飛べるだろ?」
「そりゃ飛竜種の話だ。ドラゴン種は翼はあっても空は飛べない。伝説のドラゴンでもなければな。 そんな伝説のドラゴンはこんな街に来ないけどな。
自警団の奴らが抑えてるけどきつそうだ。
ああ、くそ。よりによって教会騎士が遠征に行っているって時に」
「教会騎士? そいつは強いのか?」
「ああ、強い。だけど今は遠征に行っててあと数日はいないんだ。
あと数日でこの街の筆頭教会騎士ユグナレス様が帰ってくるっていうのに。
数日あったら街が崩壊しちまうよ。
と、悪いな兄ちゃん。俺は逃げるぞ。兄ちゃんも早めに逃げた方が良い。
お勧めは教会だ、最悪教会なら街と違って数日耐えられるかもしれないからな。じゃあ」
いうだけ言って男は逃げて行った。
なるほどねえ、教会騎士。
って待てよ。もしかしてエリュシカは戦ってんのか?
ありうる、あいつ人助けるの好きそうだからな。
ソースは俺。
そうか、なら占い師が言ってたのはこの事か。
俺だって武器を持ったんだ、俺が守ってやる。
待ってろ、エリュシカ!
気合を入れて走り出した。