第四話 城塞都市ユーグォ
あれから数日経った。
相変わらず魔獣は襲い掛かってくるし、エリュシカはそれを苦戦することなく倒してしまう。
ちなみに俺は火打石ガチ勢だ。そろそろ火打石2とか手に入れられそう。
ともかく、エリュシカはあれから何も話さない。見られてなかったと結論付けたのか。
だから俺も一切話題に出さなかった。
まあ、エリュシカが言いたくないのなら俺から言う必要も無いから良いんだけど。
そして火打石の扱いに慣れてきて多少余裕が出来た頃、
ふとエリュシカが魔獣を倒した後に何かを 拾っているのに気づく。
「何拾ってんだ?」
聞くと小さな赤い物を見せてきた。
見せられても分からないから首を傾げると、エリュシカは腰につけていた袋を外す。
そこには沢山の赤やら青やら黄やらの宝石にも似た綺麗な石を見せてくる。
「魔獣から取れる」
全くもって必要最低限の事しか口を開かない奴である。
いやま、必要最低限にすら届いていない気もするが。
結局それ以上の説明がないから自分で推測していく事になるのだが、頭に浮かんだのはゲーム。
RPGのゲームではモンスターを倒すとお金が手に入る。
しかし、人間が使っているような小銭をモンスターが持っているとは思えない。
モンスター倒したら五千円札がひらりと舞うとか嫌だわ。
……と考えるとこれはきっとこの世界の人との取引で使える貨幣か、
もしくは貨幣の代わりになる何かと推測出来る。
うん、しっくりくるな。
とすれば少なくともこの世界には経済社会が存在しているという事が分かる。
俺頭いいな! 将来はハーバード大学入学だ、この世界にハーバード大があるか知らないけど。
「これで物が買えるんだろ?」
俺の問いかけにエリュシカは頷く。
当たりの様だ。
推測が確信に変わった。
「じゃあこの色の違いは?」
「属性によって違う」
「ふーん」
モンスターによって属性なんてものがあるようだ。
弱点属性とか有利属性とかも存在していそうだ。
もっとも、エリュシカが属性を気にして戦っているのを見たことは無いのだが。
それから森を抜け、林を抜け、橋を渡っていると建物が見えてきた。
立派な城塞だ。
中の街を守るように城壁が備えられており、大きな門、城門と門番のような人までいる。
「おお! これが城か」
「城じゃない、城塞都市ユーグォていう」
「王様がいるのか?」
「いない」
「なんだ、ん?」
見れば隣でいそいそとエリュシカが荷物から黒のフードを取り出し被っている。
フードの内側にはびっしりと文様が付いていて、一見すると呪われてそうだ。
「何そのフード」
「目立ちたくない」
「ああ……」
いくら強いといってもエリュシカは綺麗だし、女の子一人で旅をするっていうのは何かしら勘繰られたりするのだろう。
一応俺もフード必要か聞いたが要らないと言われた。
だろうね。
並んでいる商人達の後ろにつく。
盗賊に襲われたりしねえかな……。
よこしまな事を考えていたが何事もなく、門番も俺とエリュシカを簡単に通してくれた。
波乱の一つでも来いと思っていたが、警備は思ったより緩かった。
門を抜けると活気ある街並みが拡がる。
現れた大通りでは、軒を連ねる店の主人が自分の店の商品の良さを大声で叫び,
道行く客を勧誘していて、道の端々では、打楽器やらを演奏している集団もいる。
食べ物の店では客が楽しそうに酒を飲み、綺麗な店員とじゃれ、
時には喧嘩をしている奴も見える。
城塞都市とかいうからものものしいのかと思ったがそうでもないみたいだ。
しかも、人だけでなく、亜人も多数いて、
ケモ耳少女から美麗なエルフの女性からひげ面のドワーフみたいなのも見る。
もちろん逆のケモ耳男にエルフの男にちっちゃいドワーフっぽい少女もいるのだが、
それだけでなく魚のひれに似たものを付けて歩いている奴までいる。
「いろんな色んな種族がいるんだな、てっきり人間以外は魔獣なのかと思ってた」
エリュシカは俺の発言を聞いてちらりとこちらを向き、じっとみたあと再び正面を向いた。
恐らくこれはお前は何を言っているんだという意味だ。
「良いだろ、俺だって知らない事沢山あるんだから」
「…………」
「何でジト目で見るんだよ。まるで多すぎるとでも言いたげじゃないか」
「別に……それより」
「ん?」
「楽しそう」
「まあ、そりゃね」
初めての異世界の街だ、それに見たこともない人種に建物があってワクワクしないはずがない。
ただでさえこの街は活気があるから余計だ。
「あれはなんだ?」
街の奥を指さす。
白く高い尖塔があり城に見える。
「あれは教会」
「へえ……ってどこ行くんだ?」
「まずは両替商、鍛冶屋、あと沢山」
「ふーん、まあ俺は黙って付いて行くよ」
橋の辺りで店を開いている両替商の集団に近づいた。
空いた所に行き、エリュシカは袋から赤やら青やらの綺麗な石を出す。
「ずいぶん持ってきたな、これだと……んー、120000ルークって所か、どうだ?」
ルーク、これがこの世界のお金の単位ね。覚えておくわ。俺? 所持金0ルークだよ?
エリュシカが無言で頷くと両替商お金をくれた。
「まいど」
客商売の割には不愛想だ。
が、両替商の場合はあんまり客に困らないのだろう。
続いて歩いていくと見えてきたのは鍛冶屋だ。
店の中には武器やら防具があり、客相手用のカウンターの奥には工房が見える。
鍛冶と武器防具屋が併設しているようだ。
エリュシカは無言で剣をカウンターに置く。
「この剣の整備か、6500ルークかかるな」
「…………」
「まいど、終わるまではあそこに刺さってる件のどれかを持っていきな、
この札も忘れないようにな」
エリュシカはこの街に何度か来ているのか無言でも仕事をしてもらえるらしい。
口数の少ない旅人もいるんだろうね。
ともかく、エリュシカが対応している間、俺は離れて店の武器を見ていた。
本当に様々な武器や防具が置かれている。
安いのから高いのまである。
俺は自分の服装を見る。
武器は生身の拳、防具は半袖に汚れたベージュだったチノパン。
これは確実に街から一歩出たら魔獣に食べられますわぁ……。
もしこの街に滞在するなら数日でもいいから楽なバイト探して金稼いでおきたいよなあ。
バイトしたことねえから楽な奴で。
そんな事を考えているとエリュシカがとことこと歩いてきた。
早速聞いてみる事にする。
「バイト?」
「ほら、店番とか仕事募集しているところとかないのか?
お金貯めて武器とか防具買おうと思ってさ」
「…………」
「ん? おわっ!」
エリュシカは少し考えてから急に抱き着いてきた。
「な、なん……なん……」
エリュシカはすぐに離れ、次に足と手を両手で掴む。
そしていくつかの武器と防具を指さす。
「買おう」
「なんだよ、俺の体のサイズ測ってたのかよ。自分で買うからいいよ。
……ってこれ10000ルーク? それにこっちは12000ルークじゃねえか!
さっき貰ったの120000ルークだろ? 自分で稼いで買うから良いって!」
「……買おう」
「だから」
何度も要らないといったが強い眼差しで見てくるからしょうがなく俺が折れた。
買ったのはユーグォ近郊にある鉱物が取れるフォルタ山脈由来の品々。
フォルタ鉄で出来た胸当て、肘あて、膝あて、靴。メノム羊毛のインナー。
そして魔獣からたまに落ちるドロップアイテムと呼ばれる素材で出来た剣。
プレデタードックの角を加工したもの、プレデターソードだ。
「いいなこれ!」
武装した自分の姿に惚れ惚れしていると横から視線を感じる。
「なんだよ」
「嬉しいの?」
「そりゃそうさ! 金は必ず返すよ!」
「別にいいのに」
「いや、これは絶対だ」
「…………」
こうして俺は高いのは悪いと言いながらも、
エリュシカに対して借金62000ルークとなった。
これ以上は迷惑をかけまいと決意する。
それは男として当然だ。
その後、エリュシカはを買いに行くとのことだから、
俺は一人で街を探索することにした。
旅の間は魔獣の肉を食べているが、そればかりでは飽きるのだろう。
いや、飽きているのは俺なんだけど。調味料位欲しいしね。
ちなみに俺はエリュシカからお小遣いとして3000ルーク貰った。
要らないと言ったがエリュシカは強引に俺に渡したのだ。
多分だが、エリュシカは将来ダメ男に引っかかると思う。