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第十七話 ヒモ男

「ありがとう……」



 ユーグォの宿、エリュシカが俺の手を両手で掴みながらお礼を言ってきた。

 まっすぐに俺を見つめる。頬には涙の跡がある。

 あの後、手枷を外してもらい、無事に解放された。

 教会を出るまでユグナレスは無言で俺たちを睨みつけていて、その瞳は視線で人を殺せそうだった。

 もっとも、剣ですら俺を殺せなかったわけだが。



「ほら、その……俺エリュシカにずっと助けられてたからさ、これくらいどうって事……」



 言葉を言い終わる前にエリュシカが俺を抱きしめてくる。

 ふぉおおおおおおおおおお!



 現在エリュシカは修理の為、鎧を西条の知り合いの鍛冶屋に預けている。

 よって今はインナーの上にフードを身に着けているだけだ。

 当然の事ながらインナーもフードも柔らかい。

 そう、俺の身体にはエリュシカの良い匂いのする髪、そして柔らかいエリュシカの胸がある。

 おいおいおい! これなんてエロゲ!?

 イベント完遂した後にこんなドエロイイベントが待ってるなんて……!!

 これは来てるんじゃない? 次の選択肢に進んで良いんじゃないの?



「エリュシカ……」



 両手を震わせながらエリュシカの方を掴み、少しだけ近づきすぎた顔を離す。

 俺とエリュシカは見つめあう。

 これは最初以来の、ていうか最初のあんなムードのないゲロ味キッスなんか忘れる。

 これこそが本番、ファーストキッスだろ。



 エリュシカはそっと目を閉じる。

 行ける? 行けるよね? 行っていいだろ! 待ったなしだろこれ!!

 エリュシカの唇、頂きます!

 俺も目を閉じ徐々にエリュシカの唇に自分の唇を合わせ……。



「千夏ちゃん登場!」



 バンッ! と大きな音を立てて開く扉……それと同時にエリュシカが俺を突き飛ばした。



「ご……ごめんなさい……」



 エリュシカは思いっきり壁に叩きつけられ地面に沈んだ俺へ申し訳なさそうに手を差し伸べる。



「んん? 何をやってたんですか? 喧嘩は良くないですよ」

「……別に」



 もう少しでキス出来た所だった……なんて言い訳が恥ずかしくて口をつぐんだ。

 千夏は首を傾げながらも、そうそうと後ろに隠していたものをエリュシカに渡す。



「これは……」

「はい、鎧です。西条さんが渡しておいてッて」

「もうできたのか、それで西条は?」

「一階で鍛冶師さんと話してましたよ。あと準備が出来たら一階に来て欲しいと」



 一階へ向かうと丁度西条が鍛冶師を見送っていたところだった。



「おや、タイミングが良いですね。今挨拶が終わったところです」



 西条が歩いてくると、エリュシカが一歩前に出た。



「ありがとう……ございました」



 たどたどしい言葉と共に一礼、西条は楽しそうに笑う。



「いえいえ、私はお金を出しただけですから、全てはミツキさんに」

「いや、俺はその……」



 エリュシカはちらりと俺を見てから、再び西条を見た。



「お金は……いくらですか?」

「ミツキさんの借金ですか? 総額1200万ルークですかね」

「私が……」

「払うんですか?」



 俺はすぐさま間に入った。



「いや、いやいやいや。待てよ、俺が勝手に作った借金だぞ。俺が払うよ」



 しかしエリュシカは俺を後ろに庇う。



「私が……」

「……払ってくれるならどちらでも構いませんよ、一括はきつそうですから少し待ってあげても良いです」

「ありがとうございます」

「いや、待てよ」



 西条が俺を睨む。



「これも彼女の決断ですよ、それをミツキさんは尊重しないと?」

「え、あ……いや、でも」

「ふう……ところで、貴方達はこれからどうするおつもりですか?」



 俺はエリュシカを見る。



「私は伝説のアイテムを……」

「俺もそれについて行くかな」



 エリュシカと二人旅か、今回の雰囲気からしてキスはもうすぐって感じだし、その先も……わくわくが止まりません!



「では私も付き添いましょう」

「……え、何でだよ。要らないよ?」



 普通に考えて邪魔だろ、空気読めよ。

 恨めしい視線を向けるが西条は目を細めるばかりだ。



「1200万ルーク、今払ってくれるんですか?」

「ううっ、でもそれは待ってくれるって……」

「ユーグォに滞在していた千夏さんとは違うんです、旅人はいつどこへ行くか分かりません。返済されるまで私は貴方方に付いて行きますよ。何か不満でも?」

「…………わかった、じゃあ付いてこい。でも返済したらどっか行けよ」

「はい、わかりました」



 続けて俺は千夏に目を向ける。



「それで、千夏はここに残るんだよな?」

「え? 何言ってるんですか? 私も行くに決まってるじゃないですか」

「何でだよ! お前は残れよ、命令すんぞ!!」

「えええええ、ちょっと待ってくださいよ! 私もう水晶玉ないんですよ? どうやって生きればいいんですか! この町に住むにも怖い教会騎士さんに顔も見られてますし、夜とか辻斬りに遭ったらどうするんですか!!」



 多分この世界に辻斬りはねえよ。昼間堂々と斬られるくらいだ。



「連れてってくださいよ! それともなんですか? 用が済んだらポイですか? 私はミツキさんにとって都合のいい女だったんですか!?」

「馬鹿野郎、声でけえよ!」

「ミツキ……」

「エリュシカもそんな目で見るな、違うんだって……ああもう」



 ううう……と千夏は涙目で俺の袖をがっしと掴んだまま離す気配はない。



「はいはい、わかりました。じゃあ勝手に付いてこい」

「わーい!」



 千夏は両手をあげて嬉しそうに笑う。

 こいつ、絶対またこき使ってやる。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



 ユーグォを出て森を歩いていると千夏が思い出したようにこっちを向いた。



「そういえば、結局あの時ってミツキさんはどうして平気だったんですか? あの怖い騎士さんに斬られた時です」

「ああ、あれな」



 そう、俺はユグナレスに斬られたはずだ。

 実際血しぶきは飛んだし、斬られた感覚もあった。

 俺に秘められた力が……って事は無いと思う。

 何かが起きたんだ、でも何だ?



「私たちが悲鳴を上げる中、西条さんだけ全然心配してませんでしたよね。酷い人です」

「そんな事は無いですよ。もし死んだらと思うと胸が張り裂けそうでした」

「超棒読みじゃないですか!」



 千夏は言う、確かに西条は何も言わなかった。

 いやま、こいつはもし俺が死んだとしても何も言わなそうだよな。

 飄々として貸した金が返ってこない事くらいしか気には……ん?



「契約……?」

「ミツキさんどうしたんです?」

「そうだ、俺は……」



 契約をしていた。



『死ぬまでに必ず支払いを終わらせる事』



 文句を言う俺に西条はなんて言ってた?



『保険ですよ』



 これは言い換えれば『支払いが終わるまで俺は死ぬことが出来ない』という事だ。

 そして保険とは。

 ――もし俺が穿った考えをしていたのだとすれば?

 金を絶対払わせる為の保険じゃない。

 西条が善意で言ったのだとすれば意味が違ってくる。

 俺を死なせないために、気に入った俺を死なせないように保険で死なない契約を……。



「はは……ははははは!」

「わあ、びっくりした! ミツキさん、やっぱり狂ったんですか!?」

「やっぱりってなんだ! お前マジで身体で払わせるぞ」



 エリュシカが俺の額に手を添えてくる。



「エリュシカ、大丈夫だから。具合悪いとかじゃないから」



 にしてもこの野郎。

 俺は西条の肩を軽く殴る。



「ミツキさん、これは?」

「命の恩人へのお礼変わりだよ、受け取っておけ」



 不思議そうな顔をしていた西条だが、命の恩人という言葉を聞いてすぐに気づいたのだろう。



「やれやれ、貴方は意外と頭の回転が鈍くないようだ。ですが、お礼の仕方を教えなければならないですね」



 西条は楽しそうに笑った。

 どうやら俺の推測で間違っていなかったらしい。

 全く、お人好しの腐れ商人め。



 ――と、その時、久しぶりに身体に来た感覚があった。

 新しいスキルが身に付いた時に感じたあれだ。



「皆、聞いてくれ、俺は新しいスキルを手に入れたかもしれない」

「スキル? ああ、この世界特有のあれですね」

「ミツキ……私を助けてくれたから」

「見ても良いんですか?」

「当たり前だろ、俺は今回頑張ったからな。みんなで見て俺をもっと称えてくれ」



 自信はあった。

 だって俺あんな強敵からエリュシカを助けたんだから。

 もしかしたら今度こそ素晴らしいレアスキルを手に入れてるんじゃないかと期待して、俺は能力値の枠を出した。皆それを覗き込んでくる。



ネーム

 高山光紀

 クラスD

 筋力92、耐久値104、敏捷性83、魔力23、運9。

 スキル

 麻痺耐性1、火打石1、交渉2、詐欺師1、メンタルブレイク耐性マイナス2

 称号

 ヒモ男



「……ヒモ男? ていうか称号って何?」



 後ろを振り返ると千夏が笑いながら言う。



「ぷっ……確かにエリュシカさんを救いましたよね。人のお金で。更にその金もエリュシカさんが払うって言ってましたから実質ミツキさんは何もしてないです」

「そういえば最初に私のテントに来た時もエリュシカさんからお金を受け取ってましたっけ……なるほど、称号ですか」



 最後にエリュシカを見ると両手で顔を覆っている。



「エリュシカ?」

「レ……レアスキル……」



 その体は以前と同じく震えていて、絶対笑ってる。

 あれだけ頑張って手に入れたのはろくでもないレアスキルだけ?

 はあああああああああああああ!?



「ふざけんな!」



 俺の叫びにエリュシカは更に身体を震わせ、千夏は笑い出し西条は肩を竦めた。

 ここまで読んで頂きありがとうございました。

 これが最終話になる予定です。

 もしかしたら続きを書くかもしれませんが多分それは今後書くシリアス系の合間になると思います。

 続きが出来ましたらまた読んで頂けたら嬉しいです。

 その際はよろしくお願いします。

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