囚われの身
やはり、間に合わなかった。
即死に、近い状態で、あの唄の間、もつわけがない…
ほんの僅かな望みも、あの魂の霧が、ジャスミンとコウダ、2人の体の上に、現れた事で、消えた。
悲しみが、胸の中を占める。
「おい。こいつらは、死んでいるぞ。お前本当に、治癒力が、あるのか⁈」
1人の兵士が、ジャスミンと、コウダを足で、突きながら言う。
「いや、やはりお前が、治癒力を持つ娘か…」
そう言ったのは、コウダを突き刺さした方の兵士だ。
兵士の目線には、切られた、腕や顔の傷が、それぞれ治った、村の男達に向けられていた。
「よし、連れて行け。その小さい、そいつと、そいつも一緒にだ!」
そう他の兵士に、命じてから、ニヤニヤとマリアに、顔を近づけ、言った。
「その小さいやつらは、お前が逃げたり、自殺したり、治癒を拒んだら、それは、それは、恐ろしい目に、あって死ぬ事に、なるだろうよ。ははは」
そう呟いた。
マリア、ユーリ、リリスは、そんな兵士達に、馬車に、詰めこまれ、連れて行かれた。
連れてこられた先は、馬車で、一週間程過ぎた場所であった。
馬車から降ろされ、何やら、大きな建物に、連れていかれた。
長い暗い廊下を歩いていると、木の扉があり、その扉を潜ると、景色が変わり、廊下に、赤い絨毯が、敷かれていて、周りの壁も、煌びやかになった。
どうやら、今まで歩いていきた所は、使用人が、使うバックヤード的な場所で、こちらの煌びやかな方が、この建物の、主人の暮らす場所らしい。
『歩いた廊下の長さや、この周りの煌びやかな装飾、相当な、資産家なのだろう…。』
『うん⁈
違うな。
確か、兵士は、院長を殺害した動機について、王命と言っていた。
なら、すなわち…
ここはお城であり、城の主人は、すなわち、
私を捉えろと命じた、王なのだろう…』
そんな事を思いながら、前を歩く、兵士の言いなりに、歩いて行くと、ある部屋に、通された。
「謁見の前に、禊ぎを致します。」
数人の侍女らしき人が居る部屋に行き、そう告げられた。
やはり、王の居る城で、間違いないらしい。しかも、これから王に、会うみたいだ。
連れて来た兵士は、私達を侍女に、預けて何処かへ、行ってしまった。
兵士達も、薄汚れていたので、謁見前に、綺麗にしに行ったのだろう。
私達は、されるままに、綺麗に、洗いあげられ、着飾らせてもらった。
何もわからない、リリスは、すごく嬉しそうに、柔らかな質のいい生地で、作られた真っ白な、ワンピースに、綺麗な花をいくつもつけた服で、クルクル回り、スカートの裾が、翻るのを見て喜んでいた。
鏡の中のマリアも、琥珀色の髪をなびかせ、この世の物とは思えない程、美しく佇んでいた。侍女達からもため息が、もれている。
女性の私から見ても、息を飲み、見惚れてしまう程に美しい…
これは、まずいのではないか⁈
稀有な力に、この美貌。何か女の勘が、危険を察知している…
綺麗にされた、私達は、謁見の間とやらに、連れてこられた。
そして、このモジギア国の王ハレス・モジギアと向き合っている。
玉座に、座る王は、煌びやかな、衣装を着ている。頭を下げているのと、玉座まで、距離があるので、王の顔は、あまりわからないが、まだ思っていたより、若そうだ。30代だろうか…
王の反応は、思っていた通うりだった。
頭を上げるように言われ、頭をあげる。
「これは、これは美しいなぁ。」
王が、頭の先から足の先まで、品定めするように、見渡す。
王が、スッと片手をあげると、数人居た侍女や、周りにいた、近衛だろうか?装飾された、騎士達が、部屋から居なくなった。
どうやら、人ばらいをしたのだろう。
残っているのは、王の側に、控えて居た男のみだ。
人が居なくなると、その男が、マリアの側まで、歩み寄ってきた。
歳は60代だろうか…貫禄のあるその男は、目の前で、歩みを止めると告げた。
「私は、この国の宰相だ。
お前は、ここで、一生捕らえられ、生かされるのだ。
よいか、あたえられた、部屋から許可無く、出る事は、できない。
己の力の事を他言しては、ならない。
必要以上に、周りの者と話しては、ならない。
王の命令が、あれば、すぐにその力を使うこと。
王の命令以外で、力を使えば、そこにいる、小娘らが、どんな目にあうか…想像するがいい。
そして、今日から、お前は、王の妾となる。以上だ。何か、質問はあるか?」
『うわ〜思っていた以上に、深刻だなぁ。
妾とか…ヤバイんじゃない⁈
逃げ出すとか、無理にしても、このままだと、マリアちゃんの体が、あの怖い、王様に、好き勝手されちゃうんでしょ⁈
いかん。私が守らないと。
どうしよう。何か考えろ。私。
伊達に歳くってないだろう。何か何か…
とりあえず、時間かせきを…』
「私の力を黙っておく理由を伺っても…⁈
元々この力は稀有。余計な諍いや、自分を守るため隠してきましたが、私を捕まえにきた兵士の方が、大声で、ふれまわっていたので、隠す必要は無いかと…」
実際そんな事、どうでもいい事だったが、とりあえず、考える時間が欲しい。答えに、興味の無い事の方が、考えに集中できる。
「お前は、そんな事を考える必要は無いが、いい機会だ教えておこう。あの兵士達は、すでにこの世にはいない。今頃は、お前が、居た村人もこの世には、居ないだろうな。」
宰相の何事も、無さげなこの言葉に、顔面蒼白になり、体が震えているのがわかった。
村人は、ほとんどの人が、何も知らない。なんの罪も無い人達だ。マリア達と住んでいた、残してきたカミルは、まだ5歳だ…。
『村人も皆殺しにしたと言うのか⁈
兵士達は、この人達の命令に、従っただけだろうに、味方まで、何のこともなく殺してしまうのか…なんと愚かな…』
悲しみと、恐怖と、怒りが、入り混ざった、複雑な感情に、支配されそうになる。
「さて、これで分かったかな?命令は、守った方が、身の為だ。これ以上質問が、無ければ…」
そういいかけた宰相に、
『いっ、いけない。マリアの身を守らないと…』と、我にかえり、慌てて口をひらく、
「おっ、恐れながら、私は、神と結婚している、修道女です。この稀有な力は、男女の関係において、失われるものでございます。妾となれば、この力を失います。この力を保持しますと、妾とはなれません。どちらを優先すれば、よろしいでしょうか…」
『よし。これなら、マリアの身は守れる。
ただ、修道女でもなければ、男女関係うんぬんの、この嘘が通じるのか…』
私は、そう思いながら、頭を下げた。
「ふん。妾とは、なれぬと申すか…。
まあ、良いであろ。力が、無くなったとしても、他国に、渡るわけではないからな。こんな美貌の者は、なかなかいない。手をつけないでは、いられまい。」
口を開いたのは、王であった。
『え⁈私の力が、必要で、連れてきたんじゃないの⁈
これじゃぁ、マリアを守れないし、亡くなった人達は、なんのために殺されたの?』
『院長さま、ジャスミン、コウダ、村の人達…
この力が、無くていいなら、私…マリア1人始末したら、済んだのに…何人もの犠牲を払っておいて…』
王の勝手な、言い分に怒りが、込み上げるが、拳を握りしめて耐えていた。
「王よ。恐れながら、それは、おすすめしかねます…。この国は、戦争を控えています。この娘の力は、稀有。
王が、今後、病気や、怪我をなさらないとは、限りません。もちろん妾にされるのは、構いませんが…
今は、時期では、ないかと…」
『お。宰相さんは、妾反対してくれた。嘘を信じてる。宰相さん。頑張って。』
頭を下げたまま私は、百面相だ。
「うむ。そうか。では、それまでは、待つとするか。では、宰相よ。待つ代わりに、妾では無く、側室とする。それまでに、側室として、必要な教育を受けさせよ。」
「王、な、な、何を申されます。このような、身分の無い者を側室になどと…」
『あ。宰相さん狼狽えてる。』
「話しは以上だ。
娘、側室の妃として、嫁になるのを楽しみにしていてやる。」
王は、宰相の言葉を遮るように、そういい、謁見の間より去っていった。
『側室って妾よりヤバイのかな⁈』
現代人の私、平民出で、孤児なマリアには、身分や制度は、概要しかわからないものであった。
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