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弱肉強食

今回は早かった(・∀・)

次もこのくらいのペースでいければいいのだが・・・。


眩しさから目が回復すると20段ほどある階段の上だった。

階段の下には直径50m程度の円状の広場があり、白磁の光沢あるタイルが敷き詰めらていた。

更に先にはまた階段があり、眼下には大森林と呼ぶべき広さの森が広がっていた。

ただ、森の所々からドーム内では見た事無いような高層ビルが伸びており、形も見た事が無い物ばかりだった。

獣人になる為の訓練で使われた運動場は周りが見えず日差しもきついだけだったが、ここで受ける日差しは吹いてくる風もあり柔らかく感じた。

ドーム内では到底感じる事の出来ない木々の香りが濃い風を感じながら先ほど声がした方へと目を向けた。


階段を下りた広場の右手、ちょっとした休憩スペースにあるベンチから12人の獣人が広場中央へ向かって歩いてくる。

広場中央へと歩いているがその顔は常にこちらを見張っていた。

だが、広場の左手にある休憩スペースから尋常ではない圧を感じ、目だけを向けるとフード付きのマントを被った3人の獣人が広場中央へと歩いていた。

おめでとうと祝福の言葉を掛けられはしたがこのプレッシャーはヤバイ。

右手から歩いてくる12人の獣人達がオレ達に向ける視線は完全に捕食者のそれだ。

眼光の鋭さにウザン、トリス、ジャンの3人が皆を庇うように一歩前に出る。

オレとランスもその後に続いてウザン達に並び、ケイとベッツはナツキ、ラン、フォルの様にニキータやアリシアを守る位置へ即座に動く。


広場中央に着いた12人の獣人達は階段の上で警戒するオレ達に向け挑戦者を迎え入れるように手招きをする。

オレ達は警戒をし、隊列をそのままに階段を下りた。

階段を下りき中央で待つ獣人達の10mほど手前で止まる。

12人の中央に居る男が満足そうに頷くと残りの獣人が左右に俺達を囲むようばらけていく。

更に中央の男の後ろに尋常ではない圧を発する3人が並びこちらを向いた瞬間その圧は更に重みを増した。

その圧に耐えかねたようにウザンが吼える。


「よう、先輩方!祝辞にしちゃー随分物々しいじゃねーか。

 そんな殺伐とした視線を向けられちゃー、ありがとうの1つも言えやしねえぜ?」


ウザンが圧を跳ね返すように、そして挑発するように叫ぶ。

その挑発に張り詰める空気の中、オレは注意深く観察する。

(前に居る獣人達の方が数も経験も圧倒的に優位、後ろの3人が特にヤバイがどいつが頭だ?)

数で優位の相手はまず最初に頭を潰す、これが兵法の基本だ。

後ろの3人の中央に立っていた者がそのフードずらし素顔を晒す。

それに釣られる様に両隣の2人もフードをずらした。


その瞬間オレ達全員が目を開き息を呑む。

フードの3人、その中央に居たのは爆王と呼ばれた獣人格闘技の最上位ランカーだ。

3年前のビーストウォーズ(年に1度の獣人総合格闘)のチャンピオンでもある彼がここに居たのだ。

彼1人だけだとしても絶望的な戦力差でありオレ達全員で歯が立たない。それほどの格の違いがある。

オレ達が獣人になったからと言って、ダニエルに言われたようにまだ人間寄りの生まれたてだ。

それを獣人の格闘系の頂点に居ると言ってもおかしくない彼らを相手にするのには余りに役不足である。

ウザンもそれを理解しているのか爆王を睨め付け嫌な汗を流している。


それだけじゃない、後ろに居る爆王以外の2人もヤバイ。

右に居るのは疾駆と呼ばれる格闘家で左に居るのは壕斬と呼ばれる武人だった。

いずれもビーストウォーズで見た顔だ。

そんなオレ達の心境を見通してか、爆王がゆっくりと喋り始めた。


「新人諸君、後ろに居る我々は立会人として居るだけだ。

 そして、今から戦う15人がやりすぎてしまわないようにする為の見張りでもある。」


その言葉に全員が息を呑む。

爆王程ではないにしろ目の前に居る15人は獣人として先に降り立っている者達だ。

まだまだ生まれたての人間味あふれるオレ達とは地力が違う。

オレ達を囲むように扇状に立つ獣人達をみる。

その視線に気づいたのか中央の男が喋り始めた。


「新人共、俺はノールって者だ。

 それと、後ろの爆王と呼ばれるクライツさん達は気にするな。

 お前達だけじゃなく俺達だって逆立ちしても勝てねえ。

 ただ、なんでいきなり戦闘なんてするのか気になるだろうから教えておいてやる。

 それじゃぁ、そこのお前!」


指をさされたのはオレ達の中央に居たトリスだ。

トリスはいきなり指名されたに関わらず周りを注意し油断無く答える。


「なんです?」

「獣人になってお前達はバングルを貰ったよな?そこに書かれていた遺伝子取得はどうやったら増えると思う?」


トリスは少し逡巡した後答えた。


「取得というからには誰かから貰う、又は奪うという事ですか?」

「そうだ、その遺伝子取得はというのは俺達を強くする。取り込めば取り込むほど細胞レベルで強化される。

 逆に言えば、取り込まなければいつまでも弱いままだ。・・・ここまで言えば判るな?」

「はい、新人である人間寄りの俺達はその遺伝子取得の格好の的であると。」

「そういう事だ、そしてこれは獣人世界のルールの1つである弱肉強食の体言でもある。お前達、腕の1本位は覚悟しろよ?」


なるほど、とトリスは頷き地面に片手を付いた。

それを合図とするかのようにオレ達も構えた。

構え終わるのを待っていたかのように15人の獣人が一斉に走り出した。


やはり、喋っていた中央のノールという男がリーダー格なのか早さが桁違いだ。

トリスとの距離が10mほどあったにも拘らず、一瞬で7mほどを詰めて来る。

トリスは地面に手を付いた状態からアメフトの様に肩口からタックルを見舞う。

ノールもそれに合わせるかの様にトリスの突き出している肩目掛けて頭を振り下ろした。

トリスとノールがぶつかり合った瞬間、ゴッという鈍い音と共にトリスが後ろへ弾かれた。


それを視界の隅で見ている間にオレの前にも相手が迫っていた。

どうやらオレの相手はコイツらしい。

相手は少し小太りの男で体格に似合わず素早く飛び掛るように上段から引っ掻く様に腕を振り下ろしてくる。

(太い爪はそこまで長い訳ではないが鋭利そうだ。掴まれると厄介だな。)

腰を落とし相手の手首に自分の手首を合わせガードする。

しかし、オレのガードを押しつぶす様に押し込められる。

爪の脅威を避ける為咄嗟に敢えて懐に入り込むとそれを待っていたかのように飛んできた膝が顔面に直撃する。


「くっそ、力が桁違いだな!ちょっとは手加減してくれよ。」


力の強さに独りごちり距離を取る。

その独り言が聞こえたのか相手はニヤケながら両手を地面に付ける。


「お前、武術を習っているな?素人ならオレの爪の餌食になっていただろうに。

 だがまだ獣人の力を甘く見ているな。何の獣人かは知らないがこれなら遠慮無く喰らえそうだ。」


そしてまた先ほどと同じ様に爪を振り上げ飛び込んでくる。

(まぁ武術を嗜んでいるのは正解だな。しかし、同じ攻撃とは舐め過ぎじゃないか?)

こちらも先ほどと同じくリプレイ映像を見せるかのように相手の手首を自分の手首で合わせガードする。

そしてそのまま力で押し込まれていく。

だがそこから手首を返して相手の手首を掴み相手の落下する力を利用して巻き込むように背負い投げ地面に叩き付けた。


「ほお・・・」


爆王が腕を組みつつこちらを面白そうに見るのが目に入った。

だがそれよりも今は目の前のコイツだ。

叩きつけられた勢いを殺さないようポケットに入れておいた水槽から延びていたコードを相手の体に力を入れられない様に巻きつけてゆく。

何処からか「これだからガイは油断なら無いのよね。」と聞こえてきたが無視だ。


「武術を嗜んでいたのは正解だがちょっと違う、オレ柔術道場の倅だったんだよね。」


柔術の1つ捕縄術のという奴だ。

小太りの男はコードを巻きつけられ転がりながら何とか脱出を試みているようだ。

一息付き回りを確認する為振り向けば目の前に槍が迫っていた。

何とか初隙を避けたが物凄い速さで更に追撃される。

オレは足を1本犠牲にするつもりで後ろへ飛び退こうとすると、その槍を掬い上げるように木刀が切り上げられオレと槍男の間に割って入る影があった。

それは頼もしいクラスメイトであり、そのクラスメイトへ礼を述べる。


「いや~すまないねジャン、助かったよ。」

「隙が多いぞガイ、相手は多人数だという事を忘れるな!

 この相手貰い受けるぞ。」

「オーケー!よろしく!」


怒られた。確かにここは道場ではない。

俺もずいぶん気が緩んでいたようだ。

オレはそのまま後ろを振り向きニキータとアリシアを守りながら戦うケイ達の下へと走り出した。

そこではケイ、ナツキ、ランが4人を相手に苦戦していた。

ケイは自分より格上だろう鳥の獣人と空中戦を繰り広げておりかなり劣勢だ。

だが、相手が女性だからかケイは本気になれてないようにも思う。

(ケイも戦闘経験は少ないだろうからなぁ)

そんなケイを見やると何事か話をしているのが聞こえてきた。


「お姉さん、その髪のメッシュ部分すごく綺麗だね。僕なんてカッコウなんだよ?」


などと傷付きながらも軽いノリで話をしていた。

アレは後回しでいいだろう。むしろ少し痛い目を見るべきだ。

2人の相手をしているナツキに向き直すと格上の相手でしかも2人を相手取っている為防戦一方のナツキが目に入った。

そのままナツキに殴りかかる獣人の横腹に回し蹴りを見舞った。

蹴られた獣人は短い悲鳴を上げつつもう共に戦っていた仲間にぶつかる。


「キャッ!?」

「くっ!誰!?」

不意に仲間が飛んできた事により動きが止まった。

横目で相手2人を見ると両方女性で片方は三つ網で片方はゆるいウェーブのかかったショートヘアの髪形をしており、オレが蹴ったのはショートヘアの方だ。

ゆるふわヘアーの女性を蹴ったと思うと少し心が痛むが緊急時だったので許して欲しい。

オレは回し蹴りの体勢からそのまま追撃をするでもなくランと戦っている男に殴りかかった。

男は後ろ向きだったにも拘らずランとの距離を取る様にオレの拳を避けた。


「おっと、少しは楽しめそうなのが来たじゃない?やっぱ女の子苛めるのは趣味じゃないんだよね。」


距離を取った男が楽しそうにオレを見る。

オレはランやナツキを庇うように2人の前に立った。

だがランもナツキもすぐにオレと並ぶように前へと出た。

体勢を立て直す相手の女性を見やりつつ声を上げる。


「来るのが遅い!」

「ナツキ姉を先に助けるとかどんだけ点数稼ぎがしたいのよ?」


ナツキさんのツン1つ入りました。

更に、濡れ衣まで着せられた。

先に助けた訳じゃなく距離的に近かっただけなのに・・・


「すまないね、思ったより相手が強くて梃子摺ったんよ。ごめんよ~?」

「クッ・・・ガイ・・・また私を馬鹿にして・・・」


濡れ衣は華麗にスルーして、ナツキに余裕があるように見せたつもりが何かを逆撫でしてしまったらしい。

まぁ言うほど余裕は無いんだけどね。

先ほど飛ばされたトリスの方を見ると組み合って力比べをしていた。

力はトリスの方が若干上らしくジリジリとノールが押されていた。

そして視線を戻した俺は戦慄する。

相手の獣人が俺の目の前に居たからだ。


「相手は俺だぜ?隠したが余所見してんじゃねえよ!」


鳩尾(みぞおち)に蹴りをまともに食らい吹き飛ばされる。


「ガイ!」


一瞬ナツキの心配するかのような声が聞こえたがきっと気のせいだろう。まだデレるには早すぎる。

だがその空耳が現実だったかの様にナツキが男へ飛び掛った。


「あなたの相手はこっち。」


それをす待っていましたと言わんばかりにゆるふわの女性が迎撃する。

脇腹にエルボーを食らい声も出せずナツキがその場で(うずくま)った。

それを見ていたランが動こうとするが、その負の連鎖を待っているかのように笑みを浮かべる三つ網を見て動けずに歯を食いしばる。

その様子を面白そうに見ながらゆるふわの女性はナツキを挑発する。


「あら?あれっぽっちの攻撃でもう寝ちゃうの?」

「ほおほお、お前ら青春してるなー。そっちのモテ男!早く助けないと彼女がやられちまうぜ?

 ここで剥いても面白そうだがな。」


その言葉を聴き何かにスイッチが入ったオレは足に力を入れ飛び起きる。


「あ~まぁ、たまには痛い目見るナツキってのもレアでいいかと思ったんだけど、やっぱダメだわ。

 彼女はオレの許婚なんだわ、それだけは笑えねぇし許せねぇ。」

「お・・・おまえ!覚醒だと!?」


無意識に首元にある光学迷彩のスイッチを入れる。

首から上と手足先だけ見えている状態になるがその見えている部分も徐々に透過して行く。

それを見た敵である獣人達と仲間達が、動きを止め目を見開きオレに注目する。

そして、一番驚いている目の前の男が言った。


「ギフトだと!?お前が首席かよ!」


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