門出
またまた遅くなってしまって申し訳ない。
まだまだ続けますんでどうぞよろしくお願いします。
解散を告げたダニエルは、そのまま何も言わずに部屋を出て行く。
(あそこが出口と言うわけか。)
それを見送った皆は手元にあるバングルを操作しだした。
オレ達の拠点となる場所は案外簡単に見つかった。
現在位置の把握を行う為に、1度このセンターから出て周囲の状況を確認しなければならない。
このセンターと言う場所から出ようと幾人かが席を立とうと動き出す。
オレもケイと目配せをし、席を立とうとした所に声が掛かった。
「ちょっと、皆いいかな?少しこれからの事を話しておきたいんだ。」
そう声を掛けてきたのはクラスのお兄さん的存在であるトリスだ。
前はクラスの中で一番背が高くヒョロヒョロという訳ではないがスラッとして温和な雰囲気を醸し出していたトリスだったのだが、今の彼は体格が桁違いに良くなっていた。
その変わり様は、骨格からして別人であるかのように、はち切れんばかりの筋肉を搭載している。
しかし温和な雰囲気はそのままであり、なにより印象的な糸目が彼を物語っていた。
そして、席を立とうとしてた者達がその言葉を聴き着席しなおす。
「そうさね、私もその意見には賛成だよ。」
更に先ほどダニエルに意見を求められていたフォルがトリスの言葉に続いた。
その隣ではクラスのマスコット的存在であるニキータがフォルの言葉に何度も頷いていた。
「つっても、自分等の拠点に行かねえと始まらないんじゃねえか?」
席に戻ったウザンがトリスを睨めつける様に口を開く。
まぁ、本当に睨んで居る訳ではなく癖みたいな物なのだが。
当然それを知っているトリスも何も思っては居ないようだ。
そのウザンの言葉に1つ頷いた。
「確かにそうだけど、少し気になった事がいくつかあってね。
皆、大臣が「協力して」と何度も言って居たのを覚えているかい?」
その言葉に全員が頷く。
そして、フォルが何かに気づいたかのようにそれに続いた。
「なるほどね、あんたは全員が全員が同じ場所に向かおうとしていると言いたいんだね?
ちなみに、私の拠点というのはVE-8エリアと出たよ。皆はどうだい?」
オレのバングルに表示された場所も確かに同じVE-8と表示されていた。
他の面々も同じようでフォルの言葉に同意するかのように頷いていた。
なるほど、国的にはオレ達を運命共同体にしたいらしい。
普通のクラスならここで反対する奴も居るのだろうが、この選抜クラスはそういう風に集められたという訳か。
「あのさ、それじゃあさ、皆の進む進路をさ、ここで言いあっておかない?」
おずおずと手を上げて発言したのは常にキョドって居るかのような態度のベッツだ。
しかしこのベッツ、言う時は言う奴だという事を皆知っている。
4年に進学した当初その態度が気に食わないウザンがベッツに食って掛かった事が有った。
一方的にウザンがベッツを攻め立てる姿は見ていて気分の良い物ではなく、ウザンを窘めようとオレが席を立とうとした瞬間それは起こった。
ベッツがウザンを思いっきり殴ったのだ。
それを見たクラス全員が目を見開き固まった。
別にベッツがウザンを殴った事に驚いた訳ではない。
日頃から口の悪いウザンは見た目通り喧嘩慣れしており戦えるはずなのだが、そのウザンが殴り飛ばされたのだ。
普通なら避けるなり急所を外すなりして反撃するのだが、そのパンチは見事にウザンの顔面にクリーンヒットしたのだ。
その事に唖然となったクラス全員が固まる中、ベッツとウザンはそのまま本気の殴り合いに突入した。
それは一言で言うなら「互角」だった。
そしてそれを皆が止めようと動いた時、教員であるカナイ先生が「好きなだけやらせろ」と言いオレ達の動きを止めた。
その喧嘩は互いの意見をぶつけ合うかの様に行われ、結果ベッツが負けはしたもののウザンも満身創痍で
「ケッ・・・それだけやれるのにいつもキョドってんじゃねえよ・・・」と言って意識を失った。
そしてウザンは勿論、クラス全員がベッツを認めるようになったのだ。
「チッ・・・確かにな。ちなみに俺はもちろん総合格闘家への道を進む。このイリエワニの力を使ってな。」
「ふむ、僕は治安維持に勤めたいから、ジャンル的には軍属かな。そして僕はシェパードの獣人だよ。」
そのベッツの言葉に一番最初に反応したのはやはりウザンだ。
そして、それに続いたのはダニエルに最初に指名されたランスだ。
ウザンはイリエワニというのは攻防両面に優れてそうな感じだな。
詳細な能力は判らんが、仲間というなら頼もしい。
曲がった事が嫌いなランスは思った通りと言うべきか。犬のお巡りさんを目指すのか。
安直過ぎる気がするのだが、まぁそこはランスだしそんなものだろう。
「え、えっと・・・僕は科学者への道へ進む・・・つもり・・・かな。
この未知の世界を色々知りたく・・・て・・・能力はアイアイ・・です。」
次に言ったのは言い出しっぺであるベッツだ。
サル系の獣人は知識系の能力が高くする事が出来ると聞いていたから学者ってのも頷ける。
それにドーム内では見た事も無いような技術がここでは使われ過ぎている。
それに興味を引かれる知りたいというのも判る気がする。
「私は・・・そうさね、店を出したいねえ。酒場なんて面白そうだと思ってるんだけど。
ちなみに、能力はスレイプニールだよ。」
「はいはい!私もフォル姉と一緒に店やるのだ!あ、私はコアラなのだよ。」
次に発言したのはフォルと元気よく手を上げたニキータだ。
だが、その言葉にクラスの皆は息を飲む。
(スレイプニールだと?幻獣じゃないのか?そんなものを選んだのか?腕が4本も有るのは何かの間違いかと思ったんだがどうやらそうじゃないらしい。確か神話オーディンの愛馬にして足が6本ある馬だったか。)
ニキータは、まあ・・・いつもフォルと一緒だしそう言うだろうと思ったが。コアラと言うのはニキータらしいというかなんというか・・・。
皆も
「スレイプニールって幻獣でしょ?フォル姉はそれを選んだの?」
ナツキがフォルの言葉に食いついた。
というより、皆が感じた疑問を代弁してくれたようだ。
「いんや、私は「馬」ならなんでもよかったんだけどねえ、自分でも最初はこの4本の腕は何の冗談かと思ったんだけどね
自分のカードを見てびっくりしたよ。王様が気を利かしてくれたのかね?」
フォルはそう言って4本の腕を動かす。
というか、気を利かせてくれたとか言うレベルじゃないと思うのだが。
「そうなの・・・発言ついでに私はベンガルトラよ。私も「猫」って書いたんだけど、これも王様が気を利かせてくれたのかしら?ちなみに、私は軍属を希望したわ。」
な・ん・だ・と・・・
軍属って俺と同じじゃないか・・・俺の安息の地はいずこへ・・・
「私も軍属希望です。ナツキ姉と一緒に外敵を滅ぼす!もちろんナツキ姉に言い寄ってくるウジ虫共も滅ぼす!」
続けて言ったのはランだ。
そしてその発言は俺を凝視しながら言い放つ。
(めっさ見られてる。穴が空くほどに。つか、何の獣人か言えよ!まぁ、猫科の何かってのは判るけどさ・・・)
「それじゃ僕かな、僕は鍛冶師になるつもりだよ。そして、トリケラトプスの獣人だよ。
ちなみにこれも力強い獣人なら良いと書いたんだけど、力強すぎるよね。」
今度は大昔居たとされる恐竜と言う生物か。
そんな力強そうな獣人なら格闘技系の方が良いんじゃないだろうか?
まぁでも元々身長が高かったし、それで力強くと言ったらそうなるのかな。似合ってるしなんか納得してしまうな。
そう思っていると隣のケイがスッと立ち上がった。
「僕は技術研究に進むつもりだよ。ベッツと同じ所に行ければいいね。
それとカッコウの獣人だよ。もっとイーグルとかカッコいい鳥の方が僕に合ってると思うんだけどなあ。」
「「「「「それは無い!(です!)(ねえ!)」」」」」
「えぇ~!?」
爽やかに意見を述べたケイが全員からダメだしを食らいガクッと肩を落として着席する。
オレやナツキに言われたのに納得が行ってなかったのか。
まぁ、皆から言われたら流石に納得するしかないだろ。
ケイが言った事だしオレもと立ち上がろうとするとケイの逆隣に座っていたジャンが先に立ち上がった。
「俺は、武の頂を目指すつもりだ。ただ、ウザンとは別で武器術の方を目指すつもりだがな。そして、バッファローの獣人である。」
立ち上がったジャンはそう言い放つ。
ジャンは一言でいうと寡黙な奴で、目的の為に努力する事を惜しまず直向に目標へ突き進む。
そんなタイプの奴だ。情にや儀を重んじる男で皆からの信頼も厚い。
バッファローというのも似合っているし納得出来る話だ。
トリスより身長は低いものの引き締まった体に隆起した筋肉、元々鍛え抜いていたからか現在このクラスの中で一番ポテンシャルが高いと思う。
「私は傷ついたジャンを癒す為に衛生士になるよ。ジャンル的には科学者になるね。ちなみにムクドリね」
そう言って立ち上がったのは青色のメッシュが入ったポニーテールをしたジャンの彼女であり婚約者でもあるアリシアだ。
アリシアとジャンは元々許婚だった訳ではなく、このクラスになった際アリシアがジャンに一目惚れし交際を迫った事に端を発する。
ジャンも互いに真剣に付き合うならとOKを出した所、アリシアがダニエルに掛け合い許婚の解消を受諾した為、ジャンもそこまでされればとアリシアに婚約を申し出たと言う物だ。
世間では失踪している二人なのでそこらへんは簡単に何とかなったらしい。
(あの時はクラスの女子達の色めき立ち様といったらすごかったな。まぁオレは、何故かナツキが氷点下以下の眼差しで射殺す様に見られて肩身が狭かったが。)
アリシアが座る事でトリスがオレに目を向けてくる。
図らずも最後になってしまったがどうやらオレの番のようだ。
「あ~オレは軍属を目指すつもりだ。まぁ、最初はどこぞの警邏隊から始まるだろうが取り敢えず部隊を任されるくらいにはなりたい。
そんでもって、カメレオンの獣人だ。理解はしているが納得はしていない。」
そう言って席に座ると案の定、ランが噛み付いてきた。
「な・・・軍属ですって!ナツキ姉にまだ付きまとう気!?」
「いや、付きまとう訳じゃないが偶々同じだけだ。別部隊になれれば良いなと思ってるよ。」
「はぁ!?ナツキ姉の何処が嫌なのよ!?」
「じゃぁ、一緒の部隊になれれば良いなと思っておくよ。」
「そんなのダメに決まってるじゃない!」
「いや、どっちだよ・・・」
勘弁して欲しい、一緒もダメ別々もダメっていったいどうしろと・・・
オレののんびり獣人ライフが遠のいていく気がする。
「ガイ「じゃぁ」ってどういう意味?」
(余計ややこしくしないでくださいナツキさん。)
絡まれるオレは助けてくれとケイにアイコンタクトを送るがケイは絶対に目を合わせようとしてくれない。
周りのウザンやニキータはニヤニヤしてオレ達のやり取りを見ていて助けてくれそうに無い。
と思っていたら意外な所から助け舟が出た。
「さて、あんた達じゃれ合いはその辺にしてそろそろ拠点に移動しようじゃないか。
ナツキも夫婦漫才は拠点でやりな。」
「ちょ!フォル姉!夫婦漫才では・・・」
「いいから、行くよ皆」
ありがたい事にクラスの姉御フォルが話をぶった切ってくれた。
皆もフォルが席を立った事により順次立っていく。
ランはチッという舌打ちと共に立ち上がり皆を追いかける。
オレもケイと共にそれに続いたが、ナツキは最後まで俯きながら「夫婦じゃないし・・・」と言っていた。
廊下へ出ると周りには窓1つ無く突き当たりにエレベーターがあるだけだった。
そのエレベーターの扉の前に立つと自動的にその扉が開いた。
エレベーター内は広く12人全員が乗り込んでも多少余裕があり遅れてきたナツキも含め乗り込むと自動的に扉が閉まった。
不思議な事にこのエレベーターは乗っている感覚が無かった。
上に向かってるのか下に向かっているのか全然判らなず10秒ほど乗っていると自然と扉が開いた。
扉が開くとそこはかなり広いエントランスだった。
オレ達は辺りをキョロキョロしながらそこへ足を踏み出し、正面に見える大きな門に向かって歩き出した。
ある者は期待とある者は不安を露にした表情でその門の前に立った。
12人全員が門の前に立つと門が喋り始めた。
「第1373期生の皆さん、ようこそニライカナイへ。
これから皆さんの獣人生に幸があらん事を。」
そして大きな門がが開かれる。
そこから差し込む日の日差しに目を眩ませそうになりながら1歩を踏み出した。
そこで再び声を掛けられる事となる。
「よう、新人共!まずはおめでとう。」
次話こそは・・・