悪魔の使徒
「おお、我が麗しき聖女様よ。貴女様から戴いた依頼を見事に達成しました」
「ええ、よくやったわ」
男は聖女様からのお褒めの言葉に感涙を流す。
「でも、まだまだよ。この真っ白に汚れてしまった世界はしっかりと真っ黒にしてあげないといけないわ」
「はいぃぃぃ。この私目がしっかりと役目を務めさせて頂きます!!」
「いいえ、貴方の役目は終わったの。もう用済みよ。死になさい」
「分かりました、聖女様。この偉大なる正邪教に永遠の幸あれ!!」
男は短剣を取り出し、自分の首を掻き切った。血が流れ出て床を赤色に染め上げる。
「ああ、綺麗な色。出来れば一生この色を見続けていたいわ」
聖女は床の赤を見て頰を赤らめた。
「でも、やっぱり死ねと言われて死ぬようなお人形さんじゃつまらないわね。何か刺激になるようなことはないかしら」
誰もいない部屋で独り言を呟く聖女はなんとも美しかった。
窓から暑い風が入ってきた。もう少し涼しければ良いのだが、かなり暑い。
暑さのせいで集中力が途切れる。
耳を外に傾けると木刀が風を切る音が幾重にも聞こえてくる。
どうやら騎士達が鍛錬をしているらしい。
一方自分はというと、今は無きアレス帝国の歴史を学んでいる所だ。
今年で自分も9歳だ。そろそろ自分も武芸の鍛錬をしてもいい歳だろう。
だから、自分も早くあの中に加えて欲しいのだ。
けれどもモルテが全く許してくれない。何度言っても「お前にはまだ早い」の一点張り。
きっとモルテも所詮子供だ、と侮っているのだろう。
俺は父の後を継いで、強くなる為にここに来た。なのにあいつがやらせることは数学に歴史、語学、化学などのおよそ戦争には関係ない勉強ばかり。
これでは騎士ではなく学者になってしまう。
一体何時になったら騎士になる為の鍛錬ができるのだろうか。
父が死んでから5年も経っていたが、状況はあまり変わらなかった。あったとしても幾らかの諸侯が対立しあい、戦い、吸収されたぐらいだった。
爵位の最高単位が伯爵程度では領地もたかが知れている。その頃は兵数もそこまで多くはなかった。いたとしても数千人が限度だった。
一体、いつになったらこの混乱が収まるのだろうか、一般人は皆んなそう思っていた。
喜んでいたのは商人と騎士ぐらいだった。
農民達は税金に喘えいでいた。逆に商人達は物価に喜び、騎士達は自分達の地位向上に舞い踊っていた。
やはり、1番苦労するのはいつも最弱の存在だ。
これはきっと普遍だろう。
今日は俺の10歳の誕生日だ。ついに今日という日が来た。
早く、早く。
一回の食卓へと駆けていく。
あれから何度も何度もモルテと交渉して10歳になってから騎士達に混じって鍛錬しても良いということになった。
条件として基礎体力を付ける為に毎朝5キロ走り込んだり筋力を上げる為に筋トレもさせられた。更に勉強量も途轍もなく増やされた。
だが、今日という日の為と思えば何もかもが苦にはならなかった。
唯一の苦は今日がなかなか来なかった事だ。
今日から自分は騎士になれる。いつかはモルテを抜かし、世界最強の男になる。
そして、この世界を統一するのだ。
今日から俺の伝説が始まる。誰も俺を止めることはできない。ただ、俺の名の下に頭を垂れることしかできない。
駄目だ、顔が勝手に綻びやがる。笑いが治らない。
丁度ドアを開けるとモルテが食卓に着いていた。
「何を笑っている?何かおかしいことでもあったか?」
モルテが俺に話しかけてくる。
「いえ、ただついにこの時が来たんだと思い、興奮しているだけです」
「そうか。それならついでに今の内に紹介しておこう。先ずはお前の師匠となる人だ」
おーい、とモルテが呼ぶとドアの後ろから壮年の男性が出てきた。
「こいつがお前の師匠のツイスだ。今は騎士から引退しているがその腕は確かだ。よくこいつの話を聞いて鍛錬をしろよ」
「はい、分かっています」
「よろしい。それと我等が騎士団を継ぐ者が鍛錬を始める時にあるしきたりがある」
「どんなしきたりなのでしょうか?」
「着いてこい。着けば分かる」
「はい…」
そんな事を言われると少し不安になる。
モルテが歩き出したので自分もその後に着いて行く。
「ここだ」と、言われた。そこは確か宝物室だった筈。
「一体何を?」
「取り敢えず、中に入れ」
「はい」
そう言われて中に入っていった。モルテは蝋燭に火を点けてどんどん奥へ進んでいった。左右の棚には沢山の武器や防具、秘宝なのだが置いてある。
宝物室の最奥まで来たところでモルテが立ち止まった。
「ここで、少し待っておけ」と、言いモルテは入口の方へ歩いて行った。
自分の目の前にはローブを纏った骸骨がいる。しかも、手を鎖に繋がれている。
こんなのがお宝なのか?やはり、死騎士の名を冠しているからなのか、趣味が悪い。
そんな事を考えていると自分の後ろの方からドアが閉められた音がした。そして、鍵が閉められる音。
「えっ?モルテー!?!?」
少しパニックになり、大声を出す。
後ろを振り返ろうとするが頭が動かない、体も動かなくなっている。
一体自分の身に何が起きているのだろうか?
いくら考えても何も思い浮かばない。
すると、次は蝋燭が消える音が遠くの方から聞こえてくる。
ぼっ、ぼっ、ぼっ、
その音は段々と近付いてくる。そして、自分の真横にある蝋燭が消えた所で部屋が真っ暗になった。
そして、自分の目の前に火の玉が集まり始めた。
そして、その火の玉がドンドン集まっていき大きく巨大化していく。
その火の玉から何かうめき声の様な音が聞こえる。最初は微かだったが火の玉が集まる内にドンドン大きくなっていく。
その声はなんとも形容し難い耳を覆いたくなる様な声であった。だが、体を動かすことが出来ない為耳を塞ぐ事は出来ない。
その火の玉はドンドン大きくなり、鼻先に来るほど大きくなった。すると、火の玉は逆に小さくなっていった。そして、青い小さな火の玉になった。
その火の玉は骸骨の口の方に吸い込まれる様に近づき消えていった。
骸骨の目に火が写った。そして、口をカシャカシャと閉じたり開けたらする。
そして、骸骨だった物が老人の様な見た目になり、それがドンドンと若返っていく。
そして20代位まで若返った。
「ハー、やっぱりこの家が狩ってくる魂の味は別格だ。どれも、戦争で志半ばで死んでいった者の魂だ。絶望は良いテイストだな。おっと失礼、名前を名乗っていなかったね。僕は悪魔第一侯爵トイフェル・シェインだ。シェインとでも呼んでくれ」
「お、お前は誰なんだ?」
恐怖で顔が歪み、声も掠れ掠れにしか出ない。
「だから、トイフェル・シェインだって言っているじゃん」
「そんな事を聞きたいんじゃない。何故お前の様な化け物がここの地下にいるのだ?」
「ハハハ、何を言っているんだい、坊や。この悪魔の第一侯爵である僕がこんな人間如きの地下室にいるだと?舐めるのも大概にしろよ、愚者が」
「す、すみません。でも、何で鎖で繋がっているんだ?」
「ああ、これ?これは昔、僕を支配しようとしたバカがいてね。そいつをボッコボコにして殺したんだ。だけど、そいつは僕と相性が良くてね。殺した後も僕の受肉先としてここに置いてあるんだよ」
化け物は一瞬怒った様な表情を見せたが謝ったら直ぐに笑顔になった。
「そんなことよりさ。君はモルテの後継者かい?」
「ああ、スケラ・ロワレだ」
「うん?君は養子かい?」
「そうか、そうか。まあ、モルテが子供を作る事も育てる事も想像つかないし当然か」
「一体、お前は何をここでしているのだ?」
「うーん、まあ、魂を食べる為かな?ここの家は昔から軍人の家でさ。僕に魂を食べさせる代わりに力を与えるっていう取引をしたんだ」
「じゃあ、何故繋がれているのだ?」
「何百年か前に美味しそうな魂がちょうど来てね。食べようと思ったらそいつが当主だったんだよ。それ以来僕はここに繋がれているのさ。でも、ここに来るのは所詮数時間だし文句はないけどね」
「そうなのか」
「そうだ、君はこの家の後継者だから僕と契約を結んでよ」
ここはもう結ぶしかない。モルテもその為にきっとここに俺を呼んだんだ。
「分かった」
「じゃあ、自分の血を僕の掌に落として」
自分で手の皮膚を噛みちぎり血を流す。そして、化け物の掌に落とした。
「うん、これで契約は完了したよ。これからは儀式に入るね」
そう言うと、化け物は鎖を引きちぎり僕の前に立った。
そして、僕の顔を掴み覗き込んだ。
「貴様が欲しいのは何だ?力か?知恵か?はたまた勇気か?」
目を覗かれる。まるで自分の考えを見られている様だ。
「俺が欲しいのは力だ」
「貴様は力が欲しいか。分かった、ならくれてやろう」
化け物はそう言うと、両手を合わせた。
すると、化け物の目の前が光り始めた。
そして、それがドンドンと形作られていく。
それが、最終的に槍の形になった。
そして、光が発散して黒色の禍々しい槍が一槍できた。
「この死呼びの槍を貴様にやろう」
それを掴むと体から力が湧き出る様だった。
「ふー、終わった。この儀式もっとさ、普通な感じにできないかな?硬いんだよねー、これ」
「そうなのか」
「そうだよ」
すると、化け物はフッ、フフッ、ハッハッハッと笑い出した。
「やはり、君は面白い。君には特別にもう一個、あげよう」
そして、化け物がまた何かを作り始めた。
そして出てきたのは指輪だった。宝石を埋める部分には紅い血の様な色の宝石が埋め込まれていた。
「知恵の指輪だ。これもやるよ」
「分かった」
そう言い徐に指に付けた。付けると何か、頭が冴える様な気がした。
「それと、契約の話をまだしてなかったね。その武器で人を殺すとそこに魂が集まる。それが溜まると槍は先端が光り、指輪は宝石が光る。そしたら、それをここに持ってこい。君をその分強化してあげるよ」
「お前にとってそんな契約でいいのか?圧倒的にこっちの方が有利じゃないか?」
「僕は魂を食べられればいいの。やっぱり、絶望した魂は美味しいから、なるべく残忍な方法で殺してね」
「あ、ああ。善処するよ」
「うん、それじゃあね」
すると、身体がふととても軽くなった。そして、蝋燭の火が点いていった。
後ろを振り返り、走って出ていった。
「はあー、あの子は面白い。どんな波乱を起こしてくれるのだろうか。ああ、楽しみだ。おっと、向こうでも来たようだな。でも、あっちはなみんな満足しちゃってるんだよな。まあ、食べられるだけマシか」
そう怪物が言うと、怪物はバタンと倒れて鎖がまた繋がり、ドンドン老いていきそして、骸骨に戻っていった。
3ヶ月ですか。時は早いですね〜。
趣味全開で作ると内容がダークに…。
多分三部に分かれて1部につき1つ今回出て来た伏線回収できればなって思っています。
もしよろしければブクマ、感想よろしくです。
一応、ツイッターやってます。業務連絡と呟きは半々くらいの比率です。