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タクシードライバー

作者: 中川夏希

タクシーは二十四時間三六五日毎日のように走っている。運転手である山谷茂典(三四歳)は今日も街の中を走る。

タクシー乗り場で駐車をしていると、コンコンと後ろの窓を叩く音が聞こえた。

「あの……走ってもらっても大丈夫ですか?」

「どうぞ」

バックミラーで乗客の顔を見る。年齢は十代ぐらいの男性。

「どちらまで?」

「麻美町までお願いします」

言われた場所まで走る。信号に捕まるたび、無言が気まずくなってしまう。

「一つ相談乗ってもらってもいいですか?」

「はい?なんでしょうか?」

乗客が突然話しかけてきた。

「これは彼女の話なんですが、学校で不思議なことがあったんです」

「不思議なこと?」

「その人部活をやっているのですが、部活の帰り教室に忘れ物を取りに行ったらしいです。ですが、鍵は開いていなく仕方なく職員室に鍵を取りに行ったらしいです」

「夜は物騒ですからね。それでどうしたんですか?」

乗客は話を続けた。

「はい、職員室に行き鍵をもらい教室に行ったんです。そしたらその教室の鍵が開いてたらしいです。でも一番最初もその次に行った時も教室の中に誰もいなかったんです」

「鍵が閉まってるのと勘違いしたとかではなく?」

「確実に閉まっていたらしいですよ。怖くありませんか?」

茂典は少し考えてみた。

「ちなみにそれは何時頃ですか?」

「八時頃だと思います。その子バスケ部でいつも部活が終わるのが七時半なので」

「怖いですね。それがもしその子の狂言ではなければ」

「狂言?」

乗客が不思議そうな声で聞いてきた。

「はい。これは私の想像になりますが、あなたとその子はその日に一緒に帰りましたか?」

「え、ええ……帰りました。自分はその日彼女を待つために玄関で待ってました。しかし、八時になっても来なかったので教室まで行ったんです。その時は鍵は開いていなかったのでまた玄関に戻りました。しばらくしてまた行ったら彼女がいてその後その話を聞いたんです」

ふっ……と笑ってしまった。

「あぁすみません。いやぁね。あなたの彼女、その日違う人とイチャイチャしてたんじゃないかって思って」

「どういうことですか!? 俺の彼女がそんなことするはずないじゃないですか!」

先ほどの口調とは違い声が荒ぶっていた。

「まず、あなたが来た時に鍵が開いてなかった理由として、あなたの彼女が中から閉めたが一番妥当でしょう。そして彼女の言った鍵の話。あなたが来たことで鍵が閉まってい他ことが分かったので思わずその話を……。彼女が忘れ物を手に持っていたことを隠すために言ったのでしょう」

「今、彼女な電話をしてみます!」

乗客が電話をし始める。何度かコールをし、電話に出た。

「もしもし、今どこにいる?あ……いや、別に大した用事じゃないんだけどよ。話したいなぁって……てか、本当にどこにいんだよ?家?お前今日部活って言ってなかったか?うん……うん……そうか……」

電話が切れ、乗客が茂典に話しかける。

「やっぱり彼女は浮気なんてしてませんよ。今は家にいるらしいです」

「その家、本当に彼女の家なんでしょうかね?なんだったら相手の家に行ってみますか?」

「え?なら、お願いします……そこを右に……」

茂典は言われた通りのルートを走った。

家に着くと、乗客が家まで走る。戻ってくるなり不機嫌な顔でまた別のルートを支持してきた。

「彼女、いなかったです。同級生の家にいると言ってました」

「少し飛ばしますね」

タクシーを飛ばし急いで向かった。


目的場所に着くなりタクシーを降り、家に入った。しばらくすると乗客が戻ってきた。顔を見ると少し涙ぐんでいた。

「麻美までお願いします」

最初に伝えられた場所を告げられ向かった。

この時メーターは既に五千円を超えていたが、自分のせいで思わぬ事実を知ったということもあり、代金を取らなかった。

次の乗客を待っていると今度は強面の人が入ってきた。

「どちらまで?」

「そこら辺適当に走ってくれ」

言われた通り走った。

「お客さん、いくらまで払えます?」

「あ?んなもんいくらでも払えるよ。いいから黙って走れや」

はいはい……と裏路地や未だ行ったことない道を走った。

「なぁ?一つ頼みたんだが火貸してくれねぇか?」

「すみませんお客さん。中禁煙なんですよ。それでなくても今火つけたらお客さん火だるまになりますよ」

「なんでだよ?」

「だってお客さんからガソリンの匂いがしますよ」

乗客が黙り込み、そっぽを向く。

「まぁ車いじっての匂いということも考えられますがそれにしてもスーツ姿をしてる以上はそうは思いませんし、どちらかと言えばあなたは裏の人間っていうことが一目見て分かりました」

茂典はバックミラーで乗客を見ながら言った。

「まず顔の目の下にある傷。それは喧嘩で相手に爪を立てられた跡だ。首の吉川線は不意打ちで首を絞められた跡ですね。それもまだ新しい。今日つけた跡でしょうか?その後喧嘩相手がガソリンをあなたにかけ、逃げようとした。が、あなたに捕まり、ボコボコにされた。拳が赤いのと足を引きずっていたのが誰かを殴った証拠です」

転々と話す茂典に乗客が驚く。

「だいたい合ってる。あんた観察力凄いな」

「ただのタクシードライバーですよ。どうします?このまま警察に出頭しますか?」

「冗談言うな。俺は売られた喧嘩を買っただけだ。警察ごとは起こしちゃいねぇ。お、そこを右に曲がったコンビニに降ろしてくれ」

タクシーを右折させ、すぐ合ったコンビニエンストアに停めた。

「六千二百円です」

乗客が金を払いタクシーから降りていった。お客を詮索するのはあまりよろしくはないが、なに分ドライバーをやって以来かなりのお客を見てきた茂典は、どういう人間なのか、見た目や話の内容で分かってきた。

「 ちょっといいか?乗せてもらいたいんだが」

コンビニエンストアで暇を持て余してると、一人の男性が話しかけてきた。

「後ろ開けますね。どうぞ」

「すまない。警察署までお願いしたい」

「警察署までですね。かしこまりました」

警察関係者がタクシーを利用するのも珍しくないため、動揺はしていなかった。

「顔が疲れてますね。何か事件ですか?」

「あぁ……。事故について調べていたんだよ」

「事故ですか?」

「ただの交通事故……じゃ腑に落ちない部分があってな。俺は事件だと睨んでるんだが……」

なるほど……と茂典は事件の内容を聞いた。

「被害者は二十二歳の男性と二十歳の女性。二十二歳の男性の方はガードレールにぶつかった車に巻き込まれ死亡。一見ただの事故だが不可解なことが三つあるんだ」

「三つとは?」

「ブレーキ痕が見当たらなかった。後から遺族に聞けば女性は自殺をするような素振りなどはなかったらしい。そして、エアバッグが作動していなかったことだ」

「ふむ……誰かが細工をしたということですかね」

どこかの推理漫画のような事件だ。茂典は考えた。

「でもそんな痕跡もなかったんだ。巻き込み事故で亡くなった男性も不思議なんだよ」

「不思議とは?」

「目撃者によると男性はそのガードレールのところにずっといたらしい。そこに車が突っ込んできて事故が起きた。こんな偶然ありえるか?」

乗客は言いながら厄介そうな顔をする。すると茂典はある仮定を話し始めた。

「女性についてなんですが、一度保険会社に連絡してみてください。もしかしたら多額の保険金があるのかもしれません。ほら、よくあるじゃないですか?事故に見せかけ自殺をしたってケース。残された家族のために自らが命を落とし死んだ後、降りるお金を子供や旦那に残すこと。男性の行動は私にも分かりません。そこだけが謎なんです」

成徳の推理を話し終えたタイミングで警察署に着いた。

「もう一度事件について色々洗ってみるよ。ありがとな。あ、この話は内密にな」

「えぇ。分かっていますよ。お客さんのことは守秘義務がありますので」

茂典は車を発進せずダッシュボードに入っていたパソコンを手に取り、起動した。

「二十二歳男性……事故……っと。あったこれか」

先ほどの話を調べていた。

「なるほど……そういうことか」

事件の内容を読むと茂典の口元がニヤッと笑った。

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