イースとレイジ
ひと段落がすんで僕達はとりあえず研究室に向かった。
「まさかカタストロフィーインパクトである巨人を手懐けてしまうとはおそれいった。我も七百年生きた吸血鬼でも予想はつかなかったぞ」
ミコトさん。
「僕はただ悲しみだけしか生まない争いをやめたかっただけですよ」
「カタストロフィーインパクトは防いだ。後は麻美を救出しなくてはな」
ミコトさんの言う通り僕達は麻美を助けなければならない。
研究室に到着した僕たちは麻美を助けるための作戦を練った。
「ふむ。明日早速麻美を助けるために研究所に向かうのじゃ。イース頼むぞ」
「分かりました」
そこで僕が、
「リリィとメイジはどうする?」
「リリィも協力する」「私はミコトに借りを返さなくては」
二人はそれぞれ即答した。ミコトさんは、
「ふむ。分かったもう何も言わぬ。じゃあ我らは明日に備えて今日のところは眠ろう」
ミコトさんは相当疲れていたのか?鞄を枕代わりにして寝転がり目を閉じた。
僕は今すぐにでも麻美を助けたいところだが、僕もメイジもリリィも疲れているので地べたに寝転がりその目を閉じた。
ちなみにイースは疲れている様子はなく僕達の警護をしている。
僕は目を閉じて考えてしまう。
あの時水晶玉にカタストロフィーインパクトの答えを問おうとした時にどうして麻美の姿が映ったのだろう。
それにミコトさんが言うカタストロフィーインパクトである、巨人と麻美が何か関係しているわけでもない。
分からない?
いや、でもカタストロフィーインパクトは阻止されたのだ。それで世界は救われたのだ。
だから、もう深読みをしたって仕方がないのだ。
それにそんな事をしたって自分がおかしくなってしまうだけだ。
後は僕達の掛け替えのない仲間である麻美を助けに行かなくては。
今日のところは眠ろう。
少しずつ眠りに落ちて行く中、僕はもう嫌な夢を見ないように心に念じた。
目覚めると、今日は嫌な夢に苛まない事にホッとしていた。
そう言えば僕たちは研究室で眠っていたのだ。
研究室は密室された空間で朝か夜中なのかわからない。
それに時計もないので辺りを見渡してみると、イース以外みんな眠っている。
僕は再び眠ろうかと瞳を閉じたのだが、目がさえて眠れず、アラタトの夜風に当たろうかと思って研究室から外に出た。
ドアが開く音に敏感に反応したのはイースだった。
「イース。君は眠らなくて大丈夫なのか?」
「私には眠ると言う概念はありません」
「そう」
そう言って僕は外に向かうために一方通行の廊下を歩いた。そこでイースが、
「レイジ様どこに行かれるのですか?」
「ちょっと夜風に当たろうと思って外にでも」
「そうですか、お気をつけて」
イースは僕にさわやかな笑顔を見せてそう言った。
僕達とイースは出会って一日だが、そんなイースの事をもっと知りたくて、
「イースも僕と一緒に散歩しないか?」
「えっ」
なぜかイースは顔を真っ赤にして驚いている様子だった。
何をそんなに驚くのかは僕には分からずに、
「来るの来ないの?」
「参ります」
にっこりと笑ってイースは僕の隣を歩いて外に行った。
外に出たとき、まだ太陽の光はアラタトには届いていない。
空を見上げると、そこはガラスの粉をばらまいたかのような星がきらめいている。思わず僕は「綺麗だ」と呟いた。
「本当です綺麗です」
イースはうっとりときらびやかな表情で星を見るのだから、見ている僕の心臓を鷲掴みされているかのように苦しかった。
僕はそんなイースに恋をしてしまったのか?
いやイースはいくら美しくてもロボットなのだ。
でもイースは僕達の大切な仲間だ。
アラタトにそびえ立つビルの間の路地を僕とイースで歩いた。
僕はイースの美しさに翻弄されたのか?隣を歩くイースをちらりちらりと見ていた。
そんな事をして僕はイースに感づかれ、
「どうしたんですか?先ほどから私をちらちらと見ていますけど」
「いや別に」
とっさに僕はイースの視線を反らした。
イースに恋心を抱いた何て、口が裂けても言えない。
「アラタトの町は私が把握しています。どこか行きたいところはありませんか?」
何て言われて僕はアラタトに何があるのか分からないので、
「イースのお勧めの場所でもつれていってくれないか?僕はアラタトに何があるのか分からないから」
「ならアラタトの果てにでも行きましょう。そこから見える地上の景色が綺麗だと私のプログラムにインプットされていますので」
「じゃあ行こうか」
アラタトの果てはただ道をまっすぐに行くだけみたいだ。
そこに向かいながらイースは、
「私何か楽しいです。こうしてレイジ様と一緒に歩くだけでも」
幸せそうに笑うイース。
僕はその笑顔にもはや心は奪われてしまっている。
イースのその笑顔を僕はまともに見れない。
実を言うと僕もイースと歩いているだけで、心が高揚して、何か楽しい。
でも僕は本当はこんな事をしている場合ではない。
明日一番に僕達は研究所に拉致されている麻美を助けに行かなくてはいけない。
そんな事を考えているとイースがその眩しい笑顔で僕の視線をのぞき込んできた。
「レイジ様、お顔が優れませんけど、どうかなさったのですか?」
僕はそんな眩しい笑顔で問いかけられ、心はもはや奪われているが、そんな気持ちを置いといて、
「一刻も早く麻美を助けに行かなくてはいけないのに、こんな事をしてて良いのかなって思って」
するとイースは立ち止まり満天の空を見上げ感慨深そうに言う。
「レイジ様は仲間思いなのですね。先ほどミコト様に聞いたんですけど、レイジ様は仲間の事なら命を捨てても助ける性だって仰っていました」
「別に命を懸けるなんて大げさだよ。ただ僕は仲間を失って辛い思いをしたくないだけだよ」
イースに僕の本心を伝えた。
そんな時、悲しい運命にさらされた真奈美さんの事を思い出してしまった。
僕はもうそんな思いをしたくない。
だから僕は何が何でも麻美を助けに行かなくてはいけない。
「レイジ様?」
イースは心配そうに僕の目をのぞき込んできた。
そんなイースもミコトさんと同じように鋭い。
いや僕がただ単純なだけかもしれない。
ミコトさん言っていたけど、僕はすぐに感情が顔にでるって言われたっけ。
何て考えているとイースは綺麗な花のような笑顔で、
「レイジ様、笑って下さい」
「えっ?」
僕は笑えるような状況ではなく、きょとんとしてしまう。
「私思ったんですけど、レイジ様が悲しい顔をしていると、なぜか私は辛いです。だから笑って下さい」
そんな事を言われたのは初めて・・・いや言われた事はあるけど、誰に言われたのかは記憶がおぼろとして思い出せなかった。
イースに言われたとおり笑顔を取り繕うとした時、なぜか急に大量の涙が溢れでてきた。
男が女であるイースに涙を見せるわけには行かないのでそっぽを向いた。
泣き顔を見られたくないので、僕は袖で涙を必死に拭うがまるで涙腺が故障したかのように溢れ出て抑える事は出来なかった。
するとそんな僕にイースは背後から抱きしめられて、流している涙の意味が分かった。
僕は嬉しいんだ。きっとイースに言われた事は僕の心の性感体を刺激され、どっと涙が溢れでてきた事に気がついた。
悲しい涙なら僕は数え切れないほど流してきた。
でも嬉しい涙は指で数える位しかない。
そして僕はイースと抱き合った。
「レイジ様、どうして泣いているのですか?私は何かレイジ様に気に障るような事を言ってしまったんですか?」
「違う。違うんだイース。僕は嬉しいんだ。イースが僕の事をそんなふうに思ってくれて」
「それは私も同じです。こんなロボットにすぎない私を命を懸けて守ってくれたことに」
「そんな事言うなよ。君は確かに人とは違うロボットだけど、僕達の仲間だよ。少なくても僕達はそんな君をただのロボットなんて言わないよ。もし言った奴がいたら僕がやっつけてやるよ」
「レイジ様はお優しいのですね。何でしょう。そんなレイジ様の事を思うと胸が苦しくなるのは」
そんな事を言うイースは僕の事が好きなんだとミコトさんが言う鈍感な僕でも分かった。
イースは僕に惚れている。
イースが僕の恋人だったら、毎日が楽しいのだろうな。
こんな可愛い子と町を歩いたり、映画に行ったり、一緒に勉強何かして。
いっそ、イースと契りを結ぶのも良いかもしれない。
そんな事を考えていると僕の脳裏に麻美の姿が思い浮かび、イースの抱擁を避難するように突き放してしまった。
「ダメだよ。そんな事出来ないんだよ」
きょとんとしたイースは、
「どうされたのですかレイジ様」
「ダメなんだよ。とにかくダメなんだよ」
「ダメって何がダメなのですか?」
話が見えないって感じで首を傾げるイース。僕だって分からないけど、
「僕は麻美が、麻美の事がほおっておけない」
興奮した僕は大声でイースに言ってしまった。
僕とイースの間に一分間の沈黙が訪れた。
イースは何を思っているのか分からないが、僕はそんな緊迫な空気にどうして良いのか分からなかった。
するとイースは笑顔で俯いた僕の顔をのぞき込んできた。
「仲間思いなのですね、レイジ様は」
そんなかわいらしいイースの笑顔で言われたら、僕の心はたまらない。
でも、僕はそんな自分の気持ちに答える事は出来なかった。
きっと、僕は辛気くさい顔をしているのだと思う。
そんな顔をイースに見られたら、また心配されると思うので笑顔を取り繕った。
するとイースは、
「そうですレイジ様は笑っていた方が良いです」
それは男の僕が言うような台詞だ。続けてイースは、
「地上に笑う角に福来ると言います。だからレイジ様は、いやどんな時でも笑っていた方が良いと私は思います」
僕はそんなイースの言葉に思わず「フフッ」と本心からのほほえみがこぼれ落ちた。そして僕は、
「じゃあイース。君が進めるアラタトの果てに行こう」
「はい」
にっこりと笑うイース。
麻美が今どうしているのか分からないし、僕はこんな事をしてて良いのかと思ったが、とにかく今はイースと同じ時を楽しもうと自分自身に言い聞かせた。
イースは僕と視線が合う度に笑ってくれた。
そんなイースを見ていると僕はなぜか安心してしまう。
イースはロボットだが、人間以上に心が純粋だ。
僕はイースを守ってあげたい。
それはリリィや麻美とミコトさん同様に僕の仲間だからだ。
そしてアラタトの果てに到着した時だった。
「このアラタトの果てから地上を見る景色が綺麗だと私のプログラムにインプットされています」
「そうかそれは楽しみだな」
アラタトから見える地上の景色を僕とイースは見渡した。
そこから見える景色は思いもよらない物だった。
地上が赤く染まり何か様子がおかしい。
「リリィ、いったいどうなっているんだ」
「巨人が地上を壊し回っています」
リリィは遠くの物を見る能力があるのだろう。
「巨人って?」
「昨日私達と戦った巨人が何百体も」
イースは目を向いてその地上の様子を見ている。
「何百体って、カタストロフィーインパクトは阻止したはずなのに」
「私にも分かりません。もしかしたらカタストロフィーインパクトは昨日戦った巨人ではなかったとしか思い浮かびません」
そんな巨人達がなぜ地上を破壊しているのかイースにも分からない。
そこで僕は思い出す。
研究室で水晶玉を掲げた時に麻美の姿が僕の脳裏に焼き付けられた事を。
カタストロフィーインパクトは麻美にあるのか?
でも、どうして麻美なのか僕には分からなかった。
色々と考え巡らしていると、僕が育った四つ葉の里のみんなが危ない事に気が気でなくなってくる。
そんな僕はイースに、
「イース、地上へ降りよう。このままでは僕の仲間である四つ葉の里、いや地上のみんなが危ない」
「でもミコト様やリリィ様は研究室で待機中です」
「良いからイース。僕を地上に降ろしてくれ」
「分かりました」
僕はイースにふれ地上へと瞬間移動した。
地上の降りたとき、僕は目を疑った。
新潟の町が炎に包まれている。
夢なら覚めてほしかったが、残念ながらこれは現実だ。
悲鳴を上げ逃げまどう人達。
もしかしたら、もう死亡者がいるかもしれない。
それよりも僕は四つ葉の里のみんなが心配だ。
炎に包まれた町を僕は走った。そこでイースが走る僕の隣を飛んでいた。
「レイジ様どこへ行かれるのですか?ここは安全な所に避難した方が」
「そんな事をしている場合じゃない。とにかく四つ葉の里に行かなければ」
すると僕の隣を飛ぶイースが僕を抱え込んだ。
「仲間を助けに行くのですね」
「そうだよ。四つ葉の里はこの道を真っ直ぐに進んだ場所にある」
「任せてください」
僕を抱えながら全速力で進むイース。
交差点にさしかかり僕の水晶玉が輝きだした。
そこでホーリープロフェット発動。
交差点に差し掛かったら、巨人が脇から出てくることを予言して、イースにその事を話したら、ビルとビルの間に逃げ込んだ。
巨人が過ぎ去るのを僕とイースは見つからないように身を隠しながらのぞき込んでいた。
「行きましたね」
「そうだ。先を急ごう」
イースは飛びながら僕を担いで四つ葉の里を目指す。
到着して僕はイースから降りて四つ葉の里に入った。
そこには涙先生を囲む僕の仲間達がいた。
「涙先生」
「あなたはレイジ。今まで何を・・・」
お説教しようとする涙先生の言葉を遮った。
「ここは危険です。巨人が来る前に避難しましょう」
「いったい何が起こっているのです?ニュースでは世界が壊滅状態になりそうだと言っていましたが」
そこでホーリープロフェットで安全なところはないか予言した。
すると以前僕が住んでいた港に隣接する廃工場だと僕の脳裏に映った。
僕に続けと「早く」とみんなに大声で問いかける。
外に出たとき僕は何か嫌な予感がした。
その通りであり、僕達の目の前に巨人がいた。
「くっ」
どうしようもないと言わんばかりに吐き捨てた。
巨人は口から破壊光線を放とうとしている。
僕は予言で避けられるが、四つ葉の里の仲間達はどうしようもない。
僕は覚悟を決めるしかない。
僕だけが助かるなんて、その事で僕はまた仲間達が死んでしまったことに苛むのだったら、僕は光線を避けようとせず運命をみんなと共にする。
僕はおもむろに瞳を閉じた。
数秒がたち僕は生きている。
目を開くとイースがその巨人の光線をバリアーのような物体で防いでいた。
「私の事をお忘れですか?レイジ様」
「イース」
「ここは私がくい止めます。だからレイジ様は仲間を安全なところへ」
ここはイースに任せるしかない。
生きていてくれイース。
そう願いながら僕は四つ葉の里のみんなを誘導した。
「こっちだみんな」
僕の後に続く四つ葉の里のみんな。
四つ葉の里のリーダーである孝さんが怖くて動けない子を二人両腕に抱え込んでいる。
僕は巨人が襲って来ないかホーリープロフェットを駆使して安全な港まで、みんなを誘導する。
どうやら港まで巨人は来ないとホーリープロフェットは言っている。
そして僕が以前隠れ家として使用していた港に隣接する廃工場に到着した。
「ここなら安全だよ。とにかくここには食料もある。僕は行かなくてはいけないから、みんなはここで避難していてくれ」
イースの事が気が気でなくて僕は港から施設に行こうと走ったとき後ろから孝さんが僕の名前を呼んだが、それを無視して僕は走って来た道を折り返した。
孝さんからの口調からすると僕に対して怒っている様子だった。
そうだよね。僕はみんなに心配をかけたのだから、怒られるだろう。
その証拠に涙先生は僕に対してご立腹だった。
とにかく今はカタストロフィーインパクト・・・いや危険な目に遭っているイースを助けに行かなくてはいけない。




