リリィ2
何か物音がして僕は目覚めた。
時計を見ると午前六時を示していた。
顔を上げるとリリィが目覚めたみたいでこっそりとドアの方に向かい、いかにも出ていくような感じだった。
「リリィ、どこに行くの?」
僕が声をかけるとビクッと体を震わせて僕の方に振り向いた。
「リリィ行く。助けてくれてありがと」
「待てよリリィ」
僕が身を乗り出してリリィの方に行ってその華奢な肩に手を添えた。
「何する離せ」
体を揺さぶって僕の手を振り払った。
それでも僕はその小さな手を取った。
「リリィに構うな」
僕の握った手を振り払おうとしているが僕は離さなかった。
もしここでリリィの小さな手を離してしまったら、僕は何か後悔してしまうんじゃないと思って離さなかった。
「昨日も言ったじゃないか。人は一人では生きていけないって」
「リリィどうなったってお前たちに関係ない」
僕はリリィの発言に対して気がつけばリリィの頬をはたいていた。
「何する?」
怒るリリィ。そんなリリィに僕は、
「どうしてそんな悲しいことを言うんだよ」
「・・・」
言葉を失うリリィ。
「どうして?真奈美さんも同じだった。人の気も知らないで自殺してしまうんだよ。それで僕はまた悲しい目に会わなくてはいけないのかよ」
「何の事を言っている」
リリィの言うとおり僕の言っている事はリリィに分かるはずがない。
ただ僕はもうかけがえのない人を失うのはもう嫌なんだ。
それをリリィに伝えたいのだ。
リリィとは昨日今日に出会ったばかりだが、何かほおっておけない気がしていたのだ。
「お願いだよリリィ。僕はもうあんな思いはしたくないんだよ」
僕は涙をこぼしていた。
「お前達、リリィ利用するだけ。カタストロフィーインパクト水晶玉がなくてもリリィは違う方法で何とかする」
「違う方法なんてあるのかい?それよりも僕はリリィの事がほおって置けないよ」
「ラン姉さん消えた。MSの末期になって。リリィ一人ぼっち」
リリィの大きな瞳から頬を伝う涙がこぼれ落ちていた。
「リリィは僕が守る。約束する。絶対に一人にはしないって」
「でもリリィ、研究所の人間に追われている。リリィといるとお前たちまで巻き込まれる」
「そいつ等の事怖くないって言ったら嘘になるけど、僕はそれでもリリィを守るよ」
僕はそんなリリィを優しく抱きしめた。
それはリリィの体は細くて繊細で強く抱きしめたら、もろいガラス細工のようにバラバラに砕けてしまいそうだからだ。だからそんなリリィを大切にしたい。
「我も忘れるでないぞ」
後ろからミコトさんの声がして、振り返るとサングラスをかけたミコトさんの姿があった。
「ミコトさん」
「ふむ。良い感じのところ悪いが我も協力させてもらう」
良い感じのところと言われて僕は即座にリリィから離れた。
リリィの顔を見ると顔を真っ赤にしていた。
そんなリリィに僕は、
「自己紹介がまだだったね。僕は沖レイジ十一歳」
よろしくと言わんばかりに僕は握手を求めた。
「じゃあリリィ、これからレイジと呼ぶ」
リリィはぶっきらぼうにも視線を逸らしてその手をさしのべた。
リリィの小さな手を握った時、ミコトさんが僕とリリィとの間に入ってリリィと僕がつないだ手の上にその手を乗せた。
「我はミコトじゃ。よろしくなアラタトの娘」
「うん」
するとその表情からリリィの笑顔が垣間見えた。
「ようやく笑ってくれたね」
僕が優しく言うとリリィはぶっきらぼうに怒った顔になって「バカ」と言った。
そんなリリィの素直じゃない性格がなぜかかわいかった。
ひと段落がして、ミコトさんが、
「さて、みなで朝の馳走を食らおうではないか」
ミコトさんが食料の入ったビニール袋を取り出した。
ちょうど僕はお腹が空いていた。
リリィの方を見るとかすかな笑顔を見せてくれてお腹が空いていることをアピールしているような感じだった。
ミコトさんの食べっぷりにリリィは少々驚いている様子。
僕とリリィはコンビニのおにぎり二つにペットボトルのお茶を食した。
食事が済んだ頃、僕は何か嫌な予感がした。
「どうしたのじゃレイジ」
「何か嫌な予感がして」
すると扉の向こうからノックの音がした。
リリィはそれに気づいておらず、ミコトさんが僕の目を見た。
「お主嫌な予感がしたと言ったな」
「はい扉の向こうから何か真っ黒な感じの何かを感じるんです」
僕がそう言うとリリィは僕に寄り添った。
僕は恐る恐る扉の覗き口から垣間見るとサングラスをかけた男二人が見えた。
僕はそんな二人を見て不信に思い、小さな声で、
「なんかサングラスをかけた人がドアの向こうにいるんですけど」
するとリリィは震えて僕にしがみついた。
「きっと研究所の奴ら」
リリィの話を聞いて僕は身を乗り出して窓の扉を開け、そこから逃げだそうと考えたが、ここは三階でとても降りられそうもないと思ったそんな時だった。
ミコトさんがリリィを右手で担いで、そして僕を左手で担いで窓の外から飛び降りた。
突然のことで僕は怖くて目を閉じていた。
恐る恐るその目を開けると地面に着地していた。
「レイジ、その水晶玉を握りしめながら、アラタトの民と手をつなぎながら走るのじゃ。さすれば我のスピードについてこられるはずじゃ」
いきなりそんな事を言われたが、今は一刻を争う時で出来る出来ない言っている場合じゃないので、ミコトさんに言われた通り水晶玉を握りしめリリィと共に凄まじいスピードで走るミコトさんの後を追った。
ミコトさんは人間では追いつけないほどの早さで走っているが僕は水晶玉の力でついていける。
僕とミコトさんは研究所の連中に対抗するすべはあると思うが今は逃げた方が良いと思っている。
研究所の人間と関わると何か嫌な予感がするのだ。
水晶玉は僕たちを安全なところへと導いてくれると僕は信じている。
雪の中を路地から路地へと走り、広い草原にたどり着いたときだった。
僕たちの目の前に漆黒の服をまとい頭に大きな青いリボンをつけた少女が立っていた。
「久しぶりだなミコト」
「お主はメイジ」
どうやらその少女はミコトさんの知り合いであって、僕はその少女に何か不吉なオーラを感じていた。
するとメイジとやらはサングラスをかけ、
「そのアラタトの民をこちらに渡せ」
「なぜお主がそう言う。もしかしてお主研究所の奴らと手を結んでおるのか?」
「そんな事お前には関係ない。さあ渡すのか渡さないのかどっちだ?」
「渡すわけにはいかぬ」
ミコトさんがそう言った時、僕はリリィの前に立ちふさがり盾となった。
「ならミコト、私とここで一戦するか?」
メイジは地面から死に神が持っているような鎌を召還した。
「お主どうしたのじゃ?」
「カタストロフィーインパクトは我らの物になる。その為にはそこのアラタトの民の娘が必要なのだ」
「どうしたのじゃお主。五百年前我と友にカタストロフィーインパクトを止めた仲ではないか。お主はいつも平和を重んじていた」
「平和?くだらぬ。この世は壊滅させるべきだ。人間は愚かだ。争いや災害の危機に直面しなければ延命出来ぬ人間など。そんな人間のために我はこの世界を守ろうとした自分が愚かだと思った」
「その愚かな人間を重んじていたのもお主ではないか。お主はそんな愚かでバカな人間に生まれたかったと口癖のように言っていたではないか」
「黙れミコト。アラタトの娘を渡すか、我に殺されるかどちらかにするのだな」
「くっ」
戦闘状態に構えるミコトさん。
僕は無益な戦いはしたくない。
それにこのままミコトさんを戦わせたら何か嫌な予感がしていた。
「レイジ」
ミコトさんは僕に振り向いて、僕の名を呼ぶ。続けて、
「ここは我がくい止める。お主はリリィと共に先へゆけ」
そんなミコトさんが心配で僕は戸惑っていた。
「我はお主に心配されるほど、柔な我ではないよ」
そうだ。僕は戸惑っている場合じゃない。
ここはミコトさんを信じるしかないと思って、
「行こうリリィ」
僕はリリィの手を取り来た道を水晶玉の力で走った。
そこで僕は自分を疑った。
ミコトさんは僕が行く道に導かれていると言っていたが、どうしてあのメイジと言う敵に遭遇してしまったのか?
それに争いや災害に見舞あなければ延命できない愚かな人間とも言っていた。
そんな事を思い浮かべながら、僕は来た道を折り返して走った。
人目のつかないところを走りどれぐらい走ったのか?不思議と息を切らしていなかった。
走りながらリリィは僕に語りかけてきた。
「ミコト大丈夫か?」
心配なのは僕もそうだ。でも僕は思いきって。
「大丈夫だよ。ミコトさんは僕なんかよりも強くて頼りになる人なんだ」
「そうなのか?」
「そうだよ」
正直ミコトさんの事は心配だが、もはや信じるしかない。
あのメイジと言うミコトさんの知り合いと思われる女は何者なのかは分からない。
とにかく僕は心に強く信じることを言い聞かせた。
ミコトさんはきっと無事でいてくれると。




