真相
「最初、公女の名前がラニーだと知ったときにあれ? とは思ったんだ。けれどよく似ていたものだから、俺がラミィと記憶違いをしていただけのだろうと思い、そのまま婚礼の準備を進めてしまった。ところが、昨日会った俺の妻となる女性は、君じゃなかった」
ああ、とラミィは納得した。
自分と姉の名が似ていること、十年前に姉がファニアへ同行しなかったことが、クァルトの勘違いを引き起こしたのだ。
ちなみにラミィとラニーは異母姉妹で、生まれは数ヶ月しか違わない。
「昨日、私のもとに陛下がお忍びで相談にいらしたのよ。そこで私も、随分と昔にラミィからそんな話を聞いたことを思い出したの」
子どもの頃から、ラミィと姉は、年が近いこともあり仲が良かった。
洞窟でのことを、話していてもおかしくはない。
「とはいえ、私は当時、ラミィのその話を夢の話かなにかだと思って聞いていたのだけれど。貴方は帰国後、旅の疲れからか高熱を出してね、それが随分と長く続いたのよ。快復したときには、それ以前の記憶をところどころ失ってしまっていた。残念なことに、陛下との記憶もその中に含まれていたのね。だから今回、一計をめぐらしたのよ」
「その一計というのが、わたしを洞窟に向かわせることだったの?」
ラミィがどっと疲れを感じながら問いかけると、ラニーが満足そうに笑みを浮かべて頷いた。
「ええ。秘宝にたどり着くまでにラミィの記憶が戻れば、今回の結婚は白紙に戻しても構わないと言ったの。けれどもし記憶が戻らなければ、ラミィにとってはその程度のことだったのだと諦めて予定通り私と結婚してもらうとね。私は結婚というものに夢も希望も抱いていないから、なにも問題はないわ」
ラニーがあっさりと告げる。
確かに、昔からラニーにはそういうところがあった。
だからこそ、突然、ラニーが結婚しないと言い出したときには驚いたのだ。
「ラニー姫が必ずラミィを洞窟に行かせる、と言っていたからいったいなんと説明するのだろうと疑問に思っていたんだけれど、まさか秘宝を盗みに来るとは思ってなかったよ」
クァルトが苦笑しながら付け足した。
(全部、お姉さまの作戦だったなんて……)
ラミィは深いため息を吐いた。
けれど、いくら熱のせいとはいえ、忘れてしまっていたのはラミィだ。
一方的に責めるわけにもいかない。
ラミィが覚えていれば、もっと早い段階で確認をとっただろうし、そうであればここまでラニーとクァルトの婚礼話が進むこともなかったのだから。
「ごめんなさい……」
がっくりと肩を落として謝るラミィの肩に、クァルトがぽん、と優しく手を置く。
「お互い様だよ」
クァルトが優しく慰めるように言った。




